通訳・翻訳者のインボイス、海外のクライアントの売上は消費税が免除される。国内の翻訳会社との違いを3人の例で比べる

通訳・翻訳者のインボイス、海外のクライアントの売上は消費税が免除される。国内の翻訳会社との違いを3人の例で比べる 一人親方・個人事業主のインボイス

フリーランスの通訳者・翻訳者がインボイスに登録して納める消費税は、売上の大きさより先に、「相手がどこにいるか」で決まります。国内の翻訳会社やエージェントからの売上には消費税がかかります。一方、海外に住む人や、日本に事務所を持たない海外の会社に対する通訳・翻訳は、国税庁のタックスアンサーで「一般的には輸出免税の規定が適用され、消費税が免除されます」と説明されています。同じ年商600万円でも、国内の翻訳会社だけの人は2027年分に約16.4万円、海外直取引が中心の人は約2.7万円と、納める額が6倍違うことがあります。この記事では、取引先の構成が違う3人の例で、2026年分から2029年分までの消費税を比べ、経費の控除、届出、委託元への相談の考え方まで、国税庁の原文にそって整理します。

納める消費税は、相手が国内にいるか、海外にいるかで分かれます

消費税は、日本の国内で消費されるものにかかる税金です。海外で消費されるものにはかけない、という考え方があるので、外国への輸出や、海外の相手へのサービスには、消費税がかからない(免除される)仕組みがあります。通訳・翻訳のようなサービスについて、国税庁は次のように説明しています。

「非居住者に対する役務の提供は一般的には輸出免税の規定が適用され、消費税が免除されます。」

(出典:国税庁 タックスアンサー「No.6567 非居住者に対する役務の提供」)

ここでいう「非居住者」は、住んでいる国や国籍ではなく、法律上の区分です。国税庁は「輸出取引の免税」の説明の中で、次のように書いています。

「本邦内に住所または居所を有しない自然人および本邦内に主たる事務所を有しない法人が該当します。」

(出典:国税庁 タックスアンサー「No.6551 輸出取引の免税」の注)

つまり、日本に住所も居所もない個人、日本に主たる事務所がない会社が、非居住者です。海外の出版社から直接受けた翻訳、海外の企業から受けたオンライン通訳、海外在住の個人から受けた文書の翻訳は、相手がこの区分に当たれば、原則として免税の売上になります。売上に消費税が含まれていないので、その分について納める消費税はありません。

ただし、同じNo.6567には、免除されない場合も書かれています。1つは、相手が海外の会社でも、日本に支店や出張所があるときです。この場合は、原則としてその支店を通じて仕事をしたものとして扱われ、免除されません。もう1つは、国内で相手が直接便益を受けるサービスです。国内での飲食や宿泊、国内の資産の運送や保管などが例として挙げられています。通訳の仕事では、たとえば来日した海外の人に国内でつきっきりで付く形のものが、どちらに当たるかの判断が分かれることがあります。この線引きは、契約の中身によって変わるので、あなたの取引がどちらかは、税務署や税理士に確かめてください。

3人の例で比べると、2027年分の消費税は約2.7万円から約16.4万円まで開きます

年商(入金の合計)が同じ600万円で、取引先の構成だけが違う3人を考えます。国内の売上は消費税込みの金額、海外の売上は免税の金額とします。

  • Aさん:国内の翻訳会社・エージェントからの売上だけ。600万円(税込)。
  • Bさん:海外の出版社・企業との直取引が中心。海外500万円(免税)+国内100万円(税込)。
  • Cさん:半分ずつ。海外300万円(免税)+国内300万円(税込)。

消費税の計算のもとになるのは、国内の売上に含まれる消費税(税込の売上×10/110)です。海外の免税の売上には消費税が含まれていないので、この計算に入りません。3人の、年ごとの消費税は次のようになります(国と地方を合わせた10%で計算した概算・端数処理なし)。

