ひとりケアマネ事務所の損益分岐点。何件担当すれば黒字になるか。

ひとりケアマネ事務所の損益分岐点。何件担当すれば黒字になるか。 介護

ひとりで運営するケアマネ事務所(居宅介護支援事業所)は、人件費の大半が自分ひとり分のため、固定費が比較的低く抑えられます。しかし「何件担当すれば黒字になるか」という損益分岐点を把握しておかないと、開業後に資金が底をつくリスクがあります。

この記事では、ひとりケアマネ事務所の損益分岐点の計算方法と、黒字経営を維持するために必要な担当件数の目安を整理します。

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収入の構造:担当件数に比例する介護報酬

居宅介護支援事業所の収入の大部分は、介護保険からの居宅介護支援費です。利用者1人ひとりに対してケアプランを作成し、毎月モニタリングを行うことで報酬が発生します。

令和8年6月改定の報酬(告示第125号)では、担当件数が45件未満の場合の居宅介護支援費Ⅰは、要介護1・2が1,086単位/月、要介護3・4・5が1,411単位/月です。担当件数が45件以上になると逓減制(費Ⅱ)が適用され、単価が下がります。

標準的な地域区分(1単位10円)で計算すると、1人あたりの月収入の目安は次のとおりです。

1人あたりの居宅介護支援費の目安(令和8年6月改定後)
区分 担当件数条件 単価(1単位10円の場合)
居宅介護支援費Ⅰ(要介護1・2) 45件未満 10,860円/月
居宅介護支援費Ⅰ(要介護3・4・5) 45件未満 14,110円/月
居宅介護支援費Ⅱ(要介護1・2) 45件以上 減算後の単価(告示参照)

実際には要介護1〜5の構成比によって1人あたりの平均単価が変わります。参考として、要介護1・2が6割・3〜5が4割の構成比を仮定すると、1人あたりの平均月収入は約12,160円程度になります(1,086×0.6×10+1,411×0.4×10=12,160円)。

費用の構造:ひとりケアマネ事務所の固定費

ひとりで運営するケアマネ事務所の固定費の主な構成要素と一般的な目安は次のとおりです。

ひとりケアマネ事務所の月間固定費の目安
費目 月額目安 備考
事務所賃料 0〜8万円 自宅開業なら0円、テナントを借りる場合は3〜8万円程度
通信費(電話・インターネット) 1〜2万円 固定電話・モバイル・回線費用
ケアプラン作成ソフト 5千〜2万円 ソフトによって異なる
国保連請求ソフト・電子請求 0〜1万円 一体型ソフトなら別途不要の場合も
交通費(訪問・研修) 1〜2万円 担当件数・訪問先の距離による
消耗品・印刷費 5千〜1万円 ケアプランの印刷・文房具等
社会保険料(個人事業の場合) 2〜3万円 国民健康保険・国民年金の目安
法人の場合の会計費用 1〜2万円 税理士への顧問料(月次なし・年次申告のみの場合)

自宅開業の場合、賃料がかからないため固定費合計は月15〜20万円程度になることが多いです。事務所を別途借りる場合は月25〜30万円程度になります。

損益分岐点の計算

損益分岐点は「毎月の固定費 ÷ 1人あたりの平均月収入」で求めることができます。

自宅開業の場合(固定費月20万円・平均単価1万2千円と仮定)

200,000円 ÷ 12,000円/件 = 約17件

この場合、担当件数17件が損益分岐点になります。ここから事業主の生活費を確保するためには、さらに利益が必要です。

テナント開業の場合(固定費月25万円・平均単価1万2千円と仮定)

