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短期入所(ショートステイ)の損益分岐点は、定員・職員の配置形態・障害支援区分の構成の3つで大きく変わります。
全国平均(令和7年経営概況調査・令和6年度決算)では、短期入所の収支差率は2.3%(全体n337)です。しかしこの平均は、単独型だけでなく空床利用型・医療型を含んだ数字です。単独型を新規で立ち上げる場合の損益分岐点は、この平均より厳しくなることがほとんどです。
この記事では、単独型の短期入所が黒字になるために必要な稼働率の水準と、その稼働率を下げるための方法を整理します。
損益分岐点の考え方。固定費÷(1日の収入-変動費)が基本
損益分岐点の計算の基本式は次の通りです。
| 項目 | 短期入所での内容 |
|---|---|
| 固定費 | 管理者給与・家賃・光熱費(利用者がいなくても発生する) |
| 変動費 | 利用日数が増えるにつれて増える人件費・食材費 |
| 1日の収入 | 1日あたりの報酬単価(障害支援区分・加算で変わる) |
損益分岐点(利用日数)= 固定費 ÷(1日の収入 ― 変動費)
短期入所の場合、「1日の収入」は障害支援区分によって異なります。区分6の宿泊型は1日923単位、区分1・2は509単位です(令和6年度報酬改定後)。区分が高いほど1日単価が上がるため、利用者の区分構成が損益に直接影響します。
定員6人・単独型だと、24時間単独配置では満床でも赤字になる
単独型の短期入所(省令171第115条第3項)の生活支援員の員数は、「その日の利用者数が6人以下なら1人以上」です。
24時間・365日サービスを提供する場合、1人の生活支援員を1日中配置し続けると、常勤換算で約4.5人分が必要になります(24時間×30日÷(月160時間))。生活支援員の給与を月25万円とすると、その人件費だけで月112万円以上になります。
定員6人の単独型で、利用者が区分4(宿泊型818単位)と仮定すると、1日あたりの収入は概算で次の通りです。
| 条件 | 試算値 |
|---|---|
| 1日の単価(区分4・宿泊型) | 818単位+単独型加算320単位=1,138単位 |
| 地域区分10円換算・1人あたり1日 | 約11,380円 |
| 満床(定員6人×30日)の月収入 | 約205万円 |
| 人件費(常勤換算4.5人・月25万×4.5) | 約113万円 |
| その他固定費(家賃・管理者・光熱費) | 約60万円(想定) |
| 満床の月収支(概算) | 約+32万円(収支差率15%) |
上の試算は利用者が区分4・常勤換算の人件費が低めの場合です。もし区分が低い(区分1・2:509単位)、または人件費が高い場合は、満床でも赤字になる条件が十分あります。
特に、24時間の職員を単独で揃える(省令第115条第3項の第2号の形)場合は、固定費が非常に重くなります。これが「定員6人・単独型24時間の職員だけで回す形では満床でも赤字」になりやすい理由です。
本体と職員を合算できる形(第1号)にすると、損益分岐点は稼働率72%程度になる
省令171第115条第3項には、「第1号」と「第2号」の2つの形があります。
- 第1号:本体事業(グループホーム・生活介護等)の職員と合算して員数を満たす形。本体の職員が夜間対応している時間を短期入所の職員に充てることができます。
- 第2号:24時間、短期入所専用の職員で員数を揃える形。
第1号の形を取れる場合、例えば本体で夜間に職員が常駐している事業所が隣接しているなら、その人員を共用できます。夜間の人件費の一部を本体と按分できるため、短期入所だけに乗る固定費が減ります。
試算では、この形を取ると損益分岐に必要な稼働率が72%程度まで下がります(満床100%ではなく、定員6人のうち4〜5人が利用している状態で黒字化できる)。
詳しい人員基準の考え方は、以下の記事で整理しています。
→ 短期入所の人員基準。利用者6人に1人の計算の根拠と、24時間の配置の考え方。
定員を増やすと1人あたりの固定費は下がるが、20人以上で大規模型減算がかかる
定員を増やすと、同じ固定費を多くの利用人数で割れるため、1人あたりの固定費は小さくなります。ただし、定員が一定規模を超えると報酬上の規定が変わる場合があるため、告示523号の詳細と指定権者(都道府県・政令市)に確認してください。
| 定員規模 | 人員基準(生活支援員)の目安 |
|---|---|
| 1〜6人 | 1人以上 |
| 7〜12人 | 2人以上 |
| 13〜18人 | 3人以上 |
※省令171第115条第3項第2号に基づく目安。6人ごとに1人の割合で増えます。
定員を7〜12人に設定する場合、生活支援員が2人以上必要になります。1人から2人に増えるタイミングでコストが階段状に上がるため、「定員6人で黒字化できない」ならば「定員13人以上を狙う」という戦略になりやすいです(6人→7人にすると人件費が一気に増えるため)。
障害支援区分の構成が1日単価を変える。区分6は区分1・2の約1.8倍
短期入所の基本報酬は障害支援区分によって異なります。区分6の宿泊型は1日923単位、区分1・2は509単位です。
| 障害支援区分 | 宿泊型(単独型)1日単価 |
|---|---|
| 区分1・2 | 509単位 |
| 区分3 | 590単位 |
| 区分4 | 818単位 |
| 区分5 | 873単位 |