年分(申告期限) 使える方式 Aさん
国内600万円
Bさん
国内100万円
Cさん
国内300万円
2026年分(2027年3月31日) 2割特例 109,091円 18,182円 54,545円
2027年分・2028年分(翌年3月31日) 3割特例 163,636円 27,273円 81,818円
2029年分から(翌年3月31日) 簡易課税・第5種(50%) 272,727円 45,455円 136,364円

Aさんの2027年分は約16.4万円、Bさんは約2.7万円です。年商は同じでも、6倍の差があります。Bさんの少なさは、節税の工夫ではなく、海外の相手へのサービスには消費税がかからないという仕組みそのものから来ています。逆に言えば、国内の翻訳会社を通して受けている仕事は、たとえ最終的な読み手が海外の人であっても、あなたの取引相手は国内の会社なので、消費税のかかる売上です。誰から入金されるかで見てください。

この表は、2割特例・3割特例の条件(2年前の課税売上高が1,000万円以下であることなど)を満たしている前提です。注意したいのは、海外向けの免税の売上も、この課税売上高に含めて数えることです。消費税法は、輸出免税を「課税資産の譲渡等のうち」消費税を免除するものと定め(第7条)、基準期間における課税売上高を「課税資産の譲渡等の対価の額」の合計額としています(第9条第2項)。免税の売上は、消費税がかからない売上ではなく、課税の対象になったうえで税率が0になる売上です。Bさんは海外500万円と国内100万円で合計600万円なので条件に入りますが、海外向けが多くて合計が1,000万円を超える年があると、その2年後は特例を使えません。

海外向けの売上が多い人は、本則課税で経費の消費税が戻る年があります

ここまでの表は、売上にかかる消費税から、決まった割合を引く方式(2割特例・3割特例・簡易課税)です。もう1つ、実際に払った経費の消費税を差し引く「本則課税」があります。海外向けの売上が多い人は、この本則課税が有利になる年があります。国税庁は、輸出取引の免税の説明の中で、次のように書いています。

「輸出取引に対応する課税仕入れには消費税および地方消費税の額が含まれています。」

(出典:国税庁 タックスアンサー「No.6551 輸出取引の免税」)

そして、輸出取引の場合でも、その課税仕入れに含まれる消費税を、申告のときに控除できると続けています。翻訳者に当てはめると、パソコン、翻訳支援ツールや辞書の利用料、通信費、コワーキングの利用料、書籍などの経費には消費税が含まれていて、その仕事の相手が海外でも、この消費税は差し引ける、ということです。

Bさんで計算してみます。国内の売上100万円(税込)に含まれる消費税は90,909円です。消費税のかかる経費が年88万円(税込)なら、そこに含まれる消費税は80,000円です。本則課税なら、納める消費税は90,909円から80,000円を引いた10,909円で、2027年分の3割特例(27,273円)より少なくなります。経費が年132万円(税込・消費税120,000円)なら、差し引きはマイナス29,091円になり、この分が戻ってくる(還付)計算です。2割特例・3割特例・簡易課税は、売上の消費税から割合で引く方式なので、マイナスにはなりません。還付が出るのは本則課税だけです。

Bさん(国内100万円・海外500万円) 2割特例(2026年分) 3割特例(2027・2028年分) 本則課税(経費88万円) 本則課税(経費132万円)
納める消費税 18,182円 27,273円 10,909円 −29,091円(還付)

本則課税を選ぶのに届出はいりませんが、簡易課税の届出を出している年は簡易課税になるので、本則課税と比べたい人は届出を出さないでおきます。2割特例・3割特例は、申告書にその旨を書くだけで使える方式なので、届出を出していなければ、毎年、特例と本則課税の少ないほうを選べる形になります。免税の売上を申告するには、その取引が輸出取引にあたることを示す契約書などの書類を、7年間保存する必要があります(No.6551)。メールでのやりとりで仕事が決まる人は、相手の所在地と依頼の内容が分かるものを残しておいてください。

