就労移行支援の月間収入は、基本報酬だけで決まりません。職員の配置状況・研修の実績・送迎や食事の体制に応じた加算が上乗せされ、さらに処遇改善加算が加わります。定員20人・稼働率90%の事業所で主な加算を積み上げると、新規みなし(区分3・879単位)の基本報酬約348万円に対して、月間50〜80万円程度の加算が乗ることがあります。
この記事では、就労移行支援で算定できる主な加算の種類・単位数・算定条件と、開業直後に算定できない加算の整理をします。数字は告示第523号(別表第12)・留意事項(令和7年3月31日改正版)・報酬改定事項の原文に基づいています。
就労移行支援で算定できる主な加算の一覧
就労移行支援の加算は、職員の質・支援の実績・日常的な体制の3つの軸で整理できます。
| 加算の名称 | 1日の単位数 | 算定条件の概要 | 開業直後 |
|---|---|---|---|
| 福祉専門職員配置等加算(Ⅰ) | 15単位 | 対象資格を持つ常勤職員が直接支援職員全体の35%以上 | 算定可 |
| 福祉専門職員配置等加算(Ⅱ) | 10単位 | 同25%以上 | 算定可 |
| 福祉専門職員配置等加算(Ⅲ) | 6単位 | 常勤職員比率75%以上、または3年以上経験者30%以上 | 算定可 |
| 就労支援関係研修修了加算 | 6単位 | 対象研修を修了した職員が1人以上。新規指定から1年間は不可 | 1年間は不可 |
| 移行準備支援体制加算 | 41単位/人 | 前年度の施設外支援実施者が利用定員の50%超 | 前年度実績が条件のため1年目は不可 |
| 送迎加算(Ⅰ) | 21単位/片道 | 利用者を送迎する体制を確保し、実際に送迎を行う | 算定可 |
| 食事提供体制加算 | 30単位 | 食事を提供している。令和9年3月31日まで | 算定可(令和9年3月まで) |
| 処遇改善加算 | 対象単位数×率 | 処遇改善計画の届け出・職場環境等要件・賃金改善実績 | 算定可 |
出典:平成18年厚生労働省告示第523号 別表第12。告示第523号に定められているもの以外の加算・減算もあります。最新の告示と留意事項を指定権者に確認することが確実です。
上の一覧は主要なものです。このほかに、視覚・聴覚言語障害者支援体制加算・高次脳機能障害者支援体制加算・初期加算・訪問支援特別加算・欠席時対応加算・医療連携体制加算・利用者負担上限額管理加算なども告示に定められています。これらの算定要件は告示・留意事項の原文で確認してください。
福祉専門職員配置等加算(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)
職業指導員・生活支援員・就労支援員のうち、社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士・介護支援専門員の資格を持つ常勤職員の割合によって区分が変わります(告示第523号 別表第12の1 就労移行支援サービス費に係る加算)。
加算(Ⅰ)と(Ⅱ)は資格保持者の割合で決まり、加算(Ⅲ)は常勤職員の比率または経験年数で決まります。(Ⅰ)(Ⅱ)と(Ⅲ)は同時に算定できません。
- 加算(Ⅰ)・15単位:職業指導員・生活支援員・就労支援員のうち、対象資格を持つ常勤職員が直接支援職員全体の35%以上
- 加算(Ⅱ)・10単位:同25%以上
- 加算(Ⅲ)・6単位:直接支援職員の常勤職員の比率が75%以上、または3年以上勤務した経験のある職員が30%以上
加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の分岐は、採用する職員の資格構成に直結します。開業時から加算(Ⅰ)を狙うには、職員全体の35%以上が社会福祉士・介護福祉士などの資格を持つ常勤職員である体制が必要です。定員20人の事業所で最低限の人員(職業指導員・生活支援員合計4人・就労支援員1人・サビ管1人など)を配置する場合、このうち2〜3人が対象資格を持つ構成が目安になります。
金額の目安(定員20人・稼働率90%・22日稼働・地域区分10円):
- 加算(Ⅰ)(15単位):15×18人×22日×10円 = 59,400円/月(年間約71万円)
- 加算(Ⅱ)(10単位):10×18×22×10円 = 39,600円/月(年間約48万円)
- 加算(Ⅲ)(6単位):6×18×22×10円 = 23,760円/月(年間約29万円)
加算(Ⅰ)と加算(Ⅲ)の月間差は35,640円で、年間だと約43万円になります。採用段階で加算(Ⅰ)を取れる体制を整えるか否かは、長期の収入に影響します。
