訪問介護の開業資金はいくら必要か。

訪問介護の開業資金はいくら必要か。 介護

訪問介護の開業を考えたとき、最初に気になるのは「資金がいくら必要か」だと思います。結論から言うと、金額は事業の規模や地域で変わるため一律には言えませんが、「開業までの初期費用」と「開業後しばらく赤字が続く期間の運転資金」の合計で考えると、必要な金額の見当がつけやすくなります。この記事では、公的な統計・制度の数字をもとに、この2つの中身を具体的に見ていきます。

訪問介護の開業に、資金はいくら必要ですか

一律の金額はありませんが、必要な資金は大きく2つに分けて考えます。①法人設立・事務所・車両・備品などの初期費用と、②開業してから収支が安定するまでの運転資金です。訪問介護は、指定を受けて営業を始めても、利用者が集まるまでは収入が少なく、人件費や家賃だけが先に出ていきます。この「収入が費用に追いつくまでの期間」の赤字を、自己資金と借入でどう埋めるかが、資金計画の中心になります。

②の運転資金は、利用者の増え方(見込み)と、人員をいつ・何人採用するかによって大きく変わるため、他の事業所の平均値をそのまま当てはめることが難しい部分です。後述する無料の試算ツールでは、この2つを自分の想定で入力して、必要な資金の目安を計算できます。

訪問介護事業所の収支は、実際どのくらいですか

厚生労働省の「令和7年度介護事業経営概況調査」(令和6年度決算)によると、訪問介護事業所1か所あたりの月額の実態は、次のとおりです。

項目 全国平均(月額)
収入 約316万円
延べ訪問回数 853.3回
常勤換算の職員数 7.4人
訪問1回あたりの収入 3,855円
給与費比率(収入に占める人件費の割合) 67.8%
収支差率(収入に占める営業利益の割合) 9.6%

この数字で注意したいのは、これは「既存の事業所」の平均であり、開業したばかりの事業所の実績ではないという点です。開業直後は利用者が少なく、常勤換算2.5人以上という人員基準(後述)を満たすための人件費が先行して出るため、この平均値より収支が厳しくなるのが一般的です。何か月目でこの水準に近づくかは、利用者の増え方の見込み次第です。この収支差率の内訳や、「経営として成り立つのか」という視点は、こちらの記事でさらに詳しく解説しています(訪問介護の開業、経営は成り立つか。大変なのか。)。

開業までの流れと、期間の目安はどのくらいですか

訪問介護の開業は、大きく「法人設立」「事業所の準備」「指定申請」「指定・開業」という流れで進みます。訪問介護は個人事業主のままでは開業できないため、最初のステップは法人の設立です(訪問介護・訪問看護は、個人事業主でも開業できるか。)。指定申請は、指定を受けたい日(開業予定日)から逆算して、自治体ごとに定められた期限(例:指定予定日の2か月前まで)までに書類を提出する必要があります。準備期間の目安は3〜4か月程度とされることが多く、この間は収入がないまま、事務所の家賃や、先に採用した管理者・サービス提供責任者の給与が出ていきます。

開業準備でとくに時間がかかりやすいのが、①法人設立の手続き、②事務所の確保(用途地域や消防設備の確認を含む)、③人員の採用(サービス提供責任者の資格要件を満たす人材の確保)の3点です。特に③は、指定申請の時点で常勤換算2.5人がそろっている必要があるため、「利用者が集まってから人を増やす」という後追いの採用では間に合いません。指定申請の前から、先に人件費が発生する前提で資金計画を立てておく必要があります。

初期費用には、具体的に何が含まれますか

初期費用として一般的に想定される項目には、次のようなものがあります。金額は事業所の規模や地域、既存の設備の有無によって大きく変わるため、この記事では項目だけを挙げ、具体的な金額の目安は後述のシミュレーターで、ご自身の条件で試算することをおすすめします。

  • 法人設立・指定申請の費用:登録免許税、司法書士・行政書士への依頼費用(自分で手続きする場合は抑えられます)
  • 事務所の確保:敷金・礼金、内装・改装費(事務室、相談スペース、鍵のかかる書庫などの設置基準を満たす必要があります)
  • 備品・什器:デスク、いす、電話、鍵付き書庫など
  • パソコン・ソフトの導入:介護請求ソフト、勤怠管理などの業務システム
  • 広告・採用費:開業時のホームページ、求人媒体・人材紹介の利用費
  • 車両:訪問に使う自家用車を利用する事業所も多く、その場合は初期費用としては小さくなります

これらに加えて、指定を受けてから利用者が増えるまでの期間の運転資金(人件費・家賃などの固定費)を、自己資金と借入でどう埋めるかが、資金計画のもう一つの柱になります。

訪問介護の人員基準は、何人必要ですか

訪問介護事業所には、指定基準で人員の最低ラインが決まっています。訪問介護員等(サービス提供責任者を含む)は常勤換算2.5人以上が必要です(指定基準第5条第1項)。これは「開業した瞬間からそろえておく人数」であり、利用者がまだ少ない開業直後も、この人数分の人件費は発生します。

