訪問看護ステーションの損益分岐。介護保険と医療保険の比率で、黒字になる条件が変わる。

訪問看護ステーションの損益分岐は、介護保険と医療保険の比率によって変わる。同じ月40人を抱えていても、利用者が介護保険中心か医療保険中心かで、黒字になる月が前後することがある。

全国平均でみると、訪問看護ステーション(介護保険のみ)の収支差率は10.3%、月の収入は347万円、延べ訪問回数は421.5回だ(厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果(案)」・介護保険のみ・有効254事業所・令和6年度決算)。医療保険の分を含めると実態の収入はさらに高い。

しかし「損益分岐は何件か」という問いへの答えは、この数字だけでは出ない。訪問介護と違い、訪問看護は介護保険と医療保険の2本立てで、単価体系がまったく異なるからだ。この記事では、保険の種類別の収入の構造を整理したうえで、損益分岐の目安を試算する。

月次の収支や資金繰りを試算したい方は、訪問看護ステーション 開業向け 収支シミュレーターも参考にしてほしい。

訪問看護の収入は、介護保険と医療保険の2つから来る

訪問看護は、要介護・要支援の利用者には介護保険、それ以外の利用者や特定の疾患・状態には医療保険が適用される。同じ「看護師が自宅に訪問する」という行為でも、どちらの保険で算定するかによって、事業所に入る収入が変わる。

介護保険の単価(訪問看護費)

介護保険の訪問看護費は「単位数×地域単価」で計算する。単位数は訪問時間によって決まる(出典:指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準・厚生省告示第19号・最終改正:令和6年告示第86号)。

訪問時間 単位数(看護師) 金額の目安(その他地域・1単位10円)
20分未満 314単位 3,140円
30分未満 471単位 4,710円
30分以上1時間未満 823単位 8,230円
1時間以上1時間30分未満 1,128単位 11,280円

最も多い時間帯は「30分以上1時間未満」だ。全国平均の訪問1回あたり収入(8,248円)もほぼこの時間帯に対応している(概況調査より)。

医療保険の単価(訪問看護療養費)

医療保険の場合、収入は「基本療養費」と「管理療養費」に分かれる(出典:訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法・令和8年厚生労働省告示第74号・令和8年6月1日施行)。

項目 金額 条件
基本療養費Ⅰ(週3日目まで) 5,550円/回 看護師等の訪問
基本療養費Ⅰ(週4日目以降) 6,550円/回 厚生労働大臣が定める疾患等(特掲診療料の施設基準等別表第7・第8)の利用者のみ。一般の利用者は週3日が上限
管理療養費(月の初日・その他) 7,710円/月 機能強化型以外のステーション
管理療養費(月の初日・機能強化型1) 13,760円/月 常勤看護師7人以上等の要件
管理療養費(月の初日・機能強化型2) 10,460円/月 常勤看護師5人以上等の要件
管理療養費(月の初日・機能強化型3・4) 9,030円/月 常勤看護師4人以上等の要件

医療保険では、管理療養費が月に1回(最初の訪問日)だけ算定される。管理療養費は機能強化型の認定があるかどうかで大きく変わる。機能強化型1の13,760円は、その他の7,710円と比べて約1.8倍だ。

介護保険と医療保険、どちらが収入は高いか

一概にどちらが高いとは言えない。週3日目まで(月最大12回)しか訪問しない利用者なら、介護保険(8,230円/回)と医療保険(5,550円/回+管理療養費7,710円/月)の差は以下のとおりだ。

たとえば、医療保険で週2回(月8回)訪問する利用者なら:管理療養費7,710円+基本療養費5,550円×8回=7,710円+44,400円=52,110円/月。一方で介護保険で週2回(月8回)訪問(30分〜60分)なら:8,230円×8回=65,840円/月。この場合は介護保険のほうが高い。

ただし、医療保険は難病や末期がんの利用者が多く、週4日以上の訪問が算定される場合がある(週4日目以降は1回6,550円)。重症度の高い利用者を多く受け入れると、医療保険のほうが収入が高くなることがある。週4日目以降の6,550円が算定できるのは、特掲診療料の施設基準等別表第7・第8に掲げる疾病等(難病・末期がん・人工呼吸器使用など)の利用者に限られる点には注意が必要だ。

