飲食店の開業後、営業利益が黒字でも資金が減り続ける期間があります。日本政策金融公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋)の「軌道に乗った後」の水準に合わせた試算(月商約322万円・開業1か月目は77%から・借入1,000万円・事業主の生活費25万円)では、開業後9か月間、毎月資金が減り、資金残高が最も少なくなるのは開業9か月目で約40万円まで下がります。営業利益からそのまま借入の元金返済と生活費を払ってプラスになるのは開業10か月目です。客数が計画の90%にとどまると、開業5か月目に資金がマイナスになり、3年目の終わりには約329万円のマイナスになります。
この記事では、公庫の手引が「半年程度の赤字補てん資金」としている運転資金を、月ごとの資金繰りで具体的に数え、計画が1割外れたときに何が起きるかを計算します。数字はすべて当方のシミュレーターの初期値(例示)で計算したもので、立地や業態で変わります。
公庫の手引は、事業開始後「半年程度の赤字補てん資金」を見ている
公庫の「創業の手引+(飲食業編)」は、必要な資金の確認項目に「創業時の広告宣伝費や人材募集費等の運転資金、事業開始後の運転資金(半年程度の赤字補てん資金等)の準備は大丈夫か」を挙げ、「創業後は、思ったように売上が上がらないこともあります。赤字の期間も資金が不足しないように運転資金に余裕を持たせておきましょう」と書いています。
公庫の記入例(洋風居酒屋)は、軌道に乗った後の売上を「創業当初の1.3倍」としています。つまり創業当初の売上は軌道後の約77%で、そこから1年かけて100%に近づく絵です。この立ち上がりの期間に、売上は低く、固定費(人件費・家賃)は満額かかり、借入の返済も始まります。資金が減るのはこの期間です。
出典:日本政策金融公庫「創業の手引+ 新たに飲食業を始めるみなさまへ」8ページ、同「創業計画書 記入例(洋風居酒屋)」(2025年4月版)。
試算の前提:記入例の「軌道に乗った後」に合わせた25席の店
当方の「飲食店の開業 収支シミュレーター」の初期値は、記入例の軌道後の水準に合わせています。前提は次のとおりです。すべて例示で、推奨値ではありません。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 売上の計画(軌道に乗った後) | 25席・月26日営業・昼900円×1.0回転・夜4,500円×0.9回転=月商3,217,500円(記入例の軌道後322万円に相当) |
| 立ち上がり | 開業1か月目は計画の77%(約247.7万円・記入例の創業当初248万円に相当)、12か月目に100%へ直線で増える |
| 原価率 | 35%(記入例と同じ) |
| 人件費 | 正社員2人×19万円、家族従業者1人10万円、アルバイト1日延べ12時間×時給1,300円×26日、正社員に法定福利費15%。合計約94.3万円/月(記入例の軌道後88万円の水準) |
| 家賃・その他 | 家賃20万円、光熱費・広告費・消耗品・通信・リース・保険・税理士・修繕・その他で約47.5万円、決済手数料(売上×キャッシュレス40%×3%) |
| 入金 | 現金60%は当月、キャッシュレス40%は手数料を引いて翌月 |
| 事業主 | 個人事業。生活費25万円を毎月、利益から引く(人件費には入れない) |
| 初期費用 | 設備資金970万円(記入例と同額)+開業前の運転資金約63万円=約1,033万円 |
| 資金 | 自己資金450万円+借入1,000万円(年2.5%・10年・据置6か月・元金均等)。準備期間3か月(家賃等と生活費が発生) |
軌道に乗った後(開業12か月目)の月の営業利益は約48.5万円、FL比率は64.3%、FLR比率は70.5%です。公庫の様式の形(支払利息を引いた後)では、創業当初の利益は約−0.8万円、軌道に乗った後は約46.5万円です。
月ごとの資金残高:開業後9か月間、毎月減り続ける
準備期間の3か月と、開業後の最初の13か月の資金の動きは次のとおりです。「入金」は現金分とキャッシュレス分(翌月)の合計、「支出」は仕入・人件費・家賃・その他の経費(決済手数料を除く)で、別に借入の利息と元金、生活費25万円を毎月引いています。
| 月 | 売上 | 入金 | 支出 | 資金残高(月末) |
|---|---|---|---|---|
| 2027年1月(準備) | 0 | 0 | 249,500 | 3,649,367 |
| 2027年2月(準備) | 0 | 0 | 249,500 | 3,129,033 |
| 2027年3月(準備) | 0 | 0 | 249,500 | 2,608,700 |
| 2027年4月(開業1か月目) | 2,477,475 | 1,486,485 | 2,434,716 | 1,389,635 |
| 2027年5月 | 2,544,750 | 2,488,110 | 2,458,263 | 1,148,650 |
| 2027年6月 | 2,612,025 | 2,554,578 | 2,481,809 | 950,586 |
| 2027年7月 | 2,679,300 | 2,621,046 | 2,505,355 | 795,443 |
| 2027年8月 | 2,746,575 | 2,687,513 | 2,528,901 | 683,222 |
| 2027年9月 | 2,813,850 | 2,753,981 | 2,552,448 | 613,922 |
