有料老人ホームの収入、介護報酬と居住費の関係。

福祉事業の開業と運営

有料老人ホームの収入の計算は、施設の種類によって仕組みが変わります。介護付き(特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設)は、介護保険から支払われる介護報酬が収入の大きな柱になります。住宅型(特定施設の指定を受けていない施設)は、介護報酬を直接受け取ることができず、入居者から受け取る居住費・食費・生活支援サービス費が収入の中心です。

どちらの種類を選ぶかによって、毎月の収入の規模・安定性・収支を左右する要因が変わります。この記事では、介護付きと住宅型それぞれの収入の仕組みと、具体的な計算の考え方を整理します。数字は確認できているものを使い、確認できていないものには不確実性を示す表現を添えています。

介護付き(特定施設)の収入は介護報酬が柱になる

介護付き有料老人ホームは、介護保険法上の「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた施設です。施設の職員が入居者に直接介護サービスを提供し、その対価として介護報酬を受け取ります。

介護報酬は、介護保険から事業者に支払われるお金です。入居者が要介護認定を受けていることが条件で、要介護度に応じた単位数で計算されます。特定施設入居者生活介護費は「1日単位」で計算し、1か月に在籍した日数分の介護報酬が施設に支払われます。月の途中で入居した方は入居日から月末まで、月の途中で退居した方は月初から退居日までの日数分が対象になります。

介護報酬の支払いタイミングにも注意が必要です。介護報酬はサービスを提供した月の翌々月に介護保険(国民健康保険団体連合会経由)から施設に振り込まれます。たとえば4月に提供したサービスの介護報酬が入金されるのは6月です。開業直後の2か月間は介護報酬の入金がない状態が続くため、その期間を乗り越えられる運転資金の確保が必要です。

要介護度別の単位数(令和6年度改定後)

令和6年度の報酬改定後における特定施設入居者生活介護費の単位数は次のとおりです(出典:厚生労働省 令和6年厚生労働省告示第19号。以下の数字を事業計画に使用する場合は、必ず告示原文で最新の数値をご確認ください)。

特定施設入居者生活介護費(令和6年6月以降)
要介護度 1日あたり単位数
要介護1 542単位
要介護2 609単位
要介護3 679単位
要介護4 744単位
要介護5 813単位

要介護度が上がるほど1日あたりの単位数が多くなります。重度の方への介護には、より多くの人手と技術が必要なことを反映した設計です。要介護5の813単位は要介護1の542単位の約1.5倍であり、同じ定員数・同じ入居率でも、入居者の要介護度が高いほど介護報酬収入は大きくなります。

出典:厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準」(平成12年厚生省告示第19号・令和6年改定)。告示原文で数値を必ずご確認ください。

地域区分単価:1単位が何円になるかは地域で決まる

介護報酬の計算では、単位数をそのままお金の金額にするわけではありません。1単位あたりの金額(地域区分単価)を掛け算します。地域区分単価は、施設がある地域によって異なります。物価や人件費の水準が地域によって違うため、介護職員の賃金水準を地域ごとに調整する仕組みです。

特定施設入居者生活介護の地域区分単価(令和6年度)は次のとおりです(出典:厚生労働省告示。詳細は告示原文でご確認ください)。

特定施設入居者生活介護の地域区分単価(令和6年度)
区分 1単位の単価
1級地(東京都特別区など) 10.72円
2級地 10.68円
3級地 10.63円
4級地 10.54円
5級地 10.45円
6級地 10.27円
7級地 10.14円
その他(地方都市・農村部など) 10.00円

同じ単位数でも、1級地と「その他」では介護報酬の金額が7.2%異なります。たとえば要介護3の679単位/日の場合、1級地では679×10.72=7,279円/日、その他地域では679×10.00=6,790円/日です。定員20名で計算すると、1日あたりの差は9,780円(月30日では293,400円)になります。施設を開設する地域の地域区分は、事業計画の精度に影響する重要な数字です。

計算例:要介護3・20床・定員充足率100%・その他地域

具体的な数字で計算してみます。前提条件は次のとおりです。

  • 定員:20名
  • 在籍者数:20名(定員充足率100%)
  • 全員が要介護3(実際には要介護度は分散しますが、計算の例として単純化しています)
  • 地域区分:その他地域(1単位 = 10.00円)
  • 1か月の日数:30日