250,000円 ÷ 12,000円/件 = 約21件

生活費も含めた実質的な採算ラインの計算

損益分岐点はコスト回収の最低ラインに過ぎません。ひとりでケアマネ事務所を運営している場合、事業の利益がそのまま生活費になります。

月の生活費として25〜35万円を確保したい場合の目安を試算します。

生活費込みの採算ラインの目安(1単位10円・平均単価1万2千円の場合)
必要な月収(固定費+生活費) 必要な担当件数(目安)
固定費20万円+生活費25万円=45万円 約38件
固定費20万円+生活費30万円=50万円 約42件
固定費25万円+生活費25万円=50万円 約42件
固定費25万円+生活費30万円=55万円 約46件

この試算では、担当件数が25〜30件の時点でも事業としてのコスト回収はできていますが、生活費を十分に確保するには40件前後が現実的な採算ラインになることがわかります。

逓減制(45件・60件の壁)との関係

担当件数が45件を超えると、逓減制により1人あたりの単価が下がります(居宅介護支援費Ⅱ)。さらに60件以上になると、費Ⅲとしてさらに減算されます。

ひとりで運営する場合、物理的に対応できる件数にも限界があります。担当件数が45件を超えると逓減制(費Ⅱ)が適用されるため、ひとりで運営する事業所では45件前後が実質的な上限の目安となります。

ただし、ICT(タブレット・システム)の活用による業務効率化を届け出ることで、45件を超えても費Ⅱではなく費Ⅰの単価を維持できる要件があります(令和8年6月改定より)。

収入を増やすもうひとつの方法:加算の積み上げ

担当件数を増やすことだけが収入を増やす方法ではありません。各種加算の算定要件を満たすことで、担当件数を変えずに収入を増やすことができます。

ひとりケアマネ事務所でも算定しやすい主な加算の目安を示します。

算定しやすい主な加算(令和8年6月改定後・1単位10円)
加算名 単位数 1件あたりの月収への影響
特定事業所加算(A) 114単位/月 +1,140円(全件)
入院時情報連携加算(Ⅰ) 200単位/回 +2,000円(入院があった月のみ)
退院・退所加算(Ⅰ) 450単位/回 +4,500円(退院時のみ)
ターミナルケアマネジメント加算 400単位/回 +4,000円(看取りケースのみ)

特定事業所加算は事業所単位で算定されるため、要件を満たせば全利用者分の基本報酬に上乗せされます。ひとりケアマネ事務所でも特定事業所加算(A)の要件を満たすことは可能で(運営規程の整備・主任ケアマネの管理者要件等)、担当件数30件の場合は月約3万4千円の加算収入になります(114単位×30件×10円)。

開業から損益分岐点に達するまでの期間

ケアマネ事務所の担当件数は開業直後はゼロからのスタートです。地域包括支援センターや医療機関との関係づくりを経て、徐々に件数が積み上がっていきます。

一般的には開業から3〜6か月程度で10〜20件程度に達し、6か月〜1年で損益分岐点(20件前後)を超えるケースが多いとされます。ただし地域の競合状況や関係づくりの進め方によって個人差があります。

この期間の資金不足をカバーするため、開業資金の中に「開業後6か月〜1年分の運転資金」を含めて計画しておくことが重要です。日本政策金融公庫の創業融資(新規開業資金)では、運転資金も含めた融資が受けられます。

まとめ

ひとりケアマネ事務所の損益分岐点は、固定費の水準と1人あたりの平均収入によって変わりますが、自宅開業の場合は担当15〜20件前後でコストが回収できます。生活費も含めた実質的な採算ラインは担当25〜30件程度が目安です。

加算の積み上げを活用することで、担当件数を増やさずに収入を底上げできる可能性があります。特定事業所加算(A)は比較的要件が整えやすく、全利用者に対して月1,140円(114単位×10円)の上乗せになります。担当件数が増えるほど加算収入も比例して増えます。

出典:指定居宅介護支援等に要する費用の額の算定に関する基準(告示第125号・令和8年6月改定)、日本政策金融公庫「新規開業実態調査」

開業後の収支の見込みをご自身で確認されたい方は、シミュレーターをご利用ください。→ 居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)の開業 収支シミュレーター

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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