放デイ・児発の法定研修 義務テーマと開始時期の一覧

福祉事業の開業と運営

放課後等デイサービス(放デイ)・児童発達支援(児発)には、省令によって定期的な実施が義務づけられた研修テーマが6つある。虐待防止・身体拘束の適正化・感染症対策・BCP・安全計画・非常災害がそれにあたる。それぞれに委員会の開催・指針の整備・記録の保存がセットで求められる。研修をやっているつもりでも、記録が残っていなければ運営指導(旧・実地指導)で指摘を受ける。この記事では、何をいつまでにやるべきかを整理する。

法定研修の根拠は「指定通所支援基準」にある

放デイ・児発の人員・設備・運営の基準は、「指定通所支援の事業の人員及び設備及び運営に関する基準」(厚生労働省令。以下、指定通所支援基準)に定められている。この基準の中に、各テーマの研修・委員会・指針・訓練・記録義務が直接書かれている。

「やらなければならない気がしている」ではなく、省令に明記された法的義務だ。運営指導では、基準の条文と照らし合わせて記録の有無・内容・頻度が確認される。

開設したばかりの事業所に多い誤解が、「研修はいつかやる」という先送りだ。指定通所支援基準は「定期的に」「年に◯回以上」と頻度まで定めている。開設初年度から義務は発生している。

6つの必須テーマ、根拠条文と最低頻度の一覧

以下の6テーマが法定研修の対象だ(出典:指定通所支援の事業の人員及び設備及び運営に関する基準 各条文)。

テーマ 根拠条文 委員会 研修 訓練
虐待防止 第15条 おおむね年2回以上 年1回以上 なし
身体拘束の適正化 第33条の2 おおむね年2回以上 年1回以上 なし
感染症対策 第35条 おおむね年2回以上 年1回以上 年2回以上
BCP(業務継続計画) 第38条の2 なし 年1回以上 年1回以上
安全計画 第35条の2 なし 年2回以上 年2回以上
非常災害 第37条 なし なし 年2回以上

「なし」は条文に明示的な頻度規定がないことを示す。ただし、義務として明記されていないテーマでも、実施の記録・担当者の記録は保存しておくことが運営指導への対策として有効だ。

虐待防止は研修・委員会・指針の3つがセットで義務だ

虐待防止で義務づけられているのは、「研修」「委員会」「指針の整備」の3つで、どれかひとつだけやればよいという制度設計にはなっていない(指定通所支援基準第15条)。

研修は年1回以上で、全職員を対象に実施する。虐待の定義・種類・発生要因・具体的な対応手順・通報義務の内容などを扱う。新入職員が着任した場合は、年次研修とは別に随時行うことが実務的な対応だ。

委員会はおおむね年2回以上の開催が求められており、虐待防止のための取り組みの進捗確認・事案の検討・指針の見直しなどを議題にする。委員会には議事録の保存が必要で、開催した事実だけでなく何を話し合ったかが読み取れる記録でなければならない。

指針については、「整備する」だけでなく「定期的に見直す」ことも求められている。年に一度、委員会のタイミングで指針の内容を確認・更新する運用が現実的だ。

身体拘束の適正化は「記録」が義務の核心にある

身体拘束の適正化には、委員会・研修・指針の整備が義務づけられている(指定通所支援基準第33条の2)。委員会はおおむね年2回以上、研修は年1回以上だ。

放デイ・児発で特に意識すべきなのは「やむを得ない場合の身体拘束の記録」だ。緊急やむを得ず身体拘束を行った場合は、その態様・時間・利用者の心身の状況・やむを得なかった理由を記録しなければならない(同条)。記録のない身体拘束は、適正化の取り組みが機能していないと判断される根拠になる。

「うちでは身体拘束をほとんどしていない」という事業所でも、記録がゼロのまま放置するのではなく、月次の確認として「今月の身体拘束件数0件・やむを得ない場合の判断なし」という形で記録を残している事業所がある。これが運営指導でのリスクを下げる実務的な対応だ。

感染症対策には「訓練」まで義務がある

感染症対策は、他のテーマより義務の範囲が広い。委員会(おおむね年2回以上)・研修(年1回以上)・訓練(年2回以上)のすべてが求められる(指定通所支援基準第35条)。

感染症の研修では、感染症の種類・感染経路・予防策・発生時の対応手順を扱う。ノロウイルス・インフルエンザ・新型コロナなど、実際に発生しやすい感染症を題材にするとわかりやすい。職員が日常的に接触する感染症に絞って実施することで、研修の現実感が増す。

訓練は研修とは別物だ。研修が知識のインプットとすれば、訓練は実際の手順を模擬的にやってみる体験型の取り組みになる。吐物処理の手順を実際にやってみる・隔離の動線を確認するといった取り組みが、感染症訓練の具体的な中身として機能する。年2回の訓練は、夏季(ノロウイルスに備えて秋冬前の時期)と冬季(インフルエンザシーズンを意識した時期)に分けて実施する事業所が多い。

