児童発達支援を新しく始めるときは、「開設前に出ていくお金」と「開設後、収入が入る前に先に出ていくお金」を分けて考えます。定員10人・法人で開業する例で試算すると、初期費用が約355万円、開設準備期間(4か月)の人件費と家賃が約194万円、開設後に利用する子どもが増えるまでの赤字と入金待ちが約500万円で、合計の目安は約1,050万円です。この記事では、この内訳と、資金がいちばん少なくなる時期、融資と指定の手続きの前提を、順番に整理します。
先にお断りしておくと、この数字は、当方の収支シミュレーターの既定値(例示)で出した試算です。実在する事業所の実績ではなく、地域・物件・職員の給与・集まる子どもの数で、大きく変わります。自分の条件で計算し直すための、考え方の記事として読んでください。
開業資金は、何に分けて考えればいいですか
開業資金は、次の3つに分けると、見落としが減ります。
| 区分 | 内容 | 試算の金額 |
|---|---|---|
| 1. 初期費用 | 法人設立、敷金・保証金、内装工事、家具・備品、教材・設備、開業時の広告・採用など | 約355万円 |
| 2. 開設準備期間の費用 | 指定を受けるまでの間に出ていく、管理者の給与と社会保険料、家賃、光熱費など(収入はゼロ) | 約194万円(4か月) |
| 3. 開設後の赤字と入金待ち | 子どもが集まりきるまでの赤字と、利用した月から入金までのずれ | 約500万円 |
当方の児童発達支援 収支シミュレーターの既定値による試算(定員10人・2027年4月開設・準備4か月・稼働率65%・時間区分2・その他の地域(1単位10円)・送迎加算は月40回・令和8年6月以降の新規指定・処遇改善加算IIイ)。3つの合計は、約1,050万円(初期費用と、開設前後の営業の収支の累計が、いちばん減る月の金額)です。借入の元金返済と利息は含みません。
1と2は、開業前に決まる金額です。3は、開設後に決まる金額で、いちばん見積もりがぶれます。開業資金の話で、「初期費用はいくらか」だけを聞くと、3が抜け落ちます。
初期費用は、いくらくらいかかりますか
試算の既定値では、初期費用は約355万円です。内訳は、次のとおりです。金額は、すべて例示で、物件と工事の内容で変わります。
| 項目 | 試算の金額 | 内容の例 |
|---|---|---|
| 法人設立 | 25万円 | 定款認証・登記の費用など。指定には法人格が求められる地域が多いため、入れています(後述) |
| 敷金・保証金 | 60万円 | 賃貸物件の契約時に払う分(家賃の数か月分) |
| 内装工事 | 150万円 | 発達支援室・相談室・トイレなどの改装 |
| 家具・備品 | 60万円 | 机・棚・マット・収納など |
| 教材・設備 | 30万円 | 遊具・教材・パソコンなど |
| 広告 | 10万円 | ホームページ・チラシなど |
| 採用 | 10万円 | 求人広告など |
| その他 | 10万円 | 予備 |
| 合計 | 355万円 |
当方の収支シミュレーターの既定値(例示)。送迎車両を購入する場合の代金は、この初期費用に含まれていません(毎月の費用に、車両の維持費として月2万円を入れています)。
初期費用で、いちばん幅が出るのは、内装工事です。賃貸物件は、原状回復の範囲と、工事の許可を、契約前に確認してください。
開設前の準備期間にも、お金がかかりますか
かかります。指定を受けるまでは収入がありませんが、管理者の給与、家賃、光熱費、システム利用料、保険料は、出ていきます。試算では、準備期間を4か月とし、この間に出ていく費用を、月約48.5万円(合計で約194万円)としました。
| 項目 | 月の金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 管理者の給与 | 25.0万円 | 月給の例 |
| 社会保険料など | 3.9万円 | 給与の15.7%を例示 |
| 家賃 | 15.0万円 | 例示 |
| 光熱費・システム・保険 | 4.6万円 | 光熱費2.5万円・システム1.5万円・保険0.6万円(例示) |
| 合計 | 約48.5万円 | ×4か月=約194万円 |
当方の収支シミュレーターの既定値。準備期間に払う人件費は、管理者1人分だけの想定です。他の職員を指定前から雇う場合は、この分が増えます。
準備期間の長さは、指定の手続きの日程で決まります。和歌山県の手引では、事前面談のあと、事前協議書と必要書類を「遅くとも指定希望日の前々月1日まで」に提出し、指定の申請は「遅くとも指定月の前月5日まで」に出すことになっています(標準的な審査期間は約30日)。たとえば、10月1日に指定を受けたいなら、9月5日までに申請します。日程は自治体ごとに違うため、開業する市区町村を所管する窓口で、必ず確認してください。
開設してから、資金はどう減っていきますか
開設した月から、すぐに定員が埋まるわけではありません。試算では、開設後の最初の6か月は、1か月に1.5人ずつ新しく利用を始め、7〜12か月目は1人ずつ増える想定にしました。1か月に1%が退所します。この想定で、月ごとの利用児童数・営業利益・資金残高を並べると、次のようになります。
| 開設後 | 利用児童数(登録) | 営業利益 | 資金残高 |
|---|---|---|---|
