訪問看護のターミナルケア加算。死亡日前後の算定条件。

訪問看護のターミナルケア加算。算定要件と介護・医療保険の違いを整理する。

訪問看護のターミナルケア加算は、在宅で最期を迎えた利用者に対して訪問看護を行った月に算定できる加算です。介護保険では2,500単位(令和6年厚生労働省告示第86号)、医療保険では25,000円(令和8年厚生労働省告示第74号・令和8年6月1日〜)が設定されています。算定には、計画書の整備・医師との連携・利用者や家族への説明と同意が必要です。在宅看取りに対応できる体制を整えた事業所では、この加算が月間収入の底上げに直接寄与します。要件と算定の仕組みを正確に把握しておくことが、適切な運営の出発点です。

ターミナルケア加算(介護保険)の算定要件

介護保険のターミナルケア加算は、死亡月に最後の訪問看護を行い、かつターミナルケア(終末期の看護)を実施した場合に月1回算定できます。算定の根拠は、厚生労働省告示(指定居宅サービス介護給付費単位数の算定構造・注15)に定められています。

死亡月の算定という意味

「死亡月に最後の訪問看護を行う」という要件は、利用者が亡くなった月に、訪問看護ステーションが実際に訪問して看護を提供した記録が必要であることを意味します。たとえば月の最後の訪問が死亡前日であっても、その月に最後の訪問を担当した訪問看護ステーションであれば要件を満たします。

ただし、入院中に亡くなった場合は「在宅でのターミナルケアを提供していた」という前提が崩れるため、加算の算定にはなりません。最後の訪問が入院前であっても、退院後に自宅で亡くなった場合は算定できます。判断が難しいケースは、担当ケアマネジャーや国保連合会に確認することをすすめます。

ターミナルケアの実施とは何を指すか

「ターミナルケアを実施した」とは、終末期であることを医師が確認した上で、利用者の苦痛を和らげ、自然な経過を支える看護を提供することです。具体的には、疼痛管理・体位変換・排泄ケア・家族への精神的サポートなど、治癒を目的としない支持的なケアが含まれます。

加算を算定するためには、単に訪問して看護を行うだけでは不十分で、ターミナルケア計画書を作成し、医師との連携記録・利用者と家族への説明・同意の記録を整備することが求められます。記録が不十分だと、運営指導(実地指導)での算定返還リスクが生じます。

加算の単位数と金額の目安

介護保険のターミナルケア加算の単位数は2,500単位です(令和6年厚生労働省告示第86号・注15)。地域区分の単価(1単位あたりの金額)によって実際の金額は変わります。

地域区分 1単位の単価 ターミナルケア加算(2,500単位)の金額
1級地(東京23区など) 11.40円 28,500円
2級地(大阪市・横浜市など) 11.12円 27,800円
その他(地方の多くの市町村) 10.00円 25,000円

訪問看護の地域区分は、人件費割合70%グループに属します(単価=10円+10円×地域上乗せ割合×70%)。上記の金額は介護保険の給付額で、利用者の自己負担は1〜3割です。事業所が受け取るのは7〜9割の公費部分が主です。

なお、訪問看護の処遇改善加算が令和8年6月から新設(告示の1,000分の18=1.8%・老発0313第6号)されており、ターミナルケア加算を含む算定額全体に処遇改善加算率が上乗せされます。

整備が必要な3つの書類・体制

1. ターミナルケア計画書の作成

利用者が終末期であると医師が判断した段階で、訪問看護ステーションはターミナルケア計画書を作成します。計画書には、現在の病状・予後の見通し・本人と家族の希望・提供するケアの内容・緊急時の対応方針などを記載します。

計画書は作成するだけでなく、利用者や家族に説明し、同意を得た記録が必要です。「説明した」という記録だけでは不十分で、「同意を得た」ことが確認できる形式の記録(署名・捺印または口頭同意の記録)を残すことが求められます。

2. 連携医との連絡体制の整備

在宅での看取りには、訪問診療を担当する医師との緊密な連携が不可欠です。看護師が訪問して状態の変化を確認したら、速やかに担当医に報告する手順と、担当医からの指示を受ける体制を整備します。

