認知症グループホームの損益分岐点。稼働率が何%で黒字になるか。

認知症GHの損益分岐点は、1ユニット9人・その他地域(単価10.00円)・夜間支援体制加算Ⅰ・処遇改善加算Ⅰ取得の条件で試算すると、稼働率76〜93%程度が損益の目安になります。人件費率や家賃の水準によって幅が広く、標準的な想定(人件費率70%・家賃20万円)では約84%です。全国平均収支差率3.0%(令和7年介護事業経営実態調査)は、この水準を上回って稼働できている事業所の平均像です。損益分岐点は人件費率・家賃・加算取得の組み合わせで変わるため、自事業所の条件で計算することが重要です。

月次収入の計算(1ユニット9人・その他地域・稼働率100%)

基本報酬の単価は「1単位=10.00円」(その他地域)です。要介護3・1ユニット(9人)・夜間支援体制加算Ⅰ(50単位/人/日)・月30日で計算します(令和6年厚生労働省告示第128号)。

項目 単位数/人/日 月次単位数(9人・30日) 金額(10.00円/単位)
基本報酬(1ユニット・要介護3) 824単位 222,480単位 2,224,800円
夜間支援体制加算Ⅰ 50単位 13,500単位 135,000円
小計(処遇改善加算前) — 235,980単位 2,359,800円
処遇改善加算Ⅰ(18.6%加算) — — 約438,923円
月次収入合計(満床) — — 約2,798,723円

処遇改善加算は「処遇改善加算前の報酬合計×加算率(18.6%)」で算定します。ただし、処遇改善加算の全額は介護職員の賃金改善に充てる義務があるため、損益分岐の分析では「処遇改善加算を除いた収入と費用」で考えるのが実態に近い見方です。

以下の試算は、処遇改善加算を除いた月次収入(2,359,800円)を基準にします。

費用の内訳と損益分岐の計算

認知症GHの費用構造は、人件費が大半を占める固定費主体です。1ユニット9人の事業所における主な費用の目安は次のとおりです(規模・地域・物件により変わります)。

費目 月次概算 備考
人件費(給与・賞与・法定福利費) 140〜180万円 管理者・介護従業者4〜5名、夜間1名体制。人件費率70%前後
家賃・設備リース 15〜30万円 賃貸物件の場合。自己所有なら減価償却費に替わる
光熱費(管理分) 5〜8万円 入居者の使用分は居住費に含まれる場合がある
食材費・日用品 5〜10万円 食費の大部分は入居者負担(施設負担分のみ)
保険・修繕・その他管理費 3〜5万円 賠償保険・損害保険・軽修繕等
費用合計(概算) 168〜233万円 人件費率・物件条件で変動

損益分岐稼働率の試算

損益分岐稼働率は次の式で求めます。

損益分岐稼働率 = 固定費合計 ÷ 満床時月次収入(処遇改善除く)

上記の費用の幅(168〜233万円)を、処遇改善加算を除く満床時収入(235万9,800円)で割ると次のとおりです。

費用の想定 固定費合計 損益分岐稼働率
人件費率65%・家賃15万円・その他10万円 約178万円 約75%
人件費率70%・家賃20万円・その他12万円 約197万円 約84%
人件費率75%・家賃30万円・その他13万円 約220万円 約93%

人件費率70%・家賃20万円という中間的な想定で損益分岐稼働率は約88%です。人件費率や物件費が高いほど損益分岐点が上がります。

全国平均収支差率3.0%との対照

全国平均収支差率3.0%(令和7年介護事業経営実態調査)は、事業所全体の平均像であり、損益分岐点の直上に位置します。この平均値は稼働率・人件費率・加算取得率の組み合わせによるもので、「3.0%で安定している」というよりも「多くの事業所が損益分岐点のすぐ上を綱渡りしている」という見方が実態に近いといえます。

収支差率を改善するための代表的な手段は、稼働率の向上・加算の取得・人件費率の管理の3点です。夜間支援体制加算Ⅰだけで月135,000円(9人・30日・その他地域)の上乗せになります。

稼働率を左右する主な要因

  • 入居率の維持:空室期間が長いほど収入が落ちる。地域の待機者数・紹介ルートの確保が鍵になります。
  • 要介護度の構成:要介護5(859単位/日)と要介護1(765単位/日)では1人あたり1日94単位の差があり、9人30日では254,160円の差になります。
  • 加算取得:夜間支援体制加算Ⅰ(50単位/日)の取得により、9人30日で135,000円の上乗せになります(その他地域)。医療連携体制加算・認知症専門ケア加算なども収益改善の手段です。
  • 地域区分:1級地(11.40円/単位)はその他(10.00円/単位)と比べて1.40円の差があり、月次収入で10〜14%程度の差になります。

収入と費用の詳細な試算は、認知症GH収支シミュレーターで、定員・稼働率・要介護度の構成・加算を変えて確認できます。全体的な採算性の考え方は「認知症GHは儲かるのか」の記事で解説しています。

稼働率別の月次収支シミュレーション(1ユニット9人・その他地域)

1ユニット9人・要介護3(824単位)・単価10.00円の事業所を例に、稼働率別の月次収支を試算します(月稼働日数30.4日)。

稼働率 実利用者数 月収入(概算) 費用(人件費等70%固定想定) 収支差
60% 5.4人 約135万円 約158万円(固定費) 約▲23万円
70% 6.3人 約158万円 約158万円 約0万円
80% 7.2人 約181万円 約158万円 約+23万円
90% 8.1人 約203万円 約158万円 約+45万円
100% 9.0人 約226万円 約163万円(変動費含む) 約+63万円

※費用は人件費・家賃・光熱費等の固定費を月158万円と仮定。変動費(食材費・消耗品)は稼働率に連動して増減します。あくまで概算であり、実際は報酬単価・人員配置・地域区分によって異なります。

固定費と変動費の違い

人件費(給与・社会保険料)・家賃・減価償却費は稼働率に関わらず毎月発生する固定費です。利用者が0人でも職員の給与は支払い続けなければなりません。一方、食材費・日用消耗品・おむつ代などは利用者の利用日数に比例して増える変動費です。稼働率が下がると変動費は減りますが、固定費は変わらないため、収支への打撃は大きくなります。

損益分岐稼働率を下げるための手段

損益分岐稼働率を引き下げるには、①収入を増やす(加算の取得・要介護度の高い利用者の受け入れ)か、②固定費を下げる(家賃の交渉・職員配置の効率化)かのどちらかになります。夜間支援体制加算Ⅰ(50単位/日)や医療連携体制加算(37〜57単位/日)を取得することで損益分岐点の稼働率を実質的に引き下げることができます。全国平均の収支差率3.0%(令和7年介護事業経営実態調査)は、この損益分岐点をわずかに超えた水準です。

出典

  • 令和7年介護事業経営実態調査(厚生労働省)
  • 指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成18年厚生労働省告示第128号)令和6年改正

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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