| 1か月目 | 1.5人 | −90万円 | 921万円 |
| 2か月目 | 3.0人 | −70万円 | 803万円 |
| 3か月目 | 4.5人 | −51万円 | 707万円 |
| 4か月目 | 5.9人 | −32万円 | 631万円 |
| 5か月目 | 7.4人 | −13万円 | 573万円 |
| 6か月目 | 8.8人 | +6万円 | 535万円 |
| 7か月目 | 9.7人 | +18万円 | 507万円 |
| 8か月目 | 10.0人 | +22万円 | 498万円 |
| 12か月目 | 10.0人 | +22万円 | 528万円 |
当方の収支シミュレーターの既定値による試算。営業利益は、その月の収入から費用を引いた額(入金の時期は考えない)。資金残高は、自己資金400万円と借入1,200万円(年3%・10年・据置6か月)から、初期費用と準備期間の費用を引いた残りに、入金・支出・利息・元金返済を加えた、月末の残高です。1日に来る子どもの数は、登録した子どもの数に、稼働率65%を掛けて考えます。
営業利益は6か月目にプラスになりますが、資金残高は、8か月目(2027年11月)まで減り続け、498万円で底を打ちます。営業利益が黒字になっても、資金がすぐには増えない理由が、2つあります。
- 入金が遅れる:利用した月の収入は、その月には入りません。試算では、費用の額の90%を占める給付費が2か月後、利用者負担の分が1か月後に入る想定にしています(実際の日程は、国保連合会と市町村の案内で確認してください)。
- 借入の返済が始まる:試算では、据置期間の6か月が終わる、開設後7か月目から、元金の返済が始まります。
つまり、資金がいちばん少なくなる時期は、営業利益が黒字になったあとです。「黒字になったから、もう大丈夫」と考えて、資金の手当てを終えてしまうと、この時期に足りなくなります。
費用の中で、いちばん大きいのは何ですか
人件費です。厚生労働省の「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査」(令和6年度決算)では、定員10人以下の児童発達支援の1事業所あたりで、年間収入の平均が約1,820万円、支出の平均が約1,557万円です。このうち給与費は、約1,156万円で、収入の63.5%にあたります(客体は242事業所)。
基準省令は、児童発達支援センター以外の事業所に、次の人員を置くように定めています(第5条)。
- 児童指導員または保育士:児童発達支援の単位ごとに、提供時間を通じて専ら支援にあたる人が、障害児の数が10人までなら2人以上
- 児童発達支援管理責任者:1人以上
定員10人の事業所なら、児童指導員または保育士を2人以上、そのほかに児童発達支援管理責任者を1人以上、置く必要があります。子どもが1人しかいない開設直後でも、この人員は、必要です。だから、開設後の最初の数か月は、収入が小さいのに、人件費が、大きくかかります。
子どもが計画どおりに集まらなかったら、どうなりますか
試算の既定値では、新しく利用を始める子どもの数を、計画の70%・50%に減らすと、資金残高の底は、次のようになります。
| 場合 | 資金残高の底 | 開設後36か月目の資金残高 |
|---|---|---|
| 計画どおり | 498万円(2027年11月) | 740万円 |
| 新しい利用者が計画の70% | 290万円 | 492万円 |
| 新しい利用者が計画の50% | −156万円(資金が不足) | −139万円 |
当方の収支シミュレーターの既定値による試算(感度分析)。新しく利用を始める子どもの数だけを、計画の70%・50%に減らしています。費用の設定は変えていません。
計画の50%では、資金が足りなくなります。人件費が、子どもの数が少なくても、かかるためです。開業前に、「利用者が計画の半分だったら、どこまで持ちこたえられるか」を、必ず計算してください。
自己資金は、どのくらい必要ですか。融資は使えますか
日本政策金融公庫の「2024年度新規開業実態調査」では、開業費用の平均は985万円、中央値は580万円でした。資金調達の平均は1,197万円で、うち金融機関などからの借入が780万円(65.2%)、自己資金が293万円(24.5%)です。ただし、この調査は、業種を分けずに、全業種の新規開業者を集計した数字で、福祉の事業所の実態ではありません。
創業者が使える融資の例に、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」があります。公庫の案内には、業種の限定は書かれていませんが、福祉の事業所の開業に貸してもらえるかどうかと、その条件は、公庫の支店に確認してください。案内では、対象は、新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方で、融資限度額は7,200万円、返済期間は、設備資金が20年以内(据置5年以内)、運転資金が10年以内(据置5年以内)です。融資を受けるには、創業計画書を提出し、適正な事業計画と、遂行能力があると認められる必要があります。融資が受けられるかどうかは、審査の結果で決まります。この記事は、融資を保証するものではありません。
開業前に、次の3点をそろえておいてください。
