飲食店の水道光熱費は、月商の4〜5%が目安です。日本政策金融公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)では、軌道後の月商3,217,500円に対して水道光熱費15万円、比率は4.7%です。ただし光熱費は売上に関係なく毎月ほぼ同額が発生する固定費に近い性質があるため、月商が計画の77%(約248万円)の立ち上がり期には比率が6.1%に上がります。この記事では、公庫の記入例の数字をもとに、月商別の光熱費の目安と、その他固定費との関係を整理します。
公庫の記入例では、水道光熱費は月商の4.7%
日本政策金融公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)には、軌道後の月次収支の数字が掲載されています。この記入例をもとにしたシミュレーションでは、軌道後の月商は3,217,500円です。
光熱費として計上している月15万円を月商で割ると、150,000÷3,217,500≒4.66%になります。業界でよく聞く「光熱費は月商の3〜5%」という目安とほぼ一致する水準です。
ただし、この15万円は開業時の試算として設定した初期値であり、店舗の規模・業態・設備の種類によって実際の金額は異なります。厨房機器の消費電力・冷暖房の台数・営業時間の長さが光熱費の主な変動要因です。
また、公庫の記入例自体には光熱費の行を独立して記載していません。記入例の費用項目は「原材料費・人件費・家賃・その他」の4区分で、「その他47.5万円」の中に光熱費・広告費・消耗品費・通信費・リース料・保険料・税理士費用・修繕費が含まれています。月15万円は、この「その他」の中から光熱費として分けて試算した数字です。
その他固定費の内訳を分解する
公庫の記入例の「その他」を構成する費用項目の内訳として、以下の水準を試算に使っています。家賃20万円はこれとは別の費用項目です。なお、シミュレーターの初期値合計(42.5万円)は公庫記入例の「その他47.5万円」より約5万円少なく、別途キャッシュレス手数料3.86万円を加算すると合計46.4万円になります(記事内の試算はシミュレーターの設定値を使っています)。
| 費目 | 月額(円) | 月商3,217,500円に対する比率 | その他合計42.5万円に占める割合 |
|---|---|---|---|
| 水道光熱費 | 150,000 | 4.7% | 35.3% |
| 広告・販促費 | 60,000 | 1.9% | 14.1% |
| 消耗品費 | 50,000 | 1.6% | 11.8% |
| リース料 | 30,000 | 0.9% | 7.1% |
| 税理士・記帳費用 | 30,000 | 0.9% | 7.1% |
| 修繕・メンテナンス費 | 30,000 | 0.9% | 7.1% |
| 通信費 | 15,000 | 0.5% | 3.5% |
| 保険料 | 10,000 | 0.3% | 2.4% |
| その他雑費 | 50,000 | 1.6% | 11.8% |
| 合計 | 425,000 | 13.2% | 100% |
※上記は試算に使用している初期値であり、記入例本文に個別の内訳が掲載されているわけではありません。
水道光熱費はその他固定費の35.3%を占め、最大の費目です。この比率からも、光熱費の管理がその他費用全体の圧縮に直結することがわかります。原価率の管理と並んで、光熱費も継続的に把握する必要があります。
売上が下がると光熱費の比率が跳ね上がる
光熱費は店舗を開いている限り毎月ほぼ一定額が発生します。厨房設備の稼働・冷暖房・照明は、客数が少ない日でも同じように動かし続けるためです。売上が増えても光熱費はそれに比例して増えるわけではないので、売上が下がると光熱費の比率は上がります。
月15万円の光熱費を固定として、月商別の比率を計算すると以下のようになります。
| 月商 | 水道光熱費15万円の比率 | 備考 |
|---|---|---|
| 400万円 | 3.8% | 計画を上回る水準 |
| 322万円 | 4.7% | 公庫記入例の軌道後 |
| 280万円 | 5.4% | 軌道後計画の87% |
| 248万円 | 6.1% | 立ち上がり期(計画の77%) |
| 200万円 | 7.5% | 計画の62% |
| 150万円 | 10.0% | 大幅未達の水準 |
月商が計画の77%(立ち上がり期の想定)まで下がると、光熱費の比率は4.7%から6.1%に上がります。月商200万円まで落ちると7.5%になり、目安の上限とされる5%をはるかに超えます。このコスト増を「比率が上がっただけ」と見過ごすと、その他経費全体の枠を圧迫して損益に影響します。
開業初期の立ち上がり期は売上が低い一方で光熱費は軌道後と同水準で発生するため、その他経費の比率が高く出やすい時期です。開業後の資金繰りを試算するときには、立ち上がり期の光熱費比率が軌道後より高くなることを織り込んでおく必要があります。
月商別の水道光熱費の目安額(表)
月商の4〜5%を光熱費の目安として使う場合、月商別の金額は以下のようになります。開業前の資金計画を立てるときの参考として使えます。
| 月商 | 4%の場合 | 5%の場合 | 6%の場合 |
