有料老人ホームの認知症専門ケア加算。算定要件と取り方。

有料老人ホーム(介護付き・特定施設入居者生活介護)が算定できる認知症専門ケア加算は、認知症高齢者の専門的なケアに取り組む施設を評価する加算です。1日あたり加算Ⅰで3単位、加算Ⅱで4単位を入居者全員に上乗せして算定できます。算定要件は「認知症自立度Ⅲ以上の入居者が50%以上」と「認知症介護実践リーダー研修修了者の配置」の2点が核心です。この記事では算定要件の詳細・加算ⅠとⅡの違い・届出手続き・収入への影響を整理します。

  1. 認知症専門ケア加算の根拠と加算額
  2. 加算Ⅰの算定要件は3つ
    1. 要件①:認知症の入居者が全体の50%以上であること
    2. 要件②:認知症介護実践リーダー研修修了者を配置すること
    3. 要件③:専門的な認知症ケアを適切に実施・記録すること
  3. 加算Ⅱの算定要件は加算Ⅰの要件に2つを追加
    1. 追加要件①:認知症介護指導者養成研修修了者を1名以上配置すること
    2. 追加要件②:認知症ケアに関する事例検討等を定期的に開催すること
  4. 認知症介護実践リーダー研修とはどんな研修か
    1. 研修の受講資格
    2. 研修の内容と期間
    3. 認知症介護指導者養成研修との違い
  5. 加算を算定するための届出手続き
    1. 届出の時期
    2. 届出に必要な書類
    3. 算定開始後の維持
  6. 加算取得による収入への影響
    1. 試算条件
    2. 月間収入増加額の試算
  7. よくある算定ミスと注意点
    1. 注意点①:50%の判定基準の誤り
    2. 注意点②:実践リーダー研修修了者の配置人数の計算ミス
    3. 注意点③:加算算定中に修了者が退職した場合の対応
    4. 注意点④:住宅型有料老人ホームには適用されない
    5. 注意点⑤:記録の整備が不十分なケース
  8. まとめ:認知症専門ケア加算で押さえるべきポイント
    1. Q.加算Ⅰと加算Ⅱ、どちらを取るべきか
    2. Q.複合型施設(サービス付き高齢者向け住宅に介護付きを併設)の場合は
    3. Q.運営指導でよく確認されることは何か
    4. Q.加算を算定できるのはいつから
  9. 開業前から収支をシミュレーションするために

認知症専門ケア加算の根拠と加算額

認知症専門ケア加算は、「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準」(平成12年厚生省告示第19号)に規定されています。特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホームなど)に適用される加算で、令和6年4月現在の単位数は次のとおりです。

認知症専門ケア加算の単位数(特定施設入居者生活介護・令和6年4月)
区分 単位数(1日当たり)
認知症専門ケア加算(Ⅰ) 3単位/日
認知症専門ケア加算(Ⅱ) 4単位/日

加算ⅠとⅡは同時に算定できません。上位区分である加算Ⅱの要件を満たす場合は加算Ⅱを算定します。

なお、住宅型有料老人ホームは特定施設の指定を受けていないため、この加算の対象外です。認知症専門ケア加算が適用されるのは「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた介護付き有料老人ホームのみです。

加算Ⅰの算定要件は3つ

認知症専門ケア加算(Ⅰ)を算定するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

要件①:認知症の入居者が全体の50%以上であること

「認知症高齢者の日常生活自立度」においてランクⅢ以上に該当する入居者が、施設の全入居者のうち2分の1(50%)以上を占めていることが必要です。

日常生活自立度のランクⅢは「日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする」状態とされています。具体的には、「着替え・食事・排泄などに行動障害が時々見られる(Ⅲa)」や「行動障害や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護が必要(Ⅲb)」などが該当します。

この50%の判定は、毎月の利用者数の記録をもとに確認します。入居者の入れ替わりによって割合が変動することがあるため、定期的に確認する体制を整えておくことが重要です。

要件②:認知症介護実践リーダー研修修了者を配置すること

認知症介護に係る専門的な研修として定められている「認知症介護実践リーダー研修」の修了者を、次の人数以上配置する必要があります。

  • 要件①の対象入居者(認知症自立度Ⅲ以上)が20人未満の場合:1名以上
  • 対象入居者が20人以上の場合:1名に、20人を超える人数を20で割って得た数を加えた人数以上

