訪問介護の開業、経営は成り立つか。大変なのか。

訪問介護の開業、経営は成り立つか。大変なのか。 介護

訪問介護の開業を考えたとき、最初に浮かぶ疑問はきっとこれだと思います。経営として、きちんと成り立つんですか。それとも大変なだけですか。結論から言うと、両方とも本当です。全国平均で見ると訪問介護は決して悪くない収益率の業種ですが、その数字の裏側には、資金繰りと人材確保という2つの現実的なハードルがあります。この記事では、公的な統計データをもとに、その両面を具体的に見ていきます。

訪問介護は、実際に経営として成り立っているのですか

厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査(令和6年度決算)によると、訪問介護1事業所あたりの収支差率(収入に対する利益の割合)は9.6%です。数字だけ見れば、決して低い水準ではありません。

同じ調査では、訪問介護1事業所あたりの月の収入は平均約316万円、延べ訪問回数は853.3回、常勤換算の職員数は7.4人となっています。1回の訪問あたりの収入は平均3,855円です。

指標 全国平均(令和6年度決算)
月の収入 約316万円
月の延べ訪問回数 853.3回
常勤換算の職員数 7.4人
訪問1回あたりの収入 3,855円
給与費比率(収入に対する人件費の割合) 67.8%
収支差率 9.6%

ここで大事な注意点があります。この数字は、すでに軌道に乗っている既存事業所の平均であって、開業したばかりの事業所の実績ではありません。開業直後は利用者がゼロからのスタートなので、この収支差率にたどり着くまでには、当然ながら時間がかかります。

収支差率9.6%を、金額でイメージするとどうなりますか

「収支差率9.6%」と言われても、実感が湧きにくいと思うので、平均の数字をそのまま金額に置き換えてみます。月の収入が約316万円の事業所であれば、収支差(利益)はその9.6%にあたる約30万円という計算になります。逆に言えば、残りの90.4%、つまり約286万円は、人件費や家賃などの費用として出ていくということです。

この費用のうち、一番大きな割合を占めるのが人件費です。給与費比率は67.8%なので、収入316万円のうち約214万円が、常勤換算7.4人分の給与や社会保険料として使われている計算になります。訪問介護は「人が動いて成り立つサービス」なので、収入の3分の2前後が人件費になるのは、構造上どうしても避けられません。残りの費用(家賃・車両費・システム利用料・保険など)と、収支差(利益)を合わせて、収入の3割強という内訳です。

それなら、なぜ「大変」だと言われるのですか

平均の数字だけを見ると悪くない業種に見えますが、「大変だ」という声が絶えないのには理由があります。大きく分けると、2つです。

理由1:資金繰りの谷を越える必要がある

訪問介護の指定を受けるには、常勤換算で2.5人以上の訪問介護員等を、事前にそろえておく必要があります。つまり、収入がまだゼロの段階から、人件費と事務所の家賃が出ていく期間が発生します。さらに、介護報酬の入金は、サービス提供から1〜2か月後というタイムラグがあるため、利用者が増え始めてからも、しばらくは手元の資金が減り続けます。この「資金の谷」をどう乗り越えるかが、開業前に一番具体的に考えておくべき論点です。

この資金の谷は、「支出が始まるタイミング」と「入金が始まるタイミング」の間にできる隙間、と言い換えることもできます。開業準備の段階で人を先に雇うほど、この隙間は長く・深くなります。一方で、人員が足りないまま指定申請をすることはできないため、「隙間を短くする」ことと「基準を満たす」ことは、どうしてもトレードオフの関係になります。だからこそ、感覚で乗り切ろうとせず、月単位の数字で見積もっておく価値があります。

理由2:人材の確保・定着が難しい

訪問介護は、サービス提供責任者や訪問介護員等という、資格・実務経験の要件がある職種を採用する必要があります。しかも、非常勤ヘルパーの働き方に頼る部分も大きく、急な欠勤や退職が起きると、そのままサービス提供に直結します。基本の収支計画を立てるだけでなく、「人が採れなかったら」「辞めてしまったら」という前提も、あらかじめ考えておく必要があります。

開業する地域によって、収入は変わりますか

変わります。介護報酬の単価は「地域区分」という仕組みで決まっていて、都市部ほど単価が高く設定されています。これは、都市部のほうが家賃や人件費の水準が高いことを反映した仕組みです。たとえば東京都特別区(1級地)と、地域区分の設定がない地域とでは、同じサービス内容でも1回あたりの単価に差が出ます。

