認知症グループホームの夜間支援体制加算は、1ユニット(定員9人)・地域区分「その他」(1単位=10円)・30日間で取得した場合、加算Ⅰなら月135,000円・加算Ⅱなら月67,500円の収入増になります。夜間専任職員1名の人件費(月20万〜25万円が目安)と比べると、介護報酬の上乗せだけでは赤字になる計算です。ただし加算の取得は収入増だけでなく、夜間対応体制の確保という安全面の意味も持ちます。採算が合うかどうかは人件費水準と利用者の状態を踏まえた判断が必要です。
夜間支援体制加算Ⅰと加算Ⅱ、何が違うか
夜間支援体制加算は、夜間及び深夜の時間帯に職員を手厚く配置した場合に算定できる加算です(指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基準・平成18年厚生労働省告示第128号。令和6年改定)。加算Ⅰと加算Ⅱでは要件と単位数が異なります。
| 区分 | 単位数 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 夜間支援体制加算Ⅰ | 50単位/日 | 夜間及び深夜の時間帯を通じて、専従の介護従業者を1名以上配置 |
| 夜間支援体制加算Ⅱ | 25単位/日 | 夜間に職員が定期的に各居室を巡回し異常の有無を確認できる体制(巡回型) |
加算Ⅰは「夜間及び深夜の時間帯ずっと専従で1名以上いること」が要件です。常駐する職員が夜間の緊急対応にすぐ動ける体制を確保することを意図した加算です。
加算Ⅱは定期巡回などの体制があれば算定できます。常時常駐ではなく一定の周期で巡回する体制でも取得できるため、オンコール体制と組み合わせる形で算定している事業所があります。
なお、夜間支援体制加算の算定は「利用者1人1日あたり」のため、入居者全員分が対象になります。1ユニット9人なら9人分が毎日加算対象です。
加算を取得した場合の月次収入への上乗せ額
夜間支援体制加算の月次収入への影響を、1ユニット(定員9人)・稼働率100%・30日間・地域区分「その他」(1単位=10円)の条件で計算すると次のようになります。
| 加算区分 | 1日あたりの上乗せ | 月次(30日)の上乗せ | 年次の上乗せ |
|---|---|---|---|
| 夜間支援体制加算Ⅰ(50単位/日) | 50単位×9人×10円=4,500円 | 約135,000円 | 約1,620,000円 |
| 夜間支援体制加算Ⅱ(25単位/日) | 25単位×9人×10円=2,250円 | 約67,500円 | 約810,000円 |
※処遇改善加算Ⅰ(18.6%)を取得している場合は、夜間支援体制加算も加算の対象に含まれるため、実際の収入増は上記の約1.186倍になります。加算Ⅰなら月約160,000円程度の上乗せが目安です。
ただし、稼働率が100%を下回る場合は比例して上乗せ額が減ります。稼働率80%(7.2人分)なら月の上乗せは加算Ⅰで約108,000円にとどまります。
地域区分が高い地域では1単位の単価が上がります。1級地(東京23区等)は1単位=11.40円のため、加算Ⅰで月約153,900円(処遇改善加算前)の上乗せになります。
夜間専任職員の人件費との収支比較
加算Ⅰを取得するためには、夜間及び深夜の時間帯に専従職員を1名以上配置する必要があります。夜間帯(たとえば22時〜翌朝6時の8時間)を専任で担う介護従業者を確保した場合の人件費と、加算による収入増を比べます。
夜勤の介護従業者の賃金は地域・経験年数によって異なります。月の夜勤回数を10〜12回(1回8時間)として、夜勤手当込みで月20万〜25万円が目安です。
| 項目 | 金額(目安) |
|---|---|
| 夜間専任職員の人件費(月) | 20万〜25万円 |
| 夜間支援体制加算Ⅰの月次収入増(稼働率100%・処遇改善加算Ⅰ込み) | 約16万円 |
| 差引(月) | ▲4万〜9万円程度 |
この試算からは、夜間支援体制加算Ⅰを取得しても、加算による収入増だけでは夜間専任職員の人件費をカバーできない計算になります。
