障害福祉サービスの処遇改善加算の取り方。

福祉事業の開業と運営

処遇改善加算は、障害福祉サービス事業所の職員の賃金を改善するために毎月の報酬に上乗せされる加算です。令和6年4月から3種類の処遇改善加算が一本化され、加算IイからIVまでの6区分で定められています(短期入所は4区分・区分体系が異なります)。区分によって加算率が変わり、生活介護では最大9.7%、就労移行支援では最大11.9%です(平成18年厚生労働省告示第523号・令和8年6月施行)。本記事では生活介護・就労移行支援・短期入所の加算率を中心に整理します。就労継続支援A型・B型については別記事で説明しています。

処遇改善加算は職員の賃金を上げるための財源

処遇改善加算は、事業所が毎月の報酬に加算率を掛けて受け取り、その金額を職員の賃金改善に充てる仕組みです。正式名称は「福祉・介護職員等処遇改善加算」といいます。「等」が入っているのは、直接支援を行う福祉・介護職員だけでなく、生活相談員やサービス管理責任者なども対象になるためです。

加算額は事業所の利益として計上することはできず、全額を職員の基本給・各種手当・賞与などの賃金引き上げに使うことが条件です。事業所は毎年度の初めに「賃金改善計画書」を指定権者(都道府県または市区町村)に提出し、年度終了後に「実績報告書」を提出して、実際に賃金改善が行われたことを報告します。

加算を取っていない事業所は、取っている事業所と比べて職員の採用・定着に不利な立場になります。処遇改善加算は職員の給与に直結するため、開業時から算定する事業所がほとんどです。

令和6年4月に3種類が1つの加算に統合された

令和6年3月まで、障害福祉サービスの処遇改善加算は以下の3種類が別々に設けられていました。

  • 福祉・介護職員処遇改善加算(旧・処遇改善加算)
  • 福祉・介護職員等特定処遇改善加算(旧・特定処遇改善加算)
  • 福祉・介護職員等ベースアップ等支援加算(旧・ベースアップ等加算)

令和6年4月の障害福祉サービス報酬改定で、この3種類が「福祉・介護職員等処遇改善加算」として一本化されました。旧3種類を全部取得していた事業所が上位区分(加算Iイ・Iロ)に、旧処遇改善加算と旧特定処遇改善加算を取得していた事業所が中位区分(加算IIイ・IIロ)に、旧処遇改善加算だけを取得していた事業所が下位区分(加算III・IV)に移行する設計になっています。

令和6年4月以降も旧3種類の加算の名称が書類に残っている場合がありますが、現在の法令上は全て「福祉・介護職員等処遇改善加算」の6区分(一部サービスは4区分)で算定します。

6区分の概要

現行の処遇改善加算は以下の6区分です。区分が上位になるほど、加算率と要件の水準が高くなります。

区分 概要
加算 Iイ 賃金改善の一定額を基本給等(月給)に充当することが要件
加算 Iロ 基本給等への充当に代えて手当等への充当でも可。その他の要件はIイと同水準
加算 IIイ キャリアパス要件と職場環境要件を一定水準で満たす。基本給充当の要件なし
加算 IIロ IIイに準じる要件水準
加算 III 基本的なキャリアパス要件・職場環境要件を満たす
加算 IV 最低水準の要件を満たす区分

(区分の詳細要件は都道府県等の指定権者が示す通知・手引きで確認してください)

加算IイとIロを比べると、IロはIイより加算率が若干高く設定されています(後述の表を参照)。これはIイに「賃金改善の一定額を基本給等(月給)に充当する」という、基本給の改善として確実に反映させる要件があるためです。Iロはその要件がなく、手当等への充当でも可能なため、取得要件の柔軟性がある分、率が若干高くなっています。IIイ・IIロも同様の関係です。

区分要件の具体的な内容(職位・職責・職務内容に応じた賃金体系の整備、研修の実施状況、職場環境の改善への取組など)は、都道府県等の指定権者が示す通知や申請手引きで確認する必要があります。

生活介護の処遇改善加算率

生活介護の処遇改善加算率は以下のとおりです(平成18年厚生労働省告示第523号・令和8年6月施行)。

区分 加算率
加算 Iイ 9.3%
加算 Iロ 9.7%
加算 IIイ 9.2%
加算 IIロ 9.6%
加算 III 7.9%
加算 IV 6.7%

(出典:平成18年厚生労働省告示第523号 別表第6・令和8年6月施行分)

告示では令和8年6月施行分として上記の率が定められています。この率は令和8年度の報酬改定により改定されたものです。令和8年5月以前に算定していた率と変わっている場合があるため、開業時は施行時期と加算率の関係を指定権者に確認してください。

就労移行支援の処遇改善加算率

就労移行支援の処遇改善加算率は以下のとおりです(平成18年厚生労働省告示第523号・令和8年6月施行)。

区分 加算率
加算 Iイ 11.5%
加算 Iロ 11.9%
加算 IIイ 11.3%
加算 IIロ 11.7%
加算 III 9.8%
加算 IV 8.1%

(出典:平成18年厚生労働省告示第523号 別表第8・令和8年6月施行分)

就労移行支援は生活介護より加算率が2〜2.2ポイント程度高くなっています。これはサービスの種別による基本報酬水準の違いが反映されているためです。サービスによって加算率が異なる点は、複数種別の事業所を運営する場合に混同しやすいため注意が必要です。

