就労移行支援の開業資金|初期費用と新規みなし2年間の収支シミュレーション

就労移行支援事業所の開業資金は、初期費用と運転資金を合わせて800万〜1,700万円が目安です。バリアフリー対応の物件と訓練室の確保が初期費用を押し上げ、さらに開業から2年間は「新規みなし」として定着率が低い区分の報酬が適用されるため、黒字化までに時間がかかります。開業資金と運転資金を合わせた十分な準備が欠かせません。

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就労移行支援の開業資金:全体の内訳

就労移行支援は、障害のある方の一般就労への移行を支援するサービスです。訓練・作業室の設置やバリアフリー対応が設備基準で求められるため、他の居宅系事業所に比べて初期費用が高くなる傾向があります。

費用項目 金額目安 備考
物件取得(保証金・礼金) 100万〜200万円 バリアフリー対応物件が必要。スロープ・ワイドドア必須
バリアフリー内装工事 100万〜300万円 段差解消・多機能トイレ・訓練室仕切り等
訓練用PC(定員分) 40万〜80万円 定員20人の場合、PC20台(1台2〜4万円)
訓練什器・作業道具 20万〜80万円 内職・軽作業・クリーニング等の種目による
送迎車両 100万〜300万円 普通車〜ミニバン1〜2台。購入またはリース
開業準備費(コンサル・申請) 50万〜100万円 指定申請書類作成、コンサルタント費用
初期運転資金(6か月分) 400万〜800万円 新規みなし期間の低い報酬と低稼働率を想定

合計の目安は800万〜1,700万円で、実態では1,000万〜1,500万円の準備が一般的です。物件のバリアフリー対応状況と定員規模によって大きく変わります。

新規みなし2年間が最大の経営リスク

就労移行支援の報酬は、前年度の就労定着率(就職後6か月以上継続就労した方の割合)によって単価が変わる「定着率連動型」です。

新規に指定を受けた事業所は過去の実績データがないため、2年間は「新規みなし」として定着率30〜40%未満の区分が自動的に適用されます(定員20人以下の場合:879単位/日)。

定着率区分 単価(定員20人以下) 適用場面
50%以上 1,210単位/日 実績3年目以降(上位)
40〜50%未満 1,020単位/日 実績3年目以降
30〜40%未満(新規みなし) 879単位/日 開業から2年間
20〜30%未満 719単位/日 実績が低い場合
10〜20%未満 569単位/日 実績が低い場合

出典:厚生労働省「就労移行支援の報酬・基準について」(令和6年度改定)

最高単価(1,210単位)と新規みなし(879単位)では、定員20人・稼働率80%の場合で月あたり約57万円の差が生じます。開業後2年間は収支が厳しくなることを前提に計画を立ててください。

訓練室の設備基準:1人あたりの面積要件

就労移行支援の訓練・作業室は、利用者1人あたり2.47m²以上の面積が必要です(2024年度基準)。定員20人の場合、訓練室だけで約50m²以上の確保が必要になります。

バリアフリー対応については次の要件を満たす必要があります。

  • 車椅子利用者が通行できる幅のある廊下(原則80cm以上)
  • 段差の解消(スロープまたはエレベーター)
  • 多機能トイレ(車椅子対応)の設置
  • 手すりの設置(廊下・トイレ)

既存のオフィスビルや商業施設を転用する場合、バリアフリー改修工事に100万〜300万円かかることが多いです。物件選定の時点でバリアフリー対応状況を確認しておくと工事費を抑えられます。

人員基準と採用コスト

就労移行支援の指定を受けるには、次の職種の配置が必要です(定員20人の場合)。

職種 必要人数(定員20人) 月給目安
サービス管理責任者 1人以上(常勤) 30万〜40万円
就労支援員 常勤換算7.5に1人以上 25万〜30万円
生活支援員 常勤換算7.5に1人以上 25万〜30万円
職業指導員 常勤換算7.5に1人以上 25万〜30万円

サービス管理責任者は、実務経験3年以上(相談支援業務・直接支援業務など)+サービス管理責任者研修(基礎研修・実践研修)の修了が必要です。研修の受講まで数か月かかることがあるため、早めに確保しておく必要があります。

人件費(社会保険料含む)の月額目安:

  • サービス管理責任者1人:35万〜50万円
  • 支援員3〜4名:30万〜38万円 × 4 = 120万〜152万円
  • 合計:155万〜202万円/月

報酬単価から月収入を見通す

新規みなし区分(879単位/日)で、定員20人・稼働率80%の場合の月収入試算:

  • 利用者数:20人 × 80% = 16人/日
  • 1日あたり収入:879単位 × 16人 × 11.05円 = 155,497円/日
  • 月20営業日換算:約310万円/月

固定費(人件費200万円+家賃15万円+その他15万円)を230万円とすると、稼働率80%到達後は月約80万円の黒字になる計算です。ただし稼働率80%に達するまでに3〜12か月程度かかることが多く、その間は赤字または収支トントンの期間が続きます。

開業後の収支イメージ(稼働率別)

稼働率 月収入目安(新規みなし) 月固定費(目安) 収支
50%(10人/日) 約194万円 230万円 約▲36万円
65%(13人/日) 約252万円 230万円 約+22万円
80%(16人/日) 約310万円 230万円 約+80万円

損益分岐点は稼働率60〜65%前後です。6か月間赤字が続く可能性を想定して、400万〜800万円の運転資金を別途確保しておくことを推奨します。

資金調達の主な手段

日本政策金融公庫

創業融資の中でも「医療・福祉業」は比較的通りやすい業種です。自己資金の10分の1以上を目安に、事業計画書を整えて申請してください。金利2〜3%台で返済期間7〜10年。申請から融資実行まで1〜2か月かかります。

障害者施設整備補助事業

市区町村によっては、障害者通所施設のバリアフリー整備や備品購入に補助金を設けているケースがあります。自治体の障害福祉担当課に確認してください。補助率は事業費の2分の1〜3分の2が多いです。

福祉医療機構(WAM)

社会福祉法人・NPO法人が事業主体の場合、WAMの長期・低利融資が利用できます。民間銀行より低い金利(固定1〜2%台)が期待できますが、申請から実行まで時間がかかるため早めの準備が必要です。

開業後の早期安定化に向けた支援機関との連携

就労移行支援の経営安定には、利用者を安定的に確保することが最優先です。次の機関との連携が利用者獲得の鍵になります。

  • ハローワーク・就労支援センター:障害者の就労支援を担う機関として、就労移行支援の存在を広める窓口になります。
  • 精神科・心療内科・病院のMSW:退院後の支援として就労移行支援を紹介してもらえるよう、開業前から挨拶回りを始めてください。
  • 相談支援事業所:障害福祉サービスの利用計画を作る相談支援専門員とのつながりが、利用者紹介の直接的なルートになります。
  • 特別支援学校・高校:卒業後の進路として就労移行支援を紹介してもらえるよう、学校の進路担当者との関係を構築することも有効です。

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就労移行支援以外の福祉事業の収支情報は、福祉事業者向けツール一覧にまとめています。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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