加算は、夜間対応の体制を整えることへの一部補助という位置づけです。夜間専任職員を置く理由が「加算を取るため」だけであれば、採算が合いにくいのが現実です。
それでも夜間体制を整える理由
認知症GHの利用者は認知症の診断を受けた高齢者です。夜間に徘徊・転倒・急変が起きるリスクがあります。夜間に職員が常駐していることは、加算の有無とは関係なく、入居者の安全確保の観点から欠かせません。
認知症GHの設備・運営基準は、夜間は「全ユニット通じて介護従業者1名以上の常駐」を最低基準として定めています(指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準・平成18年厚生労働省令第34号 第99条)。
2ユニット(定員18人)の場合も夜間1名が法定の最低基準です。ただし、18人を1人で対応する体制が利用者の実態に合っているかは、別の問題です。夜間の急変・転倒・徘徊が重なった場合に1人で初期対応できる体制かどうか、リスク管理の観点から検討することが必要です。
夜間支援体制加算Ⅰを取得することで、夜間専任職員を1名配置していることを公式に算定要件として記録することになります。加算の取得は、利用者・ご家族・行政(運営指導)に対して「夜間の体制を整えている施設」であることを示すことにもなります。
採算が合う条件
夜間支援体制加算Ⅰを取得してでも夜間専任職員を配置することが事業収支として成立するかどうかは、いくつかの条件によって変わります。
第一は、ユニット数と定員です。2ユニット・3ユニットで運営する場合、夜間専任職員を1名増やしても複数ユニット分の加算収入が入ります。3ユニット(定員27人)・稼働率100%・地域区分「その他」で夜間支援体制加算Ⅰを取得した場合の月次上乗せ額は、処遇改善加算Ⅰ込みで約48万円程度になります。1名分の人件費に対して収入増が大きくなります。
第二は、地域区分です。1〜4級地(都市部)では1単位の単価が高く、加算の金額ベースが上がります。4級地(1単位=10.33円)以上の地域では、稼働率が高い複数ユニットの施設で加算収入が月3万円を超えることがあります。
第三は、利用者の重度度合いです。要介護4・5中心の施設では、夜間の対応頻度が高くなりやすく、夜間専任職員1名の体制が利用者の安全管理上も必要になります。人件費をカバーできなくても、夜間対応なしでは運営上のリスクが高い、という判断になることがあります。
加算Ⅱの活用
夜間に常時常駐は難しいが、定期巡回の体制は整えられるという場合は、加算Ⅱ(25単位/日)を検討できます。定期巡回型の体制は、センサーや見守り機器と組み合わせて実施している事業者もあります。
ただし、加算Ⅱを算定するにも一定の要件を満たす必要があります。算定の要件詳細については、開業予定地の市区町村(認知症GHの指定権者)に確認することをお勧めします。地域によって独自に細則を定めているところもあります。
夜間支援体制加算の取得判断の流れ
取得判断の基本的な流れを整理すると次のようになります。
- ユニット数・定員を確定する
- 夜間専任職員1名(または夜間巡回対応者)の人件費を見積もる
- 取得する加算区分(Ⅰ・Ⅱ)による月次収入増を計算する
- 差引(人件費-収入増)を確認し、その負担を事業全体の収支で吸収できるか判断する
- 利用者の要介護度・状態から夜間対応の頻度を見積もり、必要な体制を決める
収支シミュレーターでは夜間支援体制加算の有無を切り替えて、月次収入・収支差率・損益分岐点の稼働率がどう変わるかを確認できます。人件費を入力することで、加算取得の採算判断を数字ベースで行えます。
出典
- 指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成18年厚生労働省告示第128号。令和6年4月改定)
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第99条
夜間支援体制加算Ⅰ・Ⅱの有無を切り替えて、月次収入・収支差率・損益分岐点の稼働率がどう変わるかを試算してみてください。


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