訪問介護の収支を良くする方法の一つが「特定事業所加算」です。要件を満たすと、基本報酬に10〜20%を上乗せできますが、要件の組み合わせが複雑で、何をどう揃えれば取れるのか分かりにくい制度でもあります。この記事では、厚生労働省の公表資料をもとに、区分ごとの要件の組み合わせと、それぞれの中身を具体的に整理します。
特定事業所加算とは、どんな加算ですか
特定事業所加算は、質の高いサービス提供体制を整えている訪問介護事業所を評価する加算です。区分はI〜Vの5段階あり、基本報酬に対して3〜20%が上乗せされます。
| 区分 | 加算率 |
|---|---|
| 特定事業所加算I | +20/100 |
| 特定事業所加算II | +10/100 |
| 特定事業所加算III | +10/100 |
| 特定事業所加算IV | +3/100 |
| 特定事業所加算V | +3/100(他の区分と併算定可能) |
出典:厚生労働省「令和6年4月改定箇所 指定居宅サービス介護給付費単位数の算定構造(訪問介護費部分)」。令和6年度介護報酬改定で、区分の中身が大きく変わりました。それ以前にあった「区分IV(サービス提供責任者を手厚く配置する区分)」は廃止され、それまでの「区分V(勤続年数の長い職員の割合を評価する区分)」が新しい「区分IV」に移りました。そのうえで、中山間地域等への継続的なサービス提供を評価する、まったく新しい「区分V」が創設されています。区分Vだけは、I〜IVのいずれか1つと組み合わせて算定できる、唯一の「併算定できる区分」です(後述)。
区分は、どんな要件の組み合わせで決まりますか
区分I〜IVの要件は、大きく「体制要件」「人材要件」「重度者対応要件」の3種類に分かれ、区分ごとに必要な組み合わせが決まっています。区分Vだけは、この3要件とは別枠で、中山間地域等での継続的なサービス提供を評価する仕組みです(後述)。
| 区分 | 体制要件 | 人材要件 | 重度者対応要件 |
|---|---|---|---|
| I(+20%) | 基本5項目、または基本5項目+看取り期対応(どちらか) | 訪問介護員等要件+サ責要件、両方 | 体制要件の選び方に連動(重度者割合20%以上、または看取り期対応実績1人以上) |
| II(+10%) | 基本5項目のみ | 訪問介護員等要件、または、サ責要件のどちらか一方 | 不要 |
| III(+10%) | 基本5項目、または基本5項目+看取り期対応(どちらか) | サ責の手厚い常勤配置、または、勤続年数要件(勤続7年以上30%以上)のどちらか一方(令和6年度改定で追加) | 体制要件の選び方に連動(重度者割合20%以上、または看取り期対応実績1人以上) |
| IV(+3%) | 基本5項目のみ | サ責の手厚い常勤配置、または、勤続年数要件のどちらか一方 | 不要 |
この表は、東京都福祉局が公表している最新(令和6年4月1日版)の留意事項通知と、三重県の公式ページで確認した要件対応表をもとに整理しています。実際の算定には、各要件の細かい定義(後述)を正確に満たす必要があります。区分I〜IVは、いずれか1つしか算定できません。唯一の例外が区分Vで、区分I〜IVのどれか1つと組み合わせて算定できます(併算定については後述)。
体制要件には、具体的に何がありますか
体制要件は、区分によらずおおむね共通しています。東京都福祉局が公表している算定要件の留意事項(老企第36号通知にもとづく)によると、次の内容です。
- 計画的な研修の実施:訪問介護員等・サービス提供責任者ごとに、研修の目標・内容・期間・実施時期などを定めた研修計画を作成すること
- 会議の定期的開催:サービス提供責任者が主宰し、登録ヘルパーを含む全員が参加する会議を、おおむね月1回以上開催すること(テレビ電話等のICT活用も可能)
- 文書等による指示と報告:利用者のADLや意欲、主な訴え、前回のサービス提供時の状況などを、文書等で確実に伝達・報告すること
- 定期健康診断の実施:常時使用する労働者に該当しない訪問介護員等も含めて、少なくとも1年以内ごとに1回、事業主の費用負担で実施すること
- 緊急時における対応方法の明示:緊急時等の対応方針・連絡先・対応可能時間等を記載した文書を、利用者に交付して説明すること