1日あたりの介護報酬を計算します。

679単位(要介護3) × 10.00円 × 20名 = 1日あたり135,800円

1か月(30日)分の合計は次のとおりです。

135,800円 × 30日 = 4,074,000円

この条件では、1か月の介護報酬収入は約407万円になります。ただし、これは「全員が要介護3・空床ゼロ」という理想的な状態の計算です。実際の施設では次の点が変わってきます。

  • 要介護度は1〜5に分散します。入居者の要介護度の構成が変わると収入が変わります
  • 定員充足率が100%になるまでには時間がかかります。開業後1〜2年は空床がある状態が続くことが多いです
  • 入退居のタイミングで日割り計算が発生します
  • 各種加算を取得すると、基本単位数に上乗せして介護報酬を受け取ることができます

要介護度の分布が収入に与える影響

実際の施設では、入居者の要介護度は1〜5に分布します。同じ20名でも、要介護3が中心の施設と要介護1が中心の施設では、介護報酬収入の規模が変わります。

同じ条件(20名・その他地域・30日)で要介護1が中心の場合を計算します。

542単位 × 10.00円 × 20名 × 30日 = 3,252,000円

要介護3中心(407万円)と要介護1中心(325万円)では、月82万円の差があります。年間では約984万円の差になります。事業計画を立てる際は、入居者の想定要介護度の構成を現実的に設定することが重要です。

なお、要介護度が高い入居者を多く受け入れる場合、介護報酬は増えますが、介護に必要な職員数も増えます。収入と人件費がある程度連動するため、要介護度の構成が変わっても人件費率が大きく改善しないケースもあります。

開業後の入居率と収入の変化

有料老人ホームの開業直後は、定員に対して入居者が少ない時期が続くことが一般的です。入居者の確保には時間がかかり、多くの施設では開業後1〜2年かけて定員の7〜8割程度まで入居率が上がっていくとされています(施設によって異なります)。

入居率が低い時期は、介護報酬収入も少なくなります。たとえば定員20名の施設で、開業3か月目に入居者10名(入居率50%)の場合、介護報酬収入は次のとおりです。

679単位 × 10.00円 × 10名 × 30日 = 2,037,000円

定員充足の407万円と比べると、月170万円少ない計算です。この間も人件費・家賃・光熱費などの固定費は変わらないため、資金が出ていく一方になります。開業後に収支が黒字に転換するまでの期間を乗り越えるための運転資金を、あらかじめ確保しておくことが重要です。

加算・減算:収入をプラスマイナスする要素

特定施設介護費には、基本の単位数のほかに、一定の条件を満たすと取得できる加算があります。加算を取得すると介護報酬の収入が増えます。主な加算の例を挙げます。

  • 夜間看護体制加算:夜間に看護師を配置している施設が取得できます
  • 認知症専門ケア加算:認知症ケアの専門知識・技術を持つ職員を配置して専門的なケアを提供している場合に取得できます
  • サービス提供体制強化加算:介護職員の研修・資格取得を推進し、一定割合以上の資格保持者を配置している場合に取得できます
  • 科学的介護推進体制加算:入居者の状態データを収集・分析してケアの質改善に取り組んでいる場合に取得できます
  • 処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算:介護職員の賃金改善に取り組む場合に取得できます

一方、人員配置基準を下回った場合などは減算の対象になります。人員配置を守ることは介護の質の確保だけでなく、収入の維持という点でも重要です。加算の取得要件・減算の発生条件は告示・通知に定められており、定期的に内容が改定されるため、最新の情報を確認する習慣が必要です。

介護付き施設の月収入全体:介護報酬のほかにある収入

介護付き有料老人ホームの月収入は、介護報酬だけではありません。入居者からは次の費用も受け取ります。

  • 居住費(部屋代):施設が自由に設定できます。個室か多床室か、設備の充実度によって大きく幅があります。月額数万円の施設から15万円以上の施設まであります
  • 食費:食事の提供に伴う費用です。月4〜6万円程度を設定している施設が多いとされますが、施設によって異なります
  • 管理費・共益費:光熱費・共用部分の維持費などです
  • 日常生活費:日用品代・理美容費などです

