就労移行支援の事業所は、全国の平均で1年間の収入が約2,878万円、収支差率(収入に対する利益の割合)は約6.0%です(令和6年度決算)。開業の資金は、初期費用だけでなく、利用者が増えるまでの赤字と、国民健康保険団体連合会(国保連)からの入金が2か月ほど遅れる分まで含めて考える必要があります。定員20人の仮の計画で試算すると、2年目は黒字でも、3年目に就労定着者の区分が下がると赤字に戻ることがありました。3年目の区分は、2年目までの就職と職場定着の実績で決まります。
この記事では、国の調査の数字と、報酬・人員の決まりの原文をもとに、開業の資金と3年間の収支の考え方を整理します。試算に使った前提も、すべて書いておきます。
- 全国の就労移行支援の事業所は2,834か所で、1年前より減っている
- 全国の平均は、収入2,878万円・給与費率64.2%・収支差率6.0%
- 必要な職員の数は、利用者の数で決まる
- 収入は「1日の単位数×延べ利用日数×地域の単価」で計算する
- 定員20人の試算では、2年目は黒字、3年目は区分しだいで赤字に戻った
- 開設1年目は、毎月の赤字が少しずつ縮んでいく
- 定員10人にすると、家賃や職員が同じなら赤字が続く
- 開業資金は、初期費用と「赤字の累計がいちばん大きくなるまで」の合計で考える
- 見落としやすいお金の決まりを確かめておく
- 開業前に確かめておくことを、順に並べる
- 3年分の収支と資金繰りを、自分の数字で試算する
- この記事の出典
全国の就労移行支援の事業所は2,834か所で、1年前より減っている
国保連のデータでは、就労移行支援の事業所は令和7年1〜3月時点で2,834か所です。1年前(令和6年1〜3月)の2,919か所より85か所少なく、令和3年10〜12月の3,063か所をピークに、増減をはさみながら減っています。1事業所あたりの月の費用額(国保連の総費用額を事業所数で割った額で、利用者負担を含みます)は約241万円です。
出典:厚生労働省「障害福祉サービス等の最近の動向について」(社会保障審議会障害者部会 第149回 参考資料8・令和7年9月25日)。数字は各3か月の平均値です。
事業所の数が減っている市場に新しく入るときは、地域の利用希望者が、今ある事業所で足りているかを先に確かめる必要があります。相談支援事業所や市町村の障害福祉の窓口、ハローワークなどで、待機の状況や利用の見込みを聞いておくと、次の「利用者の増え方」の見込みを置きやすくなります。
全国の平均は、収入2,878万円・給与費率64.2%・収支差率6.0%
国の令和7年経営概況調査(令和6年度決算)の就労移行支援の数字を、当方で読み取り、率を計算すると次のようになります。
| 区分 | 事業所数 | 1年間の収入 | 給与費率 | 収支差率 | 平均の定員 |
|---|---|---|---|---|---|
| 全体 | 296 | 約2,878万円 | 約64.2% | 約6.0% | 14人 |
| 定員20人以下 | 288 | 約2,791万円 | 約64.9% | 約5.2% | 13人 |
| 営利法人 | 136 | 約4,129万円 | 約66.1% | 約2.6% | 17人 |
| 社会福祉法人(社協を含む) | 76 | 約1,235万円 | 約66.6% | 約11.7% | 9人 |
| NPO法人 | 32 | 約2,065万円 | 約65.2% | 約8.8% | 14人 |
出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」の就労移行支援の表(令和6年度決算)を当方が読み取ったものです。給与費率・収支差率は、表の給与費・収支差を収入で割った当方の計算です。
読み方で気をつけたいのは、表の「平均」が、収入の大きい事業所の影響を受けることです。同じ調査で、事業所ごとの収支差率を並べた真ん中の値(中央値)は4.5%で、平均の6.0%より低くなっています。また、営利法人は収入の平均が大きい一方で、収支差率は約2.6%と低めです。開業を考えるときは、「平均的な事業所でも、利益は収入の数%」という感覚を持っておくと、計画が甘くなりにくくなります。
必要な職員の数は、利用者の数で決まる
就労移行支援の人員の基準は、省令で次のように決まっています。
- 職業指導員と生活支援員:総数(常勤換算)は、利用者の数を6で割った数以上。職業指導員と生活支援員は、それぞれ1人以上。そのうち1人以上は常勤
