就労定着支援の人件費の内訳。給与水準・法定福利費・処遇改善加算の全体像。

就労定着支援の人件費の内訳。給与水準・法定福利費・処遇改善加算の全体像。 福祉事業の開業と運営

就労定着支援の運営コストのうち、最も大きな割合を占めるのが人件費です。就労定着支援員の基本給に加え、法定福利費・処遇改善加算の扱いまで含めると、月次の人件費総額は30万円前後になることも少なくありません。開業前の収支計画において、人件費の構造を正確に把握しておくことが重要です。

就労定着支援員の配置は省令で「常勤換算1以上」が必要

就労定着支援の人員基準は、厚生労働省令第171号(省令)で定められています。最小構成は、管理者1名(兼務可)と就労定着支援員(常勤換算1以上)です。

  • 管理者:常勤で1名以上。ただし管理業務に支障がない場合は同一事業所の他の職務に兼務できます(省令第171号)
  • 就労定着支援員:常勤換算で1以上。社会福祉士・精神保健福祉士・就労支援員・生活支援員等の経験者が望ましいとされていますが、省令上は資格要件は設けられていません

常勤換算1以上とは、週の所定労働時間をフルタイム換算で1名分以上確保することです。常勤1名か、非常勤複数名の組み合わせでも要件を満たせます。常勤換算の具体的な計算方法については別記事で解説します。

就労定着支援員の給与水準の目安

就労定着支援員の給与は、経験・資格・地域・法人の規模によって大きく異なります。厚生労働省が定期的に実施している「障害福祉サービス等経営実態調査」では、就労系サービスの支援員の給与水準が公表されています。最新の調査結果は厚生労働省のウェブサイトで確認できます。

参考として、就労定着支援を含む就労系障害福祉サービスの支援員(常勤)の給与水準の目安は以下のとおりです。

就労定着支援員の給与水準の目安(常勤・月額)
経験・条件 月給の目安
経験1〜3年・資格なし 22〜25万円程度
経験3年以上・社会福祉士等の資格あり 25〜30万円程度
主任・リーダー職 28〜35万円程度

上記はあくまで目安であり、地域差(都市部と地方で3〜5万円程度の差がある場合もあります)・法人の給与体系・賞与の有無によって実際の水準は異なります。採用時の給与設定は、ハローワーク等で同種求人の相場を確認することをお勧めします。

法定福利費:給与の約15〜16%が事業主負担

就労定着支援員を雇用する際、事業所(雇用主)は給与に加えて法定福利費を負担します。法定福利費は、健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険の事業主負担分の合計です。

法定福利費の内訳(2026年度・事業主負担分の目安)
保険の種類 事業主負担率の目安
健康保険(協会けんぽ・東京の場合) 約5.0%
厚生年金保険 約9.15%
雇用保険 約0.95%(社会福祉事業の場合)
労災保険 約0.3%程度(業種による)
合計(目安) 約15〜16%

健康保険料率は都道府県・加入する健康保険組合によって異なります。厚生年金保険の保険料率は2024年現在18.3%(労使折半)で、事業主負担は9.15%です。

月給25万円の場合、法定福利費の事業主負担は月額37,500〜40,000円程度になります。

処遇改善加算:事業所の持ち出しなく給与を上乗せできる仕組み

就労定着支援は、以下の3種類の処遇改善加算を算定できます。

  • 福祉・介護職員処遇改善加算:職員の賃金改善を目的とした加算。I〜IVの段階があり、就業規則や賃金規程の整備・計画書と実績報告の提出が要件
  • 福祉・介護職員等特定処遇改善加算:経験・技能のある職員への重点的な賃金改善を目的とした加算。処遇改善加算Iまたは IIの算定が前提条件
  • 福祉・介護職員等ベースアップ等支援加算:2022年10月に創設。ベースアップ(基本給・毎月決まって支払われる手当の引き上げ)に充当することが条件

これらの加算は、国が報酬に上乗せして支給するものです。加算として得た収入は職員の賃金改善に充当する義務がありますが、事業所の固定費が増えるわけではありません。算定することで、事業所の持ち出しなく職員の給与を法令の枠内で引き上げることができます。

処遇改善加算を算定するには、毎年度の計画書(処遇改善計画書)を指定権者に提出し、年度末に実績報告書を提出する必要があります。書類対応の手間はありますが、職員採用・定着の観点からも積極的に算定することが一般的です。

人件費総額の試算例

就労定着支援員1名(常勤・月給25万円)を雇用した場合の月次人件費の試算は以下のとおりです。

就労定着支援員1名・月次人件費の試算例(月給25万円の場合)
項目 月額
基本給 250,000円
法定福利費(約15%) 37,500円
交通費(目安) 10,000〜20,000円程度
合計(処遇改善加算の賃金改善分を除く) 297,500〜307,500円程度

このほかに賞与(一般的に月給の2〜4か月分・年2回)がある場合は、月次換算でさらに40,000〜80,000円程度の人件費が加わります。管理者が専任の場合は、管理者の人件費も合算が必要です。

処遇改善加算を算定している場合、加算分の収入(報酬)は全額職員の賃金改善に充てるため、法定上乗せ分の人件費増加は加算収入で補填されます。

人件費と月次収入のバランス:1〜2年目に注意

就労定着支援の月次収入は「契約者数×月額単位数×地域単価」で決まります。新規開業の1〜2年目は就労定着率の実績がなく、最低区分(区分7・月額1,074単位)での算定になります。

月次収入と人件費の比較(その他地域・単価10.00円)
契約者数 報酬区分 月次収入(概算) 人件費との差(月給25万円・法定福利費込み)
10名 区分7(1,074単位) 約107,400円 ▲約190,000円(赤字)
20名 区分7(1,074単位) 約214,800円 ▲約82,700円(赤字)
30名 区分7(1,074単位) 約322,200円 約14,700円(わずかに黒字)
30名 区分4(2,234単位) 約670,200円 約362,700円(黒字)

上記の試算では、人件費以外のコスト(事務所家賃・通信費・消耗品等)を含めていません。実際の運営では、家賃や通信費が月5〜10万円程度かかるため、損益分岐点はさらに高くなります。

1〜2年目は区分7確定で収入が抑えられる一方、人件費は開業初日から発生します。この時期に赤字を補填できる財務体力(法人の内部留保・別事業の収益・補助金等)があるかどうかが、就労定着支援の開業リスクを判断する上で重要です。

3年目以降は前年度の就労定着率が報酬区分に反映されます。就労定着率が7割以上(区分4・2,234単位)を達成できると、月次収入が大幅に改善します。開業時から利用者の就労定着率を高める支援に注力することが、中長期的な収支改善の鍵です。

就労定着支援の1〜3年目の収支推移、利用者数・就労定着率の変化による月次損益の変化は、就労定着支援 収支シミュレーター(無料)で試算できます。人件費の設定を変えながら、自事業所の損益分岐点を確認することをお勧めします。

参考・出典

  • 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第171号・平成18年)
  • 障害福祉サービス等報酬告示(令和6年厚生労働省告示第159号による改定版)
  • 障害福祉サービス等経営実態調査(厚生労働省・最新年度版)

この記事は2026年11月時点の告示・通知に基づいています。報酬は改定されることがありますので、最新の告示を確認してください。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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