就労継続支援B型の損益分岐点はどこか。稼働率と定員から計算する。
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就労継続支援B型を開業する際に、「何人通所すれば赤字にならないか」という問いに答えるには、損益分岐点を把握する必要があります。損益分岐点とは、収入と費用がちょうど一致する稼働水準のことです。この水準を下回れば赤字、上回れば黒字になります。
この記事では、就労継続支援B型の収支構造における固定費と変動費の考え方、損益分岐点稼働率の計算式、定員規模ごとの試算例、稼働率が低い状態が続いた場合のリスク、損益分岐点を引き下げる方法を整理します。開業前の事業計画や、運営中の収支改善の検討に役立てていただけます。
就労継続支援B型の収支は「固定費と変動収入」の構造になっている
損益分岐点を考えるには、まず費用と収入の構造を整理する必要があります。就労継続支援B型の費用と収入は、次のように分けられます。
| 区分 | 内容 | 利用者数との関係 |
|---|---|---|
| 固定費 | 人件費(管理者・職業指導員・生活支援員・サービス管理責任者)、家賃・共益費、光熱費、リース料、通信費、消耗品費など | 利用者数にかかわらず毎月ほぼ一定額が発生する |
| 変動費 | 工賃(生産活動収支から支払い)、交通費補助(利用者ごと)、食材料費(食事提供の場合) | 利用者数・活動量に応じて変動する |
| 収入 | 訓練等給付費(障害福祉サービス報酬)、生産活動収入 | 実際の利用者数×報酬単価で変動する |
就労継続支援B型の報酬(訓練等給付費)は、実際に利用者が通所した日数に応じて算定されます(1日ごとに利用者1人分の報酬が発生する仕組み)。利用者が多く通所すれば収入は増え、欠席が重なれば収入は減ります。一方、人件費・家賃などの固定費は毎月一定額かかり続けます。
この「固定費は変わらないが、収入は稼働率に連動して変動する」という構造が、損益分岐点計算の出発点です。
損益分岐点稼働率は「固定費を報酬収入の最大値で割る」で求まる
損益分岐点稼働率は、次の式で求めることができます。
損益分岐点稼働率(%)= 月間固定費合計 ÷ 月間報酬収入(稼働率100%の場合)× 100
月間報酬収入(稼働率100%の場合)は、「定員×報酬単価×1か月の稼働日数」で計算します。就労継続支援B型の1か月の稼働日数は、一般的に22〜23日程度です。
例として、次の条件で計算します。
- 定員:20人
- 報酬単価:最低区分(工賃月額0円の区分)の1日あたり単価×地域単価(告示第523号 別表第14。単位数の具体値は告示を参照のこと)
- 月間固定費:80万円(人件費70万円+家賃・光熱費・その他10万円の目安)
- 1か月の稼働日数:22日
この条件では、月間報酬収入の最大値(稼働率100%の場合)は「20人×1日単価×22日」で計算されます。固定費80万円がその何%に当たるかが損益分岐点稼働率です。
実際の計算では、使用する報酬単価(1単位の金額・地域加算)によって結果が変わります。開業を検討する地域の1単位の金額を確認したうえで、シミュレーターで試算することをお勧めします。
定員規模によって損益分岐点の稼働率は変わる
定員規模が変わると、損益分岐点稼働率も変わります。これは定員が大きいほど、稼働率100%時の収入の「天井」が高くなるためです。固定費が同じであれば、定員が大きいほど損益分岐点稼働率は下がり、経営に余裕が生まれます。
以下は定員規模ごとの損益分岐点のイメージです(固定費・報酬単価・稼働日数の仮定による概算です。実際の数字は事業所の条件によって異なります)。
| 定員 | 月間固定費の目安 | 損益分岐点稼働率の傾向 | リスクの特徴 |
|---|---|---|---|
| 20人以下 | 60〜85万円 | 高め(75〜90%程度が目安) | 利用者が数人欠席しただけで損益分岐点を下回りやすい。稼働率管理が最重要 |
| 30人 | 90〜120万円 | 中程度(65〜80%程度が目安) | 定員が増えた分だけ人件費も増えるが、収入の天井も上がるため余裕が生まれやすい |