このほか、区分I・IIIでは、基本5項目に加えて看取り期の利用者への対応体制(看取り期における対応方針を定め、PDCAサイクルで見直すこと)を満たす方法を選ぶこともできます。中山間地域等に居住する利用者への継続的なサービス提供体制は、区分I〜IVの体制要件には含まれず、区分Vだけの独立した要件です(後述)。
人材要件には、具体的に何がありますか
人材要件は、職員の資格・経験・勤続年数に関する要件です。
- 訪問介護員等要件:訪問介護員等のうち、介護福祉士の占める割合が30%以上、または介護福祉士・実務者研修修了者・介護職員基礎研修課程修了者・1級課程修了者の占める割合が50%以上であること(区分I・IIで使用)
- サービス提供責任者要件:すべてのサービス提供責任者が、3年以上の実務経験を有する介護福祉士、または5年以上の実務経験を有する実務者研修修了者等であること(区分I・IIで使用)
- サービス提供責任者の手厚い配置:常勤のサービス提供責任者が2人以下の事業所で、基準を上回る数の常勤サービス提供責任者を1人以上配置していること(利用者40人未満なら常勤2名以上、40〜80人未満なら常勤3名以上が目安・区分III・IVで使用)
- 勤続年数要件:訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合が30%以上であること(区分III・IVで使用)
割合の計算は、前年度(3月を除く)または届出日の属する月の前3月の1月あたりの実績の平均を、常勤換算方法により算出します。勤続年数には、同一法人が経営する他の介護サービス事業所等での勤務年数も含めることができます。区分IIIの人材要件(サ責の手厚い配置、または勤続年数要件)は、令和6年度介護報酬改定で新たに追加されたものです。それ以前は、区分IIIに人材要件はありませんでした。
重度者対応要件には、具体的に何がありますか
重度者対応要件は、利用者の状態に関する要件で、区分I・IIIの体制要件の選び方に応じて、どちらか一方を満たします。
- 重度者割合要件:利用者のうち、要介護4・5である者、日常生活自立度がランクIII・IV・Mに該当する認知症の者、たんの吸引等(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内の喀痰吸引、胃ろう等による経管栄養)を必要とする者の占める割合が20%以上であること
- 看取り期の対応実績要件:看取り期の利用者への対応実績が、前年度または前3月の1月あたりの実績平均で1人以上であること
この割合も、前年度または前3月の実績の平均で計算します。なお、たんの吸引等の行為を必要とする者を算入できるのは、登録喀痰吸引等事業者または登録特定行為事業者に限られます。区分II・IVには、重度者対応要件そのものがありません。
区分IVは、他の区分と何が違いますか
区分IV(+3%)は、体制要件(基本5項目のみ)と、人材要件(サ責の手厚い配置、または勤続年数7年以上30%以上のどちらか)を満たせば算定でき、重度者対応要件がありません。看取り期対応や重度者割合といった、利用者側の実績を問われない分、区分I・IIIより着手しやすい区分と言えます。この区分IVは、令和6年度介護報酬改定より前は「区分V」という名前でした。当時あった別の「区分IV」(サ責をより手厚く常勤配置し、重度者割合60%以上を満たす区分)は、この改定で廃止されています。区分名は変わっても、勤続年数要件そのものの中身は令和3年度改定の新設時から大きくは変わっていません。
区分Vは、どんな加算ですか
区分V(+3%)は、令和6年度介護報酬改定で新しく作られた区分で、中山間地域等に住む利用者への、継続的な訪問介護の提供を評価する加算です。他の区分(体制要件・人材要件・重度者対応要件の組み合わせ)とは仕組みがまったく異なり、次のいずれも満たす必要があります。
- 事業所の通常の事業実施地域内で、厚生労働大臣が定める中山間地域等(平成21年厚生労働省告示第83号)に居住する利用者への継続的なサービス提供実績が、前年度(3月を除く)または届出日の属する月の前3月の1月あたりの実績平均で1人以上あること
