就労移行支援の開業後の赤字期間|累積損失の目安と乗り越えるための3つの対策

就労移行支援は開業後6〜18か月間は赤字または収支トントンになりやすい時期が続きます。新規みなし2年間(879単位/日)が適用される中で、利用者が定員の60〜65%(損益分岐点)に達するまでの期間に赤字が発生します。累積赤字は200万〜500万円になるケースが多く、開業前に十分な運転資金を確保しておくことが事業継続の鍵です。

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赤字が発生する2つの構造的原因

原因1:新規みなし2年間で報酬が低い

就労移行支援は定着率(前年度の就職・定着実績)に応じて報酬単価が変わります。開業直後は過去の実績データがないため、2年間は「新規みなし(定着率30〜40%未満)」として879単位/日が自動適用されます(定員20人以下の場合)。

3年目以降に定着率が50%以上になれば1,210単位/日になりますが、開業から2年間はこの低い単価での運営を余儀なくされます。最高単価(1,210単位)との差は約27%で、定員20人・稼働率80%では月約116万円の収入差になります。

原因2:開業直後は利用者が少ない

就労移行支援の利用者は次の経路で獲得します。

  • ハローワーク・就労支援センターからの紹介
  • 相談支援事業所(障害者のサービス利用計画を作成する専門員)からの紹介
  • 医療機関(精神科・クリニック)のMSWからの紹介
  • 特別支援学校・高校の進路担当からの紹介

これらの紹介ルートを開拓するまでに3〜6か月かかることが多く、開業直後は利用者が0〜5人/日(稼働率0〜25%)から始まります。

月ごとの収支推移:典型的なシナリオ

定員20人・月20日・新規みなし(879単位)・固定費230万円(人件費200万+家賃15万+その他15万)の場合:

時期 利用者数/日(目安) 月収入 収支差 累積損益
開業1〜2か月目 2〜5人 39万〜97万円 ▲191万〜▲133万円 ▲191万〜▲324万円
3〜4か月目 8〜12人 154万〜232万円 ▲76万〜+2万円 ▲400万〜▲322万円
5〜6か月目 12〜14人 232万〜270万円 +2万〜+40万円 ▲398万〜▲282万円
7〜12か月目 14〜16人 270万〜309万円 +40万〜+79万円 徐々に改善

上記は楽観的なシナリオです。紹介ルートの開拓が遅れると3〜6か月目も利用者が10人以下にとどまり、赤字期間が長期化します。

損益分岐点までの期間

損益分岐点(収支がゼロになる稼働率)は固定費230万円の場合:

  • 879単位/日 × X人 × 20日 × 11円 = 230万円
  • X = 230万円 ÷(879 × 20 × 11)= 11.9人 ≒ 12人/日(稼働率60%)

利用者が12〜13人/日を安定して維持できるようになるまでの期間(目安:6〜12か月)が赤字期間の目安です。

赤字期間を乗り越えるための準備

1. 400万〜800万円の運転資金を確保する

開業後6〜12か月の赤字期間を乗り越えるために、400万〜800万円の運転資金が必要です。自己資金だけで賄えない場合は、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」や自治体の障害者施設整備補助金を活用してください。

2. 開業前から紹介ルートを開拓する

利用者ゼロで開業するより、開業前から次の機関へ挨拶回りをしておくことで立ち上げ期間を短縮できます。

  • 管轄ハローワーク(障害者担当窓口)
  • 地域の相談支援事業所(特定相談支援事業所)
  • 精神科・心療内科の医療相談員(MSW)
  • 特別支援学校の進路担当教員

3. 軽度者から始めて徐々に利用者を増やす

開業直後は精神障害・発達障害で比較的軽度な利用者から受け入れ、スタッフとの信頼関係を築きながら支援体制を強化していく方法が安定運営につながります。重度者の受け入れ体制が整っていない段階で無理な受け入れを行うと、早期の体調不良退所・スタッフの燃え尽きにつながるリスクがあります。

3年目に収支が大きく改善する

開業から2年が経過すると、実際の就労定着率に基づいた報酬単価に切り替わります(毎年4月更新)。定着率50%以上を維持できれば単価が1,210単位/日(新規みなしの879単位比で約38%増)になります。

稼働率80%(16人/日)・定着率50%以上(1,210単位)・月20日・11円の場合:月収入 = 1,210 × 16 × 20 × 11 = 4,259,200円。3年目から事業が一気に収益化する可能性があります。赤字期間を乗り越えた先に、安定した黒字経営があります。

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就労移行支援以外の福祉事業の収支情報は、福祉事業者向けツール一覧にまとめています。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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