|---|---|---|---|
| 150万円 | 60,000円 | 75,000円 | 90,000円 |
| 200万円 | 80,000円 | 100,000円 | 120,000円 |
| 250万円 | 100,000円 | 125,000円 | 150,000円 |
| 322万円(記入例) | 128,800円 | 161,000円 | 193,200円 |
| 400万円 | 160,000円 | 200,000円 | 240,000円 |
| 500万円 | 200,000円 | 250,000円 | 300,000円 |
公庫の記入例の月15万円は、月商322万円に対して4.7%の水準です。月商が低い立ち上がり期や、厨房設備が多い業態では6%以上になるケースもあります。物件の内覧時に電気・ガス・水道の過去の使用量を確認できる場合は、それをもとに試算するとより現実的な数字になります。
業態による光熱費の傾向の違い
水道光熱費の金額は業態によって大きく異なります。厨房設備の規模・使う熱源(ガス・IH)・営業時間の長さが主な要因です。
| 業態の例 | 光熱費の傾向 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 焼肉・鉄板焼き | 高め(月商の5〜7%) | 換気設備・グリルの稼働で電力消費が大きい |
| ラーメン・そば・うどん | 中程度(4〜6%) | スープを長時間煮込むためガス代がかかる |
| 居酒屋・和食 | 中程度(4〜5%) | 深夜営業があると冷暖房・照明が長時間稼働 |
| カフェ・喫茶店 | やや低め(3〜4%) | 調理工程が少なく厨房設備が小さい |
| バー・ナイトクラブ | やや低め(3〜4%) | 調理設備が少ないが照明・音響設備でかかる場合がある |
公庫の「小企業の経営指標調査(2025年度)」では、業種別の「その他経費率」が確認できます。一般飲食店(全体平均)はその他経費率が30.7%で、この中に家賃・光熱費・広告費・その他が含まれています。業種間で差があるのは、家賃と光熱費の水準が業態によって変わるためです。
同調査では、喫茶店のその他経費率は34.1%と高く、バー・キャバレー・ナイトクラブは39.4%です。これらの業態は調理原価率が低い一方で、家賃や装飾・設備の費用が高くなりやすいことが反映されています。光熱費単体の業種別データは調査に含まれていないため、上表の傾向は当方の整理によるものです。
光熱費が「その他経費枠」を圧迫するとき
公庫の記入例の費用構造は、月商322万円のうち原価率35%(112.6万円)・人件費率29.3%(94.3万円)・家賃6.2%(20万円)・その他14.4%(46.4万円)で、営業利益率は15.1%(48.5万円)です。
この構造で光熱費が月15万円から20万円に上がると、その他費用は46.4万円から51.4万円になり、月商比率は14.4%から16.0%に上がります。その分、月次営業利益は48.5万円から43.5万円に下がります。
また、公庫の経営指標調査での一般飲食店の黒字企業は、その他経費率29.0%(家賃込み)を維持しています。全体平均の30.7%と黒字企業の29.0%の差は1.7ptで、月商322万円に換算すると月5.5万円の差です。光熱費を含むその他固定費を抑えることが、黒字と赤字を分けるラインのひとつになっています。
損益分岐点の計算では固定費の大小が直接影響します。光熱費を月2万円削減できると、固定費が2万円減り、損益分岐点の月商が約3.1万円下がります(限界利益率64.9%で割った場合)。小さな金額でも、積み重ねると損益分岐点の達成に効いてきます。
開業前の資金計画を立てるときは、飲食店の開業 収支シミュレーターで光熱費の金額を変えながら損益への影響を確認することができます。立ち上がり期と軌道後で光熱費の比率がどう変わるかを月次で見ることで、開業前に準備すべき運転資金の水準を判断する材料になります。
光熱費を下げる3つのアプローチ
光熱費を削減する方向性は大きく3つです。いずれも開業前の設備選びと、開業後の運用の両方から取り組めます。
1つ目は、設備の省エネ性能を確認することです。厨房機器はガス・IH・電気の組み合わせによって月次コストが変わります。特に冷蔵庫・製氷機・エアコンは24時間稼働するため、年式が古い設備は省エネ型に置き換えるだけで光熱費が下がるケースがあります。居抜き物件を使う場合は、残置設備の年式と消費電力を確認します。
2つ目は、ピーク時間帯の管理です。電気代は時間帯別料金(深夜割引など)を使えるケースがあります。仕込みの時間帯を深夜電力が安い時間にずらすと、電気代を抑えられる場合があります。ただし深夜営業を伴う業態では制限があります。
3つ目は、月次の光熱費を費目別に記録することです。電気・ガス・水道を分けて毎月記録することで、どの費目が増えているかを早期に発見できます。前年同月比・前月比で異常値が出たときに設備の不具合や使い方の変化に気づくことができます。
(この記事の数字は、日本政策金融公庫「創業計画書の記入例(2025年4月版)」および「小企業の経営指標調査(2025年度)」を参照して作成しています。当ツールは公庫が作成・提供するものではありません。作成日:2026年10月。)


コメント