テイクアウト・デリバリーは、飲食店の既存固定費の範囲内で売上を追加できる収益手段です。日本政策金融公庫の創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋・月商322万円)で原価率35%を前提にすると、テイクアウト売上が10万円増えると粗利が約6万円増加します。ただしデリバリープラットフォームを利用する場合は手数料30〜35%が引かれるため、同じ10万円の売上でも手元に残る粗利は3.0〜3.5万円になります。固定費が変わらないぶん、追加売上の損益改善効果は大きくなりますが、手数料の水準によって実態は変わります。この記事では、テイクアウトとデリバリーの収益構造の違いと、公庫の数字をもとにした具体的な試算を確認します。
テイクアウトとデリバリーで収益構造が違う
テイクアウト・デリバリーには、大きく3つの方式があります。それぞれ手数料の有無と追加コストが異なるため、同じ売上でも手元に残る金額が変わります。
テイクアウト(店頭受け渡し)は、プラットフォームの手数料がかからない方式です。発生する追加コストは容器・袋などの包材費のみで、原価率に近い水準でコストを抑えられます。集客は自店のSNSや口コミに依存するため、既存客の利用が中心になります。
デリバリープラットフォーム経由は、フードデリバリーのアプリを通じて注文を受け、配達はプラットフォーム側が担う方式です。一般的に知られている手数料水準は売上の30〜35%前後です。配達員を雇う必要はありませんが、売上の3分の1程度がプラットフォームへの支払いとなります。集客力はプラットフォームに依存するため、新規顧客との接点は作りやすくなります。
自社デリバリーは、自店でスタッフを配達に充てる方式です。手数料はかかりませんが、配達員の人件費と時間が発生します。配達エリアが限られ、繁忙時間帯に配達要員を確保するのが難しい場合があります。
| 方式 | 追加売上10万円 | 手数料 | 原価(35%) | 粗利 | 粗利率 |
|---|---|---|---|---|---|
| テイクアウト(包材費5%含む) | 10万円 | 0円 | 4.0万円 | 6.0万円 | 60% |
| デリバリー(手数料30%) | 10万円 | 3.0万円 | 3.5万円 | 3.5万円 | 35% |
| デリバリー(手数料35%) | 10万円 | 3.5万円 | 3.5万円 | 3.0万円 | 30% |
| 自社デリバリー(配達人件費10%相当) | 10万円 | 1.0万円 | 3.5万円 | 5.5万円 | 55% |
テイクアウトは包材費(容器・袋・加熱保冷材等)を売上の5%と仮定しました。自社デリバリーの配達費用は距離・頻度によって変わるため、10%は目安の数字です。
既存固定費の範囲で追加売上を作れる仕組み
イートインと並行してテイクアウトを始める場合、追加で発生する固定費はほぼありません。家賃・人件費(コア部分)・光熱費・リース料は、テイクアウトの有無にかかわらず発生します。追加コストは包材費(変動費)と、注文対応・盛り付けに充てる人件費の増分にとどまります。
公庫の記入例(月商322万円・原価率35%・固定費156.1万円・返済5.8万円・単月損益47.4万円)を前提にすると、テイクアウト売上を20万円追加した場合の損益は次のようになります。
- テイクアウト追加売上:20万円
- 追加原価(35%):7.0万円
- 追加包材費(売上の5%):1.0万円
- 追加粗利:20万円 − 7.0万円 − 1.0万円 = 12.0万円
- 固定費の増加:なし(既存スタッフの空き時間を活用する前提)
- 月次損益合計:47.4万円 + 12.0万円 = 59.4万円
固定費を増やさずに追加売上を作れるのが、テイクアウトの最大の利点です。ただし、注文数が増えて既存のオペレーションに支障が出る場合は、スタッフの増員が必要になります。
テイクアウト追加売上別の月次損益の変化
テイクアウト売上の規模別に、月次損益への影響を試算します。包材費は売上の5%、固定費の増加はないと仮定します。
| テイクアウト追加売上 | 追加原価+包材(40%) | 追加粗利 | 月次損益合計 | 損益改善率 |
|---|---|---|---|---|
