障害福祉サービスの処遇改善加算、サービスによって率が違う理由。

障害福祉サービスを開設・運営するとき、処遇改善加算を届け出ることで、報酬に上乗せを受けられます。職員の賃金を上げるための加算で、令和6年4月(2024年4月)からは旧来の3種類(福祉・介護職員処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算)が一本化され、新たな「処遇改善加算」として再編されました。

この記事では、処遇改善加算の仕組みと、各サービスで率が異なる理由を整理します。数字は告示(厚生労働省 令和6年3月厚生労働省告示第523号)にもとづいています。

処遇改善加算の仕組み

処遇改善加算は、毎月の報酬(基本報酬+その他の加算)に対して、一定の率を乗じる形で算定されます。

たとえば月収入が200万円の事業所が区分Iイを取得した場合、加算率によって以下の金額が収入に追加されます(加算率を仮に10%とした場合)。

  • 月の基本報酬等:200万円
  • 処遇改善加算(10%):20万円
  • 合計収入:220万円

この20万円は、職員への賃金改善に充てることが前提です。事業所の収益として留保することはできません。

取得できる区分はIイ・Iロ・IIイ・IIロ・III・IVの6段階で、上位区分ほど率が高く、取得に必要な要件も増えます。

区分ごとの要件

区分ごとの主な要件の違いは次のとおりです。

区分 主な要件
IV 賃金改善要件Ⅱ(月額1万円以上の賃上げ方針)のみ
III 賃金改善要件Ⅱ+職場環境等要件(選択制・3区分以上)
IIイ・IIロ III要件+職場環境等要件(計5区分以上、うち1区分は義務分野)。ロはイより職場環境等要件の義務分野が1区分多い
Iイ・Iロ IIイ・IIロ要件+賃金改善要件Ⅰ(加算額の3分の2以上を月給・基本給に充てる)。ロはイより職場環境等要件の義務分野が1区分多い

「イ」と「ロ」の違いは、職場環境等要件の達成状況によるものです。「ロ」は「イ」より職場環境等要件の義務分野を1区分多く達成する必要があります。

職場環境等要件の具体的な内容

区分Iを取得するためには、職場環境等要件として定められた複数の区分を達成する必要があります。職場環境等要件は以下の5分野に分類されています。

  • 入職促進に向けた取組:ハローワーク等との連携・職場体験・インターン受け入れなど
  • 資質の向上やキャリアアップに向けた支援:研修計画の策定・資格取得支援・OJT体制の整備など
  • 両立支援・多様な働き方の推進:子育て支援・介護との両立・短時間勤務の導入など
  • 腰痛を含む疾病の発生予防・早期対応:腰痛予防・健康管理・ストレスチェックの活用など
  • 生産性の向上のための取組:ICT・介護ロボットの導入・記録の電子化・業務改善など

区分IIイには5区分以上の達成が必要で、そのうち1区分は義務分野(厚生労働省が指定した分野)から選ぶ必要があります。区分Iイも同様の構成で、義務分野の数が変わります。

開業前に「何を取り組むか」を決め、就業規則や研修計画に盛り込んでおくことで、指定申請と同時に加算の届出ができる状態を作れます。

サービス別の加算率(令和6年4月以降)

処遇改善加算の率は、サービスの種類によって異なります。同じ区分Iイでも、放課後等デイサービスと生活介護では率が大きく違います。

告示で定められた各サービスの加算率は次のとおりです。

サービス IV III IIイ IIロ Iイ Iロ
放課後等デイサービス 11.9% 14.2% 15.2% 15.8% 15.5% 16.1%
児童発達支援 11.9% 14.2% 15.2% 15.8% 15.5% 16.1%
障害者グループホーム 12.1% 14.4% 16.0% 16.6% 16.3% 16.9%
短期入所 14.2% 16.5% — — 18.6% 19.3%
就労移行支援 8.1% 9.8% 11.3% 11.7% 11.5% 11.9%
就労継続支援A型 7.5% 9.1% 10.6% 11.0% 10.8% 11.2%
就労継続支援B型 7.4% 8.8% 10.3% 10.7% 10.5% 10.9%
生活介護 6.7% 7.9% 9.2% 9.6% 9.3% 9.7%
計画相談支援 3.8% 4.6% 5.2% 5.4% 5.3% 5.5%

※短期入所のIIイ・IIロは告示上で設定がありません。計画相談支援の率は令和8年6月施行分(令和6年度改定の一部)です。
出典:厚生労働省 令和6年3月厚生労働省告示第523号(令和6年4月施行)

