生活介護の開業資金と損益分岐は、定員と稼働率で決まる。

生活介護

生活介護の単独事業所を開くには、定員を20人以上にする必要があります(省令174 第37条)。収入の規模は定員と稼働率によって変わり、開業資金は初期費用と、黒字化するまでの赤字を合わせた額になります。損益分岐となる稼働率は、利用者の障害支援区分の構成によって違います。

この記事では、生活介護の開業資金の目安と損益分岐の考え方を整理します。収入の仕組み(障害支援区分と所要時間)については、生活介護の収入は、障害支援区分と所要時間で決まる。を先に読んでいただくと、この記事の前提がわかりやすくなります。

生活介護の単独事業所は、定員20人以上が基準になる

生活介護の単独事業所(生活介護だけを行う事業所)の利用定員は、省令174 第37条で20人以上と定められています。生活介護と他のサービスを組み合わせた多機能型事業所ではこの規定は適用されませんが、生活介護単体で開く場合は20人以上が必要です。

定員20人以上という基準は、開業の初期コストと資金計画に直結します。訪問介護(定員の規定なし)や放課後等デイサービス(定員10人以下から可)と比べると、最初から一定の規模で始める必要があります。これが、生活介護の開業を検討するときに最初に確認すべき条件です。

定員21人以上では基本報酬が1割少なくなる

告示523(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準)は、利用定員が21人以上の生活介護事業所について、基本報酬(加算を付ける前の報酬)に100分の90を掛けた額を算定するよう定めています。

言い換えると、定員21人以上では、同じ障害支援区分・同じ所要時間であっても、定員11〜20人の事業所より基本報酬が1割少なくなります。

定員20人で開設すれば、1割減の影響を受けずに済みます。一方で、定員が多いほど月の収入の上限も大きくなります。どの規模でスタートするかは、稼働率の見通しと必要な人員の数を合わせて考える必要があります。

収入の規模は定員と稼働率で変わる

生活介護の月の収入を簡単に示すと、次のように計算します。

  • 1人1日あたりの基本報酬(単位)× 地域単価(円/単位)× 利用者数 × 月の稼働日数 × 処遇改善加算率

1人1日あたりの基本報酬は、障害支援区分(区分2以下〜区分6)と所要時間(3時間未満〜8時間以上の7段階)と定員区分の組み合わせで決まります。定員11〜20人・所要時間6〜7時間の場合の基本報酬は次のとおりです(告示523 別表第6の1 イ)。

障害支援区分 基本報酬(単位/日)
区分6 1,258単位
区分5 941単位
区分4 652単位
区分3 583単位
区分2以下 532単位

地域単価は告示539で市区町村ごとに定められており、1単位あたり10.00円(その他地域)〜11.22円(東京都特別区など)の範囲です。「その他」地域で、定員20人・月22日・稼働率84%の場合、上記の区分構成の例(区分6/5/4/3/2以下=20/20/30/20/10%)を前提とした加重平均は805単位前後になります。これに処遇改善加算(告示523に定める割合・区分によって6.7〜9.7%)を加えると、月の収入は300万円台になるケースが多いです。

ただし、区分の構成・稼働率・地域単価・取得する加算によって月の収入は大きく変わります。上記はあくまでも一つの試算例です。

全国の1事業所あたり費用額は月約563万円

厚生労働省の令和7年障害福祉サービス等経営実態調査(令和6年度決算・「最近の動向」p22)によると、生活介護の1事業所あたりの費用額(収入とほぼ等しい)は月5,632千円(約563万円)です。全国の収支差率は9.0%です。

ただし、この全国平均には大規模な施設型の生活介護(入所施設に併設されているものなど)も含まれています。単独で開く20〜30人規模の事業所とは規模が異なるため、参考値として扱うことが大切です。

開業資金は、初期費用と立ち上がりの赤字を合わせた額になる

生活介護の開業資金は、大きく分けると次の2つで構成されます。

  • 初期費用:物件の取得・改修費用、設備・備品代、人員の採用費、法人設立費用など
  • 立ち上がりの赤字:開設から黒字化するまでの赤字の累計と、手元に残しておく運転資金

設備基準が、物件選びの条件になる

省令171 第77条は、生活介護の設備基準を定めています。人員基準は省令171 第78条です。主な要件として、訓練・作業室は定員20人以下で40平方メートル以上(定員20人を超える場合は1人あたり2平方メートルを加えた面積以上)、相談室・洗面所・便所なども必要です。また、定員に見合った面積と動線が確保できる建物でなければなりません。

設備基準を満たす物件を確保できるかどうかと、改修にいくら必要かが、初期費用の中で最も変動する部分です。既存の建物を賃借して改修する場合、内装工事・設備工事・備品代を合わせると数百万円から1,000万円以上になることがあります。建物の状態と指定権者(都道府県・指定都市・中核市)の確認が先になります。