就労支援関係研修修了加算(6単位)
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が実施する就労支援に関する所定の研修を修了した職業指導員または就労支援員が1人以上配置されている場合に、1日6単位が算定できます。
算定条件には2つの制約があります。
- 新規指定から1年間は算定不可:指定を受けた日から1年間は算定できません(告示第523号の定め)。開業1年目の収入計算にはこの加算を含めないことが必要です。
- 前年度の就労定着実績がゼロの場合は算定不可:就労移行支援から就職して6か月以上定着した利用者が前年度に0人だった場合は算定できません。2年目は、1年目の定着実績があるときだけ算定できます(就労移行支援留意事項 R7.3.31改正版 p.269)。
これは、加算を取るために「就職実績を早期に積む」という動機が働く設計になっています。開業直後から就職先の開拓に力を入れる理由の一つが、この加算の算定開始時期にも関係します。
金額の目安(定員20人・稼働率90%・22日稼働・地域区分10円):
- 6単位×18人×22日×10円 = 23,760円/月(年間約29万円)
移行準備支援体制加算(施設外支援1人につき1日41単位)
就労に向けた施設外での支援(職場実習・ハローワーク同行・企業見学など)を実施した利用者1人に対して、1日分の加算を算定できます。単位数は1人1日41単位です(告示第523号 別表第12)。
算定には前年度の実績条件があります。前年度に施設外支援を実施した利用者の数が、利用定員の100分の50を超えていることが必要です。定員20人の場合、前年度に10人を超える利用者が施設外支援を受けた実績が求められます。開業1年目は前年度の実績がないため、算定できません。
この加算は「利用者1人あたり1日41単位」という計算構造です。たとえば1日5人が施設外支援を受ければ、その日の加算は41×5人×10円=2,050円になります。施設外支援の日数と対象者数によって月ごとの算定額は変動します。
送迎加算(片道21単位または10単位)
利用者の送迎を行う体制を確保し、実際に送迎を行った利用者1人の1回の送迎に対して加算を算定できます。送迎加算(Ⅰ)は片道21単位です(告示第523号)。
送迎の体制を設けるかどうかは、地域性・利用者の通所手段・車両費と加算収入のバランスによって判断が変わります。
金額の目安(片道21単位・定員20人のうち10人が片道利用・22日稼働・地域区分10円):
- 21×10人×22日×10円 = 46,200円/月(年間約55万円)
利用者が往復する場合は2倍になります。車両費・燃料費・運転担当者の人件費と算定額を比較して、送迎体制を設けるかどうかを判断します。
食事提供体制加算(30単位・令和9年3月31日まで)
利用者に食事を提供している場合に1日30単位が算定できます。ただし、告示で「令和9年3月31日までの間に算定できる」と定められています(告示第523号 別表第12)。令和9年4月以降に開設する事業所は、今の告示のままでは算定できません。
令和9年4月以降の取り扱いは、令和9年度報酬改定の告示が公表された段階で確認が必要です。
金額の目安(定員20人・稼働率90%・22日稼働・地域区分10円):
- 30単位×18人×22日×10円 = 118,800円/月(年間約143万円)
食事を提供する体制の有無は、物件選びの段階(調理室の設備・給食委託の有無)で決まります。令和9年3月以降も継続できるかは、改定の動向を確認する必要があります。
処遇改善加算(8.1%から11.9%)
職員の処遇改善計画を策定し、賃金の改善を実施した実績に基づいて算定する加算です。基本報酬と対象となる加算の合計単位数に、区分ごとの率を掛けた単位数が毎月加わります。
就労移行支援の処遇改善加算の率は、令和8年度報酬改定後、8.1%から11.9%の6区分に設定されています(厚生労働省・こども家庭庁「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について(報告)」社会保障審議会障害者部会 第155回 資料1・令和8年4月24日)。どの区分を算定できるかは、処遇改善計画の内容・就業規則の整備・職場環境等要件への対応状況によって決まります。
算定手順の概要は次のとおりです。
- その月に算定した基本報酬と対象となる加算の単位数を合計する
- 合計単位数に区分ごとの率を掛けて処遇改善加算の単位数を計算する
- 算定した加算の単位数を翌月の賃金に反映する(対象職種・賃金改善の計算は別途届け出が必要)