| 2027年10月(元金返済が始まる) | 2,881,125 | 2,820,449 | 2,575,994 | 499,825 |
| 2027年11月 | 2,948,400 | 2,886,917 | 2,599,540 | 428,831 |
| 2027年12月(最も少ない月) | 3,015,675 | 2,953,384 | 2,623,086 | 400,942 |
| 2028年1月 | 3,082,950 | 3,019,852 | 2,646,633 | 416,157 |
| 2028年2月 | 3,150,225 | 3,086,320 | 2,670,179 | 474,476 |
| 2028年3月(12か月目・計画の100%) | 3,217,500 | 3,152,787 | 2,693,725 | 575,900 |
| 2028年4月 | 3,217,500 | 3,178,890 | 2,693,725 | 703,609 |
資金残高は、準備期間の開始時点で約417万円(自己資金450万円+借入1,000万円−初期費用約1,033万円)あり、準備期間に約52万円ずつ、開業後は毎月減り続けて、開業9か月目の2027年12月に約40万円まで下がります。そこから増え始め、1年目の終わり(2028年3月)に約58万円、2年目の終わりに約212万円、3年目の終わりに約369万円です。
開業1か月目の売上は約248万円ですが、入金は約149万円しかありません。キャッシュレス40%の約99万円が翌月に回るためです。この月に資金が約122万円減るのは、この入金の遅れが主な原因です。2か月目以降は前月のキャッシュレス分が入るので、入金は売上に近づきます。
資金が減るのは、営業利益が黒字でも、元金返済と生活費が重いから
この試算では、開業1か月目から営業利益(支払利息を引く前)はわずかに黒字です。それでも資金が減るのは、営業利益から払うものが多いからです。開業後1年目を合計すると次のようになります。
| 項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 34,169,850 | 38,610,000 | 38,610,000 |
| 営業利益 | 2,989,164 | 5,821,980 | 5,821,980 |
| 借入の利息 | 247,259 | 224,781 | 198,465 |
| 借入の元金返済 | 526,316 | 1,052,632 | 1,052,632 |
| 事業主の生活費 | 3,000,000 | 3,000,000 | 3,000,000 |
| 営業利益−利息−元金−生活費 | −784,411 | 1,544,567 | 1,570,883 |
| 年度末の資金残高 | 575,900 | 2,120,467 | 3,691,351 |
| FL比率 | 68.1% | 64.3% | 64.3% |
1年目は、営業利益約299万円に対して、利息約25万円、元金約53万円(据置6か月なので半年分)、生活費300万円で、合計約378万円を払うことになり、約78万円のマイナスです。資金残高は準備期間の終わり(約261万円)から1年目の終わり(約58万円)へ約203万円減っていますが、このうち約125万円は、1年目の最後の月のキャッシュレス分がまだ入金されていない分です。
月ごとに見ると、営業利益から利息・元金・生活費のすべてを払ってプラスになる最初の月は、開業10か月目(2028年1月)です。それまでの9か月間は、自己資金と借入で用意した資金を取り崩して生活費と返済に充てていることになります。公庫の手引の「半年程度の赤字補てん資金」が、この試算では9か月分に相当します。
2年目以降は売上が計画の100%で安定し、年間約155万円ずつ資金が増えます。月にすると約13万円です。月商322万円の店で、すべてを払った後に残るのが月13万円という水準です。
計画が1割外れると、資金は尽きる
この試算の余裕は大きくありません。客数・客単価・原価率・立ち上がりの速さが計画より悪かった場合を計算すると、次のようになります。
| ケース | 資金残高が最も少ない月 | 最も少ない残高 | 資金がマイナスになる月 | 3年目の終わりの残高 |
|---|---|---|---|---|
| 計画どおり | 2027年12月(開業9か月目) | 400,942 | なし | 3,691,351 |
| 客数が計画の90% | 2030年3月(36か月目) | −3,290,482 | 2027年8月(開業5か月目) | −3,290,482 |
| 客数が計画の80% | 2030年3月 | −10,272,316 | 2027年7月(開業4か月目) | −10,272,316 |
| 客数が計画の70% | 2030年3月 | −17,254,149 | 2027年6月(開業3か月目) | −17,254,149 |
| 客単価が10%低い | 2030年3月 | −3,290,482 | 2027年8月 | −3,290,482 |
| 原価率が5ポイント高い(40%) | 2030年3月 | −1,878,142 | 2027年9月(開業6か月目) | −1,878,142 |
| 軌道に乗るのが6か月遅い(18か月目に100%) | 2028年5月(開業14か月目) | −350,711 | 2027年12月(開業9か月目) | 2,274,943 |
| (参考)開業1か月目から計画の100% | 2027年4月(開業1か月目) | 1,574,642 | なし | 6,524,167 |
