放課後等デイサービスの開業を考えたとき、最初に気になるのは「資金がいくら必要か」だと思います。結論から言うと、初期費用の目安は300万〜800万円程度、運転資金を含めた開業資金全体では800万〜1,800万円程度とされています。ただし、この金額は物件の状態や送迎車両の台数、定員規模で大きく変わります。この記事では、全国平均の収支、初期費用の内訳、融資の相談先、開業後にすぐ必要になる運転資金まで、順番に整理します。
放課後等デイサービスの開業に、資金はいくら必要ですか
複数の専門家サイトの解説を見比べると、初期費用(開業までにかかる費用)の目安は300万〜800万円程度です(出典:ブロッサムグループ株式会社「放課後等デイサービスの開業完全ガイド」)。これに開業後3〜6か月分の運転資金を加えた開業資金全体では、800万〜1,800万円程度という幅で紹介されています(出典:ブロッサムグループ株式会社、カイポケ「放課後等デイサービスの開業資金の内訳と資金調達方法を解説!」、株式会社LITALICO「放課後等デイサービス・児童発達支援事業の開業・立ち上げに必要な資金と内訳を解説!」)。幅が大きいのは、物件を新たに借りるか居抜きで借りるか、送迎車両を何台用意するかで金額が大きく変わるためです。ご自身の条件で試算する方法は、この記事の後半でご紹介します。
放課後等デイサービスの収支は、実際どのくらいですか
厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」(第26表・放課後等デイサービス、令和4年度決算・有効回答485事業所)によると、1施設・事業所あたりの年間収入は約3,161万円、年間支出は約2,978万円、収支差率は5.8%です。定員は1施設・事業所あたり平均10人、サービス換算職員数は5.0人、定員1人あたりの年間収入は約302万円(月あたりに換算すると約25万円)でした。これは既存の事業所の平均であり、新規開業したばかりの事業所の実績ではありません。開業直後は利用児童が少なく、この水準に達するまで時間がかかります。
この調査は、収支の科目ごとに「1施設・事業所当たり」の年間の決算額を集計したものです。月ごとの収支ではない点にご注意ください。
初期費用には、具体的に何が含まれますか
開業までにかかるお金は、大きく分けて「手続き」「物件・工事」「備品・車両」「人」の4つです。
- 法人設立・指定申請の費用:放課後等デイサービス事業は法人でなければ行えません(個人事業主では指定を受けられません。出典:ビリーブ「放課後等デイサービスの開設・設立」)。定款の事業目的には「児童福祉法に基づく障害児通所支援事業」といった文言を記載する例が紹介されています(出典:同)。法人設立の登録免許税は、株式会社が資本金の0.7%(最低15万円)、合同会社が同(最低6万円)です。
- 物件取得費・内装工事費:初期費用の中で最も大きなウェイトを占めるのがここです。目安として、物件関連費が100万〜300万円、内装・改装工事費が50万〜200万円という試算が紹介されています(出典:ブロッサムグループ株式会社)。消防法の基準を満たすための工事が必要になる物件もあり、すでに福祉施設として使われていた「居抜き物件」を見つけられれば、この費用を抑えられます。
- 送迎車両:放課後等デイサービスは、学校や自宅への送迎を行う事業所がほとんどです。車両を新たに購入する場合、複数台で数百万円規模になることもあります(出典:株式会社LITALICO、ブロッサムグループ株式会社)。リースや中古車の活用で、この費用を抑える工夫も紹介されています。
- 備品・教材費:机・椅子・ロッカーなどの家具のほか、学習支援や療育で使う教材、パソコン・複合機・請求ソフトの導入費用なども必要です(出典:カミーユ行政書士事務所「放課後等デイサービスの開業費用と収支シミュレーション」)。
- 人材採用・教育費:指定申請の時点で、管理者・児童発達支援管理責任者など「誰が働くか」が決まっている必要があります。開業前から求人広告や紹介会社の費用、採用後の研修費もかかります。
開業までの流れと、期間の目安はどのくらいですか
障害児通所支援は、共同生活援助(グループホーム)などと同じく、都道府県・市による指定制度です。準備期間の目安は、一般に3〜6か月とされています。大まかな流れは次のとおりです。
- 事業構想・法人準備(事業計画・対象児童像・定員を固め、法人の事業目的に障害児通所支援を追加、または法人を新規設立)
- 情報収集・説明会(指定権者の事業者向け説明会に参加。開催の有無・時期は自治体で異なります)
- 物件探し・事前相談(用途地域・面積・消防を見据えて物件を選び、契約前に区市町村・消防・建築へ事前相談)
- 物件契約・人員確保(児童発達支援管理責任者・児童指導員等の採用を並行して進める)
- 改修・書類準備(必要な改修工事を進めつつ、運営規程・指定申請書類一式を作成)
- 指定申請(事前相談の記録も添えて指定権者へ申請)
- 指定・開設(指定日からサービス提供を開始)
これは順番にこなす日数ではなく、依存関係のない工程を並行して進めて初めて実現する期間です。物件を契約してから消防・建築基準の不適合が発覚すると、契約解除や再探索で1〜2か月のロスが起こりがちなため、契約前の事前相談を徹底することが、スケジュールを崩さない一番の予防策とされています。