感染症対策には、上記に加えて「発生時の報告体制」の整備も求められている(同条)。感染症が発生した場合の報告先・連絡手順を指針に記載し、職員に周知しておくことが必要だ。保護者への連絡タイミング・保健所への報告が必要になる場合の条件も、指針に盛り込んでおくとよい。

感染症委員会の議題としては、感染症の発生状況の報告・指針の見直し・訓練の振り返り・物品・設備の確認(手洗い場・消毒液の配置等)などが一般的だ。委員会は「実態を議論する場」として機能させることが、議事録の質を高める近道になる。

BCPの義務は「策定」だけではない

BCP(業務継続計画)については、令和6年4月から策定が義務化された(指定通所支援基準第38条の2)。ただし、義務はBCPを策定することだけではない。策定したBCPをもとに、研修(年1回以上)と訓練(年1回以上)を実施することも義務だ。

BCPを作ったままファイルにしまい込んでいる事業所が多い。運営指導では「BCPはありますか」だけでなく「BCPに基づく研修・訓練の記録はありますか」まで確認されることが増えている。

BCP訓練は、必ずしも大がかりな実地訓練でなくてよい。「このシナリオが起きたら誰がどう動くか」を職員で30分話し合う机上訓練でも、条文上の要件を満たすことができる(厚生労働省「障害福祉サービス事業所等における業務継続ガイドライン」令和3年3月)。机上訓練の典型的な手順は「シナリオの提示→各自の役割と行動の確認→想定外の事態への対応の討議→振り返り・記録」だ。これを年1回以上行い、記録に残せばよい。

安全計画には年2回以上の訓練がある

安全計画は、令和5年4月から策定・研修・訓練が義務化された(指定通所支援基準第35条の2)。研修は年2回以上、訓練も年2回以上だ。

安全計画の研修では、ヒヤリハットの収集と分析・事故発生時の対応手順・利用者の特性に応じたリスクへの対応などを扱う。訓練では、想定されるリスクシナリオをもとに、実際の対応手順を確認する。訓練の題材には「送迎中の交通事故」「施設内での転倒事故」「プール・水遊び中のヒヤリハット」など、実際に事業所で起きうるケースを選ぶとリアリティが高まる。

安全計画については、全ての従業者への周知義務もある(同条)。非常勤・パートの職員も含めた周知と、その記録が必要だ。「全員への周知が確認できる」状態とは、職員ごとに確認のサインを取るか、研修の参加記録として残っていることを指す。

安全計画の見直しについても義務がある(同条)。定期的に見直し、必要な場合には変更しなければならない。少なくとも年1回、委員会や職員会議のタイミングで内容を確認し、見直した日付と担当者を記録しておくことが安全だ。

非常災害の避難訓練は年2回が最低ラインだ

非常災害に係る計画(非常災害計画)の策定と、年2回以上の避難訓練の実施が義務づけられている(指定通所支援基準第37条)。

避難訓練は、火災・地震など想定される災害に応じて実施する。利用者(放デイ・児発の場合は障害のある子どもたち)が安全に避難できる手順を確認することが目的だ。訓練後は、実施日時・参加者・実施内容・課題点などを記録として残す。

前述のとおり、避難訓練はBCP訓練とは別の義務だ。避難訓練(非常災害)とBCP訓練(業務継続)は根拠条文が異なり、想定している場面も異なる。避難訓練が「災害が起きたとき、利用者をどう避難させるか」であるのに対し、BCP訓練は「非常時に事業所の業務をどう継続するか・再開するか」という視点で行う。

BCPの訓練と避難訓練は別の義務として数える

この点は特に誤解が多いため、改めて整理する。

BCP訓練 避難訓練
根拠条文 第38条の2 第37条
最低回数 年1回以上 年2回以上
目的 業務継続・再開の手順確認 利用者の安全な避難
形式例 机上訓練・シナリオ討議 実地の避難誘導

年2回の避難訓練を行っていれば、BCP訓練の代わりになるわけではない。それぞれ別の義務として、別に記録を残す必要がある。同じ日に合わせて実施しても、「避難訓練の記録」と「BCP訓練の記録」を別々に作成しておくことで、それぞれの義務を満たしたことを示せる。

研修の記録として残すべきものは何か

研修を実施しても、記録が残っていなければ「やっていないのと同じ」と判断されるリスクがある。運営指導では以下を確認されることが多い。

  • 研修の実施日
  • 参加した職員の氏名・確認のサイン
  • 研修の内容(テーマ・要点)
  • 使用した資料(レジュメやスライド)
  • 確認テストを実施した場合はその結果

委員会については上記に加えて、議事録(開催日時・出席者・議題・議事内容・決定事項)が必要だ。

研修記録の保存期間については、指定通所支援基準では利用者の記録の保存期間(5年間・サービスの提供完結の日から)が明示されているが、研修記録の保存期間については個別の明示がない。実務的には、少なくとも5年分を保存することが安全だ。運営指導は3〜5年周期で行われることが多いため、前回の指導時点からの記録が確認できる状態が望ましい。

