訪問看護ステーションの開業を考えるとき、訪問介護と大きく違うのが「収入の計算のしかた」です。訪問看護は、介護保険からの収入と、医療保険からの収入の2本立てになっており、どちらの利用者がどれだけいるかによって、収支の姿が変わります。この記事では、公的な統計・制度の数字をもとに、訪問看護ステーションの収入構造と、開業にあたって押さえておきたい数字を具体的に見ていきます。
- 訪問看護ステーションの収入は、どう計算しますか
- 訪問看護事業所の収支は、実際どのくらいですか
- 開業までの流れと、期間の目安はどのくらいですか
- 訪問看護の毎月の経費には、何がありますか
- 訪問看護の人員基準は、何人必要ですか
- 介護保険の報酬(単位数)は、どう決まりますか
- 医療保険の収入は、どう決まりますか
- 24時間対応の体制には、どんな費用がかかりますか
- 収入を増やす仕組みには、どんなものがありますか
- 准看護師が担当する場合、報酬はどう変わりますか
- 開業資金の融資は、どこに相談すればいいですか
- 訪問介護と訪問看護は、何が違いますか
- 開業の資金計画で、注意しておきたい点は何ですか
- 自分の場合の数字を試算するには、どうすればいいですか
- よくある質問
- まとめ
訪問看護ステーションの収入は、どう計算しますか
訪問看護の利用者は、大きく「介護保険を使う利用者」と「医療保険を使う利用者」に分かれます。要介護認定を受けている高齢者は原則として介護保険、40歳未満の方や、厚生労働大臣が定める疾病等に該当する方、急性増悪期などは医療保険が適用されます。1つの事業所の中に、介護保険の収入源と医療保険の収入源が同時に存在するのが、訪問看護の大きな特徴です。
介護保険は「サービス区分ごとの単位数×地域の単価」で計算するのに対し、医療保険は「基本療養費+各種加算」を円の金額でそのまま積み上げる仕組みで、計算方法自体が異なります。開業前の収支計画では、この2つを分けて見込む必要があります。
訪問看護事業所の収支は、実際どのくらいですか
厚生労働省の「令和7年度介護事業経営概況調査」(令和6年度決算・介護保険収入のみが対象)によると、訪問看護ステーション1か所あたりの月額の実態は、次のとおりです。
| 項目 | 全国平均(月額・介護保険のみ) |
|---|---|
| 収入 | 約347.6万円 |
| 延べ訪問回数 | 421.5回 |
| 常勤換算の職員数 | 8.6人(うち看護職員5.4人) |
| 訪問1回あたりの収入 | 8,248円 |
| 給与費比率 | 70.1% |
| 収支差率 | 10.3% |
この調査は介護保険の収入だけを対象にしており、医療保険の収入は含まれていません。医療保険については、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)の集計から、1事業所あたり月間の請求額が約408万円、1件あたりの利用日数が9.3日、1日あたりの請求額が約11,602円という数字が確認できます。訪問看護は、この介護保険分と医療保険分を合わせた金額が、実際の事業所全体の収入になります。ただし、医療保険を含めた収支差率の全国統計は、確認できた範囲では見当たりません。医療保険の利用者が多い事業所ほど、介護保険のみの調査結果とは収支の姿が変わる点に注意が必要です。
開業までの流れと、期間の目安はどのくらいですか
訪問看護ステーションの開業も、訪問介護と同様に「法人設立」「事業所の準備」「指定申請」「指定・開業」という流れで進みます。訪問看護も個人事業主のままでは開業できないため、最初のステップは法人の設立です(訪問介護・訪問看護は、個人事業主でも開業できるか。)。介護保険の指定を受けると、医療保険については別途の指定申請なしで「みなし指定」となるため、申請自体は訪問介護と大きくは変わりません。準備期間の目安は3〜4か月程度で、この間は収入がないまま、事務所の家賃や、先に確保しておく看護職員の給与が出ていきます。
訪問看護で特に時間がかかりやすいのが、看護職員の採用です。指定申請の時点で、常勤換算2.5人(うち常勤1人以上)がそろっている必要があり、看護師・保健師の採用は、地域や条件によっては訪問介護のヘルパー採用より難しくなることがあります。24時間対応の体制を整える場合は、オンコール対応ができる人員の確保も、あわせて検討する必要があります。
訪問看護の毎月の経費には、何がありますか
毎月の経費は、大きく「人件費」と「それ以外の固定費」に分かれます。全国平均(介護保険のみ)では、収入に占める給与費の比率が70.1%、収支差率が10.3%なので、残りの約19.6%が、家賃・水道光熱費・車両の維持費・訪問看護記録システムの利用料・医療材料費・広告費・研修費などの「それ以外の費用」にあたる計算になります。訪問介護と比べると、看護職員の給与水準が高いことに加えて、医療材料(衛生材料・消毒液など)や、緊急時の連絡体制を維持するための通信費・手当が、経費に上乗せされやすい点が特徴です。この収支差率の水準や、訪問介護との違いをさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください(訪問看護の開業、訪問介護と比べてどう違うか。)。
訪問看護の人員基準は、何人必要ですか
訪問看護ステーションの人員基準は、次のとおりです(指定基準第60条)。