なぜサービスによって率が違うのか

処遇改善加算は、基本報酬に対する「率」として設計されています。したがって同じ率であれば、基本報酬が高いサービスほど加算の金額が大きくなります。

率がサービスによって異なる理由は、各サービスの報酬水準と、職員の人件費が収入に占める割合のバランスを調整しているためです。厚生労働省は各サービスの実態調査(経営実態調査)をもとに、処遇改善のために必要な財源として確保すべき率を設定しています。

生活介護の率が相対的に低い理由

生活介護は基本報酬が障害支援区分・定員・所要時間の3軸で設定されており、区分6・所要時間8時間以上の組み合わせでは1日当たりの報酬単価が高い水準にあります。基本報酬が高いため、低い率でも職員への配分額は他サービスと同等かそれ以上になるよう設計されています。

短期入所の率が高い理由

24時間体制で職員を配置する必要があり、夜間の宿直・夜勤職員の人件費が大きく、人件費の収入に占める割合が他サービスより高い構造になっています。また基本報酬の単価は1日当たりの計算のため生活介護ほど高くはなく、同じ金額を職員に届けるために率を高く設定する必要があります。

就労継続支援A型・B型の率が低い理由

就労継続支援は工賃(A型は賃金)の支払いという独自のコスト構造があります。報酬の一部が利用者への工賃・賃金に充てられるため、職員の処遇改善に回せる報酬の余地が設計上異なります。利用者への支払いと職員の処遇改善の両立を図る構造のため、率が抑えられています。

加算取得による収入増加の計算例

区分IVと区分Iイでは、同じ事業所でも収入に大きな差が生じます。放課後等デイサービスを例に計算します。

前提:月の基本報酬等(加算前)= 250万円

  • 区分IVを取得した場合(11.9%):250万円 × 11.9% = 約29.8万円の加算収入
  • 区分Iイを取得した場合(15.5%):250万円 × 15.5% = 約38.8万円の加算収入
  • 差額:約9万円/月 = 年間で約108万円の差

生活介護の場合(月の基本報酬等250万円):

  • 区分IVを取得した場合(6.7%):250万円 × 6.7% = 約16.8万円の加算収入
  • 区分Iイを取得した場合(9.3%):250万円 × 9.3% = 約23.3万円の加算収入
  • 差額:約6.5万円/月 = 年間で約78万円の差

加算収入は全額が職員への賃金改善に充てる必要がありますが、加算なしで職員を採用・定着させようとすると事業所の収支から賃上げ原資を捻出する必要があります。加算の取得は「職員に払う賃金の財源を公費で補填してもらう仕組み」と理解すると、取得するメリットが明確になります。

小規模事業所で区分Iを取ることの難しさ

区分Iを取得している事業所の割合は、サービスによって異なります。厚生労働省の調査によると、放課後等デイサービスや障害者グループホームでは一定割合の事業所が区分Iを取得していますが、就労継続支援A型・B型では区分IVや区分IIIにとどまる事業所が少なくありません。

小規模な事業所が区分Iの取得を難しいと感じる主な理由は次の3点です。

給与規程の整備に手間がかかる

区分Iは賃金改善要件Ⅰとして「加算額の3分の2以上を月給・基本給・毎月支払われる手当に充てる」ことが求められます。これを実現するためには、給与規程を改定し、処遇改善に連動した賃金テーブルを設計する必要があります。社会保険労務士に依頼する費用(1〜3万円程度)が発生することもあります。

職場環境等要件の達成と記録が必要

職場環境等要件として定められた取り組みを「実際に行っていること」を示す記録が必要です。研修計画書・実施記録・ICTの導入実績など、書類が増えます。経営者が事務作業に割ける時間が少ない小規模事業所では、この書類管理が負担になることがあります。

賃金改善計画と実績の管理が毎年必要

加算の届出は1回すれば終わりではなく、毎年度の計画書提出と実績報告書の提出が義務付けられています。加算の算定額と賃金改善実績がずれると返還が発生するリスクもあるため、適切な管理が求められます。

それでも区分IVと区分Iイの差は、放課後等デイサービスで年間100万円以上になることもあります。長期的に事業を運営するうえでは、最初は区分IVから始め、体制が整った段階で上位区分へ移行することを目指すのが現実的です。

開業初年度の加算取得スケジュール

新規に開業する事業所が処遇改善加算を算定するためには、開業前から届出の準備を進める必要があります。

時期 対応すること
開業3か月前〜 取得する区分を決め、給与規程に賃金改善の方針を盛り込む
開業2か月前〜 職場環境等要件の取り組み計画を文書化する(研修計画など)
開業1か月前〜 指定権者に加算の届出書類(計画書)を提出する(開業月の前々月末が多くの場合の期限)
開業月〜 処遇改善加算の算定を開始。職員への賃金改善の実施記録を残す
翌年度7月末まで 処遇改善加算の実績報告書を提出する