「いつでも医師に連絡できる」という口頭での取り決めだけでは、実際に連絡が取れなかったときのリスクに対応できません。主治医・往診医・夜間の緊急対応先を明記した連絡先一覧を訪問看護記録と合わせて管理することが実務的です。

在宅での死亡診断のために医師に来てもらう場合の手順も、あらかじめ医師と打ち合わせておくことが求められます。医師が来るまでの間、看護師がどこまで対応するかを明確にしておくことで、現場のヘルパーや家族への指示が的確になります。

3. 利用者・家族への説明と同意

ターミナルケアを開始するにあたり、利用者本人と家族に対して「在宅で最期を迎えることの意味」「看護師ができること・できないこと」「急変時の対応方針」を丁寧に説明することが要件になっています。

「家族が同意していない」「利用者は希望しているが家族が在宅看取りに反対している」という状況では、訪問看護ステーションが強引に進めることはできません。家族の理解を得るための対話が、実質的にターミナルケアの開始条件になります。

医療保険のターミナルケア療養費との違い

訪問看護には介護保険と医療保険の2つの制度があり、ターミナルケアに関する加算(給付)も双方に設定されています。

算定できる条件が異なる

項目 介護保険のターミナルケア加算 医療保険のターミナルケア療養費
対象者 要介護認定を持つ利用者 医療保険で訪問看護を利用している利用者
金額 2,500単位(地域区分により25,000〜28,500円) 25,000円(令和8年告示第74号)
算定タイミング 死亡月に最後の訪問看護を行った月に1回 死亡前14日以内(死亡日を含む)の訪問看護を実施した場合に1回
訪問日数の要件 死亡月に訪問していれば日数の要件なし 死亡前2日以上14日以内の期間に2日以上訪問していることが必要(参考値・告示で確認を)

医療保険のターミナルケア療養費は、特掲診療料の施設基準等の告示(令和8年厚生労働省告示第74号)に基づきます。がんの末期や神経難病など「特定疾患」の利用者は、介護保険ではなく医療保険での訪問看護が適用されるため、こちらの算定になります。

同一利用者に両方は算定できない

同じ月・同じ利用者に対して介護保険のターミナルケア加算と医療保険のターミナルケア療養費を同時に算定することはできません。利用者が介護保険を使っているか医療保険を使っているかで、どちらを算定するかが決まります。

「介護保険の利用者が末期がんになった」というケースでは、末期がんは医療保険優先の疾病に該当するため、訪問看護の適用が介護保険から医療保険に切り替わることがあります。ケアマネジャーや主治医と連携して、どの制度で算定するかを事前に確認することが重要です。

ターミナルケアに対応できる事業所の体制

24時間対応体制の整備

在宅で最期を迎えようとしている利用者は、深夜や早朝に急変することがあります。「夜中に状態が悪化したが、連絡できる先がない」という状況を作らないことが、利用者と家族の安心につながります。

介護保険の緊急時訪問看護加算(月額600単位または574単位・令和6年厚生労働省告示第86号)は、24時間の電話対応体制を整備した上で算定できます。ターミナルケアに本格的に対応しようとする事業所は、この加算の取得と連動して夜間の体制を整えることが実質的な要件になります。

医療保険でも24時間対応体制加算(月額6,800円または6,520円・令和8年厚生労働省告示第74号)が設定されており、こちらも24時間の電話対応と緊急訪問の体制を整備した上で算定します。

医師との連携協定

在宅での看取りを支えるためには、訪問診療を行う医師・在宅支援診療所との連携協定を締結しておくことが現実的です。「状態が変化したらすぐに連絡する」「夜間の対応は誰に頼むか」を文書で取り決めておくことで、現場の看護師が判断に迷う状況を減らせます。

機能強化型訪問看護ステーションの認定(看護体制強化加算の要件を満たす場合なども含む)は、こうした医師との連携体制と実績の積み重ねが前提になっています。新規開業の段階では実績が積まれていないため、開設直後は算定できない加算があることを念頭に置いておく必要があります。

