生活介護の事業所を開設するには、都道府県(または指定都市・中核市)に指定申請を行い、「指定障害福祉サービス事業者」の指定を受ける必要があります(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律〔以下、障害者総合支援法〕第29条)。申請できるのは法人格を持つ事業者に限られます。人員・設備・運営の各基準(平成18年厚生労働省令第171号)を満たした状態で書類を提出し、審査を経て指定通知書を受け取ってから開設できます。
指定申請が必要な理由と根拠法令
生活介護は「指定障害福祉サービス」のひとつです。障害者総合支援法第29条は、障害者が介護給付費の支給を受けてサービスを利用するには、都道府県知事等が指定した事業者(指定障害福祉サービス事業者)のサービスでなければならないと定めています。
指定を受けていない状態でサービスを提供しても、介護給付費(国保連経由の報酬)は受け取れません。開設日から報酬を受けるには、開設予定日より前に指定を受けておく必要があります。
指定の基準は同法第31条に基づき、平成18年厚生労働省令第171号(以下、省令)で詳細が定められています。生活介護に関する章は、省令の中の指定生活介護の節(第85条以降)が該当します。人員基準・設備基準・運営基準のすべてを満たすことが、指定の要件です。
指定申請の前に必要な準備
法人格の取得が先決
指定申請は個人では行えません。株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人・社会福祉法人のいずれかの法人格を事前に取得しておく必要があります。法人格の種類に制限はありませんが、社会福祉法人は設立認可に時間がかかるため、スケジュールに余裕を持って手続きを進めます。
法人設立から指定申請・開設までの一般的な流れとして、法人設立(登記)が申請の最低3か月前には完了していることが望ましいとされています。都道府県の窓口への事前相談も、申請書類の提出よりも前に行うのが通例です。
事業所の物件と設備の確保
指定申請の時点で、事業所として使用する物件が確保されている必要があります(賃貸の場合は賃貸借契約書、自己所有の場合は登記事項証明書等を添付します)。物件が建設中・改修中の場合は、完成後に改めて申請手続きを行うか、完成予定証明書等で対応できるか、事前に申請窓口に確認してください。
生活介護の設備基準(省令第88条)では、訓練・作業を行うための部屋、相談室、洗面設備、便所の設置が求められています。訓練・作業室については、利用者1人当たりの面積の基準があり、自治体によって独自の基準を加えている場合があります。申請前に管轄窓口の手引きを確認してください。
人員の確保と雇用契約の締結
指定申請時点で、省令が定める人員基準を満たす見込みがあることを示す書類が必要です。雇用予定の職員については雇用契約書(または雇用内定通知書)で対応できる自治体が多いですが、申請先に事前確認してください。
生活介護の人員基準(省令)では、次の職種の配置が求められています。
- 管理者:常勤1名。他の職種(生活支援員等)との兼務可
- サービス管理責任者:利用者60名以下で1名以上・常勤。実務経験年数と研修修了が要件
- 生活支援員:利用者の平均障害支援区分に応じた常勤換算数。区分4未満で利用者6名に1名以上、区分4以上5未満で5名に1名以上、区分5以上で3名に1名以上が最低基準
- 看護職員:1名以上(医師との連携体制で代替できる場合あり)
サービス管理責任者には一定の実務経験年数と厚生労働省が定める研修の修了が必要です。研修は都道府県等が実施しており、受講には申込みの締め切りがあります。サービス管理責任者の確保は早めに着手してください。
指定申請に必要な書類の一覧
申請書類の様式は都道府県・指定都市・中核市ごとに異なります。以下は多くの自治体で共通して求められる書類の種類です。申請前に管轄窓口のホームページまたは窓口で最新の様式と提出部数を必ず確認してください。
| 書類の種類 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 指定申請書 | 事業者名・事業所名・所在地・連絡先・サービスの種類等を記載する様式 | 各自治体の所定様式 |
| 事業所の概要書 | 定員・利用対象者・開設予定日・運営方針等 | 自治体によって様式が異なる |
| 法人の登記事項証明書 | 法人格を証明するもの(3か月以内が有効の場合あり) | 法務局で取得 |
