認知症対応型共同生活介護(認知症GH)の開業、最初に確認すること。

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認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)の開業で、最初に押さえておくべき点は「市区町村が指定する地域密着型サービスである」という一点です。都道府県ではなく、事業所が所在する市区町村に指定申請します。1ユニットに入居できるのは5人以上9人以下で、最大3ユニット(定員27人以下)という枠組みも決まっています。全国平均の収支差率は3.0%(令和7年介護事業経営実態調査)です。開業前に制度の構造と収支の見通しを確認することが、事業計画の出発点になります。

認知症対応型共同生活介護は、地域密着型サービスに分類される

介護保険のサービスには、全国どこでも同じ基準で提供できる「居宅サービス」「施設サービス」と、事業所が所在する市区町村の住民だけが利用できる「地域密着型サービス」があります。認知症対応型共同生活介護(以下、認知症GH)は地域密着型サービスに分類されます。

指定権者が市区町村であることは、開業準備の手順に直結します。都道府県知事ではなく、市区町村長に指定申請を行います。市区町村によって独自のルールを設けているところもあるため、開業予定地の市区町村の担当窓口に早めに確認することが必要です。

また、原則として事業所が所在する市区町村に住民登録がある人だけが利用対象になります。商圏が市区町村の境界で区切られることを前提に、定員と稼働率の計画を立てる必要があります。

なお、認知症GHは介護保険の制度を使った介護施設であり、障害福祉サービスの「共同生活援助(障害者グループホーム)」とは根拠法・指定権者・対象者・報酬体系がすべて異なります。名称が似ているため混同しやすいですが、全く別の制度です。

1ユニット5人以上9人以下、最大3ユニット(定員27人以下)が基準

認知症GHは「ユニット制」を採用しています。1ユニットに入居できる利用者数は5人以上9人以下です(指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準・平成18年厚生労働省令第34号 第93条)。

1つの事業所に置けるユニット数の上限は3ユニット(定員27人以下)です。つまり認知症GHは、小規模の共同生活の場を複数設けることで成立する施設です。

ユニット数によって、報酬単価が変わります。1ユニットの場合と2ユニット以上の場合では、1日あたりの基本報酬単位数が異なります。1ユニットの方がやや高い単価に設定されています(詳細は記事③「認知症グループホームの収入は、要介護度と単位数でどう決まるか。」で解説します)。

入居定員が少ない分、1人の欠員が稼働率に与える影響が大きくなります。9人定員のユニットで1人空きが出れば、稼働率は一気に88.9%まで下がります。どの規模にするかは、地域の需要と採用できる職員数を見て慎重に判断することになります。

居室は1人あたり7.43㎡以上、原則個室が基準

居室の床面積は、収納設備等を除いて1室あたり7.43㎡以上と定められています(平成18年厚生労働省令第34号 第95条)。入居者の個室が基本ですが、入居者の処遇上必要と認める場合に限り、2人部屋も認められています。

居室以外に、各ユニットには居間・食堂・台所・浴室を備える必要があります。利用者が家庭的な雰囲気の中で共同生活を送れる設備であることが、設備基準の基本的な考え方です。

1ユニット9人で居室を7.43㎡として単純計算すると、居室部分だけで66.87㎡が必要です。共有スペースを加えると、1ユニットで100〜150㎡程度の床面積を想定する事業者が多くいます。物件の選定では、ユニット数と必要坪数を先に計算してから探すことになります。

管理者・介護従業者・計画作成担当者、3種の人員が必要

認知症GHに必要な職種は、管理者・介護従業者・計画作成担当者の3種類です(平成18年厚生労働省令第34号 第89条〜第91条)。

管理者は専従・常勤であること、認知症介護実践者研修等を修了した者であることが要件です。ただし、事業所の管理上支障がない場合は、同一敷地内の他の職務との兼務が認められています。

介護従業者は昼間の時間帯に各ユニット専従で1名以上配置します。3ユニットあれば昼間は最低3名が必要です。夜間については別の基準があります(次の項目で説明します)。

計画作成担当者は、介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格保有者を1人以上置くことが必要です(認知症介護実践者研修修了者が認知症GHに専従していれば、介護支援専門員でなくても可とされています)。入居者1人ひとりに対して個別の介護計画を作成する役割を担います。

なお、事業所の代表者についても、認知症ケアに関係する研修(認知症介護実践リーダー研修等)の受講を求めている市区町村があります。開業予定地の要件を事前に確認してください。