そのため、「全国平均の収支差率9.6%」という数字も、開業する地域によって実際の金額は変わってきます。都市部は単価が高い一方で家賃や人件費も高く、地方は単価が低い一方で固定費を抑えやすいという、それぞれ別の前提が働くため、単純に「都市部のほうが有利」とは言い切れません。自分が開業を検討している地域の単価を、事前に確認しておく必要があります。

実際に倒産している事業所も多いのですか

東京商工リサーチの調査によると、訪問介護事業者の倒産は2025年に91件ありました。2026年1〜5月は31件で、前年同期比マイナス18.4%とやや落ち着きを見せていますが、それでも一定数の事業所が撤退していることに変わりはありません。

倒産の理由としてよく挙げられるのは、人材不足による稼働率の低下と、それに見合わない固定費(事務所の家賃・車両費など)の負担です。「利用者が集まらない」だけでなく「人が採れないから利用者を受けきれない」という、需要側ではなく供給側の理由で行き詰まるケースが多いのが、この業種の特徴です。

開業する前に、資金はどう用意すればいいですか

自己資金だけでまかなうのが難しい場合、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金が選択肢になります。設備資金は返済20年以内・運転資金は10年以内、据置期間は5年以内で、2026年9月1日現在の基準利率は、無担保・創業2期未満で3.75〜5.35%です(金利は変動するため、実際に申し込む際は最新の公表情報を確認してください)。

ここで意識しておきたいのは、「借りられる金額」と「事業がまわる金額」は別だということです。いくら借りられるかより先に、資金がマイナスになる最も厳しいタイミング(資金の谷)で、いくら必要になるかを試算しておくことが、遠回りに見えて一番の近道です。

結局、うまくいく人と厳しい人の違いは何ですか

統計データからは断定できませんが、資金繰りと人材の2つの論点を踏まえると、次のような傾向は見えてきます。

  • 資金の谷を具体的な数字で把握している人:「なんとなく大丈夫だろう」ではなく、開業準備期間・人員確保のタイミング・入金までのタイムラグを月単位で試算し、いつ・いくら資金が必要かを事前に把握している
  • 人材採用を「開業してから考える」にしていない人:指定申請の時点で人員基準を満たす必要があるため、採用活動を開業準備の初期段階から並行して進めている
  • 特定事業所加算のような上乗せの仕組みを、開業後の目標として理解している人:開業直後から狙うものではなく、実績を積んでから届け出るものだと理解したうえで、当初の収支計画には織り込みすぎていない

逆に厳しくなりやすいのは、平均の収支差率9.6%という数字だけを見て、開業直後からその水準に近い利益が出ると考えてしまうケースです。統計上の平均は、あくまで軌道に乗った事業所の姿であって、開業初年度の姿ではありません。

人材の定着のために、収支面で何ができますか

訪問介護には、介護職員の賃金水準を底上げするための「処遇改善加算」という仕組みがあります。事業所が加算を届け出ると、報酬の上乗せ分を職員の賃金改善に充てることが法令上求められる仕組みで、事業所にとっては収入が増える一方、その増加分は職員に還元する必要があります。

これは、単なる収支上の加算という以上に、「人材の確保・定着」という、この記事で見てきたもう一つの課題への対策そのものでもあります。賃金水準を上げられる仕組みがあることを、採用活動の段階から求職者に伝えられるかどうかは、他の事業所との差別化にもつながります。収支計画を立てる際は、この加算による収入増と、賃金改善の支出増をセットで見込んでおく必要があります。

フランチャイズに加盟すれば、リスクは減りますか

加盟すれば減る部分と、加盟しても減らない部分があります。フランチャイズに加盟すると、加盟金やロイヤリティという独立開業にはないコストが発生する一方で、指定申請の書類作成支援、運営マニュアル、研修体制、本部による集客支援など、独立開業ではゼロから自分で用意しなければならない部分を、ある程度パッケージで受け取れます。特に、初めて介護保険の事業を運営する人にとっては、「何から手をつければいいか分からない」という不安を減らせる面があります。

一方で、フランチャイズに加盟しても、人材の採用・定着の難しさや、資金繰りの谷という、この記事で見てきた2つの根本的な課題そのものはなくなりません。本部のサポートがあっても、実際に現場で人を採用し、利用者を確保していくのは加盟者自身の仕事です。加盟金・ロイヤリティの分だけ収支差率は圧迫されるため、「フランチャイズなら安心」ではなく、「どの部分のリスクを、どのくらいの費用で肩代わりしてもらえるのか」を具体的に比較して判断することをおすすめします。

