計画相談支援(指定特定相談支援)の開業資金は、事務所などの初期費用よりも、担当件数が増えるまでの運転資金で大きく変わります。設備の基準が比較的簡素なため初期費用は抑えやすい一方、報酬は担当件数とモニタリングの件数に応じてしか入らないためです。
この記事では、基準省令と報酬告示の原文をもとに、開業資金の考え方と、運転資金の見積もり方を整理します。金額はあくまで考え方の例で、実際の必要額は事業所の条件によって変わります。
開業資金は、初期費用と運転資金の2つに分けて考える
| 費目 | 主な内容 |
|---|---|
| 法人の設立費用 | 法人を設立して指定を受ける場合の、登録免許税・定款認証の手数料など(株式会社か合同会社かで変わります)。指定を受けられる申請者の条件は、指定権者に確認してください |
| 事業所の初期費用 | 事務所の敷金・礼金、相談に使う区画の準備、机・鍵付きの書庫・パソコン・電話など |
| 指定申請の費用 | 自分で申請する場合は書類の準備の実費。行政書士に依頼する場合はその報酬 |
| 運転資金 | 担当件数が増えて収入が費用を上回るまでの、人件費・家賃・通信費などの不足分と、報酬の入金までの期間の分 |
このうち事業所によって最も差が出るのが運転資金です。障害福祉サービスの報酬は、サービスを行った月の翌月に請求し、入金はさらにその翌月になるのが一般的なため、開業直後の数か月は収入が入らない前提で資金を用意します。
設備の基準は「必要な広さの区画」と「必要な設備・備品」
計画相談支援の基準は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定計画相談支援の事業の人員及び運営に関する基準」(平成24年厚生労働省令第28号)で定められています。設備について、同省令第21条は「事業を行うために必要な広さの区画を有するとともに、指定計画相談支援の提供に必要な設備及び備品等を備えなければならない」と定めています。
放課後等デイサービスの訓練室や、グループホームの居室のような面積の数値基準はありません。ただし、相談の内容が外に漏れない区画や、個人情報を保管する設備など、具体的に何が求められるかは自治体によって運用が異なるため、物件を決める前に指定権者に確認しておくと安心です。
出典:平成24年厚生労働省令第28号第21条
人員は、専従の相談支援専門員と管理者。相談支援専門員は35件に1人が標準
同じ省令は、人員について次のように定めています。
| 職種 | 基準 |
|---|---|
| 相談支援専門員 | 事業所ごとに、専らその職務に従事する者を置く(業務に支障がない場合は、他の職務と兼ねることができる)。員数の標準は、利用者35人またはその端数を増すごとに1人(第3条) |
| 管理者 | 事業所ごとに、専らその職務に従事する者を置く(管理上支障がない場合は、他の職務と兼ねることができる)(第4条) |
相談支援専門員1人が管理者を兼ねる形での開業も、条文上は想定されています。ただし利用者が35人を超えると、標準では相談支援専門員が2人必要になります。相談支援専門員になるには、国が定める研修の修了と実務経験が必要です。
1人で始めた場合の収入は、担当件数が増えても大きくは伸びない
運転資金を見積もるには、担当件数ごとの月の収入を知る必要があります。報酬は令和8年6月1日適用の告示で、新規1,572単位・モニタリング1,308単位・初回加算300単位です。相談支援専門員1人あたりの取扱件数が40以上になると、「取扱件数−39」にあたる分は新規732単位・モニタリング606単位に下がります。
次の表は、相談支援専門員1人(管理者兼務)、その他の地域(1単位10円)、計画作成が月2件(初回加算あり)、担当する利用者のモニタリング頻度が「毎月1:3か月ごと5:6か月ごと8」の割合という仮定で計算した、月の収入の目安です(処遇改善加算は含まず)。
| 担当件数 | その月のモニタリング件数 | 月の収入(目安) |
|---|---|---|
| 20件 | 約5.7件 | 約11.2万円 |
| 35件 | 約10件 | 約16.8万円 |
| 50件 | 約14.3件 | 約19.9万円 |
| 70件 | 約20件 | 約22.9万円 |
出典(単位数):平成24年厚生労働省告示第125号。40件以上の部分は件数の割合で按分した目安です。
この仮定では、担当件数を35件から70件に倍増させても、月の収入は約1.4倍にしかなりません。40件以上の部分の単位が下がることと、6か月ごとの利用者は半年に1回しかモニタリングを算定しないためです。給与と家賃などの費用を合わせて月35万円かかる場合、この仮定では1人の担当件数を増やすだけでは収支が合いません。
収支を合わせる方法としては、相談支援専門員を増やして事業所全体の件数を増やす、機能強化型の体制を整えて単位を上げる、処遇改善加算(令和8年6月に新設・5.1%)を算定する、毎月や3か月ごとのモニタリングの利用者を多く担当する、などが考えられます。どれが現実的かは地域の需要と人員の確保によります。
担当件数の増え方から、運転資金を逆算する
運転資金は、「毎月の不足額」を、収入が費用を上回る月まで足し合わせて見積もります。担当件数がどれくらいの速さで増えるかは、市町村や地域のサービス事業所・医療機関との関係づくりによって大きく変わります。
例えば新規の受付が月5件で、利用の終了がないと単純に仮定すると、担当件数は6か月後に約30件、12か月後に約60件です。実際には転居や利用の終了もあるため、もっとゆっくり増えることを前提に、余裕を持って見積もることが必要です。
見積もりの手順は次のとおりです。
- 月ごとの担当件数の見込みを置く
- モニタリング頻度の構成から、その月に算定する件数を出し、報酬を計算する
- 報酬の入金は2か月ほど遅れるものとして、月ごとの入金額を出す
- 毎月の費用(給与・法定福利費・家賃・通信費など)を引き、不足額を足し合わせる
- 計画相談支援の採算ライン。担当何件から黒字になるか、損益分岐点の計算。
- 計画相談支援の黒字化。月3件の新規ペースで13か月後、月5件なら8か月後の試算。
- 計画相談支援の事業計画書。融資申請に使う売上の根拠の作り方と注意点。
資金の調達は、自己資金と融資の組み合わせを検討する
開業資金の調達では、自己資金に加えて、日本政策金融公庫などの創業向けの融資を検討するのが一般的です。融資の相談では、担当件数の見込み、収入と費用の月ごとの推移、不足額の合計を、根拠と一緒に説明できることが求められます。
開業に使える補助金・助成金の有無は、自治体によって異なります。開業予定地の自治体や支援機関に確認してください。
開業前に、数字で確認しておきたいこと
- 事務所の家賃と敷金・礼金
- 相談支援専門員と管理者の給与・法定福利費
- 月の新規受付の見込みと、担当件数の増え方
- 担当する利用者のモニタリング頻度の構成
- 収入が費用を上回るまでの月数と、不足額の合計
- その不足額を、自己資金と融資でまかなえるか
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