飲食店の開業スケジュールと準備期間の費用。公庫の記入例で準備期間に60万円かかる理由。

飲食店の開業スケジュールと準備期間の費用。公庫の記入例で準備期間に60万円かかる理由。 飲食店の開業

飲食店の開業には物件探しから開業日まで、通常3〜6か月の準備期間がかかります。日本政策金融公庫の創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋・25席)では、準備期間の家賃等として60万円が運転資金に計上されています。準備期間中は売上がゼロのまま家賃などの固定費が発生するため、この期間の費用を借入・自己資金で賄う計画が必要です。記入例の必要資金合計は1,260万円(設備970万円+運転290万円)で、開業費用の平均は975万円、中央値は600万円です(公庫「2025年度新規開業実態調査」)。

飲食店の開業スケジュールの標準的な流れ

物件を先に決めてから資金を探す流れは、融資が下りなかった場合に保証金などの初期費用が回収できないリスクがあります。公庫「創業の手引+」(平成30年4月版)では、物件契約は融資決定後に行うことを推奨しています。事業計画の作成から始め、融資審査を通過してから物件を契約するのが基本的な順番です。

ステップ 目安の期間 発生する主な費用
事業計画・資金計画の作成 〜1か月 作成費(自分で作成なら0円)
公庫への融資申込・審査 1〜2か月 収入印紙代(数百円程度)
物件探し・契約(融資決定後) 〜1か月 保証金・礼金・仲介手数料・前払い家賃
内装・設備工事 1〜2か月 内装200万・厨房150万・什器120万円(記入例水準)
許認可申請・採用・研修 〜1か月 許可申請費18,300円・食衛責任者12,000円(東京都の例)
合計(目安) 3〜6か月 設備資金970万円(記入例水準)

工事期間と許認可申請の期間は並行して進められる部分もありますが、営業許可の申請は施設の完成後に保健所が実地確認を行うため、工事完了後に申請する流れになります。食品衛生責任者の資格は事前に取得しておくことが可能です。

なお、公庫「創業の手引+」では「内装工事は2社以上から見積もりを取る」ことと「半年程度の赤字補填資金を用意する」ことも推奨しています。見積もりを複数取ることで、記入例水準の200万円から大きく外れる場合の事前把握ができます。

準備期間中に発生する固定費と60万円の根拠

物件契約後は内装工事中でも家賃が発生します。記入例の家賃は月20万円です。準備期間3か月で家賃だけで60万円(20万円×3か月)になり、これが「準備期間の家賃等60万円」の根拠として読み取れます。光熱費や通信費などが別途かかる場合は、合計額がさらに増えます。

準備期間 家賃合計(月20万円) その他経費(月5万円を想定) 合計費用
2か月 40万円 10万円 50万円
3か月(記入例水準) 60万円 15万円 75万円
4か月 80万円 20万円 100万円
6か月 120万円 30万円 150万円

記入例では準備期間の家賃等を60万円と計上していますが、これはあくまでも記入例の条件(家賃20万円・準備期間3か月)によるものです。家賃が25万円で準備期間が4か月の場合は100万円(25万円×4か月)になり、計画値が大きく変わります。準備期間の長さは物件の状態(スケルトン物件か居抜きか)や工事規模によっても異なります。

居抜き物件は既存の内装・設備をそのまま使えるため、工事期間が短くなり準備期間の家賃費用を抑えられる場合があります。ただし設備の状態確認や改修が必要なケースもあるため、居抜き物件を選ぶ場合も準備期間のコストをゼロと見込むのは危険です。

開業前に必要な許認可・届出の費用一覧

飲食店の開業には複数の許認可・届出が必要です。必須のものと、営業形態によって必要になるものがあります。費用は都道府県・自治体によって異なります。以下は東京都の例として参考にしてください。

手続き 必要なケース 費用の目安(東京都の例)
飲食店営業許可(食品衛生法) 必須 18,300円(新規)
食品衛生責任者の資格取得 必須(施設ごとに1名) 12,000円(講習費・東京都食品衛生協会の例)
防火管理者 収容人員30人以上の場合(甲種は50人以上・乙種は30人以上が目安。店舗規模により異なります) 受講費8,000〜20,000円程度
深夜酒類提供飲食店営業の届出 深夜0時以降にアルコールを提供する場合 無料(届出のみ)
合計(最小ケース:許可+資格のみ) — 30,300円〜

飲食店営業許可の申請は、施設が完成した後に保健所の施設調査を受けてから許可が下ります。申請から許可取得まで一般的に1〜2週間かかります。この期間を見越してスケジュールを組まないと、開業日がずれ込み準備期間の費用がさらに増えます。

食品衛生責任者の資格は、栄養士・調理師・製菓衛生師などの資格保有者は講習不要で取得できます。保有資格がない場合は1日の講習(約12,000円)を受講します。講習会の日程は地域の食品衛生協会が定期的に開催しているため、申込から受講まで数週間かかる場合があります。事業計画を立てる段階で早めに確認しておくことが重要です。

