訪問介護の倒産件数は2025年に91件に上り、介護サービス全体の中でも高い水準が続いています(東京商工リサーチ)。2026年1〜5月は31件(前年同期比18.4%減)とやや落ち着いていますが、依然として廃業・撤退する事業所が多い状況です。
これから開業を検討している場合でも、「なぜ廃業するのか」を理解しておくことは経営の備えになります。この記事では、訪問介護事業所が廃業・倒産に至る主な原因と、経営を維持するために必要な視点を整理します。
廃業・倒産の原因は「人材不足」「利用者の確保困難」「収益性の低下」の3つに集約される
訪問介護の廃業・倒産の背景には複数の要因が重なっています。主なものは次のとおりです。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| ヘルパーの確保困難 | 訪問介護員の高齢化・なり手不足が深刻。ヘルパーが退職するとサービス提供量が減り、収入が落ちる。常勤換算2.5人を維持できなくなると指定取り消しのリスクもある |
| 利用者の確保困難 | ケアマネからの紹介が得られないと利用者が増えない。損益分岐点を超える利用者数に達するまで赤字が続く |
| 収益性の低下・報酬改定の影響 | 介護報酬は改定のたびに変動する。令和6年度改定では処遇改善加算が統合・増額されたが、処遇改善費用も同時に増加。収益率が出にくい構造になっている |
| 後継者不足・代表者の健康問題 | 創業者兼管理者が実務を全て担っている小規模事業所では、代表者が動けなくなると即座に運営困難になる |
| 資金繰りの悪化 | 介護報酬の入金は翌々月末(国保連経由)。利用者が少ない開業初期は収入が少ないまま固定費が出続け、資金が底をつく |
人材不足が廃業に至るメカニズム
訪問介護員の平均年齢は上昇しており、新規採用が追いつかない事業所が増えています。ヘルパーが退職すると対応できる訪問件数が減り、収入が落ちます。収入が落ちれば残ったヘルパーへの賃金改善も難しくなり、さらなる退職につながるという悪循環が起きやすいです。
常勤換算2.5人を下回ると、指定基準違反として都道府県・市区町村から指導・最終的には指定取り消しになる可能性があります。人員基準を維持できなくなることが、廃業のトリガーになるケースがあります。
資金繰りの問題:開業初期が最も危険な時期
訪問介護の収入は「サービス提供月の翌月10日までに国保連に請求→翌々月末までに入金」というサイクルです。開業1か月目にサービスを提供しても、実際にお金が入るのは最短で3か月後です。
この間、ヘルパーへの人件費・事務所の賃料・社会保険料などの固定費は毎月発生します。利用者数が少ない開業初期ほど、収入が少ないまま費用が出続けるため、手元資金が急速に減ります。
利用者が少ない開業初期から損益分岐点を超えるまでには、相応の期間がかかります。この期間を乗り切れる手元資金を確保しておくことが、廃業を防ぐ最も確実な手段のひとつです。
収支差率9.6%の意味:黒字でも余裕はない
令和7年度介護事業経営概況調査(令和6年度決算)によると、訪問介護事業所の平均収支差率は9.6%です。これは全産業平均と比べて決して低い数字ではありませんが、「全国平均に到達している事業所の平均」であることに注意が必要です。
この調査に回答している事業所は一定の規模・運営期間がある事業所が多く、開業初期の赤字期間を乗り越えた事業所のデータです。開業直後の1〜2年は収支差率がマイナスになることが一般的で、全国平均の9.6%は「目標値」として見るのが実態に近いです。
経営を続けるために必要な3つの視点
1. 損益分岐点を把握して、必要な利用者数から逆算する
毎月の固定費(人件費・家賃・社会保険料等)と1回の訪問の平均単価から、月次で黒字になるために必要な訪問回数・利用者数を計算します。この損益分岐点を最初に把握しておくことで、「今の状態があと何か月続くと資金が尽きるか」を常に確認できます。詳細は訪問介護の損益分岐点。何件訪問すれば黒字になるか。で整理しています。
2. ケアマネとの関係を最初から構築する
利用者は自分でサービスを選ぶケースよりも、ケアマネジャーからの紹介で事業所を知るケースが圧倒的に多いです。開業前から地域のケアマネに挨拶回りをして、「対応できる時間帯・サービス内容・連絡のしやすさ」を具体的に伝えることが利用者獲得の基本です。
3. 入金サイクルを意識して手元資金を積む
翌々月払いの入金サイクルを前提にした資金計画を立て、開業から黒字化するまでの期間(目安24か月)を手元資金で乗り切れるかどうかを事前に確認します。自己資金だけで足りない場合は、日本政策金融公庫などの開業融資(スタートアップ支援資金)を活用することが現実的な選択肢です。
収支のシミュレーションで「いつ資金が底をつくか」を確認する
訪問介護 開業向け収支シミュレーター(https://fufumumu-design.com/houmon-kaigo-keikaku/)では、利用者の増え方・人件費・借入条件を入力して、36か月の月次資金繰りを試算できます。「最低残高がいつ・いくらになるか(最低必要資金)」が自動で計算されるため、廃業リスクを数字で把握できます。Pro版(9,800円買い切り)では感度分析(利用者数が計画より10%少なかった場合など)も確認できます。
あわせて読みたい:訪問介護の開業、経営は成り立つか。大変なのか。
あわせて読みたい:訪問介護の損益分岐点。何件訪問すれば黒字になるか。
この記事で確認した根拠
- 東京商工リサーチ「介護事業者の倒産動向」(2025年・2026年1〜5月)
- 厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」(令和6年度決算・収支差率)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
すでに訪問介護を運営中の事業所向けに、法定研修の資料セットも用意しています。
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