障害福祉サービスには多くの種別があります。放課後等デイサービス・児童発達支援・障害者グループホーム・就労継続支援A型・就労継続支援B型・生活介護・短期入所・計画相談支援——これだけ並ぶと、どの事業から始めれば良いかわからなくなります。
この記事では、各サービスの基本的な性格・対象者・報酬の仕組みを比較し、開業の入り口として検討しやすい観点を整理します。開業前の資金計画にも使える収支シミュレーターへのリンクを各サービスのセクションおよび記事末尾に掲載しています。
サービス別の基本情報
以下の比較は、厚生労働省が告示する報酬体系・指定基準(令和8年6月1日適用分)にもとづいています。
| 種別 | 主な対象 | 報酬の基本的な仕組み | 主な必置職種 |
|---|---|---|---|
| 放課後等デイサービス | 6〜18歳の障害児(放課後・休業日) | 定員規模と利用時間区分 | 管理者・児発管・指導員等 |
| 児童発達支援 | 未就学の障害児 | 定員規模と利用時間区分 | 管理者・児発管・指導員等 |
| 障害者グループホーム | 知的・精神障害等のある成人 | 障害支援区分と世話人配置 | 管理者・サビ管・世話人 |
| 就労継続支援A型 | 雇用契約を結べる障害者(18歳〜65歳未満) | 評価点制7区分 | 管理者・サビ管・職業指導員等 |
| 就労継続支援B型 | 一般就労が困難な障害者 | 定員規模と前年度の平均工賃月額 | 管理者・サビ管・職業指導員等 |
| 生活介護 | 常時介護を必要とする障害者(区分3以上等) | 障害支援区分・定員・所要時間の3軸 | 管理者・サビ管・生活支援員等 |
| 短期入所 | 介護者の疾病等により一時的に支援が必要な障害者 | 障害支援区分と利用日数 | 管理者・サビ管・世話人等 |
| 計画相談支援 | 障害福祉サービスを利用するすべての人 | 担当件数とモニタリング頻度 | 管理者・相談支援専門員 |
「児発管」=児童発達支援管理責任者、「サビ管」=サービス管理責任者。出典:各サービスの指定基準(厚生労働省令)・厚生労働省告示(令和8年6月1日適用分)
各サービスの特徴と開業時の注意点
放課後等デイサービス・児童発達支援
対象が「子ども」という点で他のサービスと大きく異なります。放課後等デイサービスは学校の放課後・夏休み等の休業日に提供するため、営業日数は月に20〜23日程度になります。法令(基準省令)は学校休業日は週5日以上開所することを求めています。児童発達支援は平日の日中が中心で、未就学児の通所日数に合わせた運営になります。
両サービスとも、「児童発達支援管理責任者(児発管)」を1名以上配置する必要があります。児発管の要件は省令で定められており、相談支援や直接支援の実務経験3〜5年以上に加えて、指定の基礎研修・実践研修の修了が前提になります。人材確保が開業計画の核になるため、指定申請より前に有資格者の見当をつけておくことが大切です。
収支は「定員×稼働率×1日あたりの報酬単価」で決まります。定員10人で稼働率85%前後を維持できるかが採算の目安になります。厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査」によると、放課後等デイサービスの収支差率は事業所全体の平均が9.1%である一方、事業所ごとの中央値は2.7%と低く、稼働率や人員配置によって採算の開きが大きいサービスです。開業前に利用者の確保見通しを具体的に立てておく必要があります。
初期費用の目安は、物件の内装工事・設備費・運転資金を合わせて500万〜1,500万円程度の事例が多いとされています(規模や物件の状態によって大きく異なります)。放デイ・児発専用の消防・建築基準の確認も事前に必要です。
障害者グループホーム
「住む場所」を提供するサービスです。利用者が生活する建物・居室の確保が開業の大きな前提になります。居室の広さ(1室あたり7.43平方メートル以上)・消防設備・福祉住環境への対応を含む初期設備費が、他のサービスより高くなる傾向があります。
形態は「介護サービス包括型(サビ管+世話人配置6:1以上)」と「日中サービス支援型(世話人5:1以上、夜間支援従事者の配置必須)」の2つがあります。特に日中サービス支援型は夜間支援体制が求められるため、人件費も含めた採算計画が重要です。
世話人・生活支援員の配置が常時必要で、少なくとも夜間の当直または宿直を整えます。入居者が確保できれば利用日数はほぼ毎月一定になるため、稼働率が安定しやすい特徴があります。ただし空室期間が続くと収入がゼロになるため、入居者の確保計画と空室リスクに備えた運転資金の準備が必要です。
サービス管理責任者(サビ管)は、指定された実務経験と研修修了が要件です。グループホームのサビ管要件は区分に応じて実務経験年数が異なるため、配置予定の方の経歴を指定申請前に確認しておきます。