訪問看護の固定費の核心は、看護師の人件費だ

訪問看護の損益分岐を考えるとき、まず把握しなければならないのは固定費の構造だ。訪問看護は訪問介護と比べて、人件費の単価(看護師・保健師の給与)が高い点が特徴だ。

最低人員は常勤換算2.5人(うち常勤1人)

訪問看護ステーションは、看護職員(保健師・看護師・准看護師)を常勤換算2.5人以上(うち常勤1人)配置しなければならない(出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第60条)。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(PT・OT・ST)はこの2.5人のカウントに含めない。

常勤換算2.5人とは、常勤1人+非常勤1.5人分(週の所定労働時間の1.5倍分の非常勤時間)が最低ラインになる。たとえば常勤の週所定労働時間が40時間の場合、非常勤を60時間分(週15時間×4人など)用意する必要がある。

看護師の給与は訪問介護ヘルパーより高い

概況調査によれば、訪問看護の給与費は収入に対して70.1%を占める(令和6年度決算・介護保険のみ)。月収入347万円の70.1%は約243万円が人件費だ。

常勤看護師の給与は地域・経験によって異なるが、一般的に30〜40万円台(賞与・法定福利費を除いた額)がひとつの目安だ。訪問介護のサービス提供責任者(25〜30万円台)より高い。これに法定福利費(約15〜16%)・賞与・交通費が加わると、常勤1人あたりの年間コストは実際の月給の1.5〜1.6倍程度を想定しておく必要がある。

24時間対応体制を組むとコストが上がる

訪問看護では「24時間対応体制加算」(介護保険:緊急時訪問看護加算600単位/月・医療保険:6,800円/月)を算定するために、常時連絡できる体制(オンコール)が必要だ。オンコール手当や緊急訪問の出動手当が別途かかる事業所が多い。

看護師にとってオンコールは負担が大きく、人材確保・定着の観点でも看護師の給与水準を一定以上に保つ必要がある。オンコール体制の整備は、立ち上がり期の固定費を押し上げる要因のひとつだ。

初期投資の構成

訪問看護ステーションの開業にかかる費用は、大きく「初期投資」と「運転資金」に分かれる。主な初期投資は、事業所の賃貸敷金・内装工事・医療機器(パルスオキシメーター・血圧計等)・車両費・ユニフォームなどだ。医療機器は訪問介護より購入コストがかかる。

運転資金は、開業後に収入が安定するまでの赤字期間(半年〜1年半程度)を支える現金が必要になる。事業規模・スタッフ人数・地域によって差が大きく、開業前には月次の収支シミュレーションを作り「資金の谷がいつ・いくらになるか」を把握しておくことが重要だ。

損益分岐の試算:介護保険のみで黒字になる件数の目安

介護保険中心のステーションを例に、損益分岐の目安を試算する。前提は以下のとおりだ。

  • 地域区分:その他(1単位=10円)
  • 訪問時間:30分以上1時間未満(823単位=8,230円/回)を中心に想定
  • 1利用者あたり月訪問回数:全国平均の延べ訪問回数421.5回から逆算(1人あたり月約6回と仮定した場合の概算)
  • 固定費:人件費(常勤換算3人分)・家賃・通信費・事務費など
月の利用者数(介護保険) 月の延べ訪問回数 月の収入目安 損益の目安
20人 120回 約99万円 赤字(損益分岐前)
30人 180回 約148万円 赤字〜収支トントン付近
35人 210回 約173万円 損益分岐付近
50人 300回 約247万円 黒字(収支差率10%前後の見込み)
70人 420回 約346万円 全国平均水準

※上記は概算。実際の収入は加算(緊急時訪問看護加算・特別管理加算等)や地域単価、訪問時間のばらつきによって変わる。固定費の水準によっても損益分岐は前後する。

介護保険中心の場合、損益分岐の目安は月35人前後(延べ約210回)とみると、ひとつの参考になる。全国平均の70人・421.5回はこの2倍に相当し、その水準に達するまでの立ち上がり期間が資金計画のポイントになる。