還付を受けるには、経費の側にも、帳簿とインボイス(適格請求書)の保存が必要です。海外のサービスの利用料など、インボイスが出ないものは、控除できるかどうかの扱いが分かれます。計算の前提は人によって違うので、実際にどちらが少ないかは、税理士に見てもらってください。

2割特例は2026年分で終わり、3割特例が2027年分・2028年分の2年だけ使えます

表に出てきた2つの特例を確かめておきます。2割特例は、インボイスに登録して免税事業者から課税事業者になった人が、売上の消費税の2割だけを納めればよい特例です。国税庁のインボイスQ&A(問115)は、その期間を「令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」としています。個人事業者の課税期間は1月から12月なので、2026年分が最後です。申告と納税は2027年3月31日までです。

その後の2年について、国税庁の「令和8年度税制改正特集 3割特例」は、次のように説明しています。

「インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者に係る令和9年分・令和10年分の消費税の確定申告において納付税額を売上税額の3割とすることができる特例です。」

(出典:国税庁「令和8年度税制改正特集 3割特例」PDF)

2027年分と2028年分の2年間、売上の消費税の3割を納めます。事前の届出はいらず、申告書に適用を受ける旨を書きます。2割特例と同じく、2年前の課税売上高が1,000万円以下であることなどが条件です。Aさんなら、2026年分の約10.9万円が、2027年分に約16.4万円へ、1.5倍に増える計算です。

2029年分からは、通訳・翻訳は簡易課税の第5種で、納める額が2割特例の2.5倍になります

3割特例が終わった2029年分からは、簡易課税か本則課税のどちらかです。簡易課税は、事業の種類ごとに決められた「みなし仕入率」で経費の消費税を見積もる方式で、通訳・翻訳はサービス業として第5種に入ります。

「運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)」

(出典:国税庁 タックスアンサー「No.6509 簡易課税制度の事業区分」第5種事業・みなし仕入率50%)

みなし仕入率が50%なので、売上の消費税の半分を納めます。Aさんなら272,727円で、2026年分の2割特例(109,091円)の2.5倍、2028年分の3割特例(163,636円)と比べても1.67倍です。第5種は、建設業(第3種・70%)などと比べてみなし仕入率が低い区分なので、特例が終わったあとの増え方が大きくなります。

簡易課税を使うには、2年前の課税売上高が5,000万円以下であることのほか、原則として使いたい年の前の年までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す必要があります。2029年分から簡易課税にするなら、届出は2028年のうちが原則です(3割特例を使った翌年に移る場合には、申告期限までの届出で移れる措置があります)。また、簡易課税は一度選ぶと、原則として2年間は本則課税に戻せません。海外向けの売上が多くて、本則課税で還付になる年があるBさんのような人は、この2年の決まりも含めて、どちらにするかを税理士に相談してから届出を出してください。

翻訳会社やエージェントへの相談は、国内の取引分だけを数字にして持っていきます

インボイスに登録したのに単価が前と同じなら、納める消費税の分だけ手取りが減ります。この点について、国のQ&Aは、発注する側に次の注意をしています。

「免税事業者であった仕入先が課税事業者に転換した場合、新たに納税が必要となる消費税分について、①仕入先と明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は取適法上の買いたたきとして、②仕入先から協議の要請があった場合に、当該協議に応じず一方的に取引価格を据え置くことは、取適法上の協議に応じない一方的な代金決定として、それぞれ問題となるおそれがあることに留意が必要です。」

(出典:財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和4年1月19日、改正:令和8年1月30日)Q5)

