放課後児童クラブ(学童保育)の開業には、初期費用として300〜800万円程度が目安になります。物件の取得費(保証金・礼金・内装工事)が最も大きく、定員規模や立地条件によって大きく変わります。さらに補助金の振込みが四半期払いのため、最初の3か月間は補助金なしで運営を回せる運転資金が別途必要です。この記事では、認可型の学童保育(放課後健全育成事業)を開設するときの費用の内訳を、こども家庭庁の交付要綱をもとに整理します。
開業資金の内訳は、初期費用と運転資金の2種類に分かれる
開業資金は「一度だけかかる初期費用」と「開設後しばらくの運転資金」に分けて考えます。どちらが不足しても事業は続きません。
初期費用の主な項目
初期費用の主な内訳は次のとおりです。
| 項目 | 目安の金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 物件の保証金・礼金 | 家賃の2〜6か月分 | 地域・物件による |
| 内装工事・改修 | 100〜300万円 | 遊びのスペース確保・トイレ改修など |
| 備品・教材・玩具 | 30〜80万円 | 机・棚・おもちゃ・体育用具など |
| 設備工事(空調・照明等) | 30〜100万円 | 既存設備があれば少ない |
| 開業手続き関連費用 | 10〜30万円 | 認定申請・消防設備検査・行政書士費用など |
| ICT・業務システム | 10〜30万円 | 連絡帳アプリ・会計ソフトなど |
合計すると、小規模(定員20人以下)でも最低200〜400万円、中規模(30〜45人)では300〜700万円程度が目安です。物件を購入する場合はさらに大きくなります。
運転資金は「最初の4か月分の経費」が一般的な目安
認可型の学童保育は、国の補助金(放課後児童健全育成事業補助金)を受け取れます。ただし補助金の振込みは年4回(3月・6月・9月・12月ごろ)が一般的で、開設直後は収入が入るまでのタイムラグがあります。その間の人件費・家賃・光熱費などを自己資金でまかなう必要があります。
月の人件費・固定費を合計し、4〜5か月分を手元に残しておくのが安全です。たとえば月の固定費が70万円なら、280〜350万円の運転資金が必要です。
設備基準が、物件の広さと内装工事の費用を決める
認可型の学童保育(放課後児童健全育成事業)は、「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」(厚生労働省令)で施設の最低基準が定められています。この基準を満たす物件を見つけることが、開業コストを左右します。
専用区画の面積基準は、児童1人あたり1.65㎡以上
基準省令第9条では、放課後児童クラブは「専用区画」(遊び及び生活の場)を設けることとし、その面積は支援の単位に属する児童1人あたり1.65㎡以上と定められています(基準省令第9条第3項)。
たとえば定員30人なら、1.65 × 30 = 49.5㎡以上の専用スペースが必要です。これにトイレや廊下、玄関、支援員の事務スペースが加わるため、実際には70〜90㎡以上の物件を探すことになります。
| 定員の目安 | 必要な専用区画の面積(最小) | 物件全体の目安(参考) |
|---|---|---|
| 20人 | 33.0㎡以上 | 50〜60㎡以上 |
| 30人 | 49.5㎡以上 | 70〜90㎡以上 |
| 45人 | 74.25㎡以上 | 100〜120㎡以上 |
面積の基準は自治体の条例でさらに厳しく設定されている場合があります。開業前に必ず市区町村の担当窓口に確認してください。
既存の建物を使う場合は、内装改修が費用の中心になる
空き店舗・空き教室・倉庫などを転用する場合、間仕切り・床材・トイレ・空調・換気・防音・セキュリティ(入退室管理)の工事費がかかります。状態の良い空き店舗でも100万円以上が多く、古い建物では300万円を超えることもあります。
新築や自己所有物件に開設する場合は工事費を抑えやすいですが、賃貸の場合は原状回復義務の範囲についても事前に確認が必要です。
補助金の対象になる費用と、対象外の費用がある
認可型の学童保育では、運営費の一部を補助金でまかなえます。ただし補助金はあくまで「運営に対する補助」が中心であり、施設整備(内装工事・備品購入)については別の補助制度(施設整備費補助)が設けられています。
施設整備費補助は別の申請が必要
放課後児童クラブの施設整備費(新築・改修・備品購入)に対しては、国・都道府県・市区町村の三者が費用を分担する補助制度があります。補助率や上限額は自治体ごとに異なるため、開業を検討している市区町村の担当部署(こども政策担当・子育て支援課など)に問い合わせるのが最初のステップです。
賃借料補助は運営費補助の中に含まれる
運営費の補助金の中には、賃借料補助が設けられています。こども家庭庁の交付要綱(令和7年度改定版)によれば、補助基準額は年額3,374,000円です。実際に支払った賃借料と補助基準額のいずれか低い方が補助対象となるため、月28万円以上の家賃を支払っている場合は自己負担分が出てきます。ただし賃借料補助の受け取りには自治体への申請が必要で、採択されるかどうかは自治体の予算状況によります。
人件費が毎月の支出の中心になる
学童保育の支出のうち最も大きいのが人件費です。支援員の配置基準があるため、一定の人数を確保しなければならず、利用者数が少ない時期でも人件費はほぼ固定で発生します。
配置基準は「1支援の単位につき支援員2名以上」
基準省令第10条では、支援の単位ごとに放課後児童支援員を2名以上配置することが義務付けられています(うち1名は補助員の代替可)。支援員になるには都道府県が認定する研修を修了していることが必要です。
月額給与の目安は、地域や経験によって異なりますが、常勤支援員で月20〜25万円程度(賞与別)が一般的です。パート・補助員は時給制で運営するケースも多くあります。
人件費が収支に直結するので、定員と配置の計画が重要
補助金額は「支援の単位」(おおむね40人以下で1単位)と配置する支援員の種別によって決まります。常勤2名を配置すると補助金が増えますが、人件費も増えます。どちらが採算上有利かは、定員規模と稼働率によって変わります。詳しい試算は、このページの下で紹介する収支シミュレーターで確認できます。
開業から収支が安定するまでに、最低6〜12か月かかる
学童保育は、開設初年度に満員になることはまれです。口コミや学校でのチラシ配布など、地道な周知が利用者数を左右します。開設後6〜12か月は赤字が続くことを前提に、その分の運転資金を手元に確保しておく必要があります。
融資を活用する場合の選択肢
自己資金だけで初期費用をまかなうのが難しい場合は、日本政策金融公庫(公庫)の創業融資が選択肢になります。公庫は社会福祉事業向けの融資にも対応しており、事業計画書と収支の見込みを示すことが審査の基本です。地方銀行・信用金庫の創業融資も合わせて比較するとよいでしょう。
開業費用の試算は、数字を動かして確認する
ここまで解説した費用の目安はあくまで参考値です。実際の金額は、定員・物件の状態・人件費の水準・補助金の採択状況によって大きく変わります。
このページで紹介している放課後児童クラブ(学童保育)収支シミュレーターでは、定員・月謝(または補助金)・人件費・その他費用を入力することで、月ごとの収支と累積資金残高を試算できます。認可型(補助金あり)と民間学童(補助金なし)の2つのモードで比較できるので、どちらの形で開業するかを検討する際の参考にしてください。
開業にあたっては行政書士・公認会計士等の専門家にご相談ください。補助金の採択や施設基準の確認は、開設予定地の市区町村の担当窓口への確認が必ず必要です。
出典:こども家庭庁「放課後児童健全育成事業補助金交付要綱(令和7年度改定)」/厚生労働省「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準(平成26年厚生労働省令第63号)」


コメント