夜間は全ユニット通じて1名以上の介護従業者の常駐が義務

夜間及び深夜の時間帯は、1ユニットに1名ではなく「全ユニット通じて1名以上」の介護従業者を常駐させることが基準です(平成18年厚生労働省令第34号 第99条)。

2ユニット(定員最大18人)でも夜間1名、3ユニット(定員最大27人)でも夜間1名です。ただしこれは最低基準であり、夜間支援体制加算を取得するためにはより手厚い体制が必要になります。

夜間支援体制加算は、夜間対応の体制の充実に対して算定できる加算です。加算Ⅰ(50単位/日)は夜間及び深夜の時間帯を通じて、専従の介護従業者を1名以上配置していることが要件です。加算Ⅱ(25単位/日)は定期巡回などの体制がある場合に算定できます。加算の取得可否は月の収入に直接影響します(詳細は記事④「認知症グループホームの夜間支援体制加算、取るべきかどうか。」で解説します)。

夜間の1名配置は、利用者が認知症であることを前提とした安全確保の基準です。深夜帯に緊急事態が起きたときの初期対応を担える職員が常にいる体制を、開業初日から確保しておく必要があります。

介護保険の入金は2か月遅れ、運転資金の確保が先決

介護保険サービスの費用は、利用者から1〜3割の利用者負担を受け取り、残り7〜9割を国保連(国民健康保険団体連合会)に請求します。この国保連への請求は、サービス提供月の翌月10日が締め切りで、入金は翌々月の中旬以降です。

4月にサービスを提供した分の費用が入金されるのは、6月中旬以降です。開業後2か月間は、サービスを提供しても介護報酬の収入がゼロの状態が続きます。その間も人件費・家賃・光熱費などの経費は毎月出ていきます。

この入金2か月遅れを考慮した運転資金が必要です。月の経費を200万円と仮定した場合、入金が始まるまでの2か月分+余裕1か月分として600万円程度の運転資金を準備しておくのが目安として挙げられます。実際の必要額はユニット数と定員によって異なります。

日本政策金融公庫(日本公庫)には、福祉施設の開業向けの融資制度(介護・福祉事業向けの長期・低利融資)があります。設備資金と運転資金を分けて申請する方法が一般的です。

開業資金全体の試算方法については、記事②「認知症グループホームの開業資金はいくら必要か。」で詳しく説明します。

全国平均の収支差率は3.0%(令和7年介護事業経営実態調査)

厚生労働省が実施する介護事業経営実態調査(令和7年)によると、認知症対応型共同生活介護の全国平均の収支差率は3.0%です。

収支差率とは、介護サービス収益に対する(収益-費用)の割合です。3.0%は、たとえば月の収益が200万円であれば、利益が6万円程度という計算になります。介護施設全体で見ると、通所介護(デイサービス)の2.1%や訪問介護の1.3%よりは高い水準ですが、大きな余裕があるとは言いにくい水準です。

全国平均3.0%はあくまで平均値であり、施設ごとの差は大きくあります。稼働率・地域区分・加算の取得状況・人件費水準によって、同じ定員でも収支は大きく変わります。

黒字と赤字の分かれ目、稼働率が1%下がったときの影響については、記事⑤「認知症グループホームは、儲かるのか。全国平均の収支差率から考える。」で詳しく解説します。

開業前に数字で検証する手順

認知症GHの開業を検討する段階で確認しておく項目を整理すると、次のようになります。

  • 市区町村の指定の要件(独自基準・指定枠・既存事業者との競合)
  • 物件の確保(ユニット数と必要床面積の算出・改修費の見積もり)
  • 人員の確保(管理者・夜間対応できる介護従業者・計画作成担当者)
  • 開業資金と運転資金の試算(入金2か月遅れを反映した月次資金繰り)
  • 介護報酬の見通し(要介護度の構成・加算の取得可否・地域区分)

これらの項目を個別に整理した上で、「月々いくらの収入が見込めて、費用はいくらかかり、損益分岐点の稼働率は何%か」を数字で確認することが、事業計画の核心になります。

当サイトの収支シミュレーター(無料版・Pro版)では、ユニット数・定員・要介護度の構成・夜間支援加算・処遇改善加算・地域区分を入力して、開設後3年分の収支と資金繰りを試算できます。無料版だけでも損益分岐点の稼働率は確認できます。

詳しい開業の流れと各ステップの注意点は、以下の関連記事で解説しています。

出典

  • 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第89条〜第108条
  • 令和7年介護事業経営実態調査(厚生労働省)

認知症対応型共同生活介護(認知症GH)の収支シミュレーター(無料)で、実際の数字を確認してみてください。ユニット数・定員・要介護度の構成・各種加算を入力すると、3年分の収支と損益分岐点の稼働率が試算できます。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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