放課後等デイサービスの人員基準は、何人必要ですか
主として重症心身障害児以外を通わせる事業所の人員基準は、次のとおりです(出典:カイポケ「放課後等デイサービスの人員配置基準とは?」)。
- 管理者:1人(常勤・支障がなければ兼務可)
- 児童発達支援管理責任者:1人以上(常勤専任)
- 児童指導員または保育士:定員10人まで2人以上、11〜15人3人以上、16〜20人4人以上(以降、定員が5またはその端数を増すごとに1人加算)
児童発達支援管理責任者は、一定の実務経験と研修修了の両方が必要な資格で、採用の難易度が比較的高いとされています。開業準備の初期段階から、確保の見通しを立てておくことが大切です。
報酬(単価)は、どう決まりますか
放課後等デイサービスの基本報酬は、令和6年度報酬改定で導入された「時間区分」で決まります(出典:告示「児童福祉法に基づく指定通所支援等の費用の額の算定基準」(平成24年厚生労働省告示第122号)の現行条文で確認)。定員10人以下の事業所の場合、時間区分1(30分以上1時間30分以下)は574単位、時間区分2(1時間30分超3時間以下)は609単位、時間区分3(3時間超5時間以下)は666単位です。時間区分3は、夏休みなど学校が休みの日にだけ算定できる区分で、平日(学校がある日)の下校後の利用は、通常は時間区分1か2になります。つまり、同じ事業所でも、平日の利用と、夏休み・土日祝日中心の利用とでは、1日あたりの単価が違うということです。
単位数に、地域区分の単価(1単位あたりの金額)を掛けたものが報酬になります。地域区分の単価は、人件費割合によって決まる別区分で、放課後等デイサービス(重症心身障害児以外)は人件費割合60%の区分に該当します。1級地(東京都特別区)11.20円から、その他の地域10.00円まで、8段階に分かれています(出典:告示「こども家庭庁長官が定める一単位の単価」(平成24年厚生労働省告示第128号)の現行条文で確認)。これに加え、児童指導員等加配加算・福祉専門職員配置等加算・送迎加算・処遇改善加算などの各種加算が上乗せされます。
開業資金の融資は、どこに相談すればいいですか
初めて開業する方がまず相談すべきなのは、日本政策金融公庫です。「新規開業資金」などの制度を使えば、無担保・無保証人での借り入れも可能です(基準利率は2026年9月1日時点で年3.75%〜5.35%。時期により変わるため、最新の利率は公庫の案内でご確認ください)。このほか、都道府県・市町村と信用保証協会が関わる制度融資、福祉・医療事業専門の独立行政法人である福祉医療機構(WAM)の融資も選択肢です。制度融資は金利が低い一方、申込から入金まで2〜3か月かかることもあるため、スケジュールに余裕を持たせる必要があります。
開業後すぐに必要な「運転資金」は、どう考えればいいですか
初期費用を用意できても、見落とされがちなのが開業直後の運転資金です。障害児通所給付費は、国民健康保険団体連合会(国保連)へ請求してから実際に入金されるまで、提供月の翌々月末ごろまでかかります。例えば4月にサービスを提供しても、入金は6月末ごろになるということです。この間、家賃やスタッフの給与の支払いは待ってくれません。家賃・人件費などの固定費の3〜6か月分を、手をつけない現金として確保しておくことが必要です。また、スタッフを社会保険に加入させる場合、保険料は給与から天引きされる分だけでなく、事業主も同額程度を負担します。額面20万円の給与でも、事業主負担を含めた実際のコストは約23万〜24万円になることがあり、この分を見落とすと資金計画に数万円単位のズレが生じます。
毎月の経費には、何がありますか
毎月かかる経費には、物件家賃、光熱費・通信費、損害賠償保険、記録・請求システムの利用料、広告・採用費、研修費、消耗品・教材費、税理士・社労士への顧問料、送迎車両の維持費などがあります。定員に応じた人数の児童指導員・保育士を確保し続ける必要があるため、人件費は収支の中で最も大きな割合を占めます。
収入を増やす仕組みには、どんなものがありますか
基本報酬に加えて、次のような加算があります(いずれも実際に算定するには指定権者への届出が必要です)。
- 児童指導員等加配加算:児童指導員等(児童指導員・保育士・理学療法士など)の経験が5年以上か、常勤専従か常勤換算か、その他の従業者か、で5つの区分があり、定員10人以下の場合は1日90〜187単位
- 専門的支援体制加算:理学療法士等の専門職員を配置する場合に、1日123単位
- 福祉専門職員配置等加算:社会福祉士・介護福祉士などの有資格者の配置割合に応じて、1日6〜15単位
- 医療連携体制加算:看護職員による医療的ケア・看護の提供時間に応じて算定
- 送迎加算:自宅・学校と事業所間の送迎1回(片道)につき54単位
このほか、家族支援加算・子育てサポート加算・延長支援加算・欠席時対応加算・関係機関連携加算など、対象が限定された加算も複数あります。
資金計画で、注意しておきたい点は何ですか
- 利用児童がすぐに定員まで埋まるとは限りません。開業初期は赤字が続くことを前提に、運転資金を厚めに見積もってください。