短期入所は区分の体系が異なる

短期入所(ショートステイ)の処遇改善加算は、他のサービスと区分の体系が異なります。6区分ではなく4区分で、区分名の表記も違います。

区分 加算率
処遇改善加算 (Ⅰ)イ 18.6%
処遇改善加算 (Ⅰ)ロ 19.3%
処遇改善加算 (Ⅲ) 16.5%
処遇改善加算 (Ⅳ) 14.2%

(出典:平成18年厚生労働省告示第523号 別表第7・令和8年6月施行分)

短期入所では(Ⅱ)区分が存在しません。また加算率が18〜19%台と、生活介護(最大9.7%)・就労移行支援(最大11.9%)より大幅に高くなっています。これは短期入所の基本報酬水準が相対的に低いこと、夜間の人員確保など職員の負担が大きいことなどの事情が反映されていると考えられます。

複数のサービスを同一事業所で運営する場合、処遇改善加算は各サービスの報酬に対してそれぞれのサービスの率を適用して計算します。

生活介護・就労移行支援の加算率を並べると

2つのサービスの加算率を区分ごとに比べます。

区分 生活介護 就労移行支援
加算 Iイ 9.3% 11.5%
加算 Iロ 9.7% 11.9%
加算 IIイ 9.2% 11.3%
加算 IIロ 9.6% 11.7%
加算 III 7.9% 9.8%
加算 IV 6.7% 8.1%

(出典:平成18年厚生労働省告示第523号・令和8年6月施行分)

月の収入に対して何パーセントかを掛ける計算

処遇改善加算の金額は、月の報酬総額(処遇改善加算以外の基本報酬と加算・減算を含む請求額)に加算率を掛けて求めます。

計算例:生活介護・加算Iロ(9.7%)・月の報酬300万円の場合

処遇改善加算額 = 3,000,000円 × 9.7% = 291,000円

この291,000円が月の処遇改善加算の収入になります。事業所はこの金額を職員の賃金改善に充てます。

計算例:就労移行支援・加算Iロ(11.9%)・月の報酬240万円の場合

処遇改善加算額 = 2,400,000円 × 11.9% = 285,600円

職員5人で合計285,600円を賃金改善に充てる場合、単純計算で1人あたり月57,120円の賃金改善になります。ただし実際の配分は計画書の内容と職員ごとの勤務時間・職種に応じて決めます。

加算率の計算の基礎となる「月の報酬総額」は、処遇改善加算以外の加算・減算を含んだ請求額です。送迎加算・人員配置体制加算・福祉専門職員配置等加算なども含まれます。計算方法の詳細は指定権者の手引きを確認してください。

加算額は全額を職員の賃金改善に充てる

処遇改善加算で受け取った金額は、全額を職員の賃金改善に充てる義務があります。事業所の収益として残すことはできません。

賃金改善の方法は主に以下の3つです。

  • 基本給の引き上げ:月々の基本給を上げる形で充当します。上位区分(加算Iイ)では基本給等への充当が要件になります。
  • 各種手当の創設・引き上げ:処遇改善手当・勤続手当などの手当を新設または引き上げる形で充当します。
  • 賞与の増額:年1〜2回の賞与として上乗せする形で充当します。

これらを組み合わせることも可能ですが、上位区分(加算Iイ)では基本給等への充当が必須要件になります。加算Iロ・IIイ・IIロ・III・IVでは手当等での充当も認められています。

改善した賃金は「改善前と比べて増えている」ことが確認できる状態を維持する必要があります。加算を取得する前の賃金水準に戻すことはできません。

取得に必要な手続き

処遇改善加算を取得・継続するには、毎年度以下の書類を提出します。

  • 処遇改善計画書:毎年度の開始前(一般的に2〜3月ごろ)に指定権者に提出します。当年度の賃金改善の計画を記載します。取得を希望する区分・対象職員・改善の方法・改善見込額などを記載します。
  • 実績報告書:年度終了後(一般的に7月ごろまで)に指定権者に提出します。前年度に実際に職員の賃金をどれだけ改善したかを報告します。

計画書の提出期限は都道府県・市区町村によって異なります。新規開業の場合、開業月から加算を算定したい場合は開業前に申請できるかどうかを事前に指定権者に確認しておく必要があります。開業月の請求に間に合わない場合、加算が取得できない月が生じる可能性があります。

計画書に記載する内容の例:

  • 前年度(または開業時)の職員の賃金水準(基本給・各種手当の平均)
  • 今年度に改善を見込む賃金の総額
  • 賃金改善の方法(基本給への充当か、手当への充当か、賞与への充当か)
  • キャリアパス要件・職場環境要件への対応状況(就業規則・賃金規程への反映など)

実績が計画を下回った場合(計画した改善額を下回る賃金改善にとどまった場合)は、その差額の返還が求められることがあります。計画書を作成するときは、確実に達成できる水準を設定することが重要です。

開業時から算定するのが一般的

処遇改善加算を取得して算定することが、事業運営の前提になっています。加算を取っていない事業所は、職員の採用活動で賃金提示額が競合より低くなるほか、在職職員の定着にも影響が出やすくなります。

開業時の事業収支を計算するときは、処遇改善加算を「取得する前提」で計算するのが一般的です。取得しない前提で計画を立てると、取得後の収入が計画より増える一方で職員の人件費も上がるため、収支計画が実態と合わなくなります。

なお、複数の区分のうちどれを取得するかは、事業所の職員体制・賃金規程の整備状況・要件への対応可能性によって変わります。上位区分を取得するためには就業規則・賃金規程の整備が必要になる場合があります。開業前に取得できる区分を想定した上で、収支計画を立てることを勧めます。

就労継続支援A型・B型の処遇改善加算

就労継続支援A型・B型の処遇改善加算の区分と要件については、以下の記事で整理しています。

収支の試算をしたい方へ

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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