訪問介護・訪問看護の開業を考えるとき、「個人事業主として、なるべく費用をかけずに始められないか」と考える方もいると思います。結論から言うと、訪問介護・訪問看護は、個人事業主のままでは開業できません。この記事では、なぜ法人格が必要なのか、法人を作るにはどのくらいの費用がかかるのかを、法律の条文や公的機関の公表情報にもとづいて具体的に解説します。
個人事業主では、なぜ開業できないのですか
訪問介護・訪問看護の指定を受けるには、法人格が必要と定められているためです。個人でどれだけ経験や資格があっても、法人を設立しない限り、指定を受けて介護保険・医療保険のサービスを提供することはできません。開業を決めたら、まず法人の形態を選び、設立の手続きを進める必要があります。
法人の種類は、何を選べばいいですか
訪問介護・訪問看護の開業でよく選ばれるのは、株式会社と合同会社です。どちらも法人格を持つ点は同じですが、設立の手続きと費用が異なります。
- 株式会社:社会的な信用度が高いとされ、金融機関や取引先に対して馴染みがある形態です。設立には、定款の認証という手続きが必要です。
- 合同会社:設立の手続きが株式会社よりシンプルで、定款の認証が不要なため、その分の費用がかかりません。近年、小規模な事業の開業で選ばれることが増えています。
どちらを選んでも、訪問介護・訪問看護の指定申請そのものへの影響はありません。判断のポイントは、主に設立費用と、将来的な事業拡大・株式公開などの見込みです。
株式会社と合同会社では、設立費用はどのくらい違いますか
設立費用の中心は、法務局に納める登録免許税と、株式会社の場合に必要な定款認証の費用です。
| 費用の項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 資本金の額×0.7%(15万円に満たないときは15万円) | 資本金の額×0.7%(6万円に満たないときは6万円) |
| 定款認証の手数料 | 資本金100万円未満は3万円、100万円以上300万円未満は4万円、それ以外は5万円 | 不要(定款の認証そのものが不要) |
| 定款の印紙代 | 紙の定款は4万円(電子定款の場合は不要) | 紙の定款は4万円(電子定款の場合は不要) |
登録免許税は、登録免許税法別表第一に定められた税率・最低額です。資本金が少額の場合、最低額どうしを比べると、株式会社は登録免許税15万円+定款認証費用(3〜5万円)で合計18〜20万円前後、合同会社は登録免許税6万円のみという計算になります(電子定款を利用した場合の目安。紙の定款はこれに印紙代4万円が加わります)。
登録免許税を安くする方法はありますか
あります。中小企業庁の公表情報によると、市区町村が実施する「特定創業支援等事業」を受けて証明書を取得すると、登録免許税が通常の半額になる軽減措置があります。
| 設立形態 | 通常の税率 | 軽減措置適用後 |
|---|---|---|
| 株式会社 | 資本金×0.7%(最低15万円) | 資本金×0.35%(最低7.5万円) |
| 合同会社 | 資本金×0.7%(最低6万円) | 資本金×0.35%(最低3万円) |
特定創業支援等事業は、認定市区町村や商工会・商工会議所、金融機関等が実施する、経営・財務・人材育成・販路開拓に関する個別相談や創業塾・創業セミナーなどを、一定回数受講することで証明書が発行される仕組みです。対象は、その地域で創業予定、または創業後5年未満の事業者に限られます。開業予定の地域で、この制度を実施している市区町村があるか、早めに確認しておく価値があります。
定款には、何を書いておく必要がありますか
会社を設立する際に作成する定款には、事業目的を記載する欄があります。訪問介護・訪問看護の指定を受けるには、この事業目的に「訪問介護事業」「訪問看護事業」など、実際に行うサービスの内容が明記されている必要があります。設立時に決めた事業目的に含まれていない事業は、原則として指定を受けられないため、会社設立の段階から、訪問介護・訪問看護を行うことを見据えて事業目的を決めておくことが重要です。設立後に事業目的を追加する変更登記もできますが、その分の手続きと登録免許税(3万円が目安)が別途かかります。
将来、訪問介護・訪問看護以外の周辺事業(例えば、居宅介護支援や、通所介護など)への展開も考えている場合は、あらかじめ事業目的に含めておくと、あとから変更登記をする手間を省けます。ただし、事業目的を増やしすぎると、定款認証の手数料や、金融機関の審査で事業の実態が分かりにくくなることもあるため、実際に行う予定のある事業を中心に記載するのが一般的です。
株式会社と合同会社は、費用以外にどんな違いがありますか
設立費用以外にも、いくつかの違いがあります。
- 意思決定の仕組み:株式会社は、株主総会・取締役会などの機関設計が必要になる場合があります。合同会社は、出資者(社員)が原則としてそのまま経営を行うシンプルな仕組みで、意思決定を柔軟に行いやすいとされています。
- 決算公告の義務:株式会社は、原則として毎年の決算公告が必要です。合同会社には、この義務がありません。
- 社会的な印象:金融機関からの融資や、取引先・利用者のご家族に対する印象として、株式会社のほうが馴染みがあると感じる場面もあります。ただし、訪問介護・訪問看護の指定そのものは、法人の種類による有利・不利はありません。