- 看護職員(保健師・看護師・准看護師):常勤換算2.5人以上(うち1人は常勤)
- 理学療法士等(PT・OT・ST):上記の2.5人には含めず、必要に応じて適当数を配置
- 管理者:常勤・専従の保健師または看護師(支障がなければ兼務可)
- 法人格:必要(個人事業では指定を受けられません)
訪問介護のサービス提供責任者にあたる立場はなく、看護職員そのものの人数が基準になります。理学療法士等は、看護職員の人数とは別枠で考える点が、訪問介護の人員基準との違いです。介護保険の指定を受けると、医療保険についても「みなし指定」となり、別途申請しなくても医療保険の訪問看護が提供できます。
介護保険の報酬(単位数)は、どう決まりますか
介護保険の基本報酬(令和6年度改定後)は、次のとおりです。
| サービス区分 | 単位数 |
|---|---|
| 20分未満 | 314単位 |
| 30分未満 | 471単位 |
| 30分以上1時間未満 | 823単位 |
| 1時間以上1時間30分未満 | 1,128単位 |
| 理学療法士等による訪問(1回) | 294単位 |
単価は、訪問介護と同じ地域区分の仕組みで、1級地(東京23区)が11.40円、上乗せのない地域が10.00円です。20分未満の訪問は、24時間対応の体制があり、かつ20分以上の訪問が週1回以上あることが条件になっており、誰でも算定できるわけではありません(告示上の注1)。
このほか、緊急時訪問看護加算(I:600単位・II:574単位/月)、特別管理加算(I:500単位・II:250単位/月)、ターミナルケア加算(2,500単位)、初回加算(I:350単位・II:300単位)などがあります。令和8年6月からは、訪問看護に処遇改善加算(1.8%)が新設されました(従来、訪問看護には処遇改善加算がありませんでした)。
医療保険の収入は、どう決まりますか
医療保険の訪問看護療養費(令和8年厚生労働省告示第74号・令和8年6月1日〜)は、主に次の項目で構成されます。
| 項目 | 金額(円) |
|---|---|
| 基本療養費(I・看護師)週3日目まで | 5,550 |
| 基本療養費(I・看護師)週4日目以降 | 6,550 |
| 管理療養費(月初日・その他型) | 7,710 |
| 管理療養費(2日目以降・単一建物20人未満) | 3,010/日 |
| 特別管理加算(重症度が高い場合5,000) | 2,500 |
| 緊急訪問看護加算 | 2,650 |
| ターミナルケア療養費 | 25,000 |
管理療養費は、事業所が機能強化型の届出をしているかどうかで金額が変わり、機能強化型1は13,760円、2は10,460円、3・4は9,030円です(いずれも月初日)。機能強化型の届出には、常勤の看護職員数などの要件があり、開業直後に届け出られるものではありません。
24時間対応の体制には、どんな費用がかかりますか
訪問看護は、緊急時に電話で相談を受けたり、必要に応じて訪問したりする「24時間対応」の体制を整える事業所が多くあります。医療保険には24時間対応体制加算(業務負担軽減の体制などにより6,800円または6,520円)があり、これを算定するには、24時間の連絡・訪問体制を整えている必要があります。
この体制を維持するために、多くの事業所では、待機する職員への手当(オンコール手当)と、実際に出動した場合の手当(出動手当)を、給与とは別に用意しています。介護保険の緊急時訪問看護加算も、同様に24時間の連絡体制が前提になっているため、介護保険の緊急時加算だけを算定して、医療保険の24時間対応体制加算を届け出ていない、という組み合わせは通常考えにくい点も、収支を見積もる際のポイントです。
収入を増やす仕組みには、どんなものがありますか
基本の報酬・療養費に加えて、体制を整えることで上乗せできる仕組みがあります。代表的なのが、医療保険の機能強化型の管理療養費です。機能強化型1(13,760円)・2(10,460円)は、常勤の看護職員数や、ターミナルケア・重症度の高い利用者への対応実績など、複数の要件を満たした事業所だけが届け出られる区分で、機能強化型でない事業所(7,710円)と比べて、月初日の管理療養費に大きな差がつきます。区分ごとの要件は、こちらの記事で詳しく整理しています(訪問看護の機能強化型管理療養費とは。要件をわかりやすく整理します。)。
介護保険側にも看護体制強化加算があり、前6か月の緊急時訪問看護加算の算定割合(50%以上)・特別管理加算の算定割合(20%以上)、前12か月のターミナルケアの実績などが要件になります。医療保険の機能強化型も、一定の実績を積んだ事業所だけが届け出られる点は共通しています。いずれも、新規開業の時点では実績そのものがないため算定できず、実績を積んでから届け出る加算という位置づけになります。開業初年度の収支計画では、これらの加算を見込みすぎないことが大切です。
准看護師が担当する場合、報酬はどう変わりますか
看護職員のうち、准看護師が訪問した場合は、報酬が減額されます。介護保険では所定単位数の90/100、医療保険の基本療養費では5,050円(週4日目以降6,050円)と、正看護師より低い金額になります。人員体制に准看護師を含める場合は、この減額を踏まえて収支を見積もる必要があります。
開業資金の融資は、どこに相談すればいいですか