客数が計画の90%になるだけで、開業5か月目に資金がマイナスになり、3年目の終わりには約329万円のマイナスです。軌道に乗った後の月の営業利益が約48.5万円から約28万円に減り、元金約8.8万円と生活費25万円の合計約33.8万円を下回るためです。2年目以降も毎月減り続けます。客単価が10%低い場合も、売上が同じ10%減なので結果は同じです。
客数が80%なら3年で約1,027万円、70%なら約1,725万円のマイナスで、70%では36か月の間に月の営業利益が黒字になる月がありません。原価率が5ポイント上がるだけでも、3年目の終わりに約188万円のマイナスです。
立ち上がりが6か月遅れる(18か月目に計画の100%)場合は、開業9か月目にいったんマイナスになりますが、売上が追いつけば2年目の途中から回復し、3年目の終わりには約227万円のプラスに戻ります。売上の水準そのものが低いケースと、到達が遅いだけのケースでは、結果が大きく違います。
逆に、開業1か月目から計画の100%で売れる場合は、資金は一度も危うくならず、3年目の終わりに約652万円です。「立ち上がりの期間に資金がいくら減るか」が、この計画の資金繰りの中心だと分かります。
全国の開業者は、黒字基調が67%、赤字基調が33%
日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(公庫の融資先・全業種・開業後平均15.5か月)では、調査時点の採算が「黒字基調」の開業者は67.0%、「赤字基調」は33.0%です。売上の状況は「増加傾向」が60.1%、「横ばい」が34.0%、「減少傾向」が5.9%でした。現在の月商は「100万円未満」が39.5%、「100万〜500万円未満」が44.2%です。
開業時に苦労したことは「資金繰り、資金調達」が56.9%で最も多く、次が「顧客・販路の開拓」の49.9%です。調査時点(開業後約1年3か月)でも「顧客・販路の開拓」が48.8%、「資金繰り、資金調達」が36.2%で上位にあります。開業から1年以上たっても、3人に1人は資金繰りに苦労しています。全業種の数字で飲食店だけのものではありませんが、この記事の試算で見た「開業後9か月は資金が減り続ける」構造と重なります。
出典:日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」12〜13ページ 図-19・図-21・図-22・図-23・図-24(調査時点2025年8月)。
資金繰りを守るために、計画の段階でできること
試算から言えることを整理します。
- 立ち上がりの売上を低めに置く。公庫の記入例は軌道後の77%から始めている。自分の店の根拠(開業前の認知、立地、宣伝)で何%から始まるかを置き、客数が計画の90%・80%だった場合も計算しておく
- 運転資金を、開業前の経費だけでなく、開業後に入金が支出と生活費を下回る期間の分まで数える。この試算では開業7か月目まで累計約188万円、準備期間と合わせて約340万円
- キャッシュレスの入金の遅れを数える。開業1か月目は売上の約4割(約99万円)が翌月に回る
- 借入の据置期間を、立ち上がりの期間と合わせて考える。この試算では据置6か月で、元金返済が始まる7か月目から資金の減りが大きくなる
- 個人事業なら、事業主の生活費を資金繰りに入れる。月25万円なら年300万円で、1年目の営業利益約299万円とほぼ同じ額
- 人件費を最初から満額で置いているか、記入例のように軌道に乗ってから増やすかで、1年目の資金の減りは変わる。どちらで計画するかを決める
「飲食店の開業 収支シミュレーター」では、この記事と同じ前提を自分の数字に置き換えて、開業準備期間から36か月の資金残高と「必要な資金の目安」を計算できます。年ごとの表と主な指標は無料で、月ごとの表とグラフ、客数90%・80%・70%などの感度分析はPro版(買い切り)で使えます。
あわせて読みたい
- 飲食店の開業資金はいくら必要か。公庫の記入例1,260万円を、設備資金と運転資金に分けて読む。
- 飲食店の売上は、客単価×席数×回転数×営業日数で決まる。公庫の記入例の数字で、計算の手順をたどる。
- 創業計画書の「事業の見通し」、飲食店は4段で書く。公庫の記入例の数字と、計算の根拠の書き方。
- FL比率60%は公的な基準ではない。全国の飲食店の平均は、原価率35%+人件費率33%=68%。
出典
- 日本政策金融公庫「創業の手引+ 新たに飲食業を始めるみなさまへ」(平成30年4月):運転資金の確認項目(8ページ)
- 日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(洋風居酒屋)」(2025年4月版):試算の前提の土台
- 日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日):採算・売上の状況・苦労したこと
作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月7日。月ごとの数字と感度分析は、当方のシミュレーターの初期値(例示・推奨値ではありません)で計算したものです。借入は据置期間中は利息のみ、その後は元金均等で返す前提です。消費税・所得税・減価償却費は含みません。公庫の資料は同公庫が作成したもので、この記事とツールは同公庫とは関係がありません。


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