金額の目安(定員20人・稼働率90%・22日稼働・地域区分10円・基本報酬区分3・879単位・福祉専門職員配置等加算(Ⅰ)込み・率11.5%の場合):
- 基本報酬:879×18×22 = 348,084単位(約3,480,840円)
- 加算(Ⅰ)(15単位):15×18×22 = 5,940単位(約59,400円)
- 上の合計:354,024単位
- 処遇改善加算(11.5%):354,024×0.115 ≒ 40,713単位(約407,130円)
この計算例では、処遇改善加算だけで月約41万円になります。年間では約490万円の上乗せです。就労移行支援の収入を考えるときに、処遇改善加算は無視できない規模の加算です。
処遇改善加算の算定対象となる加算の範囲は、加算ごとに告示・留意事項で定められています。送迎加算・移行準備支援体制加算などの算定対象への該当可否は、最新の告示・留意事項と指定権者への確認が確実です。
開業直後に算定できない加算をまとめる
開業1年目の収入計算をする際に、含めることができない加算があります。
- 就労支援関係研修修了加算(6単位):新規に指定を受けた日から1年間は算定できません
- 移行準備支援体制加算(41単位/人):前年度の施設外支援実績が条件のため、1年目は前年度の実績がなく算定できません
- 就労支援関係研修修了加算(就労定着実績がゼロの場合):前年度の就労定着者が0人の場合は算定できません。開業2年目から算定できるかどうかは、1年目の就職・定着実績によって変わります
反対に、開業直後から算定できるものは、福祉専門職員配置等加算(開業時の採用体制で決まる)・送迎加算(体制があれば)・食事提供体制加算(令和9年3月まで)・処遇改善加算(計画と届け出が必要)です。
開業1年目は、上の「算定できない加算を除いた」収入で資金繰りを考える必要があります。2年目以降に就労支援関係研修修了加算が加わると、月間収入が23,760円(年間約29万円)増えます。
主な加算を積み上げると月間収入はどれくらいになるか
定員20人・稼働率90%(1日18人)・22日稼働・地域区分10円・基本報酬区分3(新規みなし・879単位)・処遇改善加算の率11.5%を前提に、1年目と2年目以降の月間収入の概算を示します。食事提供体制加算は令和9年3月まで算定できる前提です。
| 内訳 | 1年目(概算) | 2年目以降(概算) |
|---|---|---|
| 基本報酬(879単位) | 約348万円 | 約348万円 |
| 福祉専門職員配置等加算(Ⅰ)・15単位 | 約6万円 | 約6万円 |
| 就労支援関係研修修了加算・6単位 | 算定不可 | 約2.4万円 |
| 食事提供体制加算・30単位(R9.3まで) | 約12万円 | 約12万円 |
| 処遇改善加算(上記の合計×11.5%) | 約42万円 | 約42万円 |
| 合計(概算) | 約408万円 | 約410万円 |
計算式:基本報酬・各加算=単位数×18人×22日×10円。処遇改善加算は基本報酬と福祉専門職員・就労支援関係研修修了加算・食事提供体制加算の合計単位数に11.5%を掛けた参考値です。送迎加算・移行準備支援体制加算は含まず。利用者が定員まで埋まらない1年目は実際の収入はさらに少なくなります。
この試算は稼働率90%(定員20人のうち18人が毎日利用)の前提です。開業1年目は利用者が少なく稼働率が低いため、実際の月間収入ははるかに少ない月が続きます。1年目の月別の動きは、就労移行支援の開業資金と収支、3年目に起きやすいことに整理しています。
加算の算定に関わる申請と届け出
処遇改善加算は、指定申請とは別に処遇改善計画の届け出が必要です。毎年4月1日に適用する区分を変える場合も、前年度末(2月末など)までに届け出ます。
福祉専門職員配置等加算や就労支援関係研修修了加算は、指定申請書の加算欄に記入します。算定を開始する月の前月末まで(都道府県によって異なる場合があります)に届け出が必要な場合があるため、事前相談の段階で指定権者に確認します。
開業直後は加算の届け出・算定・請求の手続きが重なります。算定できる加算を取りこぼさないために、指定申請の段階で加算ごとの届け出時期と要件を整理しておくことが大切です。
加算を含めた収支を自分の数字で試算する
この記事で示した加算は代表的なもので、実際の収入は定員・稼働率・地域区分・職員の配置状況・算定できる加算の組み合わせによって変わります。
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