短期入所の熱中症対策研修。宿泊中の体温管理とWBGT基準の確認。

短期入所の熱中症対策研修。宿泊中の体温管理とWBGT基準の確認。 短期入所

短期入所は利用者が施設に宿泊するサービスです。夜間から明け方にかけて職員数が少ない時間帯が続き、利用者が「暑い」と伝えられないまま体温が上昇するリスクがあります。熱中症対策推進法(令和5年法律第12号)と厚生労働省の基本対策要綱をもとに、短期入所施設が研修で確認すべき内容をまとめました。

熱中症対策の根拠は熱中症対策推進法と厚生労働省の職場熱中症予防基本対策要綱

令和5年5月に成立した熱中症対策推進法(正式名称:熱中症対策実施に関する法律)は、事業者に対して熱中症対策の実施に努める責務を定めています(第20条)。法律の対象は屋外の作業場所を想定した条文が多いものの、利用者が宿泊する施設内の環境管理にも考え方を応用できます。

職員の労働環境については、厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱(令和3年4月20日 基発0420第3号)」・熱中症対策ページがWBGT(暑さ指数)による管理基準を示しています。短期入所の基準(平成18年厚生労働省令第171号)には熱中症研修の明示的な義務回数の定めはありませんが、基準は各条文を通じて、利用者の安全管理・健康保持に関する包括的な義務を事業者に定めており、熱中症対策はこれらの安全管理義務に含まれると考えられます。(出典:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」(障発第1206001号・最終改正令和7年3月31日))

職場における熱中症予防基本対策要綱は、WBGT値(暑さ指数)を用いた管理、水分・塩分補給の実施、作業環境の整備、健康管理の実施を事業者の取り組みとして定めています。(出典:厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱(令和3年4月20日 基発0420第3号)」)

短期入所は宿泊中・入浴後・起床後の3場面で熱中症リスクが高まる

通所サービスと異なり、短期入所は利用者が一晩を施設で過ごします。次の3場面は特にリスクが高く、研修でシナリオを確認しておくことが大切です。

  • 宿泊中(睡眠中):就寝後に空調を止めると室温が急上昇する。利用者が自力で布団をはいだり窓を開けたりできない場合、長時間にわたり高温環境にさらされる可能性がある。
  • 入浴後:入浴で体温が上昇した状態のまま水分を十分に補給できていないと、体温調節が追いつかなくなる。入浴後30分は様子を見ることが重要。
  • 起床後(早朝):夜間に水分補給をほとんど行えていない状態で朝を迎えるため、脱水が生じやすい。朝食前の水分補給を習慣化する。

居室の室温は夜間も28℃以下を保つことが目安とされています(環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」参照)。エアコンの設定温度を上げすぎる・タイマーで夜中に停止させるといった運用は避け、夜間も室温計で定期的に確認する習慣を職員間で共有してください。

WBGT28度以上は厳重警戒・31度以上は運動・労働を原則中止する水準

WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)は、気温・湿度・輻射熱を組み合わせた総合的な「暑さ指数」です。温度計の示す気温より高い値になることが多く、体感の暑さを反映した指標として使われています。

環境省「熱中症警戒アラート」はWBGT33以上を発令基準とし、国民に熱中症予防行動を強く呼びかけます。職場の熱中症予防では、以下の行動指針が示されています。

WBGT値 リスク区分 対応の目安
25℃未満 注意 こまめな水分補給
25〜28℃ 警戒 積極的な水分補給・日陰での休息
28〜31℃ 厳重警戒 激しい運動や外出を控え、室内活動に切り替える。こまめな水分補給
31℃以上 危険 運動・屋外活動を原則中止。高齢者・障害者は室内でも発症リスクあり

表は厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」および環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」をもとに当方が整理したものです。

施設にWBGT計(または温湿度計)を設置し、日中だけでなく夜間も定期的に記録することで、危険な環境を早期に把握できます。スマートフォンの気象アプリには環境省の暑さ指数情報が表示されるものもあり、外出支援時の目安として活用できます。

熱中症の重症度は3段階で分類し、対応手順を研修で確認する

熱中症は日本救急医学会の分類でⅠ度(軽症)・Ⅱ度(中等症)・Ⅲ度(重症)の3段階に分かれています。利用者の状態を素早く判断し、適切な対応につなげるため、研修で3段階の症状と手順を確認してください。

重症度 主な症状 対応
Ⅰ度(軽症) めまい・立ちくらみ・大量の発汗・筋肉の硬直(こむら返り) 涼しい場所へ移動し水分・塩分を補給。改善しない場合は医療機関へ
Ⅱ度(中等症) 頭痛・嘔気・嘔吐・倦怠感・虚脱感・判断力の低下 医療機関への搬送。自力で水分摂取できない場合は経口補水液の静脈点滴が必要
Ⅲ度(重症) 意識障害・高体温(40℃以上)・けいれん・多臓器不全 直ちに119番救急要請。到着まで体を冷やす(首・脇の下・鼠径部に保冷剤を当てる)

表は日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2015」の重症度分類をもとに当方が整理したものです。

