児童発達支援(以下、児発)の事業所には、事故の発生防止と発生時の対応に関する義務があります。根拠は指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準(以下、指定通所支援基準)です。
義務の範囲は「研修の実施」だけでなく、委員会の設置・指針の整備・記録の保存まで含みます。「研修を年1回やればよい」ではなく、仕組みとして整備することが求められています。
事故発生防止に関する義務の範囲
指定通所支援基準が定める義務(法令上の要件)と、実務上推奨される取り組みを分けて整理します。
| 区分 | 取り組みの内容 | 頻度・形式 |
|---|---|---|
| 義務 | 事故発生防止のための指針の整備 | 作成・更新・職員への周知 |
| 義務 | 事故発生防止のための委員会の設置・定期開催 | 定期的に(年1回以上が目安) |
| 義務 | 事故発生防止に関する研修の実施 | 定期的に(年1回以上が目安) |
| 義務 | 重大事故発生時の行政への報告 | 死亡・骨折・2週間以上の入院等が必要な場合 |
| 推奨 | ヒヤリハット事例の収集・分析・共有 | 随時収集・定期的に共有(月1回が目安) |
(出典:指定通所支援基準 事故発生防止及び発生時の対応に関する規定)
児童発達支援で起きやすい事故のリスク
未就学児(0〜6歳頃)が利用する児発では、放課後等デイサービス(学齢児対象)とは異なる事故リスクがあります。以下の事故類型を研修の題材として取り上げることが実務的に有効です。
転落・転倒:低年齢児は歩行が不安定で、遊具・椅子・段差からの転落が起こりやすい年齢です。床面の状態・遊具の設置高さ・職員の配置位置を定期的に確認します。
誤嚥・窒息:おやつ・玩具の部品・小物の誤嚥リスクは乳幼児に特有のものです。使用する玩具のサイズの確認・おやつの形状・食事時の見守り方法を職員間で共有します。
脱走・行方不明:衝動性が高い子どもや探索行動が活発な子どもは、玄関・非常口から施設外に出てしまうことがあります。出入口の施錠管理・玄関での職員配置・送迎時の確認手順を整備します。
行動障害による自傷・他害:強度行動障害のある子どもが自分の頭を壁に打ちつける・他児を噛む・職員を引っ掻くといった場面は児発固有のリスクです。行動が起きる前のサイン(先行事象)の把握と、発生時の安全確保手順を個別に整備しておきます。
熱中症:体温調節機能が未発達な乳幼児は室温・湿度の変化に対して成人より影響を受けやすいです。水分補給の声がけ・室温管理・活動量に応じた休憩の取り方を職員が理解しておきます。
アレルギー発作・アナフィラキシー:食物アレルギーのある子どもへの誤提供・アナフィラキシー発生時の対応は、個別対応が必要な緊急事態です。エピペン処方を受けている子どもがいる場合は、担当職員全員が使用手順を理解している必要があります。
研修で扱う内容
事故防止研修では、座学による知識習得と、実際の状況を想定したロールプレイを組み合わせることが効果的です。
事故リスクのアセスメント:施設内のどこに・どのような・どの年齢・どの特性の子どもに対してリスクがあるかを職員全員で共有します。チェックリストを使って施設内を点検し、改善が必要な箇所を記録します。
事故発生時の初期対応:事故が起きた直後に何をするかを手順として理解します。傷・出血・意識の状態の確認→必要に応じた救急対応(119番)→保護者への連絡→管理者への報告→記録、という流れを確認します。
救急対応の基礎:心肺蘇生法(CPR)・AEDの使用手順は、年1回程度の訓練で体に覚えさせておくことが推奨されます。乳幼児に対する胸骨圧迫の手順は成人と異なるため、乳幼児対応として正しく学ぶ機会を設けます。
報告・記録の手順:誰が・いつ・何を・誰に報告するかを事前に決めておきます。行政への重大事故報告の基準(死亡・骨折・2週間以上の入院等)と手順・保護者への説明の進め方も研修で扱います。
事故発生防止委員会の運営
指定通所支援基準は事故発生防止のための委員会の設置と定期開催を義務としています。委員会の主な議題の例を挙げます。
- 前年度に発生した事故・ヒヤリハット事例の振り返りと再発防止策の確認
- 施設内のリスクアセスメント点検結果の報告
- 事故防止指針の見直し(手順が現場の実態と合っているか)
- 今年度の研修計画の確認
- 行政への重大事故報告の実績確認
ヒヤリハットの収集と活用
ヒヤリハット(事故にならなかったが危険に気づいた出来事)の収集は法令上の義務ではありませんが、事故発生防止の実効性を高めるうえで有効な取り組みです。厚生労働省のガイドラインでも収集・活用が推奨されています。
ヒヤリハット報告が定着するためには、「報告しても責められない」という職場の雰囲気づくりが必要です。書式はシンプルに保ち(日時・場所・状況・気づいたこと)、集めた事例を月1回程度の職員会議で共有します。蓄積した事例から「同じ場所・同じ状況でのヒヤリハットが複数ある」場合は、施設環境または手順の改善が必要なサインです。
事故発生後の対応フロー
- 子どもの状態を確認し、必要に応じて119番通報・応急処置を行う
- 保護者に連絡する(緊急連絡先を手元に置いておく)
- 管理者・施設長に報告する
- 事故の発生状況・処置の内容を記録する
- 重大事故(死亡・骨折・2週間以上の入院等)は指定権者(市区町村または都道府県)に報告する
- 事故の原因を分析し、再発防止策をまとめる
- 再発防止策を全職員に周知する
記録として残すもの
- 研修の実施日・テーマ・実施方法・参加職員名・受講確認サイン
- 事故発生防止委員会の開催記録(日時・出席者・議事内容・決定事項)
- 施設内リスクアセスメントの点検記録
- ヒヤリハット報告書(日時・場所・状況・気づいたこと)
- 事故発生時の記録(発生日時・状況・処置内容・報告先・再発防止策)
記録の保存期間は一般的に5年間が目安です。指定権者(市区町村または都道府県)の指示に従って管理します。
法定研修・訓練のキットを使う
放課後等デイサービス・児童発達支援の事故発生防止研修に対応した教材・確認テスト・ヒヤリハット記録様式・委員会の議題案をブラウザで使える研修キットを公開しています。
▶ 放課後等デイサービス・児童発達支援 法定研修・訓練キット
出典:指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準・厚生労働省「障害福祉サービス等における事故発生防止及び発生時の対応に関する取組の推進について」(令和4年3月)。
あわせて読みたい:児童発達支援の送迎安全管理、置き去り防止と研修・チェックリストの進め方。
あわせて読みたい:児童発達支援のAED・心肺蘇生研修、乳幼児の手順と訓練の進め方。
あわせて読みたい:児童発達支援の熱中症対策、乳幼児の症状と研修・WBGT指数の使い方。
あわせて読みたい:児童発達支援の強度行動障害支援、研修義務と加算・支援手順の整備。


コメント