ターミナルケア対応が収支に与える影響

ターミナルケアに対応できる事業所は、看取りの実績が積み重なることで月間収入が底上げされやすい構造があります。全国平均(令和7年度介護事業経営概況調査・令和6年度決算)の収支差率は10.3%で、訪問看護は収益性が相対的に高い介護サービスのひとつです。

ターミナルケア加算は月1回の算定ですが、終末期の利用者は訪問頻度が高くなる傾向があります。通常は週1〜2回の訪問が、末期は週4〜5回以上に増えることもあり、基本療養費の積み上がりが収入を押し上げます。

ただし、高頻度の訪問には看護師の負荷も大きく、スタッフの燃え尽きにつながるリスクがあります。ターミナルケアに対応できる体制を維持するためには、看護師の精神的サポート(デブリーフィングの場の設定・チームによる分担)を経営課題として意識することが必要です。

機能強化型ステーションでの収入への影響

機能強化型訪問看護ステーション(医療保険の区分)は、月初日の管理療養費が大きく上乗せされます。機能強化型1は13,760円、機能強化型なしは7,710円(令和8年厚生労働省告示第74号)で、差額は月1人あたり6,050円です。ターミナルケアの実績要件は機能強化型の認定に含まれているため、看取りの件数を増やすことが認定要件の充足にもつながります。

看取り後の訪問(グリーフケア)の対応

利用者が亡くなった後、遺族が悲嘆(グリーフ)の状態になることは自然なことです。在宅での看取りを支えた訪問看護ステーションが、看取り後に遺族を訪問することは「グリーフケア」として位置づけられます。

現時点では、グリーフケア訪問は介護保険の算定対象外です。介護保険は利用者本人へのサービスに対して報酬が支払われる仕組みのため、利用者が亡くなった後の遺族へのサポートは制度上の対象になりません。自費での提供か、ボランティア的な対応として行う事業所が多い実態があります。

グリーフケアの取り組みは、地域での評判につながり、次の在宅看取りの依頼を生む間接的な効果があります。また、看護師自身が「あの利用者の家族は今どうしているか」という思いを持ち続けられる環境は、職場の人間的な文化を支えます。制度の枠外の対応である以上、どこまで行うかを組織として決めておくことが必要です。

運営指導での確認ポイント

運営指導(旧・実地指導)では、ターミナルケア加算を算定している事業所に対して次の記録の提示を求められることがあります。

確認される主な記録

  • ターミナルケア計画書:作成日・内容・担当看護師の署名があるか
  • 家族への説明記録:いつ・誰に・何を説明したかが記録されているか。同意を得た事実が確認できるか
  • 医師との連絡記録:担当医への報告・指示受けの記録が残っているか。電話での指示受けは必ず記録する
  • 最終訪問の記録:死亡月に訪問した記録(日時・看護師名・実施内容)が残っているか
  • 訪問看護記録書と計画書の整合性:計画に書いたケアが実際の記録に反映されているか

「記録が残っていない=提供していない」とみなされるリスクがあります。訪問介護のサービス提供記録と同様に、訪問看護記録は当日または翌日中に記録することを習慣づけることが、運営指導でのリスクを減らします。

加算の算定要件と記録の整合性

ターミナルケア加算は、「算定した=要件を全て満たしている」という前提で審査されます。計画書・説明記録・医師との連絡記録・最終訪問記録の4点セットが揃っているかを、月締めのタイミングで確認する運用を作ることが現実的です。

国保連合会や都道府県の審査で「算定要件を確認できない」と判断された場合、算定した報酬の返還を求められることがあります。返還が発生すれば収支に直接影響するため、記録管理は収益管理の一部として位置づけてください。

ターミナルケアは体制を作ってから受け入れる

ターミナルケアへの対応は、「希望があったから対応する」という受け身ではなく、「こういう体制を整えたから受け入れられる」という事前の準備が先です。24時間対応体制・医師との連携協定・計画書の書式・スタッフへの教育、これらが揃ってから受け入れを始める方が、現場の混乱を防ぎ、利用者と家族に安心感を届けられます。

ターミナルケアの実績が積み上がることで、地域のケアマネジャーや病院の退院支援担当者からの信頼が高まり、新規利用者の紹介につながることもあります。在宅看取りを支える役割は、事業所の専門性として地域で評価されていきます。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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