ケアマネ事務所(居宅介護支援事業所)の開業を検討しているが、個人事業主のまま始めることはできないかと考えている方がいます。結論から言うと、居宅介護支援事業所の指定を受けるためには法人格が必要です。個人事業主として指定を取ることはできません。
この記事では、なぜ法人格が必要なのかという制度的な根拠を整理し、法人設立の選択肢(合同会社・株式会社・NPO法人・社会福祉法人・医療法人)の特徴と費用の目安を説明します。
すぐにご利用されたい方は、こちらからどうぞ。→ 居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)の開業 収支シミュレーター
居宅介護支援事業所の指定に法人格が必要な根拠
介護保険法第79条は、居宅介護支援を行う事業者を市区町村長(2018年の地域包括ケア強化法改正後、居宅介護支援の指定権限は市区町村に移管)が指定するとしています。
介護保険法第79条(居宅介護支援の指定の根拠条文)は、指定居宅介護支援事業者の指定要件として法人格を定めています。これにより、個人事業主として居宅介護支援事業所の指定を受けることはできません。
同様のルールは訪問介護・通所介護などほかの介護保険サービスにも適用されており、介護保険の指定事業者になるには法人格の取得が前提になっています。
法人設立の主な選択肢
| 法人形態 | 設立費用の目安 | 設立の手間 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 合同会社(LLC) | 6〜10万円 | 比較的少ない | 設立費用が安い・定款認証不要・出資者=社員が経営権を持つ。中小規模の介護事業所に多い選択肢 |
| 株式会社 | 20〜30万円 | 中程度 | 知名度・信頼感がある・設立費用は合同会社より高い・定款認証(5万円)が必要。複数人で出資する場合や将来の事業拡大を見据える場合に選ばれる |
| NPO法人 | 数千円〜1万円程度 | 多い(所轄庁の認証に2〜4か月) | 設立費用は安い・非営利でも剰余金を給与として支払うことは可能・運営の透明性の要件あり。社会的使命を前面に出したい場合に選ばれる |
| 社会福祉法人 | 数百万円〜(基本財産の要件あり) | 非常に多い | 認可までの審査が厳しい・基本財産の要件がある。ケアマネ事務所単独の開業には向かない |
| 医療法人 | 既存の医療法人内に開設(別途設立費用は不要) | 医療法人が既にある場合のみ | クリニックや診療所に附属する形でのケアマネ事務所設置に使われる。新規に医療法人を設立してケアマネ事務所を開くケースは少ない |
ひとりまたは少人数でケアマネ事務所を開業する場合、設立費用の安さと手続きのシンプルさから合同会社を選ぶケースが多いです。株式会社は対外的な信頼感や事業拡大の可能性を重視する場合に選ばれます。
合同会社と株式会社の設立費用の内訳
合同会社(LLC)の場合
| 費目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 定款に貼る収入印紙 | 4万円 | 電子定款を利用すると0円になる |
| 定款認証手数料 | 0円 | 合同会社は定款認証不要 |
| 登録免許税 | 6万円(資本金の0.7%・下限6万円) | 資本金が少ない場合でも6万円が下限 |
| 司法書士・行政書士への依頼費用 | 5万円〜10万円 | 自分で行う場合は不要。ただし時間と手間がかかる |
| 合計(電子定款・自己申請の場合) | 6万円程度〜 | 専門家に依頼する場合は11〜16万円程度 |
株式会社の場合
| 費目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 定款に貼る収入印紙 | 4万円 | 電子定款を利用すると0円 |
| 定款認証手数料(公証人) | 3万〜5万円 | 資本金額によって異なる。電子定款でも認証は必要 |
| 登録免許税 | 15万円(資本金の0.7%・下限15万円) | 資本金が少ない場合でも15万円が下限 |
| 司法書士・行政書士への依頼費用 | 5万円〜10万円 | 自己申請の場合は不要 |
| 合計(電子定款・自己申請の場合) | 19万円程度〜 | 専門家に依頼する場合は24〜30万円程度 |
法人設立と介護保険の指定申請の順序
開業の流れは、法人設立が先で、指定申請はその後になります。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 法人設立 | 合同会社・株式会社等の法人を設立し、登記を完了する。設立時の定款の「事業目的」に介護保険サービスに関する内容を入れておく |
| 2. 事前相談 | 事業所を設置する市区町村の介護保険担当窓口(指定権限が市区町村に移管後)に事前相談を行う |
| 3. 指定申請書類の準備 | 定款・登記事項証明書・介護支援専門員証の写し・平面図・運営規程等を準備する |
| 4. 指定申請の提出 | 申請受付日・指定日は市区町村によって毎月または毎年決まっている場合が多い |
| 5. 指定書の受領・開業 | 指定が下りたら事業を開始できる。開業月から介護報酬の請求が可能になる |
定款の「事業目的」には、指定申請に関係する事業内容が含まれている必要があります。「居宅介護支援事業」「介護保険法に基づく指定居宅介護支援事業」などの記載を入れておきます。後から目的を追加することはできますが、変更登記の費用と手間がかかるため、設立時に含めておく方が効率的です。
資本金はいくら必要か
株式会社・合同会社の設立に際して、資本金の下限は法律上は1円です。ただし、実務上の観点から資本金の設定は慎重に行う必要があります。
ケアマネ事務所の開業にあたっては、開業から売上が安定するまでの数か月分の運転資金が必要です。担当件数がゼロからスタートして損益分岐点を超えるまでの期間(一般的に6か月〜1年程度)の固定費(賃料・通信費・社会保険料等)を資本金に含めて設立するか、開業後に融資を活用して手当する計画が一般的です。
資本金の額は法人の信用力にも影響する場合があります。取引先や国保連への請求等の場面では直接影響しませんが、取引銀行口座の開設時などに資本金の額を確認されることがあります。
NPO法人を選ぶ場合の注意点
NPO法人は、設立時の登録免許税が不要であるため費用が低く抑えられます(ただし登録免許税0円は法律上の扱いで、その他の実費はかかります)。
ただし、NPO法人の設立には所轄庁(都道府県または指定都市・中核市)による認証が必要で、認証を受けるまでに2〜4か月かかります。設立後も毎年の事業報告書の提出や、社員名簿の公開義務など、透明性を確保するための運営上の要件があります。
NPO法人を選ぶ場合は、設立費用の安さだけでなく、設立期間の長さと運営上の手間も踏まえた検討が必要です。
まとめ
居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)の開業には、法人格の取得が必須です。個人事業主のままでは介護保険法の指定を受けることができません。
最も選ばれる選択肢は合同会社(設立費用6万円〜)と株式会社(設立費用20万円〜)です。ひとり・少人数で開業する場合は設立費用の安い合同会社が多く選ばれます。法人設立後に事業所の所在市区町村に指定申請を行い、指定が下りた月から開業・請求が可能になります。
出典:介護保険法第79条(指定居宅介護支援事業者の指定)、会社法第575条・第575条の2(合同会社)、商業登記法、特定非営利活動促進法(NPO法)
開業後の収支の見込みをご自身で確認されたい方は、シミュレーターをご利用ください。→ 居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)の開業 収支シミュレーター


コメント