認知症対応型共同生活介護の法定研修は研修10テーマ・訓練3テーマ・委員会3つ・運営推進会議が義務です
認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム、以下GH)の法定研修は、「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」(厚生労働省令第34号)に定められています。
義務の内容をまとめると、次のとおりです。
- 研修:虐待防止・身体拘束の廃止・感染症・BCP・認知症ケア・看取り・ハラスメント・個人情報・事故と苦情・金銭管理の10テーマ
- 訓練:感染症・BCP・非常災害の3テーマ
- 委員会:虐待防止委員会・身体拘束適正化委員会・感染対策委員会の3つ
- 運営推進会議:おおむね2月に1回以上(第107条)
この記事では、各テーマの根拠条文・研修の回数・訓練の回数・委員会の開催頻度を一覧で整理します。認知症GHにしかない特有の義務(認知症ケアの研修・看取りの研修・利用者の金銭管理・運営推進会議の開催)についても後半で詳しく説明します。
根拠となる省令は地域密着型の基準省令です
認知症GHの法定研修の根拠は、「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」(厚生労働省令第34号)の第97条から第108条に定められています。
条文の構造には2種類があります。
1つ目は、認知症GHに直接規定が置かれているタイプです。身体拘束(第97条)・認知症ケア(第103条)・ハラスメント防止(第103条第4項)・看取り(第105条)・金銭管理(第100条)がこれに当たります。
2つ目は、第108条の準用規定によって他のサービスの条文を読み替えて適用するタイプです。虐待防止・感染症・BCP・非常災害・個人情報・事故と苦情がこれに当たります。
なお、研修の「年1回以上」「年2回以上」という回数の根拠は、条文ではなく国が出した解釈通知(運営等に関する取扱通知)に書かれているものが多くあります。「条文に書いてある=研修義務がある」「回数は通知で確認する」という二段構えで確認することが実務上必要です。
研修の義務がある10テーマと回数の一覧
研修の義務があるテーマ、根拠条文、最低回数を一覧にまとめます。
| テーマ | 根拠条文 | 最低回数 | 新規採用時 |
|---|---|---|---|
| 虐待防止 | 第108条(第3条の38の2の準用) | 年1回以上 | 採用時に必ず実施 |
| 身体拘束の廃止 | 第97条第7項(直接規定) | 定期的に(回数の明示なし) | 採用時に必ず実施 |
| 感染症・食中毒の予防 | 第108条(第33条の準用) | 年2回以上 | 採用時に必ず実施 |
| 業務継続計画(BCP) | 第108条(第3条の30の2の準用) | 年1回以上 | 別途実施が望ましい |
| 認知症ケアとBPSD対応 | 第103条第3項(直接規定) | 年1回以上 | 規定なし |
| 看取りケアとACP | 第105条(直接規定) | 年1回以上 | 規定なし |
| ハラスメントの防止 | 第103条第4項(直接規定) | 年1回以上 | 規定なし |
| 個人情報の保護 | 第108条(第3条の33の準用) | 年1回以上 | 規定なし |
| 事故防止と苦情対応 | 第108条(第3条の38・第3条の36の準用) | 年1回以上 | 規定なし |
| 利用者の金銭管理 | 第100条(直接規定) | 年1回以上 | 規定なし |
「定期的に」と書かれている身体拘束については、回数が明示されていません。ただし新規採用時には必ず実施する義務があります。解釈通知(運営等に関する取扱通知)では少なくとも年1回以上の実施を求めています。
「採用時に必ず実施」の3テーマ(虐待防止・身体拘束・感染症)については後半で詳しく説明します。
訓練の義務がある3テーマと回数の一覧
研修と訓練は別の義務です。訓練は「実際に体を動かして確認する」行為で、研修(知識を学ぶ)とは区別して実施・記録する必要があります。
| テーマ | 根拠条文 | 最低回数 |
|---|---|---|
| 感染症・食中毒の予防 | 第108条(第33条の準用) | 年2回以上 |
| 業務継続計画(BCP) | 第108条(第3条の30の2の準用) | 年1回以上 |