利用者は、どうやって増えていくのですか

訪問介護の利用者は、広告を出せば直接申し込みが来る、というモデルではありません。多くの場合、ケアマネジャー(介護支援専門員)が、利用者のケアプランの中で訪問介護事業所を選び、紹介するという流れで利用者が決まります。そのため、開業後の営業活動は、地域の居宅介護支援事業所やケアマネジャーに対して、自分の事業所の存在と特色を知ってもらう活動が中心になります。

この構造は、資金計画にも直結します。広告を出したその日から利用者が増えるわけではなく、地域のケアマネジャーとの関係ができるまでに一定の期間がかかるため、開業直後の利用者の増え方を楽観的に見積もりすぎると、資金の谷が予想より深くなります。収支シミュレーターで利用者の増え方を試算する際は、この「関係構築にかかる時間」も加味しておくと、より現実的な計画になります。

結局、開業前に何を確認しておけばいいですか

ここまでの内容を整理すると、開業前に具体的な数字で把握しておくべきことは、次の3つに集約されます。

  1. 資金の谷:開業準備期間から、収支が黒字化するまでの間に、最大でいくらの資金が必要になるか
  2. 人員の確保計画:いつまでに、何人の訪問介護員等・サービス提供責任者を確保する必要があるか
  3. 損益分岐点:何人の利用者を確保すれば、月々の収支がプラスに転じるか

これらは、実際の報酬体系・人員基準にもとづいて数字を入れてみないと、実感を持って把握するのが難しい部分です。自分の計画にもとづいた具体的な試算は、無料の収支シミュレーターでできます。

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よくある質問

Q. 収支差率9.6%というのは、開業して何年目くらいで到達できる水準ですか

この調査は事業所の開業年数を区別していないため、何年目で到達するかは断定できません。一般的には、人員体制が整い、利用者数が安定してから到達する水準と考えるのが現実的です。開業直後は、収支差率がマイナス(赤字)の期間があることを前提に、資金計画を立てておく必要があります。

Q. 個人事業主として、小さく始めることはできませんか

できません。訪問介護の指定を受けるには法人格が必要で、個人事業主のままでは開業できない仕組みになっています(訪問介護・訪問看護は、個人事業主でも開業できるか。)。

Q. 訪問看護と比べて、訪問介護のほうが始めやすいですか

単純比較はできません。訪問看護は看護師資格を持つ人員の確保が前提になる一方、医療保険・介護保険の両方から収入が入る仕組みで、収入の構造が異なります(訪問看護ステーションの収入、介護保険と医療保険でどう計算するか。)。どちらが「始めやすい」かは、自分が確保できる人材や、地域の需要によって変わります。

Q. 訪問介護の需要そのものは、これから先も続きますか

この記事の統計データからは、将来の需要そのものを予測することはできません。ただし、高齢化にともなって在宅介護のニーズが続くこと自体は、多くの公的な統計・報道で共通して指摘されています。需要の見通しだけで開業を判断するのではなく、自分の地域で、実際にどのくらいの競合事業所があり、どのくらいの人材を確保できそうかという、より具体的な条件をあわせて確認することをおすすめします。

まとめ

  • 訪問介護の全国平均の収支差率は9.6%(令和7年度介護事業経営概況調査)で、業種として悪くない水準です。
  • ただし、この数字は軌道に乗った既存事業所の平均であり、開業直後の実績ではありません。
  • 「大変」と言われる理由は、主に資金繰りの谷(人員を先に確保する必要がある)と、人材の確保・定着の難しさの2つです。
  • 訪問介護の倒産は2025年に91件(東京商工リサーチ)。需要不足よりも、人材不足による供給側の要因が目立ちます。
  • 開業前に、資金の谷・人員確保計画・損益分岐点の3つを具体的な数字で把握しておくことが、遠回りに見えて一番の近道です。

出典:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」(令和6年度決算)、東京商工リサーチ「訪問介護事業者の倒産動向」、日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」(2026年9月1日現在の基準利率)。統計や制度は変わる場合があるため、実際に開業を検討する際は最新の情報をご確認ください。

この記事を書いた人

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運営者は、上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスの最前線から、約70名の営業チームのマネジメントまで経験してきました。「どんな言葉で人の心が動くのか」「どうすれば“お願いします”と言ってもらえるのか」を、机上ではなく現場で、20年かけて体に叩き込んできた人間です。

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