新入職員の随時研修も記録を残す

法定研修の年間スケジュールは通常、年度当初に設定する。しかし年度の途中で新入職員が入った場合、次の年次研修まで待つのではなく、着任後できる限り早い時期に随時研修を実施することが実務的な対応だ。

特に虐待防止・身体拘束の適正化については、新入職員が利用者に直接関わる立場であるため、着任時の研修を行い、その記録を残しておくことが重要だ。「年1回の研修は実施したが、年度途中の入職者には未実施」という状態は、運営指導でも確認される可能性がある。

随時研修の記録は、年次研修の記録とは別に管理し、どの職員がいつ研修を受けたかが確認できる状態にしておくとよい。

年間スケジュールの組み方、実例

6つのテーマをバラバラに管理すると、何をいつまでにやればいいかが見えにくくなる。年初に年間スケジュールを組み、月単位で管理する方法が現実的だ。以下はその一例だ。

月 主な取り組み
4月 虐待防止研修・身体拘束研修(新年度・新入職員向け随時研修も実施)
5月 安全計画訓練(1回目)・感染症委員会(1回目)
6月 避難訓練(1回目)
7月 感染症研修・感染症訓練(1回目)
9月 身体拘束委員会(1回目)・虐待防止委員会(1回目)
10月 BCP研修・BCP訓練(机上)・安全計画研修(1回目)
11月 安全計画訓練(2回目)・安全計画研修(2回目)
12月 避難訓練(2回目)・感染症訓練(2回目)
1月 虐待防止委員会(2回目)
2月 身体拘束委員会(2回目)・感染症委員会(2回目)
3月 年間振り返り・各指針の見直し・記録の整理

このスケジュールはあくまで一例だ。事業所の年間行事・人員体制・開設月に合わせて調整するとよい。重要なのは、年度末に「あれが終わっていない」という事態にならないよう、年初にスケジュールを確定させることだ。

指針の整備と定期見直しも義務だ

虐待防止・身体拘束・感染症の3テーマについては、研修・委員会に加えて「指針の整備」も義務だ(各根拠条文参照)。指針を作っただけでファイルにしまい込んでいる事業所もあるが、運営指導では指針の整備状況と見直し履歴が確認されることがある。

指針の見直しは、年に一度、委員会のタイミングで行うことが実務的だ。法令改正・事業所での事案・外部の事故事例等を踏まえて内容を更新し、版数・更新日を記録しておくことで、継続的な管理の証拠になる。

新しく指針を整備する際は、厚生労働省が公表しているひな型・モデルを参考にするとよい。既存のひな型に事業所の実態を加えて作成することが、最小限の手間で基準を満たす現実的な方法だ。

整備した指針は、全職員への周知も求められている。指針を整備したタイミングで全職員が確認した記録(確認日・確認者のサイン)を残しておくことが、「整備した」だけでなく「周知した」という証拠になる。指針を見直した場合も、変更後の内容を全職員に周知した記録を同様に保存しておくとよい。

記録を揃える、現実的なやり方

「記録が大事なのはわかっているが、毎回フォーマットを作るのが手間だ」という声はよく聞く。実務上の問題は、研修内容の準備と記録の準備を毎回ゼロから行う負担にある。

解決策のひとつは、研修ごとに「資料・確認テスト・出席記録票・委員会議事録のひな型」をセットにして持っておくことだ。内容は実施のたびに見直すとしても、フォーマット自体を使い回せれば準備の手間は大幅に減る。職員がスマートフォンで参加できる受講形式があれば、事業所内のシフトが合わせにくい場合でも研修を消化しやすくなる。

放デイ・児発の法定研修6テーマ(+追加テーマ)の資料・確認テスト・委員会議題案・職員スマホ受講の仕組みをそろえた「法定研修・訓練キット」を制作している。無料ではひとつのテーマ(虐待防止)を全機能で試すことができる。

→ 放デイ・児発 法定研修・訓練キット

まとめ

放デイ・児発の法定研修は、指定通所支援基準に根拠を持つ6テーマで構成されている。それぞれに最低実施回数と記録義務があり、運営指導では記録の有無・内容・頻度が確認される。開設初年度から義務は始まっているため、年初にスケジュールを組み、記録を積み上げていくことが実務上の最善策だ。

  • 法定研修は6テーマ(虐待防止・身体拘束・感染症・BCP・安全計画・非常災害)
  • それぞれに委員会・研修・訓練の区別があり、頻度の規定が異なる
  • BCPの訓練と非常災害の避難訓練は別の義務として数える
  • 指針の整備と定期見直しも義務の一部だ
  • 記録がなければ実施したことにならない
  • 年初にスケジュールを組んで月単位で管理する

(出典:指定通所支援の事業の人員及び設備及び運営に関する基準 第15条・第33条の2・第35条・第35条の2・第37条・第38条の2、厚生労働省「障害福祉サービス事業所等における業務継続ガイドライン」令和3年3月)

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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