- 就労支援員:常勤換算で、利用者の数を15で割った数以上
- サービス管理責任者:利用者60人以下で1人以上(うち1人以上は常勤)
たとえば、1日の利用者を14人と見込むと、職業指導員と生活支援員の総数は14÷6=約2.3人以上、就労支援員は14÷15=約0.9人以上(いずれも常勤換算)が必要です。これに管理者とサービス管理責任者が加わります。基準の人数は最低限なので、訓練や就職先の開拓、就職後の支援に手をかけるほど、実際に置く人数は増えます。
ここでいう利用者の数は前年度の平均で、新規に指定を受ける場合は推定数で計算します。条文は「前項の利用者の数は、前年度の平均値とする。ただし、新規に指定を受ける場合は、推定数による。」としています(出典:障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第175条第2項)。
事業所の規模にも下限があり、就労移行支援事業所は、10人以上が利用できる規模が必要です(平成18年厚生労働省令第174号 第62条の2。複数のサービスを一体で行う多機能型の事業所には、別の特例があります)。1人の利用者が使える期間は、標準で2年間です(障害者総合支援法施行規則 第6条の8)。利用者は2年ほどで入れ替わるため、開業後も、新しい利用者を迎え続ける仕組みが必要になります。
収入は「1日の単位数×延べ利用日数×地域の単価」で計算する
毎月の収入(訓練等給付費と利用者負担の合計)は、次の式で計算します。
- 基本報酬:利用定員と就労定着者の割合で決まる1日の単位数 × 延べ利用日数
- 加算:算定する加算の単位数(福祉専門職員配置等加算は1日15・10・6単位、就労支援関係研修修了加算は1日6単位、送迎加算は片道21単位か10単位など)
- 処遇改善加算:基本報酬と加算の合計に、区分ごとの率(8.1%〜11.9%)を掛けた単位数
- 金額:単位数の合計 × 地域区分の単価(1級地11.18円〜その他の地域10.00円)
基本報酬は、開業から2年間は「就労定着者の割合30%以上40%未満」とみなされ、定員20人以下なら1日879単位です。3年目からは実績で決まり、区分が1つ下がると719単位になります。詳しい計算は、「就労移行支援の基本報酬と、就労定着者の割合による7つの区分」にまとめました。
単位数の出典:平成18年厚生労働省告示第523号 別表第12。地域区分の単価:平成18年厚生労働省告示第539号。処遇改善加算の率:厚生労働省・こども家庭庁「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について(報告)」。
定員20人の試算では、2年目は黒字、3年目は区分しだいで赤字に戻った
当方の収支シミュレーターで、次の仮の計画を試算しました。数字はすべて例で、推奨する値ではありません。
- 定員20人、地域区分は「その他の地域」、開設は令和9年4月、開設準備は5か月
- 新しく登録する利用者は、開設後1〜6か月が月2人、7〜12か月が月1.5人、13〜24か月が月0.8人、25〜36か月が月0.7人。退所は毎月4%。登録者のうち1日に利用する割合(稼働率)は70%、月22日営業
- 就労定着者(6か月に達した人)の見込みは、1年目1人、2年目4人
- 管理者(サービス管理責任者を兼務)は月給33万円、職業指導員・生活支援員は時給1,450円、就労支援員は時給1,600円で、基準に加えて1.5人(常勤換算)を配置。法定福利費15.7%
- 家賃25万円など毎月の経費は計63.5万円。初期費用は計500万円。自己資金700万円、借入1,900万円(年3.0%・10年・据置6か月)
| 項目 | 開設後1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|
| 基本報酬(1人1日) | 879単位 | 879単位 | 719単位 |
| 平均の登録利用者数 | 10.5人 | 17.4人 | 17.8人 |
| 収入 | 約1,903万円 | 約3,190万円 | 約2,683万円 |
| 営業利益 | 約−812万円 | 約217万円 | 約−259万円 |
| 収支差率 | 約−42.7% | 約6.8% | 約−9.7% |
当方の「就労移行支援 開業向け収支シミュレーター」の初期値で計算(2026年9月27日)。3年目の区分は、特例の式(1年目の定員×30%+2年目の定着者4人)÷2年分の定員=25%で「20%以上30%未満」です。
