整骨院・接骨院の損益分岐点は、月の固定費と1患者あたりの平均売上によって決まります。固定費が月50万円、患者単価が1,800円であれば、損益分岐点は月278人(1日約14人・20日営業)です。この計算を知らずに開業すると、「何人来れば黒字になるか」がわからないまま経営が始まります。
日本政策金融公庫「2025年度小企業の経営指標調査」(医療・福祉〔療術業〕184社、2026年8月公表)によると、整骨院・接骨院を含む療術業の損益分岐点比率の中央値は99.7%です。これは売上の99.7%が費用として消え、わずか0.3%の余裕しかない水準を意味します。黒字になっている事業所は全体の43%のみです。
損益分岐点を理解すると、「今の患者数では足りない」「あと何人増えれば安心できる」という判断ができるようになります。この記事では、固定費の水準別に1日の必要患者数を整理します。
損益分岐点の計算式
損益分岐点の患者数は、次の式で求めます。
損益分岐点(患者数/月)= 固定費(円/月)÷ 患者1人あたりの平均売上(円)
「固定費」とは、患者数に関わらずかかる費用のことです。家賃、スタッフの給与、リース料、光熱費などが該当します。患者が1人も来なくても発生します。
「患者1人あたりの平均売上」は、保険診療と自費診療の構成比によって変わります。保険診療中心の院では、後療料(505円)を中心とした保険点数から計算した売上が基本になります。自費メニュー(整体・鍼灸・テーピングなど)を組み合わせると1人あたりの単価が上がります。一般的な目安として、保険診療中心の院では1,500円〜2,000円、自費を組み合わせた院では2,500円〜3,500円の範囲になることが多いです。
固定費別の必要患者数
開業時の固定費の水準は院の規模と立地によって異なります。下の表は、月の固定費と患者単価の組み合わせで、損益分岐点の患者数がどう変わるかを示したものです。
| 月の固定費 | 患者単価1,500円の場合 | 患者単価2,000円の場合 | 患者単価2,500円の場合 |
|---|---|---|---|
| 30万円 | 200人(10人/日) | 150人(7.5人/日) | 120人(6人/日) |
| 45万円 | 300人(15人/日) | 225人(11.3人/日) | 180人(9人/日) |
| 60万円 | 400人(20人/日) | 300人(15人/日) | 240人(12人/日) |
| 80万円 | 533人(26.7人/日) | 400人(20人/日) | 320人(16人/日) |
※1日の患者数は月20日営業で計算しています。固定費・患者単価はいずれも目安であり、実際の数字は院の状況によって異なります。
たとえば、月の固定費が45万円(家賃15万円+人件費20万円+その他10万円)で、患者単価が平均2,000円の院であれば、月225人(1日あたり約11人)が損益分岐点です。これを下回ると赤字になります。
整骨院の固定費の内訳
固定費の内訳は院によって大きく違います。スタッフを雇うかどうかが最大の分岐点です。
| 費用項目 | 院長1人(一人院) | スタッフ1名追加 |
|---|---|---|
| 家賃(10〜15坪) | 10万〜20万円 | 同左 |
| 人件費(院長報酬含む) | 院長取り分のみ | +15万〜25万円 |
| レセコンリース料 | 3万〜10万円 | 同左 |
| 光熱費・通信費 | 3万〜5万円 | 同左 |
| 保険料・雑費 | 2万〜5万円 | 同左 |
| 合計の目安 | 20万〜40万円 | 35万〜65万円 |
スタッフを1人雇うと固定費が月15万〜25万円増えます。患者単価2,000円の院であれば、それだけで損益分岐点が月75〜125人(1日3.75〜6.25人)増えることになります。採用の判断は患者数の見込みと照らし合わせて慎重に行うことが重要です。
損益分岐点比率99.7%が意味すること
日本政策金融公庫のデータに戻ります。療術業(整骨院・接骨院を含む業種)の損益分岐点比率の中央値は99.7%です。
損益分岐点比率とは「売上に対して固定費がどれだけの割合を占めているか」を示す数字です。99.7%というのは、売上の99.7%が費用として出ていき、手元に残るのは0.3%しかないことを意味します。月売上が100万円なら、利益は3,000円です。
この数字の背景には、整骨院業界の構造的な問題があります。
- 保険診療の点数は国が決めるため、単価を自由に上げられない
- 人件費率の中央値が50.0%と高く、売上の半分が人件費に消える
- 患者数を増やすにも施術者1人が対応できる数に限界がある
これは個々の院の経営力の問題ではなく、業種の構造から来ています。黒字の43%の院は、自費診療の組み合わせ、立地による差別化、または患者単価の工夫によってこの構造を乗り越えています。
損益分岐点を下げる方法
損益分岐点を下げるアプローチは2つあります。「固定費を抑える」か「患者単価を上げる」かです。
固定費を抑える主な方法:
- 開業初期は一人院からスタートし、患者数が増えてからスタッフを採用する
- 家賃の低いエリアを選ぶ(駅前の物件は集客力はあるが固定費も高い)
- レセコンはリースではなくクラウド型に切り替えを検討する
患者単価を上げる主な方法:
- 保険診療に加えて自費メニュー(整体・ドライヘッド・テーピング指導など)を設ける
- 通院計画を立て、単発来院より継続通院を促す
- 回数券・月額プランなど先払い型のメニューを導入する
どちらのアプローチが自分の院に合うかは、立地・想定患者層・施術スタイルによって異なります。計画を立てる段階で、複数のシナリオを試算しておくことが重要です。
開業前に損益分岐点を試算しておく
損益分岐点は開業後に「気づく」ものではなく、開業前に「計算しておく」ものです。
目標の患者数を設定したうえで、固定費・変動費・患者単価の組み合わせを変えながら複数のパターンを試しておくと、現実的な開業計画が立てやすくなります。
また、整骨院の資金繰りでは保険収入の入金が翌々月になることも見落とせません。損益分岐点を達成していても、開業後2ヶ月間は保険収入がゼロの状態で固定費を払い続ける必要があります。この入金ラグを反映した資金繰りまでを試算したい場合は、下記のシミュレーターをお使いください。
整骨院・接骨院 開業収支シミュレーター
保険入金のタイムラグ(翌々月入金)を反映した資金繰りを試算できます。固定費・患者数・単価を入力するだけで損益分岐点と月次の資金繰りが確認できます。
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出典:日本政策金融公庫「2025年度小企業の経営指標調査」(2026年8月公表、医療・福祉〔療術業〕184社)


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