| 0万円(現状) | 0万円 | 0万円 | 47.4万円 | - |
| 5万円 | 2.0万円 | 3.0万円 | 50.4万円 | +6.3% |
| 10万円 | 4.0万円 | 6.0万円 | 53.4万円 | +12.7% |
| 20万円 | 8.0万円 | 12.0万円 | 59.4万円 | +25.3% |
| 30万円 | 12.0万円 | 18.0万円 | 65.4万円 | +38.0% |
| 50万円 | 20.0万円 | 30.0万円 | 77.4万円 | +63.3% |
テイクアウト売上30万円は、月商322万円に対して約9.3%の上乗せです。月商の1割程度のテイクアウトで、損益が約38%改善する計算になります。固定費が変わらないため、追加売上がそのまま粗利に近い形で積み上がります。
デリバリー手数料が粗利を圧迫する仕組み
デリバリープラットフォームの手数料は、売上に対して比例的に発生します。手数料30%と35%では、同じ売上でも手元に残る金額が変わります。
| デリバリー売上 | 手数料30%後の粗利(原価35%) | 手数料35%後の粗利(原価35%) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 5万円 | 1.75万円 | 1.50万円 | 0.25万円 |
| 10万円 | 3.5万円 | 3.0万円 | 0.5万円 |
| 20万円 | 7.0万円 | 6.0万円 | 1.0万円 |
| 30万円 | 10.5万円 | 9.0万円 | 1.5万円 |
| 50万円 | 17.5万円 | 15.0万円 | 2.5万円 |
手数料30%の場合、粗利率は1 − 原価率0.35 − 手数料率0.30 = 0.35、つまり35%です。手数料35%では1 − 0.35 − 0.35 = 0.30、粗利率30%になります。テイクアウト(手数料なし・包材5%)の粗利率60%と比べると、デリバリーは半分程度に下がります。
デリバリープラットフォームのメリットは、集客コストをかけずに新規顧客に届けられる点にあります。自店のSNSや広告でテイクアウト需要を作れない場合、手数料を支払ってでもプラットフォームを活用する選択肢があります。
月次固定費を超えた後の追加収益としてのテイクアウト
テイクアウトを損益の文脈で見ると、「損益分岐点を超えた後の純粋な積み上げ」と捉えることができます。
公庫の記入例の損益分岐点を確認します。固定費156.1万円 + 返済5.8万円 = 161.9万円。粗利率は1 − 原価率0.35 = 0.65。損益分岐点売上 = 161.9 ÷ 0.65 ≒ 249万円。
月商322万円のイートインでは、249万円の損益分岐点をすでに超えています。この状態でテイクアウト売上が積み上がると、テイクアウト分の粗利はそのまま利益として加算されます。
| 状況 | イートイン月商 | テイクアウト追加 | 合計売上 | 月次損益 |
|---|---|---|---|---|
| 損益分岐点ちょうど | 249万円 | 0万円 | 249万円 | 0万円 |
| 軌道後(公庫記入例) | 322万円 | 0万円 | 322万円 | 47.4万円 |
| テイクアウト10万円追加 | 322万円 | 10万円 | 332万円 | 53.4万円 |
| テイクアウト20万円追加 | 322万円 | 20万円 | 342万円 | 59.4万円 |
| イートイン不振月(250万円)にテイクアウト20万円 | 250万円 | 20万円 | 270万円 | 12.6万円 |
最後の行は、イートインが不振の月(250万円)にテイクアウト20万円を加えた場合です。イートインのみでは損益分岐点をギリギリ超える水準ですが、テイクアウトの粗利12万円が加わることで月次損益が改善します。計算:イートイン粗利(250×0.65)=162.5万円 − 固定費・返済161.9万円 = 0.6万円 + テイクアウト粗利12万円 = 12.6万円。
テイクアウト・デリバリーに向いている業態と向かない業態
テイクアウト・デリバリーの収益効果は業態によって変わります。向いている業態と向かない業態を整理します。