就労継続支援A型
利用者と「雇用契約」を結ぶサービスです。利用者は障害者でありながら事業所の従業員でもあり、最低賃金以上の賃金を支払う義務があります。事業所が行う作業(農業・製造・清掃・データ入力・飲食・EC運営等)から得られる売上を人件費の一部に充てる事業構造になります。
報酬は「評価点制」と呼ばれる仕組みで、就労環境の整備状況(賃金水準・多様な働き方への対応・スコア)によって区分が変わります。単純に定員を埋めるだけでなく、実際の生産活動から売上を立てられるかが事業継続の鍵です。全就労継続支援サービスの中で収支差率が最も低い傾向があり、厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査」でも収支差率の水準は他のサービスに比べて厳しい数字が出ています。開業前の採算シミュレーションと受注作業の確保計画が特に重要なサービスです。
初期費用は、受注する作業の種類によって大きく異なります。農業・製造系の場合は農地・機械・設備が必要で数千万円規模になる場合があります。データ入力・ECサポート等のデスクワーク系なら、PC・通信環境の整備で比較的低コストで始められることがあります。
就労継続支援B型
雇用契約を結ばず、「就労訓練」として作業を提供するサービスです。A型と違って最低賃金の制約がなく、利用者には「工賃」を支払います。全国の平均工賃月額は、厚生労働省の調査(令和4年度実績)で16,507円です。
報酬は前年度の平均工賃月額の区分(14段階)と定員規模で決まります。工賃月額が高いほど報酬単価も上がるため、質の高い受注作業の開拓が収入に直結します。B型は全障害福祉サービスの中で事業所数が最も多く、令和4年度末時点で全国に15,000か所を超えています(厚生労働省「令和4年社会福祉施設等調査」)。新規参入時に同一地域の類似事業所との差別化をどう図るかは、利用者確保の面でも重要な論点です。
就労継続支援B型の開業に必要な初期費用は、作業内容によりますが、小規模(定員20人前後)では内装・設備・運転資金を含めて300万〜800万円程度の事例が多いとされています。A型に比べると作業設備の水準が低くてもスタートできるため、資金調達の面ではB型の方が入りやすいケースがあります。
生活介護
「常時介護が必要な成人障害者」が対象です。障害支援区分3〜6の利用者が多く、身体介護の比重が高い傾向があります。看護職員(定員21人以上の場合は1名以上の配置が必要)や医療的ケアへの対応が求められるケースもあります。
報酬は「平均障害支援区分×定員×1日あたりの所要時間(3時間または5時間以上)」の3軸で決まります。区分が高い利用者が多いほど単価が上がりますが、それに応じた支援の質・量と職員配置も必要になります。生活介護では人員配置体制加算(利用者:指導員・看護師等を3:1や2:1等で手厚く配置した場合)を算定することで、基本報酬に加算を乗せることができます。
生活介護の対象となる利用者は障害支援区分が高いため、地域の相談支援専門員や基幹相談支援センターとの連携が利用者確保の重要なルートになります。開業前に地域の相談支援体制との関係構築を並行して進めることが実際的な準備といえます。生活介護の収支試算については、当サイトの生活介護 開業収支シミュレーターで定員・平均区分・稼働率を変えながら確認することができます。
短期入所
「ショートステイ」とも呼ばれ、家族等の介護者が疾病・出産・旅行・冠婚葬祭等の事情により一時的に支援できない場合に、宿泊型で支援するサービスです。障害支援区分1〜6の成人が利用できます。
本体施設(グループホームや生活介護事業所等)に併設する「併設型」と、単独で開設する「単独型」があります。単独で始める場合は24時間の夜間支援体制が必要で、職員の夜間配置コストが固定費として重くなります。このため、単独型の開業件数は他のサービスに比べて少なく、既存の福祉事業所の拡充として追加するケースが多い形態です。
利用の発生が不定期で稼働率の予測がしにくいことも、単独開業時のリスクになります。定員充足が難しく収入の安定が見込みにくい場合は、他のサービスと組み合わせた多機能型を検討する選択肢もあります。短期入所の収支については、当サイトの短期入所 開業収支シミュレーターでも職員の配置パターン(単独型・本体併設型)を選んで試算できます。
計画相談支援
障害福祉サービスを利用するすべての人がサービス等利用計画を作成しなければならないため、制度上の需要が安定しています。計画相談支援を担う「指定特定相談支援事業所」は、事業所数が慢性的に不足しているとされており、地域によっては需要の確保が比較的しやすい状況があります。