例えば、対象入居者が40人の場合は「1名+(40人-20人)÷20名=2名以上」となります。60人の場合は「1名+(60人-20人)÷20名=3名以上」です。

要件③:専門的な認知症ケアを適切に実施・記録すること

認知症専門ケアを実施した内容・観察・評価を適切に行い、その結果を記録に残すことが必要です。医師や看護師等と連携しながら作成した介護計画に基づいて実施されていることが前提です。

記録の形式については詳細な規定はありませんが、運営指導時に確認されるため、誰が・いつ・どのような認知症専門ケアを行ったかが分かるよう整備しておきます。

加算Ⅱの算定要件は加算Ⅰの要件に2つを追加

認知症専門ケア加算(Ⅱ)を算定するには、加算Ⅰの3要件に加えて、次の2つの要件を満たす必要があります。

追加要件①:認知症介護指導者養成研修修了者を1名以上配置すること

「認知症介護指導者養成研修」の修了者を施設に1名以上配置し、その者が施設全体の認知症ケアの指導を担うことが必要です。認知症介護指導者養成研修は、認知症介護実践リーダー研修よりも上位の研修です。

認知症介護指導者養成研修の修了者に代わる職種として、認知症疾患に関する専門的な診断または治療を行っている医療機関で勤務する医師・看護師等が含まれる場合があります(告示原文での確認を推奨します)。

追加要件②:認知症ケアに関する事例検討等を定期的に開催すること

施設内で認知症ケアに関する事例検討会や勉強会等を定期的に開催することが求められます。実施した記録を残しておくことが重要です。

加算ⅠとⅡの要件の違い
要件 加算Ⅰ(3単位) 加算Ⅱ(4単位)
認知症自立度Ⅲ以上が50%以上 必要 必要
認知症介護実践リーダー研修修了者の配置 必要 必要
専門的ケアの実施・記録 必要 必要
認知症介護指導者養成研修修了者の配置 不要 必要
事例検討会等の定期的な開催 不要 必要

認知症介護実践リーダー研修とはどんな研修か

認知症介護実践リーダー研修は、「認知症介護実践者等養成事業の実施について」(厚生労働省通知)に基づいて都道府県等が実施する研修です。認知症介護実践者研修(基礎研修)の上位にあたり、施設内での認知症ケアリーダーを養成することを目的としています。

研修の受講資格

一般的な受講資格の目安は次のとおりです(都道府県によって若干異なることがあります)。

  • 認知症介護実践者研修(基礎研修)を修了していること
  • 介護等の業務に3年以上(実践者研修修了後2年以上)の実務経験があること
  • 施設・事業所において、認知症ケアに携わるスタッフへの指導的立場にあること(または就く予定であること)

研修の内容と期間

研修は講義・演習・実習を組み合わせた形式で行われます。期間は都道府県によって異なりますが、概ね5日間程度の講義・演習に加え、実習が課されることが多いです。

研修の申し込みは各都道府県の担当機関(社会福祉協議会や公益財団法人認知症介護研究・研修センター等の受託機関)を通じて行います。年間の開催回数が限られているため、スタッフを計画的に受講させることが重要です。

認知症介護指導者養成研修との違い

認知症介護指導者養成研修は、実践リーダー研修の上位にあたる研修です。都道府県等において認知症介護実践者研修や実践リーダー研修の講師・指導者を担える人材を養成することを目的としており、受講資格はさらに厳格で、実践リーダー研修修了後に一定の実務経験を積んだ者が対象となります。

加算を算定するための届出手続き

認知症専門ケア加算を算定するためには、都道府県(または指定権者となる市区町村)に体制届出を行う必要があります。

届出の時期

新たに加算の体制が整った月の翌月1日からの算定開始を希望する場合、前月の15日(月によって異なる場合あり)までに届出を行うことが基本です。各都道府県の手引きで期限を確認してください。

届出に必要な書類

一般的に必要な書類は次のとおりです(都道府県によって異なることがあります)。

  • 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書
  • 体制等状況一覧表
  • 認知症介護実践リーダー研修(または認知症介護指導者養成研修)の修了証の写し
  • 加算Ⅱを算定する場合:事例検討会等の開催実績に関する資料

算定開始後の維持

届出後も、算定要件を維持し続けることが求められます。要件を満たさなくなった場合(例:配置している実践リーダー研修修了者が退職した場合など)は速やかに変更届出を行い、加算の算定を停止する必要があります。要件を満たさないまま算定を続けると不正請求となるため注意が必要です。