- 減算(定員超過利用減算・児童発達支援管理責任者欠如減算・サービス提供職員欠如減算・個別支援計画未作成減算など)も存在します。基準を満たせない期間が生じないよう、人員体制には余裕を持たせてください。
- 令和8年6月1日以降に新規指定を受ける事業所は、基本報酬が所定単位数の1000分の982(約1.8%の引き下げ)になる臨時的な措置があり、放課後等デイサービスも対象です(令和9年度の報酬改定まで。加算には掛かりません)。重症心身障害児が対象の事業所、離島・中山間地域の事業所、自治体が必要として設置する事業所などには、従前の単価が適用される配慮措置があります。後述する収支シミュレーターでは、初期値でこの減算(基本報酬に982/1000を掛ける)を反映しています。配慮措置に当たる事業所は、チェックを外して試算してください(利用者ごとの除外は反映していません)。(出典:令和8年こども家庭庁告示第5号、厚生労働省・こども家庭庁「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について(報告)」)
自分の場合の数字を試算するには、どうすればいいですか
ここまでの数字は、あくまで解説記事や制度の基準、全国平均の統計です。実際に必要な資金は、想定する地域・定員・時間区分・学校休業日の利用割合・人員の採用計画によって大きく変わります。
この記事の考え方を組み込んだ無料の収支シミュレーターを用意しました。地域区分・定員・時間区分・学校休業日の割合・人員体制・借入条件などを自分の数字で入力すると、開設準備期間から3年間の収支と資金繰り、必要な資金の目安を試算できます。開業までのスケジュール(目安)も、入力した開設予定日から自動で逆算して表示されます。入力した内容は、お使いの端末の中にだけ保存され、外部には送信されません。
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無料版でも、入力・年ごとの収支・主要な指標・開業までのスケジュールまで使えます。Pro版(9,800円・買い切り)では、月ごとの36か月分の収支と資金繰り、計画が外れた場合の感度分析、印刷・PDF保存(事業計画書としてそのまま使える形式)が使えます。
よくある質問
Q. このツールで作った収支計画は、そのまま銀行や公庫に提出できますか
入力した内容をもとに、事業計画書の形にまとまりますが、当方は行政書士等の資格者ではなく、指定申請書類の作成・代行は行いません。結果は入力にもとづく試算であり、収益・融資・指定を保証するものではありません。提出前に、必ずご自身の目で内容をご確認ください。
Q. 主として重症心身障害児を対象とする事業所でも試算できますか
このツールは、主として重症心身障害児以外を通わせる、定員10人以下の事業所を対象にしています。重症心身障害児を主な対象とする事業所・医療的ケア児区分・定員11人以上の単価には対応していません。
Q. 土日祝日中心の運営でも試算できますか
はい。「学校休業日(夏休み・土日祝日等)の割合」の欄を高めに設定すると、時間区分3(3時間超5時間以下・666単位/日)の割合が増えた計算になります。
まとめ
- 初期費用の目安は300万〜800万円程度。運転資金を含めた開業資金全体では800万〜1,800万円程度とされる
- 初期費用で大きいのは、物件取得・内装工事費と、送迎車両の購入費
- 放課後等デイサービス事業は法人でなければ行えず、個人事業主では指定を受けられない
- 全国平均(令和4年度決算)の収支差率は5.8%。定員1人あたりの年間収入は約302万円
- 基本報酬は「時間区分」(平日は574〜609単位、学校休業日は666単位)で決まり、地域区分の単価を掛けて計算する
- 開業後、給付費の入金までに数か月のタイムラグがあるため、運転資金を厚めに確保する
- 自分の条件での試算は、無料の収支シミュレーターで確認できる
出典:厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」(第26表・放課後等デイサービス)、ブロッサムグループ株式会社「放課後等デイサービスの開業完全ガイド」、カイポケ「放課後等デイサービスの開業資金の内訳と資金調達方法を解説!」「放課後等デイサービスの人員配置基準とは?」、株式会社LITALICO「放課後等デイサービス・児童発達支援事業の開業・立ち上げに必要な資金と内訳を解説!」、カミーユ行政書士事務所「放課後等デイサービスの開業費用と収支シミュレーション」、ビリーブ「放課後等デイサービスの開設・設立」、厚生労働省・こども家庭庁の告示(平成24年厚生労働省告示第122号・第128号、令和8年こども家庭庁告示第5号)、日本政策金融公庫「金利情報 小規模事業者/個人事業主の方【国民生活事業】」(令和8年9月1日現在)、法務局・国税庁の案内による会社設立時の登録免許税の目安。基準日:2026年9月24日(基本報酬の単位数・地域区分の単価・加算の単位数は、告示の現行条文で確認して更新しました)。制度は改定される場合があるため、最新の告示・通知と指定権者の案内をご確認ください。


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