| 40人以上 | 120〜160万円 | 低め(60〜75%程度が目安) | 固定費は高くなるが、収入の天井がさらに上がるため、稼働率の許容幅が広がる |
この表はあくまでも傾向を示したものです。実際の損益分岐点は、報酬単価(工賃月額区分・地域加算)・実際の固定費・加算の有無によって大きく変わります。「定員が多ければ必ず有利」とは言えず、稼働率が低い状態で定員だけを増やしても固定費が先行するリスクがあります。
新規事業所が損益分岐点に達するまでには時間がかかる
新規に就労継続支援B型を開業した場合、開業直後から損益分岐点を超える稼働率を維持することは難しいのが一般的です。主な理由は次の3点です。
利用者が集まるまでに時間がかかる:相談支援専門員・ハローワーク・就業・生活支援センターからの利用者紹介ルートが確立されるまでには、数か月から半年以上かかることがあります。開業直後は定員の3〜5割程度しか埋まらないケースも珍しくありません。
報酬単価が最低区分からスタートする:新規指定事業所は前年度の工賃月額実績がないため、最低区分(工賃月額0円の区分)の報酬単価が適用されます(告示第523号 別表第14)。最低区分の単価は、工賃を高く維持している既存事業所と比べると低くなります。
工賃向上に時間がかかる:生産活動の受注先を確保して安定した工賃を利用者に支払えるようになるまでにも時間がかかります。工賃が低い間は翌年度の報酬区分も低く抑えられ、収入の伸びが遅くなります。
この3点が重なる開業後の初期段階では、固定費を収入がまかなえない赤字期間が続きます。損益分岐点に達する時期は事業所ごとに異なりますが、計画的な運転資金の確保なしに開業することは資金ショートのリスクを高めます。
稼働率が損益分岐点を下回り続けると資金が枯渇する
稼働率が損益分岐点を下回る状態が続くと、毎月の赤字が積み上がり、運転資金が徐々に減少します。
就労継続支援B型の報酬は、サービスを提供した月の翌月に国民健康保険団体連合会(国保連)を通じて請求し、翌々月に入金されます。つまり、サービスを提供した月から約2か月後に入金されます。開業直後は入金まで2か月間、収入がない状態で固定費を支払い続ける必要があります。
赤字が続く場合に起きる主なリスクは以下のとおりです。
- 運転資金の枯渇:毎月の赤字が積み上がると、用意していた運転資金がなくなります。職員への給与支払いが遅延するリスクが生じます
- 職員の離職:経営が苦しくなると職員の処遇が悪化しやすく、離職につながります。職員が減ると配置基準を維持できなくなり、指定基準違反のリスクも生じます
- 利用者の減少:支援の質が低下すると利用者の定着が悪化し、さらに稼働率が下がる悪循環が生じます
損益分岐点を把握せずに開業すると、「このまま続けるべきか、閉鎖すべきか」の判断が遅れます。開業前に損益分岐点稼働率を計算し、その水準を超えるまでの期間に必要な運転資金をあらかじめ確保しておくことが、継続的な運営の前提条件です。
損益分岐点を引き下げる4つの方法
損益分岐点稼働率を引き下げること(=収支が黒字になりやすくすること)は、事業の安定につながります。方法は主に4つあります。
定員を増やす
定員が大きいほど稼働率100%時の収入の天井が上がり、固定費を同じとすれば損益分岐点稼働率が低下します。ただし定員を増やすと必要な職員数(省令第186条に定める「利用者数÷10以上の常勤換算」)も増えるため、人件費という固定費も増えます。定員拡大は収入と費用の両方に影響するため、シミュレーターで事前に試算することが重要です。
固定費を抑える
家賃・光熱費の節減、非常勤職員の活用(常勤職員との置き換えで人件費を抑える)、リース費用の見直しなどで固定費を抑えると、損益分岐点稼働率が低下します。ただし人員配置基準を下回ることはできないため、職員数の削減には限界があります。
加算を取得する
欠席時対応加算・食事提供体制加算・福祉専門職員配置等加算などを取得することで、同じ稼働率でも収入が増え、実質的な損益分岐点が下がります。取得できる加算の種類と要件については、「就労継続支援B型の加算、種類と算定要件を整理する。」を参照してください。