訪問介護と同じく、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金が選択肢になります。加えて、訪問看護は医療系のサービスであるため、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の医療貸付が、指定訪問看護事業も対象としています。複数の融資制度を比較検討できる点は、訪問看護ならではの特徴です。
融資の相談では、介護保険分・医療保険分それぞれの利用者の増え方の見込みと、それに応じた人員計画・収支計画を求められます。開業してから収支が安定するまでの運転資金(人件費の6か月分程度が目安とされることもあります)をどう確保するかが、相談の中心になります。
訪問介護と訪問看護は、何が違いますか
訪問介護の開業を同時に検討している方に向けて、違いを整理します。もっとも大きな違いは、この記事で見てきたとおり収入源が介護保険1本(訪問介護)か、介護保険+医療保険の2本立て(訪問看護)かという点です。人員基準も、訪問介護は訪問介護員等(サ責を含む)の常勤換算2.5人以上、訪問看護は看護職員の常勤換算2.5人以上(うち常勤1人以上)と、対象となる職種が異なります。訪問介護の開業を検討している場合は、資金計画の考え方を整理した記事もあわせてご覧ください(訪問介護の開業資金はいくら必要か。)。
開業の資金計画で、注意しておきたい点は何ですか
ここまでの内容を踏まえると、訪問看護の資金計画で見落としやすいのは、次の3点です。
- 指定申請の時点で看護職員がそろっている必要があること:常勤換算2.5人(うち常勤1人以上)という基準は、利用者数に関わらず、指定を受ける時点で満たしておく必要があります。看護職員の採用には時間がかかりやすいため、開業準備の早い段階から動く必要があります。
- 加算の多くは、実績を積んでから算定できること:機能強化型の管理療養費や、看護体制強化加算は、開業直後には算定できません。基本の報酬・療養費だけで収支が成り立つ計画を、まず立てておくことが重要です。
- 医療保険の収支は、全国統計で裏付けにくいこと:介護保険分は全国平均のデータがありますが、医療保険を含めた収支差率の全国統計は確認できていません。医療保険の利用者をどの程度見込むかによって、収支の姿が大きく変わる点を踏まえて、複数のシナリオで試算しておくと安心です。
自分の場合の数字を試算するには、どうすればいいですか
ここまでの数字は、全国平均や制度の基準です。実際の収支は、介護保険・医療保険それぞれの利用者の増え方、24時間対応の体制、准看護師の有無などによって大きく変わります。
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よくある質問
Q. 介護保険の利用者と医療保険の利用者、どちらが多い方が経営は安定しますか
一概には言えません。医療保険は、NDBの集計で1件あたり9.3日・1日約11,602円という水準が見えますが、事業所全体の収支差率の全国統計は確認できていません。介護保険・医療保険それぞれの想定利用者数を入れて試算し、自分の事業計画で比較することをおすすめします。
Q. 精神科の訪問看護にも対応する予定ですが、試算できますか
精神科訪問看護は、通常の訪問看護療養費とは別の報酬体系(精神科訪問看護基本療養費等)が適用されます。今回のシミュレーターは、この精神科訪問看護療養費には対応していません。通常の訪問看護(介護保険・医療保険)の試算としてご利用ください。
Q. 機能強化型の届出は、開業と同時にできますか
機能強化型の管理療養費には、常勤の看護職員数などの要件があり、開業直後に満たせるものではありません。まずは基本の体制で開業し、実績を積みながら要件を確認していく事業所が一般的です。
まとめ
- 訪問看護の収入は、介護保険(単位数×単価)と医療保険(円建ての療養費)の2本立てです。
- 全国平均(介護保険のみ)は、収入約347.6万円/月・収支差率10.3%ですが、医療保険を含めた収支の全国統計は確認できていません。
- 人員は看護職員の常勤換算2.5人以上(うち常勤1人以上)が必要で、理学療法士等は別枠で数えます。
- 24時間対応の体制には、医療保険の加算(6,520円〜6,800円)と、オンコール・出動手当の費用がかかります。
- 准看護師の訪問は、介護保険90/100・医療保険5,050円/6,050円と、正看護師より低い単価になります。
- 融資は、日本政策金融公庫に加えて、福祉医療機構の医療貸付も選択肢になります。
- 自分の条件での試算は、無料の収支シミュレーターで確認できます。
出典:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)集計、厚生労働省告示第86号(令和6年度介護報酬改定)、厚生労働省告示第87号・老発0313第6号(訪問看護の処遇改善加算)、厚生労働省告示第74号(訪問看護療養費・令和8年6月1日〜)、厚生労働省告示第93号(地域区分)、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(第60条)、独立行政法人福祉医療機構(医療貸付)、日本政策金融公庫(新規開業・スタートアップ支援資金)。数値は改定・見直しにより変わる場合があります。最新の内容は、各公表元でご確認ください。


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