  • 訪問介護員等(ヘルパー):常勤換算2.5人以上(サービス提供責任者を含む)
  • サービス提供責任者(サ責):利用者40人(またはその端数)ごとに1人以上が原則(要件を満たすと50人ごとに緩和される特例あり)。資格は介護福祉士、または実務者研修修了者などが必要で、初任者研修修了だけでは務まりません
  • 管理者:専従・常勤が原則(管理に支障がなければ、サ責等との兼務が可能)
  • 法人格:個人事業では指定を受けられず、法人格が必要です

常勤換算2.5人という数字は、常勤1人+非常勤1.5人分、のように、複数人を組み合わせて満たすこともできます。開業初期は、利用者数に対して人員が過剰になりがちな点が、資金繰りを圧迫する主な要因です。

訪問介護の報酬(単価)は、どう決まりますか

訪問介護の収入は、サービスの種類ごとに決まった「単位数」に、地域ごとの「単価」を掛けて計算します。令和6年度改定後の基本報酬(一部)は、次のとおりです。

サービス区分 単位数
身体介護 20分未満 163単位
身体介護 20分以上30分未満 244単位
身体介護 30分以上1時間未満 387単位
身体介護 1時間以上1時間30分未満 567単位
生活援助 20分以上45分未満 179単位
生活援助 45分以上 220単位

単価は「10円×地域区分による上乗せ」で決まり、東京23区(1級地)で11.40円、上乗せのない地域で10.00円です。同じ訪問回数でも、地域によって収入が1割前後変わることになります。

これに加えて、介護職員等処遇改善加算という、職員の賃金改善を目的とした加算があります。令和8年6月以降の加算率は、区分によって17.0%〜28.7%です(令和6年6月〜令和8年5月は14.5%〜24.5%)。この加算分は、加算額以上を賃金改善に充てることが法令上求められており、事業所の利益にそのまま残るわけではない点に注意が必要です。

開業資金の融資は、どこに相談すればいいですか

新規開業の資金調達先としてよく使われるのが、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金が10年以内、据置期間は5年以内が目安です。2026年9月1日時点の基準利率は、無担保・創業2期未満で年3.75%〜5.35%です(利率は変動するため、最新の公表内容を確認してください)。

融資の相談では、「事業計画」と「収支・資金繰りの見通し」を求められるのが一般的です。この部分を、自分の想定人数・地域・報酬体系で試算し、数字として持っていけるかどうかが、相談をスムーズに進める鍵になります。

訪問介護の毎月の経費には、何がありますか

毎月の経費は、大きく「人件費」と「それ以外の固定費」に分かれます。全国平均では、収入に占める給与費の比率が67.8%、収支差率(営業利益率)が9.6%なので、残りの約22.6%が、家賃・水道光熱費・車両の維持費・介護ソフトの利用料・広告費・研修費・税理士や社労士への委託費などの「それ以外の費用」にあたる計算になります。

訪問介護は、店舗を構える必要がないため、飲食店などに比べると事務所の規模は小さくて済みます。一方で、ヘルパーの移動時間・移動費や、複数名の車両維持費が積み重なる点は、訪問系サービスに特有のコストです。

収入を増やす仕組みには、どんなものがありますか

基本報酬に加えて、事業所の体制によって上乗せできる加算があります。代表的なものが特定事業所加算で、区分I〜Vの5段階で、基本の単位数に対して3%〜20%が上乗せされます(I:20%、II:10%、III:10%、IV:5%、V:3%)。要件には、重度の利用者への対応実績や、研修体制、健康診断の実施などがあり、開業直後から取得できるものではありません。区分ごとの要件は、こちらの記事で詳しく整理しています(訪問介護の特定事業所加算とは。要件をわかりやすく整理します。)。

このほか、緊急時訪問介護加算(1回100単位)、新規利用者ごとの初回加算(1人につき月200単位)など、利用者の状況に応じて算定できる加算があります。これらをどこまで見込むかによっても、収支の見通しは変わります。

訪問介護と訪問看護は、何が違いますか

開業を検討する中で、「訪問看護」との違いが気になる方もいると思います。もっとも大きな違いは、訪問看護は、介護保険に加えて医療保険からの収入もある点です。訪問看護は、看護師などの医療専門職が行う医療的なケアを含むため、主治医の指示にもとづく医療保険の訪問看護療養費が別建てで発生します。また、人員基準は看護職員の常勤換算2.5人以上(うち常勤1人以上)で、24時間対応の体制(オンコール)を整える事業所も多く、その分の人件費・手当が加わります。

一方、訪問介護は、身体介護・生活援助が中心で、資格要件は訪問介護員(ヘルパー)・サービス提供責任者が中心です。どちらの事業を検討している場合も、それぞれの制度にあわせた収支シミュレーターで試算することをおすすめします(訪問看護ステーション 収支シミュレーターはこちら)。

訪問介護は儲かりにくいと聞きますが、本当ですか

訪問介護事業者の倒産件数は、東京商工リサーチの調査によると、2025年に91件でした。2026年1〜5月は31件で、前年同期比では18.4%減っています。件数だけを見ると高い水準ですが、減少傾向にあることも事実です。