工賃区分を上げる
就労継続支援B型の基本報酬は、前年度の平均工賃月額によって14区分に分かれています(告示第523号 別表第14)。工賃月額が高い区分の方が報酬単価は高く、同じ稼働率でも収入が増えます。工賃向上計画を策定して生産活動収入を高め、翌年度の報酬区分の引き上げを目指すことが、中長期的な損益分岐点の引き下げにつながります。
損益分岐点の計算では「報酬単価の区分」がカギになる
損益分岐点稼働率の計算で最も大きく影響するのは、適用される報酬単価の区分です。
就労継続支援B型の報酬単価は、工賃月額区分(0円〜46,000円以上の14段階)と定員規模(20人以下・21〜40人・41〜60人・61〜80人・81人以上の5区分)の組み合わせで決まります(告示第523号 別表第14)。
最低区分(工賃月額0円)と最高区分(工賃月額46,000円以上)では、同じ定員・稼働率でも月間収入に大きな差が生じます。最低区分の単価で試算した損益分岐点稼働率は、事業所が達しうる最も厳しい条件下での計算です。最低区分で損益分岐点を超えられる稼働率・固定費の組み合わせを確認しておくことが、開業計画のリスク管理の基本になります。
逆に、工賃区分が上がれば同じ稼働率でも収入が増えるため、損益分岐点稼働率が下がります。工賃の向上は利用者への還元であると同時に、事業所の収支改善にも直接つながる取り組みです。
損益分岐点に関連する指標をシミュレーターで確認する
損益分岐点を計算するには、定員・稼働率・報酬単価・固定費の4つの数字が必要です。これらを変えながら損益分岐点がどう変わるかを確認するには、就労継続支援B型の開業収支シミュレーターが役立ちます。
シミュレーターでは次の確認ができます。
| 確認できること | 内容 |
|---|---|
| 月次収支の推移 | 稼働率・工賃区分の条件ごとに、毎月の収入・費用・損益がどう変わるかを確認できる |
| 感度分析 | 稼働率を計画値から下げた場合・工賃区分が上がらなかった場合など、悪いシナリオでの損益を試算できる |
| 黒字転換の時期 | 何か月目に収支がプラスに転じるかを見通せる(Pro版:月次36か月グラフ) |
| 必要な運転資金 | 損益分岐点に達するまでの赤字累積額から、必要な運転資金の目安を確認できる |
開業前の事業計画書作成や融資申請の際は、計画値だけでなく「最悪の場合にどこまで赤字が膨らむか」を複数のシナリオで確認しておくことで、計画の説得力が増します。
まとめ
就労継続支援B型の損益分岐点は、月間固定費を稼働率100%時の月間報酬収入で割ることで求められます。人件費・家賃などの固定費が高いほど、また定員が少ないほど、損益分岐点稼働率は高くなります。定員20人以下の小規模事業所では、数人の欠席が毎日続くだけで損益分岐点を下回るケースがあるため、稼働率の管理は経営上の最重要課題です。
新規事業所は開業直後から損益分岐点を超えることが難しく、安定するまでの期間に必要な運転資金をあらかじめ確保しておく必要があります。損益分岐点を引き下げるには、定員の拡大・固定費の削減・加算の取得・工賃区分の引き上げの4つのアプローチがあり、組み合わせて検討することが有効です。
自事業所の条件に合わせた損益分岐点の試算は、以下のシミュレーターでご確認いただけます。
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▶ 就労継続支援B型 開業収支シミュレーター
出典:指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第186条・第201条。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービスの報酬の算定構造(厚生労働省告示第523号)別表第14。作成日:2026年10月。


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