定員がなく、相談支援専門員1人から始められる点で初期投資が小さく、事務所の準備で開業できます(自宅兼用の可否は都道府県・市町村によって異なります)。物件取得・内装工事が不要なケースも多く、資金面のハードルが他のサービスに比べて低い傾向があります。
一方で、「相談支援専門員」の資格要件(相談支援等の実務経験3〜5年以上+基礎研修・実践研修の修了)を満たす人材を確保することが、指定申請の前提になります。収入は担当件数×月のモニタリング頻度に比例するため、担当件数が増えるまでの初期は収入が少ない時期が続きます。
担当件数が40件を超えると、超えた分の報酬単価はサービス利用支援費ⅠからⅡに下がります(指定基準上、担当の目安は1人あたり40件程度)。成長段階ごとの収入の変化を事前に試算しておくことを勧めます。
報酬の入金はサービス提供月の翌々月になる
障害福祉サービスの報酬は、サービスを提供した月の翌月10日までに国民健康保険団体連合会(国保連)に請求し、入金はサービス提供月の翌々月中旬前後になります。例えば4月のサービス分を5月10日に請求し、入金は6月下旬ごろです。
この2か月のタイムラグにより、開業から最初の入金まで少なくとも2〜3か月かかります。その間も人件費・家賃・光熱費等の固定費は発生するため、開業前に2〜3か月分以上の運転資金を手元に残しておくことが必要です。定員や担当件数が少ない開業直後は入金額も小さいため、稼働率が上がるまでの期間を含めた資金計画を立てておいてください。
各サービスを横断した比較——開業のしやすさの観点から
開業の準備という観点で、各サービスを大まかに整理するとこのようになります。
| サービス種別 | 初期費用の目安 | 主な有資格者 | 採算の安定性 |
|---|---|---|---|
| 放デイ・児発 | 中〜高(500〜1,500万円程度) | 児発管 | 稼働率で大きく変動 |
| グループホーム | 高(物件確保・改修費が重い) | サビ管 | 満室時は安定。空室リスクあり |
| 就労継続支援A型 | 業種により低〜高 | サビ管 | 受注作業次第。収支差率は低め |
| 就労継続支援B型 | 低〜中(300〜800万円程度) | サビ管 | 稼働率と工賃月額に依存 |
| 生活介護 | 中(内装・設備費) | サビ管・看護職員 | 区分が高いと単価は上がる |
| 短期入所 | 高(24時間体制が必要) | サビ管 | 単独では稼働率が不安定 |
| 計画相談支援 | 低(事務所のみ) | 相談支援専門員 | 担当件数が増えれば安定 |
初期費用は物件・地域・規模によって大きく異なります。あくまで目安として参照してください。
どの事業から入るか——整理する視点
「どの事業から始めるか」を整理するときに確認しておきたい視点を3つ挙げます。
1. 対象とする利用者像が明確か
放課後等デイサービス・児童発達支援は「子ども」、就労継続支援・生活介護・グループホームは「成人」が主な対象です。運営側にどの層への支援経験・ネットワークがあるかは、開業後の利用者確保に直結します。計画相談支援は対象が「すべての障害福祉サービス利用者」なので、特定の障害種別に縛られません。
2. 職員の配置基準を満たせる体制があるか
どのサービスも、管理者・サービス管理責任者(または児童発達支援管理責任者)の配置が必須です。資格取得者を確保できるかどうかが、指定申請の現実的な条件になります。計画相談支援では「相談支援専門員」がその役割を担います。有資格者の見込みが立たなければ、指定申請そのものが前に進みません。
3. 収支が成立するかを試算したか
定員・利用者数・稼働率の見込みによって収支は大きく変わります。開業前に一度、具体的な数字で試算しておくことを勧めます。特に就労継続支援A型は利用者への賃金支払い義務があるため、受注作業の売上見込みを含めた試算が必要です。当サイトでは各サービスの収支シミュレーターを無料範囲でご利用いただけます。
各サービスの収支シミュレーターと開業ガイド
当サイトでは、サービス別の収支シミュレーターと開業・運営に関する記事を公開しています。開業を検討しているサービス種別の入口から確認してください。
- ▶ 放課後等デイサービス 開業収支シミュレーター
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- ▶ 計画相談支援 開業収支シミュレーター
▶ 福祉事業の開業と運営(サービス別ガイド・収支シミュレーター一覧)
出典:厚生労働省告示(令和8年6月1日適用分)・各サービスの指定基準(厚生労働省令)・厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査」・厚生労働省「令和4年社会福祉施設等調査」