| 区分6 | 923単位 |
※単独型加算(320単位/日)は別途加算。上記は基本報酬のみ。出典:障害福祉サービス等報酬告示523号。
区分5・6の利用者が1日の利用者数全体の50%以上を占める場合には、「重度障害児・障害者対応支援加算(30単位)」も算定できます。
区分が高い利用者を受け入れることで1日単価が上がり、損益分岐に必要な稼働率を下げることができます。ただし、区分5・6の方の対応にはより多くの支援スキルと人手が必要なため、人件費も比例して増える点に注意が必要です。
全国平均データ。収支差率2.3%は空床利用型を含む数字
令和7年経営概況調査(令和6年度決算)による短期入所の全国平均データは次の通りです。
| 区分 | 事業所数(n) | 収入(月) | 収支差率 | 定員(平均) |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 337 | 880万円 | 2.3% | 7人 |
| 定員20人以下 | 323 | 865万円 | 1.2% | 5人 |
この数字で重要な点が2つあります。
1つ目は、この平均は単独型だけの数字ではないということです。グループホームや生活介護と同一法人が運営する空床利用型(既存の施設の空きベッドを活用する形)や医療型も含まれています。空床利用型は既存の設備を流用するため、固定費が単独型より低くなりやすいです。
2つ目は、収支差率1.2%(定員20人以下)は黒字の状態ではあるが、利益率としてはきわめて低いことです。月収入865万円の1.2%は約10万円です。固定費が少しでも増えれば、すぐ赤字に転じます。
損益分岐前の資金繰りリスク。開業直後は稼働率が低く、毎月赤字が続く
損益分岐点の稼働率を把握することと、その稼働率に到達するまでの期間を乗り切るための資金計画は、別の問題です。
短期入所は、開業直後に満床になることはほとんどありません。利用者の受け入れは相談支援専門員・市区町村・家族との調整が必要で、契約から利用開始まで一定の時間がかかります。開業後3〜6ヶ月は稼働率が損益分岐点を下回ることが多く、その間は毎月赤字が続きます。
開業資金の計画では、損益分岐に達するまでの期間(6〜12ヶ月程度)の赤字額を手持ち資金で賄えるかどうかを確認する必要があります。
資金の準備については、以下の記事で整理しています。
→ 短期入所の採算。人員の配置の形が変わると、黒字化に必要な稼働率が変わる理由。
損益分岐点の稼働率を下げる3つの方法
以下の3つが、損益分岐に必要な稼働率を下げるための主な手段です。
1. 本体事業と職員を合算できる形(省令第1号)を選ぶ
グループホーム・生活介護・就労継続支援などの本体事業を既に持っている法人が短期入所を新設する場合、本体の夜間職員と合算できる第1号の形を選べることがあります。人件費の按分によって短期入所だけに乗る固定費が減ります。
2. 区分の高い利用者を積極的に受け入れ、1日単価を上げる
区分5・6の方を受け入れると1日単価が上がります。重度障害児・障害者対応支援加算(区分5・6等が50%以上で30単位/日)も算定できます。ただし、対応に必要なスキルと人員の確保が先決です。
3. 定員は6人の倍数で設計する(7〜12人は人件費が急増する)
定員を6人から7人に増やした瞬間に、生活支援員の員数が2人以上に増えます。7〜12人の定員帯は人件費が増えるのに収入の増え方が追いつかず、かえって損益分岐点が上がることがあります。定員を6人か、13人以上に設定する方が損益的には有利なケースが多いです。
シミュレーターで自分の条件を試してみる
上で示した試算は、定員・職員の配置形態・地域区分・利用者の区分構成の条件によって大きく変わります。自分の事業所の条件で損益分岐点を確かめるには、シミュレーターで入力値を変えながら確認するのが早道です。
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▶ 短期入所 開業向け収支シミュレーター
加算の一覧については、以下の記事で整理しています。
→ 短期入所で取れる加算の一覧。単独型加算・短期利用加算・重度対応加算の条件。
横断比較(6サービス)の損益分岐点については、以下の記事で整理しています。
→ 福祉サービスの損益分岐点。訪問介護・短期入所・GHなど6サービスの比較。
この記事の出典
- 厚生労働省「令和7年 障害福祉サービス等経営概況調査結果(令和6年度決算)」(2025年)
第48回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」資料 - 「障害福祉サービスの基本報酬及び加算・減算に係る算定構造」(令和6年度報酬改定告示523号・別表第7の1)
(e-Gov・令和6年度改定版)e-Gov 法令検索電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。 - 「指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(省令171)第115条第3項・第117条・第120条
- 「指定障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準」(告示523号)
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