小規模な事業所として、まず費用を抑えて開業したいのであれば合同会社、将来の事業拡大や対外的な印象を重視するのであれば株式会社、という考え方が一般的な目安です。
会社を作ってから、すぐに開業できますか
すぐにはできません。法人を設立したあとも、事業所の確保、人員の採用(訪問介護は常勤換算2.5人以上、訪問看護は看護職員の常勤換算2.5人以上)、指定申請の手続きと、いくつかのステップが必要です。準備期間の目安や、開業までの資金計画の考え方は、それぞれ次の記事で詳しく解説しています。
会社設立の手続きは、どんな流れで進みますか
大まかな流れは、株式会社・合同会社ともに共通しています。
- 会社の基本事項を決める:商号(会社名)、事業目的(訪問介護事業・訪問看護事業を含める)、本店所在地、資本金の額、役員構成などを決めます。
- 定款を作成する:決めた基本事項をもとに、定款を作成します。株式会社は、この定款を公証役場で認証してもらう必要があります(合同会社は不要)。
- 資本金を払い込む:発起人(出資者)の個人口座に、決めた資本金の額を払い込みます。
- 設立登記を申請する:法務局に、登記申請書・定款・払込みを証明する書類などを提出し、登録免許税を納付します。申請が受理された日が、会社の設立日になります。
- 税務署・自治体等への届出:設立後、税務署への法人設立届出書の提出や、社会保険・労働保険の加入手続きなどが必要です。
この手続きが終わったあとに、はじめて訪問介護・訪問看護の指定申請の準備に進みます。自分で手続きを行う場合と、司法書士・行政書士に依頼する場合とで、かかる期間や費用も変わってきます。
資本金は、いくらにすればいいですか
会社法上は、資本金1円からでも株式会社・合同会社を設立できます。ただし、登録免許税には最低額(株式会社15万円・合同会社6万円)があるため、資本金をごく少額にしても、登録免許税がそれ以下になるわけではありません。また、資本金は、設立当初の運転資金の目安として金融機関や取引先から見られることもあるため、登録免許税の最低額だけでなく、開業後しばらくの運転資金をどの程度自己資金で賄うかという観点でも考える必要があります。自分の事業計画にもとづいた必要資金の目安は、無料の収支シミュレーターで試算できます。
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よくある質問
Q. 一般社団法人やNPO法人でも開業できますか
法人格を持つ組織であれば、株式会社・合同会社に限らず、一般社団法人やNPO法人などでも、訪問介護・訪問看護の指定を受けられる可能性があります。ただし、それぞれの法人形態ごとに、設立の手続き・費用・運営上のルールが異なります。この記事では、開業でよく選ばれる株式会社・合同会社を中心に解説しています。
Q. すでに個人事業として他の仕事をしています。その名義のまま訪問介護を始められますか
始められません。既存の個人事業とは別に、訪問介護・訪問看護の指定を受けるための法人を、新たに設立する必要があります。既存の個人事業を法人化(法人成り)する場合も、通常の法人設立と同じ手続き・費用がかかります。
Q. 合同会社で設立すると、あとから株式会社に変更できますか
組織変更という手続きで、合同会社から株式会社に変更すること自体は可能です。ただし、その際にも別途登記の手続きと登録免許税がかかります。最初にどちらを選ぶかは、変更のしやすさよりも、現時点での設立費用と、事業の見通しで判断することをおすすめします。
Q. 会社設立の手続きは、自分でもできますか
自分で行うこともできます。法務局の窓口や、法務局が提供する電子申請システムを使って、定款の作成から登記申請まで、専門家に依頼せずに進めることも可能です。一方で、書類に不備があると申請がやり直しになるため、初めての場合は、司法書士に設立登記を依頼したり、税理士・行政書士に周辺の手続きを相談したりする事業者も多くいます。
Q. 電子定款にすると、何が変わりますか
紙の定款を作成する場合は、収入印紙代として4万円がかかりますが、電子定款(PDF等の電子データで作成する定款)にすると、この印紙代がかかりません。ただし、電子定款の作成には、電子証明書やソフトウェアの準備が必要になるため、自分で対応するか、司法書士等に依頼するかで、実質的な手間・費用は変わってきます。
まとめ
- 訪問介護・訪問看護は、個人事業主のままでは開業できません。法人格が必要です。
- よく選ばれるのは株式会社と合同会社で、合同会社は定款認証が不要な分、設立費用を抑えられます。
- 設立費用の中心は登録免許税(資本金×0.7%、株式会社は最低15万円・合同会社は最低6万円)です。
- 「特定創業支援等事業」の証明書を取得すると、登録免許税が半額になる軽減措置があります。
- 法人設立後も、事業所の確保・人員の採用・指定申請が必要で、開業まで一定の準備期間がかかります。
出典:登録免許税法別表第一(e-Gov法令検索・法律第三十五号)、日本公証人連合会「定款の認証に要する費用、株式会社設立の費用等はいくらですか」、中小企業庁「会社設立時の登録免許税の軽減について」。税額・手数料は法令の改正により変わる場合があるため、実際に手続きを行う際は、最新の情報を法務局・公証役場・専門家にご確認ください。


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