融資決定後に物件契約する理由

融資決定前に物件を仮押さえしてしまうと、融資が下りなかった場合に保証金などを自己資金で支払うことになります。記入例の保証金・礼金等は500万円で、自己資金560万円のほぼ全額に相当します。融資なしで開業費用の大半を出す状態になると、運転資金がほぼゼロになります。

公庫「創業の手引+」(平成30年4月版)が物件契約を融資決定後に推奨している背景には、このリスクがあります。「融資が決まってから動く」という順番を守ることで、物件の初期費用を融資金から支払えます。

ただし、実際には「この物件でないと開業したくない」という状況や、家主側の意向で「先に申込金を入れる」ことを求められるケースもあります。その場合でも、申込金の全額を先払いするのではなく、金額を最小限に抑えて返金条件を確認した上で対応することが現実的です。

開業スケジュール全体の資金繰り計画

記入例の資金計画では、融資700万円と自己資金560万円の合計1,260万円を、設備資金970万円と運転資金290万円に充てています。開業前の支出が設備資金に集中し、運転資金は開業後の資金繰りに充てる構造です。

資金の種類 金額 使途・タイミング
設備資金 970万円 保証金等500万・内装200万・厨房150万・什器120万(工事完了時・引渡し時に支払い)
運転資金:準備期間の家賃等 60万円 物件契約後〜開業前(毎月発生)
運転資金:初期仕入 90万円 開業直前
運転資金:その他(採用費等) 140万円 準備期間中〜開業前後
合計 1,260万円 —

設備資金の支払いは工事の進捗に合わせて発生することが多く、着工時・中間時・完成時に分割払いとなるケースもあります。融資の実行タイミングと工事代金の支払いタイミングを事前に確認しておくことが重要です。融資実行が工事完了後になると、一時的に自己資金で立て替えが必要になる場合があります。

運転資金290万円は、開業後の黒字化までの赤字補填にも使います。開業初月から満席稼働になることは少なく、公庫の調査では新規開業から黒字基調になるまでに一定の期間がかかることが多いとされています(2025年度新規開業実態調査:開業から黒字基調になった割合67%)。半年程度の運転資金を確保しておくことが推奨されています。

準備期間を短縮する際のポイント

準備期間が長くなると、売上がゼロのまま固定費(家賃・準備費用)がかさみます。準備期間を短縮するためのポイントをまとめます。

事業計画書は公庫の窓口で相談しながら作成できます。公庫の融資は申込から審査まで1〜2か月が目安ですが、書類の不備や追加資料の提出が発生すると期間が延びます。必要書類を事前に確認してから申込することで、審査期間を短縮できます。

居抜き物件を選ぶと、スケルトンから内装を作り上げる場合と比べて工事期間を短縮できます。ただし、既存の設備が自店のコンセプトに合わない場合や、衛生面の問題がある場合は改修が必要になります。事前に設備の状態を詳細に確認してから判断することが重要です。

内装工事は2社以上から見積もりを取ることが公庫でも推奨されています。1社だけの見積もりで決定すると、相場より割高になるリスクがあります。複数の業者に同じ仕様で見積もりを依頼することで、適正価格を把握できます。

食品衛生責任者の講習は、物件契約前の段階から申し込みができます。工事期間中に講習を受講しておくことで、物件完成後すぐに営業許可申請に進めます。

準備期間の費用を含めた収支計画の立て方

収支計画を作成する際は、開業前の準備期間の費用と開業後の月次収支を一体として計画することが重要です。記入例の構成は以下の通りです。

項目 記入例の数値 計画立案時の確認ポイント
準備期間の長さ 3か月(推定) 物件の状態・工事規模・許認可手続きの期間
準備期間の費用 60万円(家賃等) 家賃×準備期間月数+その他経費
開業後の月次固定費 156.1万円/月 人件費88.6万・家賃20万・その他47.5万
損益分岐点の月商 240.2万円/月 固定費÷粗利益率(65%)
開業から黒字化まで (個別による) 開業月商が損益分岐点を超えるまでの月数

記入例の月商322万円で稼働した場合、月次損益は+53.2万円(322万円×65%-156.1万円)です。損益分岐点の月商は240.2万円(156.1万円÷65%)です。開業直後は認知度が低く月商が損益分岐点を下回る期間が続く可能性があるため、その期間の赤字補填分を運転資金として計画に含めておくことが重要です。

準備期間の費用・借入条件・月次の資金繰りを含めた36か月の試算は、飲食店の開業 収支シミュレーターのPro版で確認できます。

本記事の数字は日本政策金融公庫「創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)」および「創業の手引+」(平成30年4月版)、「2025年度新規開業実態調査」をもとにした記載です。許認可の手数料は都道府県・時期により異なります。各手続きは所轄の保健所・消防署・警察署にご確認ください。本ツールは当方が作成した民間のシミュレーターであり、日本政策金融公庫が作成・提供するものではありません。むむ(fufumumu_design)作成・2026年10月確認。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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