立ち上がりの赤字は、新規契約のペースで変わる

生活介護を単独で開設した直後は、利用者が定員まで埋まっていないため、収入が人件費・家賃などの固定費を下回ります。開設から損益分岐となる利用者数に達するまでの期間が長いほど、立ち上がりの赤字の総額は大きくなります。

新規契約のペースは、地域の需要・相談支援専門員との関係・法人の知名度などによって異なります。毎月2〜4人ずつ新しい利用者が増える場合、損益分岐まで6〜12か月前後かかるケースがあります。この期間に出る赤字の累計額を最低限の手元資金として用意しておく必要があります。

融資と補助金の選択肢

生活介護の開業資金の調達には、主に次の選択肢があります。

  • 独立行政法人福祉医療機構(WAM)の福祉貸付事業:障害福祉サービス事業者向けの長期・低利の融資制度。株式会社・NPO法人・社会福祉法人のいずれも対象になる場合があります。
  • 日本政策金融公庫の融資:創業時の融資として活用できるケースがあります。
  • 都道府県・市区町村の補助金・助成金:地域によって社会福祉法人向けの施設整備補助がある場合があります。

いずれも要件・限度額・審査があるため、事前に金融機関や都道府県の担当窓口に確認することが必要です。

損益分岐の稼働率は、区分の構成と人件費の水準で決まる

生活介護の損益分岐点を稼働率で表すと、事業所の条件によって大きく異なります。

人員基準は障害支援区分の平均によって変わる

省令171 第78条は、生活介護の人員を次のように定めています。

利用者の障害支援区分の平均 必要な職員の配置
区分平均が4未満 利用者6人に対して1人以上
区分平均が4以上5未満 利用者5人に対して1人以上
区分平均が5以上 利用者3人に対して1人以上

出典:省令171 第78条

例として、定員20人で区分の平均が4以上5未満の場合は、利用者20人÷5=4人以上の職員が必要です(このほか看護職員1人以上・サービス管理責任者が必要)。区分の平均が5以上になると20人÷3≒7人以上が必要になり、人件費が大きく増えます。

区分の高い利用者を受け入れるほど人員が増えるため、損益分岐となる稼働率も高くなります。収支計画を立てるときは、想定する利用者の区分の構成を具体的に設定する必要があります。

人員配置体制加算が、区分の高い事業所の収入を補う

告示523(別表第6の2)は、人員配置体制加算(Ⅰ)〜(Ⅳ)を定めています。区分5・6の利用者の割合が一定以上(加算Ⅰは60%以上)で、かつ告示551(六イ)で定める配置基準(利用者2.5人に対して1人以上など)を満たす場合に加算が算定できます。

この加算は、障害の重い利用者が多い事業所の収入を増やす仕組みです。区分6の利用者が多く職員も多い事業所が、人件費に見合った収入を得やすいように設計されています。ただし加算を取得するためには要件を満たす職員の配置が前提になるため、人件費が先に増えます。

稼働率が高くても赤字になるケースがある

区分の高い利用者を多く受け入れていて、人員を手厚く配置している事業所では、稼働率を高く保っても収支が厳しくなることがあります。人件費が収入を上回る状態では、稼働率を上げるだけでは解決しません。

損益分岐の稼働率は、事業所ごとの条件(定員・区分構成・人件費・地代・取得する加算)によって違います。一律の目安(たとえば「稼働率70%を超えれば黒字」など)はないため、実際の条件を入れて試算することが重要です。

生活介護には、新規指定の引き下げが適用されない

令和8年6月の報酬改定では、新規指定の事業所について基本報酬を減らす「新規指定の引き下げ」が一部のサービスに設けられました。放課後等デイサービス・訪問看護などがこれに該当しますが、告示523および令和8年改定に関する厚生労働省の資料(「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定の改定事項について」p21)によると、生活介護にはこの引き下げは設けられていません。

新規で開設しても、既存の事業所と同じ基本報酬が適用されます。

収支の試算は、条件を入れれば損益分岐と必要資金が出る

生活介護の開業前に収支計画を具体化するときは、次の条件を入力すると月ごとの収支と資金残高が出ます。

無料の範囲では損益分岐の利用者数と稼働率が確認できます。Pro版(買い切り9,800円)では、月ごとの詳細な収支計算・12か月の資金推移・事業計画書の印刷(融資相談時の参考資料として使える形式)が使えます。

→ 生活介護 開業向け 収支シミュレーター

生活介護を含む障害福祉サービスの開業・経営支援ツールをまとめたページもあります。訪問介護・放課後等デイサービス・グループホームなど、他のサービスの収支シミュレーターもあわせて確認できます。

→ 福祉事業の開業と運営 | fufumumu_design

あわせて読みたい:生活介護の利用定員は、原則20人以上と省令で決まっている。

関連記事:生活介護の開業、運営は成り立つか。収支差率で見る実態。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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