加算取得による収入への影響

認知症専門ケア加算(Ⅰ)で定員30名・入居率85%の施設の収入増加を試算します。

試算条件

  • 定員:30名
  • 平均入居率:85%(月平均入居者数:25.5名)
  • 地域区分:その他(1単位=10.00円)
  • 加算Ⅰを算定(3単位/日)

月間収入増加額の試算

1日あたりの加算収入:25.5名 × 3単位 × 10.00円 = 765円/日

月間(30日換算):765円/日 × 30日 = 22,950円/月

年間:22,950円/月 × 12か月 ≒ 約27.5万円/年

金額としてはそれほど大きくありませんが、認知症ケアの質を高める取り組みとして職員のスキルアップや離職防止の効果も期待できます。また、認知症ケアに注力する施設としてのブランディングにもつながります。

加算Ⅱ(4単位)に切り替えた場合の収入増加は、加算Ⅰとの差額(1単位/日)の分だけ増えます。同じ条件では年間約9万円の追加収入となります。ただし、加算Ⅱの要件を満たすために認知症介護指導者養成研修の修了者を確保する必要があり、そのための研修費用や人材確保のコストとのバランスで判断します。

よくある算定ミスと注意点

注意点①:50%の判定基準の誤り

「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上」の判定は、主治医意見書または医師の診断書に基づく判定が基本です。スタッフの主観や日々の観察のみで判断することは適切ではありません。入居時および定期的なアセスメントで医師等による確認を行い、記録に残しておくことが重要です。

注意点②:実践リーダー研修修了者の配置人数の計算ミス

対象入居者が20名を超える場合の配置人数の計算を誤るケースがあります。算式は「1名+(対象入居者数-20)÷20(端数切り上げ)」です。例えば対象者が25名の場合は「1名+(25-20)÷20=1.25」を切り上げて2名以上となります。

注意点③:加算算定中に修了者が退職した場合の対応

配置している実践リーダー研修修了者が退職した場合は、要件を満たさなくなった時点で速やかに変更届出を行う必要があります。次の修了者が確保できるまでの間は加算の算定を止めなければなりません。計画的な後継者育成が重要です。

注意点④:住宅型有料老人ホームには適用されない

認知症専門ケア加算は特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)の加算です。住宅型有料老人ホームは介護保険の特定施設の指定を受けていないため、この加算は算定できません。なお、住宅型に入居している要介護者が訪問介護等の居宅サービスを利用する場合、その居宅サービス事業所側で認知症専門ケア加算を算定する仕組みとなっています。

注意点⑤:記録の整備が不十分なケース

認知症専門ケアを実施している事実があっても、それが適切に記録されていなければ運営指導で指摘を受けることになります。「誰が・いつ・どのような専門的ケアを行ったか」が確認できる記録を日常的に整備することが大切です。

まとめ:認知症専門ケア加算で押さえるべきポイント

Q.加算Ⅰと加算Ⅱ、どちらを取るべきか

まず加算Ⅰの取得を目指すのが現実的です。加算Ⅱの要件である「認知症介護指導者養成研修修了者」は、受講要件が厳しく修了者の確保が難しいことが多いです。加算Ⅰをしっかり取得・維持しながら、修了者の養成を中長期的に進めるのが一般的な流れです。

Q.複合型施設(サービス付き高齢者向け住宅に介護付きを併設)の場合は

特定施設の指定部分にのみ加算が適用されます。同じ建物内でも住宅型やサ高住の部分には適用されません。算定の対象範囲を明確にしておくことが必要です。

Q.運営指導でよく確認されることは何か

認知症専門ケア加算については、①実践リーダー研修修了証の確認、②対象入居者の割合の根拠(医師等による判定記録)、③専門的ケアの実施記録、がよく確認されます。これらを整備しておけば、運営指導での問題は防げます。

Q.加算を算定できるのはいつから

体制届出が受理された翌月1日からの算定が原則です。要件が整った月の前月15日(または前月末)までに届出を行うことで、翌月からの算定が可能となります(各都道府県の締め切りを確認してください)。

開業前から収支をシミュレーションするために

認知症専門ケア加算を含む特定施設の加算を複数算定した場合の収入試算や、定員・入居率を変えたときの損益分岐点の確認には、収支シミュレーターが役立ちます。有料老人ホームの開業・経営計画を立てる際には、有料老人ホーム開業収支シミュレーターをぜひご活用ください。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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