保育所・認定こども園では、感染症対策に関する研修を年2回以上実施することが義務づけられています。
「年2回とは聞いているが、何を教えればいいかわからない」「夏の研修と冬の研修で内容を変えるべきか」といった疑問が出やすいテーマです。この記事では、感染症研修の根拠条文・実施すべき内容・記録の残し方を整理します。
根拠条文と年2回の義務
保育所の感染症対策の根拠は、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)第10条第3項です。条文には「感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための研修及び感染症の予防及びまん延の防止のための訓練を、それぞれ定期的に行わなければならない」と書かれています。
「定期的に」という表現については、厚生労働省の通知(「社会福祉施設等における感染症等の発生及びまん延の防止のための措置に関する指針」等)で年2回以上が目安とされています。
研修(知識の習得・確認)と訓練(実際の行動確認)は別の義務として定められているため、両方の実施が必要です。
感染症研修で取り上げるべき内容
感染症研修は、施設の職員が感染症に関する正しい知識と対応手順を持つことを目的とします。取り上げるべきテーマを整理します。
① 感染症の種類と特徴
保育所で特に注意が必要な感染症は次のとおりです。
- インフルエンザ:飛沫感染・接触感染。発症後5日・解熱後2日が登園停止の目安(学校保健安全法の出席停止期間に準じる施設が多い)
- ノロウイルス(感染性胃腸炎):接触感染・飛沫感染・経口感染。嘔吐物・便の処理に特別な注意が必要
- RSウイルス感染症:飛沫感染・接触感染。乳児に重症化リスク
- 手足口病・ヘルパンギーナ:夏季に流行。回復後も2〜4週間便中にウイルスが排出される
- 咽頭結膜熱(プール熱):接触感染。プールの水を介した感染も起きる
- 水痘(水ぼうそう):空気感染・飛沫感染・接触感染。すべての発疹が痂皮化するまで登園停止
感染症の種類・特徴・潜伏期間・登園停止の基準は、厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)」に一覧があります。研修では、このガイドラインを基に各感染症の基本情報を確認します。
② 標準予防策(スタンダードプリコーション)
標準予防策は、すべての子ども・職員の血液・体液・排泄物・傷のある皮膚には感染源になりうるという前提で対応する考え方です。感染症が疑われないときでも実施する基本対策です。
- 手洗い:水と石けんで15秒以上・指の間・爪の間まで。アルコール手指消毒は手洗いの後
- 手袋の使用:おむつ交換・鼻水の処理・傷の手当のときはディスポーサブルグローブを使用
- マスク・ゴーグルの使用:嘔吐物・血液を処理するときは飛沫が目・鼻・口に入らないよう防護
- 作業後の手洗い:手袋を外した後も必ず手洗い
研修では、正しい手洗いの手順を実際に確認することをおすすめします。「やっているつもり」でも手指に汚染が残っているケースは多く、手指衛生は感染対策の中で最も効果が高い対策のひとつです。
③ 嘔吐物の処理手順
ノロウイルスによる感染性胃腸炎の集団感染は、嘔吐物の不適切な処理がきっかけになることがあります。嘔吐物処理の手順を研修で確認しておくことは、感染拡大防止に直結します。
- 嘔吐物はペーパータオルで外側から内側に向かって覆いながら拭き取る(広げない)
- 0.1%次亜塩素酸ナトリウム液(家庭用塩素系漂白剤を500倍に薄めたもの)で消毒
- 処理中は使い捨て手袋・マスク・エプロンを着用
- 処理後は使い捨てアイテムをビニール袋に密封して廃棄し、直ちに手を洗う
- 嘔吐した場所の周囲1〜2mを広く消毒
「処理キット」(次亜塩素酸ナトリウム液・ペーパータオル・ビニール袋・手袋・マスク・エプロンをまとめたもの)を準備し、場所を全職員が把握しておくことが重要です。