この相談をするとき、海外の相手には消費税の話は出てきません。相談の相手は、国内の翻訳会社やエージェント、国内のクライアントです。Cさんのように国内と海外が半分ずつの人は、全体の年商ではなく、国内の委託元との取引分だけを数字にします。国内の翻訳会社1社との取引が年150万円(税込)なら、その分の消費税は136,364円で、2027・2028年分の3割特例で納めるのは40,909円、2029年分から第5種なら68,182円です。「御社とのお取引分で、2027年分からは年約4.1万円、2029年分からは年約6.8万円、私の手取りが減る計算です」と、その会社に関係のある数字だけを見せます。

翻訳会社の中には、ワード単価や料率表で単価が一律に決まっていて、個別の相談がしにくいところもあります。そういう相手には、数字を示したうえで、「登録した翻訳者の単価について、御社としてどう考えているか」を聞くところから始めるのが現実的です。国のQ&Aは、話し合いを求める根拠にはなりますが、相手に値上げを義務づけるものではありません。

よくある質問

海外の翻訳会社でも、日本に支店があれば、原則として免除されません

No.6567は、国内に支店や出張所などを持つ非居住者に対する役務の提供は、原則としてその支店等を通じて行ったものとして消費税は免除されない、としています。海外の会社から直接依頼が来ても、その会社が日本に支店を持っていて、その支店の仕事として受けている場合は、国内の売上として扱われます。相手の会社の日本での拠点の有無を、契約の前に確かめてください。

海外在住の個人からの依頼も、非居住者への役務の提供に当たります

No.6551の注にあるとおり、非居住者には、日本に住所も居所もない個人(自然人)も含まれます。海外に住む日本人からの依頼も、この区分で見ます。国籍ではなく、日本に住所や居所があるかどうかで判断します。

免税の売上は、簡易課税でも納める消費税が出ません

簡易課税は、売上に含まれる消費税に、みなし仕入率をかけて計算する方式です。免税の売上には消費税が含まれていないので、その部分から納める消費税は出ません。2割特例・3割特例も同じです。

納める消費税は、翌年3月31日までに、まとめて納めます

消費税の申告と納付は、年に1回、翌年の3月31日までです。Aさんのように国内の売上が中心の人は、毎月の入金から、その年の見込みの額(2027年分なら年約16.4万円、月約1.4万円)を別の口座に取り分けておくと、申告の時期に困りません。

あなたの数字で、年ごとの消費税と毎月の積立額を試算できます

国内の売上(税込)と、消費税のかかる経費を入れると、2026年分から2029年分までの納める消費税(2割特例・3割特例・簡易課税第5種・本則課税)と、毎月取り分けておく額の目安が出るページを用意しました。海外の免税の売上は入れずに使います。委託元に渡す相談シート(A4・あなたの名前で出すもの)の作成は、買い切り980円の有料機能です。入力した数字や名前は、その端末の中だけで計算し、どこにも送りません。

▶ 通訳・翻訳者のインボイス、2027年から消費税はいくら増える?(試算と委託元への値上げ相談シート)

相談シートは、あなたが自分の名前で使うためのひな形です。私が委託元と交渉したり、連絡を代わりにしたりすることはありません。値上げなどの結果を約束するものでもありません。

この記事の数字は、国と地方を合わせた消費税10%で計算した概算です(端数処理なし)。3人の例の売上・経費は説明のための数字です。免税に当たるかどうか、どの方式を選ぶかの判断は税務署や税理士に、取引が法律に照らして問題かどうかは公正取引委員会などの相談窓口に確かめてください。出典:国税庁 タックスアンサー「No.6567 非居住者に対する役務の提供」「No.6551 輸出取引の免税」「No.6509 簡易課税制度の事業区分」「No.6505 簡易課税制度」、国税庁「令和8年度税制改正特集 3割特例」「インボイスQ&A 問115」、財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和4年1月19日、改正:令和8年1月30日)Q5、e-Gov法令検索「消費税法」第7条・第9条(いずれも2026年9月28日確認)。

→ 通訳・翻訳者の消費税分の値上げ交渉は、ワード単価か日当に直して頼む

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