2年目の収支差率6.8%は、全国の定員20人以下の平均(約5.2%)に近い水準です。ところが3年目は、利用者の数がほぼ同じでも、基本報酬が879単位から719単位に下がるため、営業利益がマイナスに戻ります。この計画では、借入の返済も重なり、2029年10月に手元の資金がマイナスになりました。
また、2年目の定着者が0人だと、特例の式でも3年目は569単位まで下がります。就労移行支援の収支は、利用者を集める力と同じくらい、就職と職場定着を実現する力で決まる、というのが試算から見える形です。
比べるために、2年目の定着者を6人に置き直すと、3年目は特例の式で(6+6)÷40=30%となり、879単位のままです。この場合、3年目の収入は約3,271万円、営業利益は約268万円(収支差率約8.2%)で、3年間を通して手元の資金はマイナスになりませんでした。2年目の定着者が4人か6人かの違いが、3年目の収支を黒字と赤字に分けています。
開設1年目は、毎月の赤字が少しずつ縮んでいく
同じ試算で、開設1年目の月ごとの動きを抜き出すと、次のようになります。入金は、サービスを提供した月の約2か月後です。
| 開設からの月 | 登録利用者 | その月の収入(請求額) | その月の費用 | その月の入金 |
|---|---|---|---|---|
| 1か月目 | 2.0人 | 約30万円 | 約201万円 | 0円 |
| 3か月目 | 5.8人 | 約87万円 | 約212万円 | 約31万円 |
| 6か月目 | 10.9人 | 約165万円 | 約227万円 | 約115万円 |
| 9か月目 | 13.9人 | 約211万円 | 約236万円 | 約181万円 |
| 12か月目 | 16.6人 | 約253万円 | 約244万円 | 約226万円 |
当方の収支シミュレーターの初期値による試算です。費用は、人件費と毎月の経費の合計で、借入の返済は含みません。
職員の数は、利用者が少なくても基準の最低人数(職業指導員と生活支援員を各1人以上)と、基準に加えて置く人数が必要なため、1か月目から月200万円ほどかかります。収入が費用を上回るのは12か月目ですが、入金は2か月遅れるため、手元のお金が増え始めるのは、さらにその後です。
定員10人にすると、家賃や職員が同じなら赤字が続く
定員は、少ないほうが始めやすいように見えます。そこで、同じ計画のまま定員だけを10人にして試算すると、2年目も3年目も収入は約1,833万円、営業利益は約−867万円(収支差率約−47%)となり、黒字になりませんでした。
理由は、費用の多くが定員によってあまり変わらないことです。職業指導員と生活支援員はそれぞれ1人以上、サービス管理責任者も1人以上が必要で、家賃も訓練のための部屋の広さに応じてかかります。定員を小さくするなら、家賃や職員の配置も、その規模に合わせて見直す必要があります。全国の調査では、定員20人以下の事業所の平均の定員は13人です。定員と、利用者を集める見込みと、固定の費用の3つを合わせて決めることが大切です。
開業資金は、初期費用と「赤字の累計がいちばん大きくなるまで」の合計で考える
同じ試算で、お金の流れを分けると次のとおりです。
- 初期費用:約500万円(法人設立・指定申請30万円、敷金など100万円、内装150万円、家具70万円、備品80万円、開業時の広告30万円、採用20万円、その他20万円)
- 開設準備の5か月の支出:約358万円(管理者の給与、家賃、光熱費など)
- 開設後、入金が費用を下回る分:開設後1年目は、利用者が少ないうえに、国保連からの入金が約2か月遅れて届くため、赤字の月が続きます
この3つを足していき、累計がいちばん大きくなった時点の額が、事業を回すのに必要な資金の目安です。この試算では、開設から1年ほどたった2028年4月に約2,160万円でした(借入の返済は含みません)。自己資金と借入の合計(2,600万円)はこれを上回りますが、3年目の区分の低下と返済が重なると、資金は足りなくなります。融資の相談では、2年目だけでなく、3年目の区分が下がった場合の資金繰りも示せるようにしておくと、説明がしやすくなります。
見落としやすいお金の決まりを確かめておく
- 入金の遅れ:この試算は、サービスを提供した翌月に国保連へ請求し、その翌月に入金される流れを前提にしています。開設直後の2か月ほどは、収入がないまま給与や家賃を払うことになります。実際の日程は国保連合会の案内で確かめてください。