| 定款(または規約) | 生活介護の事業が目的に含まれていること | 目的外の場合は定款変更が必要 |
| 登記事項証明書(役員) | 役員の欠格事由確認に使用 | 自治体によって求められる場合あり |
| 運営規程 | 事業の目的・運営方針・職員配置・利用定員・利用料金・緊急時の対応等を定めたもの | 省令第97条の記載事項を網羅すること |
| 重要事項説明書(案) | 利用者への事前説明に用いる書類。運営規程と整合が取れていること | — |
| 平面図 | 事業所の間取り・各室の用途・面積を記載したもの | 設備基準の確認に使用 |
| 物件の使用権を示す書類 | 賃貸借契約書・使用貸借契約書・建物登記事項証明書等 | — |
| 人員体制一覧表 | 職員の氏名・資格・雇用形態・週あたりの勤務時間・担当職種を一覧にしたもの | 常勤換算の根拠となる |
| 職員の資格証明書(写し) | 介護福祉士・看護師・サービス管理責任者研修修了証等 | — |
| サービス管理責任者要件確認書 | 実務経験年数・研修修了を確認するもの | 各自治体の様式に従い記載 |
| 雇用契約書(または内定通知書) | 職員との雇用関係を示すもの | 申請時点で内定段階でも可とする自治体が多い |
| 収支予算書(事業計画) | 開設後1〜3年間の収入・支出の見込みを記載 | 必須としない自治体もある |
| 苦情解決の仕組みを示す書類 | 苦情受付担当者・第三者委員の設置等 | — |
| 損害賠償保険の加入証明 | 賠償責任保険等への加入を示すもの | 必須としない自治体もある |
書類の数は自治体によって20〜40種類程度になることもあります。提出部数(正本・副本の枚数)も自治体によって異なるため、事前に確認してください。
申請窓口は都道府県・指定都市・中核市
生活介護の指定権限は、障害者総合支援法第29条に基づき、原則として都道府県知事にあります。ただし、政令指定都市・中核市の区域内に所在する事業所については、それぞれの市長が指定権者となります。
| 指定権者 | 対象地域 |
|---|---|
| 都道府県知事 | 政令指定都市・中核市以外の区域 |
| 政令指定都市長 | 当該政令指定都市の区域内 |
| 中核市長 | 当該中核市の区域内 |
事業所を開設する市区町村が政令指定都市・中核市に該当するかどうかは、総務省の「指定都市・中核市一覧」等で確認できます。申請先を誤ると受け付けてもらえないため、事業所所在地の管轄窓口を最初に確認してください。
申請から指定通知書受領までの手順
ステップ1:事前相談(申請の2〜3か月前が目安)
多くの自治体では、申請書類を提出する前に事前相談(プレ申請・予約申請)の実施を求めています。事前相談では担当者が必要書類・基準の要件・申請のスケジュールを案内します。この段階で不明点をすべて解消しておくと、差し戻しのリスクが減ります。
自治体によっては事前相談の予約が必要で、予約から1か月待ちになる場合もあります。事前相談の予約受付開始のタイミングは、担当課のホームページや電話で確認してください。
ステップ2:申請書類の作成と提出
事前相談で確認した様式・提出先・提出方法に従って書類を作成し、提出します。提出方法は窓口持参が原則の自治体が多いですが、郵送・電子申請を認めている自治体も増えています。提出した書類に不備がある場合は補正(差し戻し)の連絡が来ます。
ステップ3:審査(書面審査・現地確認)
書類が受理された後、担当者が書面審査を行います。自治体によっては事業所の現地確認(立入審査)を行うこともあります。書面審査で確認できない設備の状況(訓練室の面積・洗面設備の設置状況等)について、現地で確認します。
ステップ4:指定通知書の受領と開設
審査が完了すると、指定通知書が交付されます。指定の日付が開設日になります。指定通知書を受け取ってから国保連に登録申請を行い、翌月以降の報酬請求が可能になります。
申請書提出から指定通知書受領まで、一般的に1〜3か月程度かかります。ただし審査の混み具合・書類不備の有無・自治体の体制によって大きく異なります。開設予定日から逆算して余裕を持ったスケジュールを組んでください。
差し戻しになりやすいポイント
申請書類の差し戻し(補正)が発生すると、その分だけ指定が遅れます。以下は差し戻しになりやすい主なポイントです。
人員配置の計算誤り
生活支援員の配置数は、利用者の平均障害支援区分によって計算式が変わります(区分4未満で利用者6名に1名以上等)。常勤換算の計算方法(週40時間換算が原則)を誤って申請すると差し戻しになります。常勤と非常勤の時間数を正確に集計して、省令の基準を満たすことを確認してください。