前述のとおり、既存事業所の全国平均の収支差率は9.6%です。楽観できる数字ではありませんが、極端に低いわけでもありません。事業として成り立つかどうかは、地域の需要、人員体制、報酬体系の組み合わせによって事業所ごとに差が大きく、「訪問介護だから儲からない」と一律には言えない、というのが数字から見える実態です。だからこそ、開業前に自分の条件で収支を試算しておくことが重要になります。

開業の資金計画で、注意しておきたい点は何ですか

ここまでの内容を踏まえると、資金計画で見落としやすいのは、次の3点です。

  • 指定申請の時点で人員がそろっている必要があること:常勤換算2.5人という基準は、利用者数に関わらず、指定を受ける時点で満たしておく必要があります。「利用者が増えてから人を採用する」という順番では指定を受けられないため、開業準備の段階から、この人件費を資金計画に入れておく必要があります。
  • 入金までにタイムラグがあること:介護報酬は、サービス提供月の翌月10日までに請求し、実際に入金されるのは翌々月末が目安です。利用者が増え始めても、その分の入金は1〜2か月遅れてやってくるため、売上が立っているのに手元資金が不足する、という状況が起きやすくなります。
  • 既存事業所の平均値を、開業初期にそのまま当てはめないこと:この記事で紹介した全国平均の収支差率9.6%などの数字は、既存事業所の実績です。開業から平均並みの水準に達するまでには、通常、一定の期間がかかります。何か月目に黒字化する計画なのかを、自分の利用者の増え方の想定で確認しておくことが重要です。

自分の場合の数字を試算するには、どうすればいいですか

ここまでの数字は、あくまで全国平均や制度の基準です。実際に必要な資金は、想定する地域・利用者の増え方・人員の採用計画によって大きく変わります。

この記事の数字を組み込んだ無料の収支シミュレーターを用意しました。地域区分・訪問の内容・人員体制・借入条件などを自分の数字で入力すると、開設準備期間から3年間の収支と資金繰り、必要な資金の目安を試算できます。入力した内容は、お使いの端末の中にだけ保存され、外部には送信されません。

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無料版でも、年ごとの収支・主要な指標・全国平均との比較まで使えます。有料版(9,800円・買い切り)では、月ごとの36か月分の収支と資金繰り、計画が外れた場合の感度分析、印刷・PDF保存(事業計画書としてそのまま使える形式)が使えます。

よくある質問

Q. このツールで作った収支計画は、そのまま銀行に提出できますか

入力した内容をもとに、事業の概要・収支計画・資金計画などをまとめた形式で印刷・PDF保存できます。ただし、このツールは行政書士などの資格者による代行サービスではなく、指定申請書類の作成・提出代行は行いません。結果は入力にもとづく試算であり、内容の正確性・融資の可否を保証するものではないため、提出前にご自身で内容をご確認ください。

Q. 訪問看護の場合も、同じように試算できますか

訪問看護ステーションの開業については、介護保険・医療保険の2本立ての収入や、24時間対応の費用など、訪問介護とは異なる制度を反映した別のシミュレーターを用意しています。

Q. 開業する地域がまだ決まっていない場合は、試算できませんか

地域区分は後から変更して試算し直せます。候補の地域をいくつか入力して、単価や必要な資金がどう変わるかを比べる使い方もできます。

まとめ

  • 訪問介護の開業資金は、「初期費用」と「収支が安定するまでの運転資金」の合計で考えます。
  • 既存事業所の全国平均は、収入約316万円/月・収支差率9.6%ですが、開業直後の実績ではありません。
  • 人員は常勤換算2.5人以上(サ責を含む)が必要で、開業直後から人件費が先行して発生します。
  • 報酬は、サービス区分ごとの単位数×地域の単価で決まり、処遇改善加算(17.0%〜28.7%)が加わります。
  • 融資は、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金などが選択肢になります。
  • 自分の条件での試算は、無料の収支シミュレーターで確認できます。

出典:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」、厚生労働省告示第86号(令和6年度介護報酬改定)、厚生労働省老発0313第6号(介護職員等処遇改善加算)、厚生労働省告示第93号(地域区分)、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準、日本政策金融公庫(新規開業・スタートアップ支援資金・2026年9月1日時点の基準利率)、東京商工リサーチ(訪問介護事業者の倒産件数)。数値は改定・見直しにより変わる場合があります。最新の内容は、各公表元でご確認ください。

この記事を書いた人

「見た目がきれいなだけのページ」ではなく、問い合わせや応募につながることを目指したページを作っています。

運営者は、上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスの最前線から、約70名の営業チームのマネジメントまで経験してきました。「どんな言葉で人の心が動くのか」「どうすれば“お願いします”と言ってもらえるのか」を、机上ではなく現場で、20年かけて体に叩き込んできた人間です。

デザイナーが作るLPは“見た目”で終わりがちです。私が作るのは、営業の視点で「何を・どの順番で伝えれば人が動くか」まで考えた、集客・採用のためのページです。「人が来ない・選ばれない」というお悩みのお手伝いに、営業だからこそ力を注いでいます。20年の営業経験が、いちばん生きると考えています。

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