- 食事提供体制加算:1日30単位ですが、告示で「令和9年3月31日までの間」とされています。令和9年4月以降に開設する場合、今の告示のままでは算定できません。
- 令和9年4月の報酬改定:障害福祉サービス等の報酬改定が見込まれています。単位数や加算の率が変わる可能性があります。
- 新規指定の引き下げ:令和8年6月からの新規指定の基本報酬の引き下げは、就労継続支援B型・共同生活援助・児童発達支援・放課後等デイサービスが対象で、就労移行支援には無い、と改定事項の資料に示されています。
- 開業直後に算定できない加算:就労支援関係研修修了加算(1日6単位)は、新たに指定を受けた日から1年間は算定できません。移行準備支援体制加算(施設外支援を受けた利用者1人につき1日41単位)は、告示で「前年度に施設外支援を実施した利用者の数が利用定員の100分の50を超えるもの」が対象とされ、前年度の実績が前提になります。開業直後の収入の見込みには、これらを入れないでおくのが安全です。
- 減算:定員超過、人員欠如、就労移行支援計画の未作成、標準利用期間の超過、業務継続計画(BCP)の未策定、身体拘束や虐待防止の措置の未実施などがあると、報酬が減ります。
開業前に確かめておくことを、順に並べる
- 地域の利用希望と、今ある事業所の状況(相談支援事業所・市町村・ハローワークなど)
- 就職先の開拓の方法と、職場定着の支援の体制(6か月の定着が報酬を左右するため)
- 利用定員(10人以上)と、それに見合う物件・訓練の内容
- 職業指導員・生活支援員・就労支援員・サービス管理責任者の採用の見通し
- 3年目の区分を「下がった場合」も含めた、3年分の収支と資金繰り
- 指定権者(都道府県・市)の説明会、事前相談、申請の時期
3年分の収支と資金繰りを、自分の数字で試算する
この記事の試算は、当方の「就労移行支援 開業向け収支シミュレーター」で計算しました。定員、利用者の増え方、就労定着者の見込み、人員、家賃、借入などを入れると、開設後3年の収支と、年度ごとの基本報酬の区分、必要な資金の目安、資金が最も少なくなる月を示します。入れた定着者の見込みが、試算上の退所者の数を上回るときは注意も出ます。年ごとの収支と主な指標は無料で使え、月ごとの資金繰りの表・グラフ・事業計画書の印刷は有料版(買い切り9,800円)です。入力は、お使いの端末の中にだけ保存されます。
この記事は、国の経営概況調査・最近の動向の資料、告示第523号・第539号、省令第171号・第174号、障害者総合支援法施行規則の原文を確認して書いています(確認日:2026年9月27日)。試算は記事中に書いた仮の条件によるもので、実際の収入や融資を約束するものではありません。作成:fufumumu_design
この記事の出典
- 厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」
- 厚生労働省「障害福祉サービス等の最近の動向について」(社会保障審議会障害者部会 第149回 参考資料8)
- 平成18年厚生労働省告示第523号(厚生労働省 法令等データベース)
- 平成18年厚生労働省告示第539号(厚生労働省 法令等データベース)
- 障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号・e-Gov法令検索)
- 障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業の設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第174号・e-Gov法令検索)
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則(平成18年厚生労働省令第19号・e-Gov法令検索)
- 厚生労働省・こども家庭庁「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について(報告)」(社会保障審議会障害者部会 第155回 資料1・令和8年4月24日)
福祉事業の開業・運営のツールと記事の一覧:訪問介護・訪問看護・障害者グループホーム・放課後等デイサービス・児童発達支援・生活介護・就労移行支援・就労継続支援B型・短期入所の、収支シミュレーター・経営診断・法定研修キットとサービス別の記事(無料で試せます)
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