指定申請の際に処遇改善加算の届出もあわせて行うことで、開業月から加算の算定が可能になります。指定権者によっては、指定申請書と同時に加算の届出書類を受け付ける場合があります。事前に担当窓口に確認することをすすめます。

区分Iを取るための「賃金改善要件Ⅰ」について

区分IとIVの間には、取得要件に大きな差があります。中でも区分Iだけに必要な「賃金改善要件Ⅰ」は、加算額の3分の2以上を月給・基本給・毎月決まって支払われる手当に充てることを求めるものです。

一時金(賞与)として支払う方法では、この要件を満たすことができません。区分Iを目指す場合は、給与規程の改定が伴います。

開業前から「どの区分を目指すか」を決めたうえで給与水準を設計することが現実的です。区分IVから始めて翌年度に区分Iへ移行する方法もありますが、1年分の加算収入の差が生じます。可能であれば開業時から区分IIイ以上を取得することを目指すと収入の最大化につながります。

届出のタイミングと流れ

処遇改善加算の算定には、毎年度、指定権者への届出が必要です。主な流れは次のとおりです。

  • 4月から算定を開始する場合:前年度の3月末(多くの都道府県・市区町村は3月15日前後)までに「処遇改善計画書(賃金改善計画書)」を提出します。
  • 年度途中から算定を開始する場合:算定を開始する月の前々月の末日が届出期限です(例:6月から算定を始める場合は4月末)。
  • 年度末の実績報告:算定した加算の実績を翌年度の7月末(または指定権者の指定する日)までに報告します。

届出が遅れると、その期間は加算を算定できません。特に開業初年度は、指定申請の準備と並行して処遇改善加算の届出も進める必要があります。開業月から加算を算定するためには、指定を受ける前から計画書を準備しておく必要があります。

実績報告で注意すること

処遇改善加算は、算定した後に実績報告書の提出が義務付けられています。実績報告では「計画書で示した賃金改善が実際に行われたか」を確認します。

主な確認ポイント:

  • 加算総額(年間で算定した処遇改善加算の合計)と実際に賃金改善に充てた金額が一致しているか
  • 加算の3分の2以上が月給・基本給・毎月支払われる手当に充てられているか(区分Iの場合)
  • 賃金改善の対象職員が正しく設定されているか

実績報告で「計画より賃金改善が少なかった」場合、加算の一部を返還する必要があります。年度中に職員が退職した場合や採用が遅れた場合でも、加算額と賃金改善額のバランスを管理しておく必要があります。

小規模な事業所では、経営者が自ら計画書・実績報告書を作成するケースが多いです。書式は各都道府県・市区町村が公表しているため、指定権者に確認することを強くすすめます。

処遇改善加算を取得した場合の「手取り収益」について

処遇改善加算を算定した場合、加算収入がそのまま事業所の利益になるわけではありません。加算収入は原則として職員への賃金改善に充てる義務があるため、実質的には「職員への賃金財源を公費で補填してもらう仕組み」です。

一方で、加算を取得することで「採用・定着しやすくなる」という間接的な効果があります。同じ資格・経験の職員を募集する場合、処遇改善加算で給与を底上げしている事業所のほうが採用競争力が高くなります。開業後の利用者の安定確保には職員の安定が欠かせないため、加算の取得は採算に直接影響します。

また、処遇改善加算は収入に加算される形のため、事業所の「収支差率」の計算上は収入に含まれます。加算を取得している事業所ほど見かけ上の収支差率が高くなる傾向があります。厚生労働省の経営実態調査の数値(生活介護の収支差率9.0%等)は加算を含む収入ベースの数値です。

収支シミュレーターでの確認について

処遇改善加算を算定すると、その分だけ収入が増えます。同時に、職員への賃金改善という支出も増えます。加算を取ることで「純粋に収支が改善するか」は、職員の賃金水準・人員体制・加算の区分によって変わります。

当サイトの収支シミュレーターでは、処遇改善加算の区分を選択すると、その率を加味した収入の試算ができます。開業前に「加算を取った場合と取らない場合」の収支を比較する際に使えます。

福祉事業の開業と運営(サービス別収支シミュレーター・開業ガイド一覧)

出典:厚生労働省 令和6年3月厚生労働省告示第523号(令和6年4月施行)、厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について」

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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