- その利用者の居宅と、最寄りの指定訪問介護事業所との距離が、片道7キロメートルを超えること
- 利用者の心身の状況や家族の環境変化に応じて、サービス提供責任者が起点となり、随時、訪問介護計画の見直しを行っていること
区分Vの最大の特徴は、区分I〜IVのいずれか1つと組み合わせて算定できる、唯一の区分だという点です。たとえば区分I(+20%)と区分V(+3%)を組み合わせると、合計+23%の加算になります。ただし、区分Vを算定している場合は、特別地域訪問介護加算・中山間地域等における小規模事業所加算・中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算という、他の3つの中山間地域系加算とは併算定できません。都市部の事業所や、中山間地域等に該当する利用者がいない事業所には縁のない区分ですが、対象地域で開業を検討している場合は、区分I〜IVとあわせて確認しておく価値があります。
特定事業所加算を取ると、処遇改善加算にも影響しますか
影響します。処遇改善加算は、基本報酬に各種加算を加えた単位数に対して率を掛けて計算する仕組みのため、特定事業所加算で単位数が増えると、処遇改善加算の対象になる単位数も連動して増えます。つまり、特定事業所加算を取ると、加算そのものの収入に加えて、処遇改善加算の増加分も上乗せされる計算になります。ただし、処遇改善加算で増えた分は、加算額以上を職員の賃金改善に充てることが法令上求められているため、その分がそのまま事業所の利益として残るわけではない点には注意が必要です。
開業したばかりの事業所でも、特定事業所加算は取れますか
取れません。人材要件・重度者対応要件の割合は、前年度(3月を除く)の実績、または届出日の属する月の前3月の実績にもとづいて計算する仕組みのため、開業したばかりで実績のない事業所は、そもそも計算の元になる数字を持っていません。公表資料の留意事項にも、「前年度の実績が6月に満たない事業所(新たに事業を開始し、又は再開した事業所を含む。)については、前年度の実績による加算の届出はできない」と明記されています。
また、届出後も、直近3月間の職員・利用者の割合を毎月継続的に維持する必要があり、下回った場合はすぐに届出をし直さなければなりません。特定事業所加算は、体制要件だけを整えても、人材・利用者の実績が伴わなければ取れない加算だという点が、開業直後の収支計画で見落としやすいポイントです。訪問看護にも、同じように実績の蓄積が前提になる加算(機能強化型の管理療養費)があります(訪問看護の機能強化型管理療養費とは。要件をわかりやすく整理します。)。
特定事業所加算は、どうやって届け出ますか
特定事業所加算を算定するには、指定権者(都道府県または市区町村)に、加算の区分ごとに定められた体制等状況一覧表や、要件を満たしていることを示す書類を添えて、事前に届出をする必要があります。届出が受理された翌月から算定が始まるのが一般的な流れで、「要件を満たした月から、さかのぼって算定できる」という仕組みではありません。年に複数回、届出の受付月が決まっている自治体もあるため、算定を始めたい時期から逆算して、早めに指定権者へ相談しておくことが実務上のポイントです。
届出の前提となる「前年度(または前3月)の実績」を継続的に記録しておく必要もあります。職員の資格・勤続年数、利用者の要介護度・自立度・たんの吸引等の有無を、日頃から一覧できる形で管理しておくと、実際に要件を満たしたタイミングで、すぐに届出の準備に移れます。
特定事業所加算を取ると、収入はどのくらい変わりますか
基本報酬に対する加算のため、訪問回数や利用者数が多い事業所ほど、加算による増収額も大きくなります。たとえば、月の基本報酬の合計が100万円の事業所であれば、区分I(+20%)で月20万円、区分III(+10%)で月10万円の増収になる計算です(他の加算・単価との兼ね合いは考慮していない単純計算です)。
ただし、ここまで見てきたとおり、区分I・IIには人材要件(介護福祉士等の割合)が必須で、簡単に満たせるものではありません。開業初期は、まず特定事業所加算に頼らない収支計画を立て、職員の資格構成や実績が整ってきた段階で、重度者対応要件のない区分IV(+条件が合えば区分Vの併算定)から検討するのが現実的です。