医療保険の比率が高いと、損益分岐はどう変わるか

医療保険の利用者を多く受け入れると、収入の構造が変わる。特に「管理療養費」が月に1回加算されることが、損益分岐に影響する。

医療保険の利用者1人あたりの月収入の試算

パターン 訪問回数/月 管理療養費 月収入目安(その他ステーション)
週2回(月8回・非機能強化型) 8回 7,710円 5,550円×8回+7,710円=52,110円
週3回(月12回・非機能強化型) 12回 7,710円 5,550円×12回+7,710円=74,310円
週4回(月16回・重症利用者のみ) 16回 7,710円 5,550円×12回+6,550円×4回+7,710円=100,510円

※週4日目以降の6,550円は、特掲診療料の施設基準等別表第7・第8に掲げる疾病等の利用者のみ算定可能。月16回(週4回×4週)の場合、各週の1〜3回目が12回(5,550円)、各週の4回目が4回(6,550円)となる。准看護師の場合は基本療養費が5,050円/6,050円と低くなる(令和8年告示第74号)。

週4回の重症利用者では、月の収入が約10万円になる。介護保険の週2回(約6.6万円/月・8,230円×8回)と比べると5割近く高い。医療保険の重症利用者を複数担当できれば、同じ訪問回数でも収入を増やせる可能性がある。

ただし医療保険の利用者は「適切な指示書」が必要

医療保険で訪問看護を行うには、医師からの訪問看護指示書が必要だ。難病・精神科・末期がんなどの疾患では医師との連携が欠かせず、訪問件数を簡単に増やせるわけではない。利用者像によって収入構造が変わることを理解したうえで、開業エリアの医療機関との関係構築が重要になる。

また、医療保険利用者の中でも特別管理加算(留置カテーテル・気管カニューレ等を使用している利用者に毎回算定・5,000円または2,500円)が算定できると、月の収入はさらに上積みされる。受け入れる利用者の疾患・状態によって収入がどう変わるかを把握しておくことが、経営計画を立てるうえで重要だ。

機能強化型を取ると、管理療養費が大きく跳ね上がる

訪問看護ステーションとして機能強化型の認定を受けると、医療保険の管理療養費が非機能強化型の7,710円から最大13,760円(機能強化型1)に上がる。この差は利用者1人あたり月に約6,000円であり、医療保険利用者が多いほど収入への影響が大きい。

機能強化型の要件と段階

区分 管理療養費(月初日) 主な要件(常勤看護職員数・目安)
その他(非機能強化型) 7,710円 要件なし(最低人員2.5人で開設可)
機能強化型4(令和8年6月新設) 9,030円 常勤看護職員4人以上等(精神科訪問看護の地域連携を評価する区分)
機能強化型3 9,030円 常勤看護職員4人以上等
機能強化型2 10,460円 常勤看護職員5人以上等
機能強化型1 13,760円 常勤看護職員7人以上等

※上記は令和8年度診療報酬改定(令和8年6月施行)に基づく整理。機能強化型の要件は常勤看護職員数のほかに、在宅看取りの実績・24時間対応体制等の複合的な条件がある(出典:令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】・厚生労働省保険局医療課)。

新規開業のステーションがすぐに機能強化型を目指すのは難しい。看護師の採用と利用者の獲得が安定してからの次のステップとして位置づけ、段階的に要件を満たしていく計画を立てることが現実的だ。

損益分岐は「稼働率」「件数」「保険比率」の3つで決まる

訪問看護の損益分岐を理解するには、3つの変数を同時に考える必要がある。

稼働率:看護師1人あたりの訪問回数

概況調査によれば、全国平均の看護職員1人あたりの月の訪問回数は約77.9回(延べ421.5回÷看護職員常勤換算5.4人)だ。看護師の稼働率を上げることが、人件費を1訪問あたりに割り戻したときのコストを下げる。

ただし、訪問看護では移動時間・記録・カンファレンス・指示書の更新対応なども業務に含まれる。1日に訪問できる件数には物理的な上限があり、稼働率だけを上げ続けることはできない。人員を増やして件数を増やすことと、1人あたりの訪問効率を高めることをセットで考える必要がある。