これらは介護保険の適用外で、入居者が自己負担します。居住費・食費については、低所得の方を対象に「特定入居者介護サービス費」(補足給付)という制度があります。一定の所得・資産要件を満たす入居者は、居住費・食費の一部について介護保険から補助を受けられます。この場合、補助分は市区町村から施設に支払われます。

たとえば介護報酬407万円に、居住費8万円×20名(160万円)と食費5万円×20名(100万円)が加わると、施設全体の月収入は約667万円になります。居住費・食費の設定水準が施設全体の収入規模に大きく影響するため、地域の相場・競合施設の料金と比較しながら設定することが重要です。

住宅型有料老人ホームの収入の仕組み

住宅型有料老人ホームは、特定施設の指定を受けていないため、施設自身は介護報酬を受け取りません。入居者が要介護認定を受けて介護サービスが必要になった場合、入居者は外部の訪問介護事業所や通所介護(デイサービス)と個別に介護保険サービスを契約します。介護保険からの給付はその外部事業者に直接支払われます。施設は「居住の場を提供する」立場です。

住宅型有料老人ホームが入居者から受け取る費用は、主に次のとおりです。

  • 居住費(家賃相当):月額5万円程度の施設から20万円以上の施設まで、立地・設備によって幅があります
  • 食費:食事の提供がある施設では設定します
  • 生活支援サービス費:安否確認・緊急時対応・日常生活の支援・レクリエーション活動など、施設が独自に行うサービスの費用です
  • 管理費・共益費:共用部分の光熱費・維持管理費などです

住宅型では、介護報酬という「公定価格の収入源」がない代わりに、サービス内容と料金の設定は施設が自由に行えます。どのようなサービスをいくらで提供するかが、経営の差別化につながります。

住宅型の月収入を試算する考え方

住宅型の月収入の基本の式は次のとおりです。

月収入 =(居住費 + 食費 + 生活支援サービス費 + 管理費)× 在籍者数

仮に次の条件で計算してみます。

  • 居住費:月12万円
  • 食費:月5万円
  • 生活支援サービス費:月2万円
  • 管理費:月1万円
  • 在籍者数:20名(定員充足率100%)

(120,000円 + 50,000円 + 20,000円 + 10,000円)× 20名 = 4,000,000円

月400万円が月収入の目安になります。ここから人件費・家賃・食材費・光熱費などの費用を引いたものが利益になります。住宅型では食費に食材費が含まれるため、「食費収入から食材費を引いた粗利」で食事事業の損益を確認することも必要です。

居住費・食費の設定水準が収入の規模を直接決めます。設定が高すぎると入居者が集まりにくくなり、空床が増えます。地域の競合施設の料金水準と、入居を検討する方の年金収入・預貯金の水準を確認したうえで、現実的な設定をすることが重要です。

住宅型で関連法人が介護事業を運営する場合の注意点

住宅型有料老人ホームを運営する法人が、同じ法人または関連法人として訪問介護事業所や通所介護事業所を運営し、入居者にそれらのサービスを利用させると、事実上は施設グループとして介護報酬を受け取る構造になります。

この仕組み自体は違法ではありませんが、入居者が必要以上にサービスを使わされる「囲い込み」の問題が指摘されることがあります。厚生労働省は囲い込み対策を強化しており、ケアマネジャーが公正中立にサービスを選べる環境の整備を求めています。関連事業者へのサービス集中が起きていないかを定期的に確認することが重要です。

介護付きと住宅型の収入構造の比較

ここまでの内容を整理します。

介護付きと住宅型の収入構造の比較
項目 介護付き(特定施設) 住宅型
収入の柱 介護報酬 + 居住費・食費 居住費・食費・生活支援サービス費
介護報酬の有無 あり(要介護度で決まる) なし(外部事業者に支払われる)
要介護度と収入の関係 重度化すると介護報酬が増える 要介護度が変わっても施設収入は変わらない
料金の設定自由度 介護報酬は公定価格・居住費等は自由設定 すべて自由設定
入金タイミング 介護報酬は2か月後払い・居住費等は月払い すべて月払い(一般的)