サービス管理責任者の要件不足
サービス管理責任者には相談支援・直接支援・有資格者のいずれかの実務経験年数の要件があり、研修(基礎研修・実践研修)の修了も必要です。実務経験の計算は業種・雇用形態によって複雑になることがあります。要件確認書の記載前に、担当者に事前確認することを勧めます。
運営規程の記載不備
運営規程には省令第97条が定める記載事項をすべて盛り込む必要があります。利用料金・非常災害時の対応・虐待防止の体制・苦情解決の体制・身体拘束廃止の取組み等、記載漏れが起きやすい項目があります。自治体が公開しているひな形を参考にして作成してください。
物件の設備基準への非適合
平面図を見ると基準を満たしているように見えても、現地確認で相談室の独立性(パーティションのみで区切られていて個人情報が漏れる状態等)や訓練室の有効面積が基準を下回ることが発覚し、改修を求められる場合があります。申請前に担当者に平面図を見てもらう事前相談の段階で確認しておくのが最善です。
定款の目的に生活介護が含まれていない
法人定款の「目的」欄に生活介護(または障害福祉サービス事業)が明記されていない場合、指定申請の前に定款変更が必要になります。定款変更には社員総会等の決議と登記申請が必要で、数週間〜数か月かかることもあります。法人設立段階から事業目的を広く記載しておくことを勧めます。
指定後に必要な届出義務
指定を受けた後も、一定の変更が生じた場合は届出が義務付けられています(障害者総合支援法第34条)。
変更の届出
次の事項に変更があった場合は、速やかに(変更後10日以内等、自治体によって異なる)指定権者に届け出る必要があります。
- 事業所の名称または所在地
- 法人の名称または主たる事務所の所在地
- 管理者の氏名・住所
- 利用定員(変更前に協議・承認が必要な自治体あり)
- 従業者の員数(人員基準を下回る状態が続く場合)
- 運営規程の内容
廃止・休止の届出
事業を廃止または休止する場合は、廃止・休止予定日の1か月前までに届出が必要です(省令第103条)。廃止時は利用者に対して30日以上前の周知と、適切な移行支援が求められます。
指定の更新
指定障害福祉サービス事業者の指定には有効期間があり(障害者総合支援法第29条第4項・6年間)、期間満了前に更新手続きが必要です。更新手続きの時期・様式は指定権者から案内があります。更新を失念すると指定が失効するため、期限を管理しておいてください。
よくある質問
法人の種類に制限はあるか
株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人・社会福祉法人等、法人格の種類に制限はありません。ただし、障害者総合支援法第36条に定める欠格事由に該当する場合は指定を受けられません。欠格事由には、申請者が過去に指定を取り消された経歴を持つ場合等が含まれます。
一つの法人で複数の事業所を運営できるか
可能です。一つの法人が複数の都道府県・市区町村で事業所を運営することもできます。ただし、事業所ごとに指定申請が必要です。
既存の福祉施設に生活介護を加えることはできるか
既存の指定障害福祉サービス事業所に生活介護を加える場合も、新たに生活介護の指定申請が必要です。人員・設備の基準を、追加するサービスの分も満たす必要があります。
介護保険の事業者と兼業できるか
法令上の制限はなく、介護保険サービスと障害福祉サービスを同一法人・同一事業所で提供している事例もあります。共生型サービスの仕組みを活用して両方の指定を受ける方法もあります。
まとめ
生活介護の指定申請は、①法人設立、②人員・設備・物件の確保、③書類の準備・事前相談、④申請書提出、⑤審査・現地確認、⑥指定通知書受領・開設、という流れで進みます。開設予定日から逆算すると、少なくとも申請書類の提出は開設の3〜4か月前、事前相談はその1か月以上前に行うスケジュールが現実的です。
差し戻しの主な原因は、人員配置の計算誤り・サービス管理責任者の要件確認不備・運営規程の記載漏れです。事前相談を丁寧に活用し、担当者が用意しているひな形・チェックリストを活用して準備を進めてください。
生活介護の開業に向けた収支計画(定員・稼働率・加算別の月次シミュレーション)には、以下のツールが参考になります。
生活介護 開業向け収支シミュレーター(定員・障害支援区分構成・加算を入力して月次収支を試算できます)

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