件数:月の利用者数と延べ訪問回数

件数(利用者数・延べ訪問回数)が多いほど、収入が増え固定費の回収が進む。全国平均の延べ訪問回数421.5回(1人あたり月約6回と仮定した場合の概算で約70人分に相当)を目標に、立ち上がり期間(6か月〜1年半)を赤字でどう乗り越えるかが資金計画の核心だ。

件数を早期に積み上げるには、居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)・医療機関・地域包括支援センターへの営業活動が欠かせない。介護保険の新規紹介はケアマネジャー経由が中心であり、開業前から関係構築を始めておくことが有効だ。

保険比率:介護保険と医療保険の割合

同じ件数でも、医療保険(特に重症利用者・週4回以上)の割合が高いほど収入は増える。医療保険の比率を意識した利用者の受け入れ方針が、収益性に影響する。

保険比率の例 月35人のときの月収入目安 損益分岐への影響
介護保険100%(週2回・8,230円×8回×35人) 約230万円 損益分岐前後(固定費次第)
医療保険50%(週3回の重症利用者10人+介護保険25人) 約260〜280万円 損益分岐を超えやすい
医療保険70%(重症利用者20人+介護保険15人) 約290〜310万円 固定費の回収が早まる可能性

※上記は概算・目安。実際の収入は訪問時間・加算・利用頻度によって異なる。

開設から黒字化まで、どのくらいかかるか

訪問看護の立ち上がりは、訪問介護より時間がかかる場合が多い。理由は主に2つある。

ひとつは、医療機関・医師との関係構築に時間がかかること。医師からの訪問看護指示書がなければ医療保険の訪問看護は始められず、紹介ルートを作るには地道なコミュニケーションが必要だ。

もうひとつは、看護師の採用難だ。訪問看護師は病院・クリニック・訪問介護と競合する求人市場の中で確保する必要があり、採用に時間がかかる傾向がある。人数が揃わなければ訪問できる件数も増えない。

資金の谷をどう乗り越えるか

訪問看護の収支差率10.3%・月収入347万円は安定期の数字だ。開設後の半年〜1年は収入が少なく赤字が続く。この期間の最も多い赤字の累計額が「資金の谷」であり、ここを乗り越えられるだけの運転資金を確保しておくことが開業の大前提になる。

必要な運転資金は地域・スタッフ規模・立地によって大きく異なる。固定費(人件費・家賃・設備費等)の6か月〜12か月分を目安に試算し、介護報酬の入金タイミング(実績月の翌々月に入金)に合わせた月次の資金繰り計画を立てておくことが重要だ。

介護報酬の収入は、月の実績が確定してから2か月後に入金される。開業1か月目の売上が入るのは3か月目になる。そのため、少なくとも2か月分の固定費を前払いできるだけの手元資金が必要だ。利用者が増えるにつれ収入は増えるが、入金が2か月後のため実際の現金残高は帳簿上の収支差率より遅れて改善していく。

訪問看護の収入計算・開業に関連する記事

損益分岐の把握には、介護・医療の両方を試算することが必要だ

訪問看護の損益分岐は「何件あれば黒字か」という問いに対し、保険の種類・訪問頻度・加算の有無によって答えが変わる。介護保険中心の場合は月35〜40人前後、医療保険の重症利用者を多く受け入れられる場合はその水準が下がる可能性がある。

重要なのは、自事業所の利用者像(介護・医療の比率、訪問頻度、加算の算定可能性)を具体的に想定して試算することだ。

訪問看護ステーションの開業を検討している方向けに、介護保険と医療保険の2本立てで月次の収支・資金繰り・損益分岐を試算できる収支シミュレーターを公開している。無料で使える。

→ 訪問看護ステーション 開業向け 収支シミュレーター

出典・参照

  • 厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果(案)」(令和7年9月公表・令和6年度決算・訪問看護・介護保険のみ・有効254事業所)
  • 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(厚生省告示第19号・最終改正:令和6年告示第86号)
  • 訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法(令和8年厚生労働省告示第74号・令和8年6月1日施行)
  • 特掲診療料の施設基準等(別表第7・第8)
  • 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(厚生省令第37号)第60条
  • 令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】(厚生労働省保険局医療課・令和8年9月4日版)
この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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