就労移行支援の法人別収支差率、社会法人11.7% vs 営利法人2.6%の差が生まれる理由

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厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)によると、就労移行支援の収支差率は社会法人11.7%・NPO法人8.8%に対して、営利法人2.6%です。同じ就労移行支援サービスで9ポイント以上の差が生じている背景を整理します。

就労移行支援の法人形態別収支差率

法人形態 事業所数 平均年収入 収支差額 収支差率
その他 52件 2,510万円 389万円 15.5%(参考)
社会法人(他含む) 76件 1,235万円 144万円 11.7%
NPO法人 32件 2,065万円 182万円 8.8%
営利法人 136件 4,129万円 107万円 2.6%

営利法人が最多(136件・全体の45%)で最低の収支差率(2.6%)です。社会法人は収入規模1,235万円と小さいながら、11.7%の高い収支差率を実現しています。

社会法人が高い収支差率を実現している理由

定員が小さく人件費効率が高い:社会法人の平均年収1,235万円は就労移行支援の全体平均2,878万円を大幅に下回ります。定員も10人前後と小規模な事業所が多く、支援員の配置も最低限で運営できるため、人件費率が低くなります。小規模・少人数で高い支援の質を維持しながら、費用を抑えた経営ができている状態です。

就労実績・就職率が高く、実績加算を取得している:就労移行支援には「就労移行支援体制加算」(就職後6ヶ月定着した者の割合に応じた加算)があります。長年にわたり地域の企業と連携して就職実績を積み上げてきた社会法人系の事業所は、この加算の取得率が高い傾向があります。加算収入が収支差率を押し上げている可能性があります。

施設の設備投資が完了している:設立から年数が経っている社会法人の事業所は、訓練用設備(パソコン・機材等)の初期投資が終わっており、減価償却費や設備維持費が低い水準にとどまっています。

営利法人の就労移行支援が低収益にとどまる理由

規模は大きいが稼働率が低い傾向:営利法人の平均年収4,129万円は社会法人(1,235万円)の3倍以上ですが、収支差率は2.6%です。定員20〜30人規模の大型事業所が多い一方で、利用者の確保・就職実績の積み上げに時間がかかる立ち上げ期の事業所が多く含まれていると考えられます。

多店舗展開による管理費の増加:営利法人は複数の就労移行支援事業所を展開する事業者が多く、本部管理費・スーパーバイザー人件費・マーケティング費用等が各事業所に按分されます。これが「その他費用」を押し上げる要因になります。

設備投資コストが高い:訓練に使うパソコン・タブレット・専用ソフトウェアの整備は、営利法人の大規模事業所では設備投資が大きくなります。立ち上げ後数年は減価償却費・リース料が費用を押し上げます。

就労移行支援の収支差率を改善する視点

就労移行支援の収支差率改善には「稼働率の向上」と「就職率加算の取得」の2軸が重要です。

稼働率の向上:就労移行支援の平均稼働率はWAM参考値で69.7%と7サービス中で最も低い水準です(放デイ87.8%、生活介護84.2%と比べて大幅に低い)。定員20人の事業所で稼働率69.7%(約14人)を80%(16人)に改善すると、年間約360万円の収入増加になります(28,784千円÷69.7%×10.3%)。

就職実績の蓄積による加算取得:「就労移行支援体制加算」は就職後6ヶ月定着した利用者数に応じて算定されます。前年度の就職・定着実績が今年度の加算収入に直結するため、毎年の就職率を高めることが収支改善の長期的な柱になります。

営利法人の事業所が社会法人並みの11%台に近づくためには、稼働率80%以上の確保と就労実績加算の取得が現実的な改善ルートです。

就労移行支援の法人別・規模別の比較から見る改善シナリオ

就労移行支援の収支差率は、法人形態と定員規模(収入規模)が複合的に影響します。社会法人は小規模(平均年収1,235万円・定員6〜7人程度)で高い収支差率(11.7%)を実現する一方、営利法人は大規模(平均年収4,129万円・定員20人前後)で低い収支差率(2.6%)です。

この違いを理解した上で、営利法人の就労移行支援が改善を目指す場合の試算をします。定員20人・年収4,129万円の営利法人事業所で稼働率を69.7%から80%に改善すると:

収入増加 = 4,129万円 ÷ 69.7% × 10.3% ≒ 611万円(年間)

費用が固定のまま収入が611万円増加すると、収支差率は2.6%(107万円)から約7.4%(718万円)に改善します。さらに就労実績加算(就職後定着者数×加算単価)が取得できれば、社会法人並みの10%台が射程に入ります。就労移行支援の収支改善は「稼働率向上」と「就労実績の積み上げ」という2年〜3年の中期的な取り組みが鍵になります。

なお、「その他」法人(n=52、収支差率15.5%)は、医療法人・社会福祉法人以外の特定非営利活動法人が含まれる場合があります。社会福祉協議会が運営する就労移行支援もこの区分に入ることがあり、地域特性や行政との連携による安定した利用者確保が高い収支差率(15.5%)を実現しているケースがあります。自事業所が「その他」に該当する場合も、この平均値を参考指標として活用できます。

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出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)、福祉医療機構(WAM)経営分析参考指標2023年度決算。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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