| 非常災害(避難・救出) | 第108条(第82条の2の準用) | 年2回以上 |
感染症と非常災害の訓練はそれぞれ年2回以上が義務です。BCPの訓練は年1回以上です。
訓練記録には、実施日・参加者名・訓練の内容・反省点・次回への改善策を残すことが求められます。参加者名の代わりに署名欄を設けて当日記入する形式もよく使われます。
委員会と運営推進会議の義務一覧
研修・訓練とは別に、委員会の開催義務もあります。
| 会議名 | 根拠条文 | 開催頻度 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| 虐待防止委員会 | 第108条(第3条の38の2の準用) | 定期的に開催 | 研修計画の作成・見直し、発生原因の分析と再発防止 |
| 身体拘束適正化委員会 | 第97条第7項第1号 | 3月に1回以上 | 身体拘束の必要性の確認、発生後の検証と再発防止 |
| 感染対策委員会 | 第108条(第33条の準用) | 定期的に開催(手引きでは3月1回以上が推奨) | 感染対策指針の見直し、研修・訓練の予定決定 |
| 運営推進会議 | 第107条第1項(第34条の準用) | おおむね2月に1回以上 | 活動状況の報告と評価、地域住民・市町村・家族などへの説明 |
委員会の「定期的に」は頻度が明示されていませんが、手引きや解釈通知において3か月に1回以上が推奨されているものが多くあります。記録には議題・出席者・決定事項を残します。
運営推進会議の「2月に1回以上」は他のグループホームとは異なります
認知症GHの運営推進会議の根拠条文は第107条第1項です。「おおむね二月に一回以上」と定められています。
障害者グループホーム(共同生活援助)は地域連携推進会議がおおむね年1回以上の開催です。認知症GHの運営推進会議は年6回以上(2か月に1回)になるため、開催頻度が大きく異なります。
第107条第1項の条文を示します。
第百七条 指定認知症対応型共同生活介護事業者は、指定認知症対応型共同生活介護事業所ごとに、おおむね二月に一回以上、利用者、利用者の家族、地域住民の代表者、指定認知症対応型共同生活介護事業者が提供するサービスに係る介護保険法第九十七条第一項の指定をした市町村長又はその指定を受けた者及び地域包括支援センターの職員その他の関係者により構成される会議(以下この条において「運営推進会議」という。)を開催し、活動状況を報告し、運営推進会議による評価を受けるとともに、必要な要望、助言等を聴く機会を設けなければならない。
出典:指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第34号)第107条第1項
出席を求める構成員は「利用者・利用者の家族・地域住民の代表者・市町村長または指定を受けた者・地域包括支援センターの職員その他の関係者」です。毎回すべての構成員が出席できるとは限らないため、記録に「〇〇氏は欠席・書面参加」などを明記しておくことが実務上重要です。
新規採用者には入職直後の研修が必要な3テーマがあります
虐待防止・身体拘束・感染症の3テーマは、新規採用時にも必ず実施する義務があります。
これは、年1回や年2回の定期研修とは別の義務です。例えば感染症の研修は年2回以上が必要ですが、それに加えて「新しいスタッフが入ったときには採用のタイミングでも実施する」という二重の義務があります。
実務上は「入職時研修」として別のプログラムを用意しておくか、定期研修の後に入職者向けの補足説明を行う形で対応することが多く見られます。どちらの場合でも、実施日・参加者・内容を記録として残すことが必要です。
認知症GHにしかない研修義務があります
訪問介護や通所介護などの他のサービスと比較したとき、認知症GHには独自の研修義務がいくつかあります。
認知症ケアとBPSD対応(第103条第3項)
認知症ケアの研修が基準省令に直接規定されているのは認知症GHだけです。訪問介護や通所介護には認知症ケアの研修義務を定めた条文はありません。
BPSD(行動・心理症状)は、認知症の周辺症状として徘徊・暴言・幻覚・無気力などが含まれます。入居者の行動の背景にある気持ちや苦痛を読み取る研修は、認知症GHの専門性の核心にある部分です。
看取りケアとACP(第105条)