テイクアウトに向いている業態の特徴は、個装しやすく、時間が経っても品質が落ちにくいことです。弁当・惣菜・丼もの・カレー・サンドイッチは容器に入れても提供クオリティが保ちやすく、昼の需要が高い立地なら稼働が見込めます。
向かない業態は、提供直後の状態が重要なものです。揚げたてのフライや、焼きたての焼き鳥は、時間が経つとテクスチャが変わります。熱い料理と冷たい料理を組み合わせた定食は、包装で温度管理が難しくなります。
公庫の記入例の洋風居酒屋について考えると、夜メインの業態は昼のテイクアウト需要が限られます。夜のテイクアウトは需要があっても、客席に座っている顧客の対応と並行するオペレーション負荷が課題になります。居酒屋メニューのテイクアウト化は業態の拡張というよりも、既存メニューの一部を持ち帰り対応するイメージで始めるのが現実的です。
テイクアウト開始にかかるコストの試算
テイクアウトを始める際の初期費用は、業態と対応規模によって変わります。主なコスト項目を確認します。
| コスト項目 | 内容 | 目安の金額 | 性質 |
|---|---|---|---|
| 容器・袋の初期仕入れ | テイクアウト用容器・紙袋・割り箸等 | 1〜3万円 | 変動費(消耗品) |
| メニュー表示(店頭POP等) | テイクアウトメニューの掲示 | 0.5〜1万円 | 初期費用(都度更新) |
| デリバリープラットフォーム登録 | 初期登録費・タブレット端末等 | 0〜数万円(プラットフォームによる) | 初期費用 |
| ショーケース・保温機器 | テイクアウト商品の陳列・保温 | 5〜15万円 | 設備投資(必要な場合のみ) |
デリバリープラットフォームへの登録費用は、各社の契約条件によって変わります。初期費用が不要なケースもありますが、タブレット端末のレンタル費用が発生する場合もあります。テイクアウトのみ(店頭受け渡し)から始めるなら、容器・袋の仕入れコストが主な初期費用です。
テイクアウト売上が安定するまでの期間
テイクアウトを開始してからリピーターがつくまでには時間がかかります。公庫の新規開業実態調査(2025年度)では、開業後の黒字基調到達に「6か月以内」と答えた割合が43.0%、「1年以内」が67.0%でした。テイクアウトはイートインと同様に、認知と信頼の積み上げが必要です。
テイクアウト売上を早期に作るためのポイントは次のとおりです。既存イートイン客に告知する(席でのPOP・スタッフからの案内)のが最も低コストです。Instagramなど視覚的なSNSでテイクアウトメニューを発信すると、近隣の昼需要を取り込みやすくなります。デリバリープラットフォームを利用する場合は、写真クオリティと評価数が表示順位に影響します。
テイクアウト・デリバリーの収益を収支に組み込む方法
テイクアウトとデリバリーを月次の収支に反映する際は、イートインと別に売上を管理するのが基本です。原価率や粗利率が異なるため、まとめて集計すると実態が見えにくくなります。
管理のポイントを整理します。テイクアウトは包材費を変動費として別途計上します。デリバリープラットフォーム手数料は、売上ではなく「売上控除」か「販売費」として計上するかを、税理士と相談して決めます。売上の規模が大きくなるにつれ、イートイン・テイクアウト・デリバリー別の粗利率管理が重要になります。
月次の損益シミュレーションにテイクアウトとデリバリーの売上を加えた場合の収支は、飲食店の開業 収支シミュレーターのその他売上欄で入力して確認できます。イートイン売上と別に入力することで、合計の月次損益と損益分岐点への影響を試算できます。
本記事の数字は日本政策金融公庫「創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)」および公庫「2025年度新規開業実態調査」をもとにした試算です。デリバリープラットフォームの手数料は各社の契約条件により異なります。テイクアウト・デリバリーの包材費・配達費用は業態・規模により変わります。実際の数字は業態・物件・経営状況により異なります。本ツールは当方が作成した民間のシミュレーターであり、日本政策金融公庫が作成・提供するものではありません。むむ(fufumumu_design)作成・2026年10月確認。


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