認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)の全国平均収支差率は3.0%です(令和7年介護事業経営実態調査・厚生労働省)。月の収益200万円なら利益は約6万円という水準です。儲かるかどうかは稼働率・地域区分・加算の取得・人件費の管理によって施設ごとに大きく変わります。全国平均はあくまで参考値であり、稼働率と費用構造を自分の計画に引き寄せて試算することが収支計画の核心です。
全国平均3.0%の意味と読み方
厚生労働省「令和7年介護事業経営実態調査」によると、認知症対応型共同生活介護の全国平均収支差率は3.0%です。収支差率は、介護サービス収益に対する収益超過(収益-費用)の割合です。
3.0%を金額に換算すると、月の収益200万円の施設では利益6万円、300万円の施設でも利益9万円という水準です。賃貸物件の改修費・設備費・運転資金に多くの開業資金を投じた後、月の利益がこの水準で推移するのは、認知症GHの収益構造の特徴です。
他の介護サービスと比べると、通所介護(デイサービス)の全国平均収支差率は2.1%、訪問介護は1.3%です(同調査)。認知症GHの3.0%は相対的に高い水準ですが、製造業や小売業と比べると薄利な事業であることは変わりません。
全国平均は大規模法人と小規模個人事業の両方を含む数字です。収益規模が大きい事業者が平均を引き上げている側面もあるため、小規模で開業する場合には「自分の施設の数字」を個別に試算することが必要です。
稼働率が1%下がると月の利益がどう変わるか
認知症GHの収支は稼働率の影響を大きく受けます。1ユニット定員9人の施設で、稼働率が1%(0.09人分)下がった場合の月次収入への影響を試算します。
地域区分「その他」(1単位=10円)・要介護4中心・処遇改善加算Ⅰ(18.6%)取得・夜間加算なしの条件で、稼働率100%(9人全員入居)のときの月次収入を基準とした場合、稼働率が1%下がる(実質0.09人分の稼働が減る)と月収入は約27,000円程度減少します。
稼働率90%(約8.1人分)の場合と100%の場合で月次収入を比較すると次のようになります。
| 稼働率 | 実質稼働人数(定員9人) | 月次収入の変化(処遇改善加算Ⅰ込み) |
|---|---|---|
| 100% | 9人 | 基準 |
| 90% | 約8.1人 | ▲約270,000円(約10%減) |
| 80% | 約7.2人 | ▲約540,000円(約20%減) |
| 75% | 約6.75人 | ▲約670,000円(約25%減) |
稼働率75%を下回ると、月次収入の減少が月利益を食いつぶしていく計算になります。全国平均の収支差率3.0%は稼働率が高い状態での数字であり、稼働率が大きく下がれば収支差率はさらに小さくなります。
損益分岐点の稼働率は何%か
損益分岐点とは、収益と費用がちょうど等しくなる(利益=0)稼働率のことです。定員9人・月次固定費250万円(人件費200万円+家賃40万円+その他10万円)を想定した場合の損益分岐点の稼働率を試算します。
損益分岐点の稼働率は「月次固定費 ÷ 稼働率100%のときの月次収益」で計算します。月次収益を稼働率100%・要介護4中心・地域区分「その他」・処遇改善加算Ⅰで約269万円(概算)と仮定した場合、損益分岐点は250÷269=約93%の稼働率になります。
これは、定員9人のうち8.4人以上が常時入居していないと赤字になる、という計算です。開業直後は稼働率が低い期間が続くため、この期間を運転資金で乗り切る計画が必要です。
費用水準と地域区分によって損益分岐点は変わります。都市部(1〜3級地)では単位単価が高く収入が増えますが、人件費も高くなりやすいです。地方(「その他」地域)では単価が低い分、人件費が抑えられれば収支の均衡点が変わります。
損益分岐点の稼働率は、ツールのPro版で実際の経費を入力して確認できます。稼働率・定員・加算・地域区分を変えると、損益分岐点がどう変わるかを見比べることができます。