体の冷却は、首・脇の下・鼠径部(太ももの付け根)に保冷剤や濡れタオルを当てて大血管を冷やすことが効果的です。冷たい水で体を濡らして扇風機で風を当てる「蒸散冷却法」も有効とされています。意識がない場合は水分を飲ませようとせず、気道確保を優先して救急車を待ちます。

自分で「暑い」と伝えられない利用者へは定期見回りと記録が対策の中心になる

短期入所では、重度の知的障害や自閉スペクトラム症、肢体不自由のある方が利用します。これらの方は「暑い」「つらい」という感覚を言語で伝えることが難しい場合があり、職員が状態変化を観察して早期に発見することが重要です。

夜間の定期見回りは、利用者の状態確認の機会になります。見回りの間隔は施設の人員配置や利用者の状態によって異なりますが、高温の日は2時間以内ごとに行い、次の点を確認します。

  • 顔色・皮膚の状態(赤い・乾燥している)
  • 発汗の有無(ひどく汗をかいている・逆に汗が出ていない)
  • ぐったりした様子・ぼーっとしている
  • 体温(脇や額での確認)
  • 室温計の数値(28℃以上であれば空調を確認)

見回りの記録は支援記録に残すことで、状態変化の経緯をたどることができます。ヒヤリハットが発生した場合は、見回り記録を証拠として残すためにも、記録を欠かさないことが大切です。

高体温・口の乾き・尿量の減少(宿泊中に一度もトイレに行っていないなど)は早期の脱水サインです。入浴時に皮膚のツルゴール低下(皮膚をつまんで離したとき元に戻るのが遅い)を確認することも、脱水の発見につながります。

水分補給は1日1.5〜2Lを目安とし、利用者の医療的制限に注意する

成人の水分補給量の目安は1日1.5〜2L(食事からの摂取分を含む)とされています。熱中症予防の観点では、汗をかく前にあらかじめ水分を補給しておく「先取り補給」が大切です。

短期入所の利用者の中には、心疾患・腎疾患・透析治療中など、水分摂取量に制限がある方がいます。水分摂取の上限が設定されている場合は、家族からの情報と主治医の指示を確認したうえで対応してください。過剰な水分補給が危険になるケースがあります。

  • 食事前後:食事とともに自然に水分を補給できる機会。食事量が少ない利用者は水分量も減りやすいため注意。
  • 入浴の30分前・後:入浴前後は特に水分を失いやすい。入浴前に100〜200mLを目安に補給。
  • 就寝前・起床後:睡眠中の不感蒸泄に備え、就寝前に少量の水分補給をすすめる。起床後も速やかに補給する。

水分補給を嫌がる利用者には、スポーツドリンク・経口補水液・水分を多く含むゼリーや果物など、本人が受け入れやすい形での提供を検討します。冷たい飲み物を好まない利用者には常温の飲み物で対応します。

塩分補給については、大量に発汗した場合に0.1〜0.2%の食塩水(市販の経口補水液やスポーツドリンクで代用可)が有効ですが、高血圧・腎疾患のある方には塩分制限がある場合があるため、こちらも主治医の指示を確認してください。

熱中症研修は5月〜6月に年1回以上の実施が目安で、記録を5年保管する

短期入所の基準には熱中症研修の回数を明示する条文はありませんが、安全管理の義務(基準第33条第1項、第145条準用)に基づき、毎年5月〜6月を目安に実施することが適切です。夏本番(7〜8月)が始まる前に職員全員で対策を確認しておくことで、シーズン中の対応力を高めることができます。

研修の記録には次の5項目を残します。

  • 実施日時
  • 参加者(氏名または人数)
  • 研修内容(テーマ・使用資料名)
  • 使用した資料(添付またはタイトル記録)
  • 欠席者への周知方法(後日配布・個別説明など)

記録は5年間の保管が必要です(基準第41条・第145条準用)。欠席した職員には、研修資料の配布と読後確認のサインをもらうなど、周知を記録で示せる形にしておきます。「回覧のみ」「配布のみ」は研修実施と認められない場合があるため、内容の理解を確認する機会を設けてください(解釈通知の不適切事例として指摘されている事例あり)。

研修で使う資料・確認テスト・記録様式は、当方の法定研修・訓練キット(短期入所版)でまとめて用意できます。熱中症テーマのほか、虐待防止・BCP・感染症などすべての法定テーマに対応しています。

夜間緊急時の対応手順については短期入所の夜間・緊急時対応研修もあわせて確認してください。研修全般の義務回数と年間計画については短期入所の法定研修一覧にまとめています。

この記事は、熱中症対策推進法(令和5年法律第12号)、厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱(令和3年4月20日 基発0420第3号)」・熱中症対策ページ、環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」、日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2015」、障害者総合支援法に基づく基準(平成18年厚生労働省令第171号)、解釈通知(障発第1206001号・最終改正令和7年3月31日)の原文・内容を確認して書いています(確認日:2026年11月1日)。所在地の指定権者(都道府県・市)の案内もあわせて確認してください。作成:fufumumu_design

この記事の出典

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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