自分の事業所の場合、特定事業所加算を見込んだとき・見込まないときで収支がどう変わるかは、無料の収支シミュレーターで試算できます。特定事業所加算の区分と加算率を入力欄に反映させて、年間の収支・資金繰りを確認できます。
開業資金全体の考え方は、こちらの記事でも解説しています(訪問介護の開業資金はいくら必要か。)。
よくある質問
Q. 一番取りやすい区分はどれですか
一概には言えませんが、区分IVは重度者対応要件そのものがなく、人材要件も「サ責の手厚い配置」か「勤続年数7年以上30%以上」のどちらかを満たせばよいため、比較的目指しやすい区分です。ただし、体制要件(研修・会議・文書伝達・健康診断・緊急時対応など)は、どの区分でも共通して必要になるため、まずこの体制を整えることが出発点になります。中山間地域等に居住する利用者がいる事業所であれば、区分Vの併算定もあわせて検討する価値があります。
Q. 特定事業所加算IとIIは、両方同時に算定できますか
できません。区分I〜IVは、いずれか1つを選んで算定する仕組みです。唯一の例外が区分Vで、区分I〜IVのどれか1つと組み合わせて、あわせて算定することができます。
Q. サービス提供責任者の資格要件は、初任者研修修了でも満たせますか
満たせません。サービス提供責任者の資格は、介護福祉士または実務者研修修了者等が必要で、初任者研修修了だけでは要件を満たさないとされています(人員基準そのものの要件)。特定事業所加算の人材要件でも、同様に一定の実務経験・資格が求められます。
Q. 届出をした後、割合が要件を下回ったらどうなりますか
直ちに届出をし直す必要があります。人材要件・重度者対応要件の割合は、届出後も毎月継続的に記録・維持することが求められており、所定の割合を下回った場合は、速やかに変更の届出を提出しなければならないとされています。届出をしたら終わりではなく、毎月の実績を継続的に確認する運用が前提になっています。
Q. 体制要件だけ整えれば、加算は取れますか
取れません。体制要件は、どの区分でもほぼ必須の「土台」にすぎず、それだけでは加算の対象になりません。区分I〜IVは、体制要件に加えて、人材要件(区分によっては重度者対応要件も)を満たす必要があります。区分Vは体制・人材・重度者対応要件とは別枠で、中山間地域等でのサービス提供実績が問われます。体制の整備と、職員の資格構成・利用者の状態、両方を同時に見ていく必要があります。
まとめ
- 特定事業所加算は、区分I〜Vで、基本報酬に3〜20%が上乗せされます(令和6年度介護報酬改定で区分の中身が変更されています)。
- 区分I〜IVの要件は「体制要件」「人材要件」「重度者対応要件」の組み合わせで決まり、いずれか1つしか算定できません。
- 区分Vだけは中山間地域等での継続的なサービス提供を評価する別枠の区分で、区分I〜IVのどれか1つと併算定できます。
- 体制要件(研修・会議・文書伝達・健康診断・緊急時対応など)は、区分によらずほぼ共通して必要です。
- 人材要件・重度者対応要件は、前年度または前3月の実績にもとづく割合で判定されます。
- 開業したばかりの事業所は、実績そのものがないため、特定事業所加算を届け出ることができません。
- 自分の事業所での収支への影響は、無料の収支シミュレーターで試算できます。
なお、他の介護サービス(通所介護など)には「サービス提供体制強化加算」という、名前が似た別の加算があります。訪問介護の特定事業所加算とは、対象のサービス区分も要件の中身も異なる別制度のため、混同しないように注意してください。
出典:厚生労働省「令和6年4月改定箇所 指定居宅サービス介護給付費単位数の算定構造(訪問介護費部分)」、東京都福祉局「特定事業所加算の算定要件の留意事項」(令和6年4月1日版・平成12年老企第36号通知・平成27年厚生労働省告示第95号にもとづく)、三重県「<訪問介護>特定事業所加算について」(令和6年8月18日公表)。制度は改定される場合があるため、実際に算定を検討する際は、最新の告示・通知・指定権者の案内でご確認ください。


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