④ 感染症発生時の報告と対応
感染症の疑いが出たときの報告・連絡の手順を研修で確認します。特に次の点を整理しておきます。
- 子ども・職員の感染が疑われたときの施設内の報告ルート(誰が・誰に・いつ報告するか)
- 行政への報告基準(同一の感染症または食中毒が10名以上、または重篤な場合は速やかに都道府県等へ報告)
- 保護者への連絡方法(個別連絡・掲示・一斉メールなど)
- 登園停止の判断と保護者への説明の仕方
- 消毒・清掃の手順と記録の残し方
⑤ 予防接種の推奨と確認
感染症対策の根本は予防接種です。研修では、子どもの予防接種の確認方法(入園時の接種歴の確認・未接種のまま入園している子どもへの対応)と、職員の予防接種(インフルエンザ・麻疹・風疹・水痘など)の推奨について確認します。
研修の年2回、いつ・何を実施するか
年2回の実施サイクルとして、次の組み合わせが機能しやすいです。
| 時期 | テーマの例 | 理由 |
|---|---|---|
| 5〜6月(春〜初夏) | 夏季の感染症(手足口病・プール熱・食中毒)・嘔吐物処理の手順確認 | プール開始前・夏の流行期の前 |
| 10〜11月(秋〜初冬) | 冬季の感染症(インフルエンザ・ノロウイルス・RSウイルス)・標準予防策の確認 | インフルエンザシーズン前・ノロ流行期の前 |
「年2回はただやればいい」という形式的な実施では、職員の知識や行動は変わりません。実際に発生しやすいリスクに焦点を当て、「先月もこういうことがあった」という具体的な事例と結びつけることで、研修が現場で生きます。
訓練の実施(嘔吐物処理の訓練が最優先)
第10条第3項は研修と訓練の両方を求めています。感染症の訓練で最も効果的で、多くの施設が実施しているのが嘔吐物処理の訓練です。
訓練の進め方は次のとおりです。
- 実際の嘔吐を想定したシナリオ(「部屋で子どもが嘔吐した」)を設定する
- 処理キットを持参して実際に処理の手順を確認する(消毒液の濃度・保護具の着け方・拭き取りの方向・廃棄方法)
- 処理後に「できていたこと」「改善が必要な点」を全員で振り返る
- 記録(実施日・参加者・結果・課題)を残す
訓練は年1回以上が目安です。実際に体を動かして確認することで、緊急時に迷わず行動できるようになります。
記録の残し方
感染症研修・訓練の記録として残すべき内容は次のとおりです。
- 実施日・実施時間
- テーマ(研修の場合は内容の概要・使用した資料)
- 参加した職員の氏名または署名
- 確認テストを実施した場合はその結果
- 訓練の場合は実施したシナリオ・課題と改善方針
運営指導では研修・訓練の記録が確認されます。参加者の記録がない(「実施した」という記載だけ)、テーマが毎回同じ(「感染症について研修した」しか書いていない)という記録は、内容として不十分です。
感染症対策委員会との関係
大規模な施設や認定こども園では、感染症対策委員会を設置しているところもあります。委員会は年間の研修計画の立案・感染症の発生状況の振り返り・手順の見直しを担います。小規模な施設では委員会を設置しなくても構いませんが、研修の計画・実施・振り返りを誰かが担当する仕組みを作っておくことが必要です。
まとめ
保育所の感染症研修のポイントをまとめます。
- 根拠は第10条第3項。研修と訓練の両方が年2回以上(訓練は年1回以上が目安)
- 研修のテーマは5つ:感染症の種類と特徴・標準予防策・嘔吐物処理・発生時の報告・予防接種
- 年2回の実施は5〜6月(夏季対応)と10〜11月(冬季対応)が機能しやすい
- 訓練は嘔吐物処理が最優先・実際に体を動かして手順を確認する
- 記録は参加者・テーマ・内容が分かる形で残す
感染症対策の研修資料・確認テスト・訓練記録様式を用意したツールがあります。ぜひ活用してください。


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