福祉事業所の収支差率の平均と中央値は、なぜ違うのか。

福祉事業所の収支差率の平均と中央値は、なぜ違うのか。 福祉事業の開業と運営

福祉事業所の経営を数字で見るとき、「収支差率の全国平均」をよく目にします。ところが、同じ種別でも、平均と中央値の値が大きく違う場合があります。たとえば放課後等デイサービス(放デイ)の収支差率は、令和6年度の調査で表の平均が9.1%ですが、中央値は2.7%です。この差は何を意味しているのか、どちらを判断に使うのかを整理します。

収支差率の平均と中央値は、計算の方法が違います

収支差率は「(収入 − 費用)÷ 収入 × 100」で計算される指標で、事業所の収益性を示します。厚生労働省の経営概況調査に掲載される「表の平均」と「中央値」は、それぞれ別の方法で集計されています。

種類 計算の方法 特徴
表の平均(金額加重平均) 調査に回答した全事業所の収支差の合計 ÷ 収入の合計 収入の大きい事業所の影響を強く受ける
中央値 収支差率の低い順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る事業所の値 外れ値(極端に高い・低い事業所)の影響を受けにくい

出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)。同調査における「収支差率」は、収入から費用を引いた差(収支差)を収入で割った率です。

放課後等デイサービスで平均9.1%・中央値2.7%になる理由

令和7年の調査結果(令和6年度決算)では、放課後等デイサービスの収支差率として次の数字が公表されています。

  • 表の平均:9.1%(全回答事業所の収支差の合計 ÷ 収入の合計)
  • 中央値:2.7%(事業所を収支差率の低い順に並べた中央の値)

この差(9.1%と2.7%)が生じる理由は、収入規模の大きい事業所が高い収支差率を持っている場合、表の平均が押し上げられるためです。中央値は「全体のちょうど真ん中に位置する事業所の値」なので、規模の影響を受けません。

どちらが実態に近いかというと、「自分の事業所が全国のどのあたりに位置するか」を知りたい場合は中央値の方が参考になります。全国の放デイの事業所のうち約半数は収支差率が2.7%以下にある、という見方ができます。

収支差率の分布を見ると、赤字の事業所が一定数あります

表の平均や中央値だけでは分からないのが、事業所がどのように分布しているかです。令和7年調査の放課後等デイサービスの収支差率の分布(「マイナス10%以上」「マイナス5〜10%」「マイナス5〜0%」「0〜5%」…という5%刻みの階級別)を見ると、赤字(収支差率がマイナス)の事業所が相当数あることが分かります。

中央値が2.7%というのは、全体の半数の事業所が「わずかな黒字から赤字まで」に収まっているという意味でもあります。

表の平均9.1%は「平均的な事業所の収支差率」ではなく、収入規模の大きい事業所(大手法人・定員の多い事業所)が引き上げた数値です。自事業所の収支差率を評価するとき、「平均より下だから問題がある」「平均より上だから大丈夫」と単純に見ると、実際の位置を誤認しやすくなります。

中央値と「表の平均」が大きくかい離する種別では、特に注意が必要です

経営概況調査では複数の障害福祉サービスの収支差率が公表されています。種別によって、表の平均と中央値のかい離の度合いが異なります。

かい離が大きい種別では、規模の大きな法人がその種別全体の平均を引き上げている可能性があります。小規模の事業所(定員10〜20人前後)がほとんどを占める種別では、こうした歪みが出やすくなります。

「全国平均と比べて自分の事業所はどこにいるか」を判断するためには、表の平均だけでなく、中央値と収支差率の分布の形を合わせて確認することが重要です。

「平均を超えていれば良い経営」ではない理由

経営の良し悪しを外部の数字と比べるときに多い誤解が、「全国平均を超えているから問題ない」という見方です。いくつかの観点から考えます。

表の平均は外れ値の影響を受けます。収入の大きい事業所(たとえば定員30名以上の事業所)が高い収支差率を持つ場合、表の平均全体が引き上げられます。小規模事業所が全国の平均(表の平均)と自分の収支差率を比べると、「全国平均以下だが実は上位にいる」という状況が起きます。

中央値は「上半分の区切り」です。中央値2.7%なら、全国の半数の事業所が2.7%以下にある(2.7%以上でもある)という意味です。自事業所が4%なら「全国の中央より上」ですが、9.1%(表の平均)との比較では「平均より下」という逆の評価になります。

業種・規模によって比較対象を絞る必要があります。「放デイ全体の中央値2.7%」は、定員5〜30人以上の全規模の平均です。自事業所と近い規模・経営主体の事業所と比べることで、より実態に近い判断ができます。

収支差率以外に、合わせて確認すべき指標があります

収支差率は収益性の指標ですが、経営の安定性を判断するにはほかの指標も必要です。

指標 何を示すか
稼働率 定員に対して実際に何人が利用しているか。収益の根幹
人件費率 収入に占める人件費の割合。職員数・給与水準と稼働率の影響を受ける
職員1人あたりの収入 人件費率が高い原因が「給与が高い」か「職員1人あたりの収入が少ない(稼働率が低い・加算が少ない)」かを見分ける
手元資金(月数) 毎月の費用の何か月分の現金があるか。障害福祉サービスは報酬の入金が翌々月のため、2か月分以上が安定の目安とされる

これらの指標を全国の数字と比べることで、「収支差率は良いが稼働率が低い」「人件費率が全国平均より高い原因は職員の給与水準ではなく稼働率の低さ」といった分析ができます。

厚生労働省の経営概況調査の数字の読み方

令和7年調査(令和6年度決算)は、厚生労働省「第48回障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」の資料として公表されています。調査に回答した事業所のデータをもとにしており、全事業所を網羅したものではありません。

公表される数字には次のものが含まれます。

  • 収支差率(表の平均・中央値・分布)
  • 各費目の割合(人件費・事務費・事業費など)
  • 経営主体別・事業規模(定員)別の内訳
  • 職種別の常勤・非常勤の月額給与(令和7年4月分)

分布のグラフから「赤字の事業所が何%か」「自分の収支差率が全体の上位何%にあたるか」を読み取ることができます。ただし、分布は5%刻みの階級別で公表されているため、位置は「おおよそ」の精度になります。

自事業所の決算の数字を入れて全国と比べるツールを使えます

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まとめ:収支差率の見方のポイント

  • 厚生労働省の調査に載る「表の平均」は収入加重の金額平均で、規模の大きい事業所の影響を受ける
  • 「中央値」は事業所数の真ん中の値で、外れ値の影響が少ない。「全国の上半分に入る」か否かの基準になる
  • 放デイは令和6年度の表の平均9.1%・中央値2.7%で、両者の差が大きい(一次資料:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」)
  • 収支差率の分布を見ると赤字事業所が一定数あり、「平均以上だから安全」とは言い切れない
  • 自事業所の位置を把握するには、収支差率だけでなく稼働率・人件費率・手元資金も合わせて全国と比べる
この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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