認知症GHの第105条では、入居者の終末期に備えた研修の義務が定められています。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、本人と家族が医療・介護の方針をあらかじめ話し合って記録しておくプロセスです。
認知症が進行すると本人の意思を確認することが難しくなります。本人の意思が確認できるうちに話し合いを進めるためのスキルを研修で磨くことが義務として位置づけられています。
利用者の金銭管理(第100条)
第100条は、認知症GHが利用者の金銭を管理する場合の義務を定めています。金銭の管理に関する研修の義務が基準省令に直接置かれているサービスは多くありません。
認知症が進行した入居者の年金・預貯金・日用品の購入代金を事業所が管理する場面が生じやすいことが、この条文の背景にあります。研修では「誰が管理するか」「記録はどう残すか」「使途の確認をどう行うか」を職員全員で共有しておくことが求められます。
運営指導(実地指導)で確認される記録の特徴
認知症GHの運営指導では、研修・訓練・委員会の記録に加えて、運営推進会議の議事録も確認されます。他のサービスと比べて確認対象の書類の種類が多い点が特徴です。
実施記録と参加者の受講確認(サインまたは署名)を一つのシートにまとめておくと、テーマ別に整理しやすく提示しやすくなります。
委員会については「出席者の記録」と「決定事項・次回への引き継ぎ」を分けて残しておくと、同じ委員が複数回にわたって同じ課題を確認できているかどうか(継続的な改善の証跡)が伝わりやすくなります。
年間の研修・訓練スケジュールを組む際の考え方
義務の最低回数を守ることに加えて、全職員が一定期間内に必ず受講できるスケジュールを組むことが重要です。認知症GHは24時間365日の体制であることが多く、全職員が同じ日に集まることが難しい環境です。
実務上は以下のような工夫が使われています。
- 同じ内容を月2回実施して、日勤帯・夜勤明けのどちらにも出席機会を作る
- 新規採用者向けの「入職時研修」の日程をあらかじめ年間計画に組み込む
- 感染症・非常災害の訓練は春と秋など季節を変えて実施する(梅雨前と台風シーズン後など)
- BCPの訓練は年1回だが、改訂の機会と合わせて実施することで形式的にならないようにする
研修の年間計画は虐待防止委員会で作成・見直しをすることが求められています(第108条・第3条の38の2準用)。委員会の役割として計画の立案が位置づけられているため、年度の初めに1年分の研修スケジュールを委員会で決定する形が実務のスタンダードです。
よくある疑問
研修は外部講師でないとだめですか
法令に「外部講師が必要」という規定はありません。管理者や主任が講師を務める内部研修で法令上の義務は果たせます。ただし、特定のテーマ(虐待防止など)については「事業所外部の研修を受ける機会を確保する」ことが求められている場合があります。自治体の指導を確認してください。
委員会の記録は何年保存すればいいですか
基準省令には委員会記録の保存年数は明示されていません。退所後2年間以上の保存が目安として使われることが多いですが、指定権者が保存期間の定めを設けている場合があります。
運営推進会議の議事録は公表が必要ですか
第107条は「記録を作成するとともに、当該記録を公表しなければならない」と定めており、記録の作成と公表の両方が義務です。公表の方法(事業所内への掲示・ウェブサイトへの掲載など)は指定権者(市区町村)の指導に従ってください。
感染症の訓練は何を記録に残せばいいですか
訓練の実施日・参加者・訓練の内容(どのような感染状況を想定して何を確認したか)・気づいた課題・次回への改善策を記録します。「机上訓練」(シナリオに沿って対応手順を確認する)でも訓練として認められることが多いですが、自治体の指導を確認してください。
まとめ:研修は10テーマ・訓練は3テーマ・委員会3つ・運営推進会議が義務です
認知症対応型共同生活介護の法定研修の義務をまとめると次のとおりです。
- 研修義務:10テーマ(うち認知症ケア・看取り・金銭管理の3テーマは認知症GHの基準省令に直接規定)
- 訓練義務:3テーマ(感染症・BCP・非常災害)
- 委員会:3つ(虐待防止・身体拘束・感染対策)
- 運営推進会議:おおむね2月に1回以上
- 新規採用時に必ず研修が必要なテーマ:虐待防止・身体拘束・感染症の3テーマ
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