- 初期費用・準備期間の費用・開設後の赤字を、月ごとの表にした計画(資金がいちばん少なくなる月が、分かるもの)
- 計画が外れた場合(利用者が7割・5割)の資金の見通し
- 借入の返済が、営業利益から、まかなえる時期の見通し
個人ではなく、法人でないと、始められませんか
指定を受けるには、法人格が求められる地域が多くあります。児童福祉法第21条の5の15は、申請者が、都道府県の条例で定める者でないときは、指定をしてはならない、と定めており、誰を「条例で定める者」にするかは、条例に任されています。和歌山県の手引は、指定の要件として、「申請者が法人格を有していること」を、最初に挙げています。ただし、条例の内容は、都道府県・政令市・中核市ごとに違う場合があるため、開業する地域の窓口で、必ず確認してください。この記事の試算に、法人設立の費用(25万円)を入れているのは、このためです。
個人事業主でも開業できるかどうかは、別の記事で整理しています。
試算に入っていない費用は、ありますか
この試算には、次の費用は入っていません。開業前に、自分の計画に足してください。
- 送迎車両の購入費:送迎をするなら、車の代金、駐車場の契約、任意保険が必要です。試算は、月の維持費2万円だけを入れています。
- 指定前から雇う職員の給与:児童発達支援管理責任者や児童指導員を、指定の前から雇う場合、その人件費。
- 元金返済と利息の資金の手当て:上の「約1,050万円」は、返済と利息を含みません。資金残高の表には含まれています。
- 手元の生活費:開業者本人の生活費は、事業の費用に入れていません。
自分の数字で計算するには、どうすればいいですか
児童発達支援の収支シミュレーターは、この記事の試算と同じ計算で、自分の条件の数字を出します。初期費用・準備期間・家賃・人件費・借入・稼働率・加算などを入力すると、開設準備期間から3年間の収支と資金繰り、必要な資金の目安、資金がいちばん少なくなる月が分かります。
入力した内容は、お使いの端末の中にだけ保存され、外部には送信されません。無料版では、入力・年ごとの収支・主要な指標まで使えます。Pro版(9,800円・買い切り)では、月ごとの36か月分の収支と資金繰り、計画が外れた場合の感度分析、印刷・PDF保存が使えます。事業計画書の作成・代行や、融資・指定の保証はしません。
よくある質問
Q. 開業資金は、結局、いくら用意すればいいですか
この記事の試算では、約1,050万円が、必要な資金の目安です。ただし、物件・工事・給与・利用者の集まり方で、大きく変わります。「初期費用」だけでなく、開設後に資金がいちばん少なくなる月まで、計算してください。
Q. 開設後、いつ黒字になりますか
試算では、開設後6か月目に、月の営業利益が、プラスになります。ただし、この時点でも、開業からの累計はマイナスで、資金残高が底を打つのは、8か月目です。実際には、子どもが集まるペース次第で、大きくずれます。
Q. 定員を10人より大きくすると、必要な資金は変わりますか
変わります。人員基準は、定員が10人を超えると、5人ごとに児童指導員または保育士が1人ずつ増えます(基準省令第5条)。基本報酬の1人あたりの単位数は、定員が大きくなると小さくなります。定員と収支の関係は、別の記事で整理しています。
まとめ
- 開業資金は、「初期費用」「開設準備期間の費用」「開設後の赤字と入金待ち」の3つに分けて考える
- 試算(定員10人・法人)の目安は、初期費用約355万円+準備期間約194万円+開設後の赤字と入金待ち約500万円=約1,050万円
- 資金が最も少なくなるのは、営業利益が黒字になったあと。入金の遅れと、借入の返済開始が重なる
- 人件費は、子どもの数が少なくてもかかる。子どもが計画の半分だと、資金が足りなくなる試算になる
- 指定には法人格が必要。事前協議・申請の日程は、自治体で違うため、早めに窓口で確認する
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出典:児童福祉法(昭和22年法律第164号)第21条の5の15(e-Gov法令検索)、「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成24年厚生労働省令第15号)第5条、和歌山県「指定障害児通所支援事業者の指定申請の手引」(法人格の要件・事前協議と申請の期限・標準的な審査期間)、厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算・児童発達支援の定員10人以下)、日本政策金融公庫「2024年度新規開業実態調査」、同「新規開業・スタートアップ支援資金」の案内(いずれも2026年9月24日確認)。試算は、当方の児童発達支援 収支シミュレーターの既定値で、実在の事業所の数字ではありません。作成:fufumumu_design(ふふ)。基準日:2026年9月24日。制度・基準・融資の条件は変わる場合があるため、最新の情報と、指定権者・金融機関の案内をご確認ください。この記事は、開業を考える方が、自分で判断するための情報で、行政書士などの資格者による代行ではなく、収益・融資・指定を保証するものではありません。
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