黒字と赤字の分かれ目
認知症GHの収支に大きな影響を与える要素を整理します。
第一に、稼働率の維持です。入居が安定して9人(または各ユニット定員)に近い状態を保てるかどうかが、収支の基盤になります。認知症GHの利用者は認知症の診断を受けた高齢者であり、退居(入院・死亡・他施設への移転)が生じやすい施設です。欠員が出てから次の入居者が決まるまでの期間が短いほど稼働率を維持できます。地域の包括支援センターや居宅介護支援事業者との関係構築が、入居紹介の受け皿づくりに直結します。
第二に、加算の取得状況です。処遇改善加算Ⅰ(18.6%)を取得しているかどうかで、月次収入が同じ入居者数でも約2割異なります。加算を全く取得しないと、収支差率がさらに低下します。
第三に、人件費水準と職員定着です。介護施設全体の課題として人材確保の難しさがあります。認知症GHは少人数体制のため、1人の退職が直接の稼働や夜間体制に影響します。採用・定着のコストが高い施設では費用が膨らみ、収支差率を圧迫します。
第四に、地域区分と物件費用のバランスです。都市部は単位単価が高い(収入が多い)一方で物件費と人件費も高くなります。地方は単価は低いが費用も抑えられる場合があります。地域区分と物件費・人件費の組み合わせが、収支の構造を決めます。
重度者対応の加算は収入増か費用増か
認知症GHは要介護2以上を入居対象とする施設です。要介護度が高い(重度)利用者は基本報酬単位数が高い(収入が多い)ですが、ケアの手間も増えます。
夜間支援体制加算(50単位/日)や医療連携体制加算(57〜37単位/日)は、重度の利用者や医療ニーズがある利用者を受け入れることで取得しやすくなる加算です。これらの加算は収入増になりますが、対応する職員体制や医療連携の仕組みを整える費用も伴います。
重度者を積極的に受け入れて加算を取るか、対応の手間が少ない利用者を中心に安定稼働を優先するかは、職員体制と施設の方針によって判断が変わります。どちらの戦略も収支試算の上で評価できます。
人材確保の難しさと収支への影響
厚生労働省の調査では、介護施設全体の離職率は14.4%(2023年度・介護労働安定センター「介護労働実態調査」)です。1年に7人に1人が離職する計算で、認知症GHのような小規模施設では1人の離職が業務全体に大きく影響します。
採用コストは1人あたり数十万円になることが多くあります(求人媒体費・採用担当者の時間・研修費用の合計)。定着が悪く、毎年1〜2名の採用が必要になると、採用コストが固定費として積み上がります。
処遇改善加算を積極的に取得して介護職員の賃金を引き上げることが、職員定着に有効とされています。加算収入を賃金原資として職員に還元することで、採用コストと離職コストを抑える方向での収支改善が期待できます。
収支計画で数字を確認する手順
認知症GHの収支計画で確認すべき項目を整理すると次のようになります。
- ユニット数・定員を確定し、想定稼働率の下限を設定する
- 地域区分と単位単価を確認する(市区町村の指定窓口に確認)
- 取得できる加算(処遇改善加算の区分・夜間支援加算等)を見積もる
- 人件費・物件費・その他固定費を月次で積み上げる
- 損益分岐点の稼働率を計算し、その水準が現実的かどうか判断する
- 開業後6か月間の資金繰り(介護報酬入金2か月遅れを反映した月次)を試算する
これらを一連の計算で確認できるのが、当サイトの収支シミュレーターです。無料版でも損益分岐点の稼働率は確認できます。Pro版では3年分の月次収支・資金繰り・稼働率を変えた場合の感度分析が利用できます。
出典
- 令和7年介護事業経営実態調査(厚生労働省)
- 介護労働実態調査(2023年度・介護労働安定センター)
稼働率・定員・地域区分・各種加算・人件費を入力して、損益分岐点と3年間の収支を確認してみてください。


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