介護付きと住宅型の収入規模の差:地域区分の影響

介護付き有料老人ホームの介護報酬収入は、施設がある地域によって変わります。東京都特別区(1級地)と地方都市(その他地域)では、1単位あたりの単価が10.72円と10.00円で差があります。この差は約7.2%です。

定員20名・要介護3中心の施設で計算すると、月の介護報酬は1級地で約437万円、その他地域で約407万円になります。年間では360万円以上の差になります。施設を開設する地域の地域区分は、事業計画の段階で必ず確認しておくべき数字です。

地域区分は、施設所在地の市区町村によって決まります。同じ都道府県内でも市区町村によって地域区分が異なる場合があります。介護保険の事業者指定を受ける前に、所管の市区町村または都道府県に確認することをお勧めします。

有料老人ホームの開業に必要な届出

有料老人ホームを開業するには、老人福祉法第29条に基づき、都道府県知事への届出が必要です。施設の種類(介護付き・住宅型のいずれも)を問わず必要な届出です。届出を怠ると老人福祉法上の罰則の対象になります。

介護付きとして運営するには、老人福祉法の届出に加えて、介護保険法上の「特定施設入居者生活介護」の事業者指定を別途取得することが必要です。指定の申請から取得まで一定の期間がかかること、都道府県によっては「総量規制」(地域ごとの指定枠の制限)があることも、開業計画の段階で確認しておく必要があります。総量規制がある地域では、指定枠があるかどうか・申請の受付時期をいつか、早い段階で所管の都道府県の担当窓口に確認することをお勧めします。

処遇改善加算:介護職員の賃金改善への加算

介護付き有料老人ホームでは、介護職員の賃金改善を目的とした処遇改善加算を取得することで、介護報酬に上乗せして収入を得ることができます。処遇改善加算は、事業者が一定の要件(賃金改善計画の策定・キャリアパスの整備など)を満たし、都道府県に届け出ることで取得できます。

処遇改善加算の種類と加算率は定期的に改定されており、令和6年度から新たな制度(介護職員等処遇改善加算)に統合されました。加算率は取得する区分によって異なります(詳細な加算率・要件は厚生労働省の告示・通知でご確認ください)。

処遇改善加算は「介護報酬の総額 × 加算率」で計算します。定員20名の施設で介護報酬が月400万円の場合、加算率が仮に14%であれば月56万円の上乗せになります。この加算は介護職員の賃金改善のために使うことが定められており、施設の利益として自由に使える資金ではありません。しかし、職員の賃金を引き上げることで採用・定着につながるため、処遇改善加算の取得は経営上も重要な対応です。

住宅型有料老人ホームは介護報酬を受け取らないため、施設として処遇改善加算を取得することはありません(施設に雇用されている介護職員がいる場合は、提供するサービスの種類によって状況が異なります)。

まとめ:収入計算の式と注意点

有料老人ホームの収入計算の基本をまとめます。

  • 介護付き(特定施設)の介護報酬:要介護度別単位数 × 地域区分単価 × 在籍者数 × 在籍日数
  • 介護付きの月収入全体:介護報酬 + 居住費 + 食費 + 管理費
  • 住宅型の月収入:(居住費 + 食費 + 生活支援サービス費 + 管理費)× 在籍者数

実際の収入は、入居率・要介護度の分布・加算の取得状況・地域区分など、多くの要因によって変わります。事業計画を立てるときは、これらの要因を現実的な仮定のもとで細かく試算することが重要です。特に開業直後の入居率が低い時期の収支と、介護報酬の2か月後払いを考慮した資金繰りは、開業前に必ず確認しておくべき点です。

有料老人ホームの収支(収入・人件費・施設費・運営費)を3年分で試算できるツールを公開しています。介護付きと住宅型の両方の計算に対応しています。開業の収支見通しを立てる際にご活用ください。

有料老人ホームの開業向け収支シミュレーターはこちら

有料老人ホームの収支全体の構造については、こちらの記事でまとめています。

有料老人ホームの収支、全体像

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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