飲食店のキャッシュレス手数料は年46万円。入金タイミングのズレが資金繰りに与える影響。

飲食店のキャッシュレス手数料は年46万円。入金タイミングのズレが資金繰りに与える影響。 飲食店の開業

飲食店のキャッシュレス決済手数料は「月商×キャッシュレス比率×手数料率」で計算します。公庫の創業計画書記入例(洋風居酒屋・月商約322万円)をもとにキャッシュレス比率40%・手数料率3%で計算すると、月次手数料は38,610円(年間463,320円・月商比1.2%)です。手数料コストと同時に見落とせないのが入金タイミングのズレで、開業1か月目のキャッシュレス売上約99万円は翌月入金となるため、その金額がそのまま開業直後の現金不足につながります。

キャッシュレス手数料は、月商×比率×手数料率で計算する

飲食店のキャッシュレス決済手数料の計算式は次のとおりです。

月次手数料 = 月商 × キャッシュレス比率 × 手数料率

公庫の創業計画書記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)の軌道後の月商は3,217,500円です。キャッシュレス比率を40%・手数料率を3%とすると、キャッシュレス売上は3,217,500円×40%=1,287,000円、月次手数料は1,287,000円×3%=38,610円になります。年間では38,610円×12か月=463,320円で、月商に対する比率は38,610÷3,217,500=1.2%です。

手数料率は決済事業者・プランによって異なります。一般的な目安として、クレジットカード決済は3〜3.5%前後、QRコード決済は2.0〜3.24%前後の範囲が多く見られます(各事業者との契約内容によって異なります。各決済事業者の公式案内をもとにした一般的な目安)。手数料率が0.5ポイント変わると、月商322万円・比率40%の場合は月次コストが6,435円変わります。

キャッシュレス比率も店舗によって差があります。飲食店では客単価・客層・立地によって40〜60%程度が一般的な範囲とされていますが、開業時点では確定できないことも多く、計画書では保守的な仮定を使って計算します。

比率・手数料率別の月次手数料と年間経費

月商3,217,500円(記入例の軌道後)を前提に、キャッシュレス比率と手数料率の組み合わせ別の月次手数料と年間経費を示します。

月商3,217,500円の場合のキャッシュレス手数料(月次・年間)
キャッシュレス比率 手数料率2.5% 手数料率3.0% 手数料率3.5%
20%(643,500円) 月16,088円 / 年193,056円 月19,305円 / 年231,660円 月22,523円 / 年270,276円
40%(1,287,000円) 月32,175円 / 年386,100円 月38,610円 / 年463,320円 月45,045円 / 年540,540円
60%(1,930,500円) 月48,263円 / 年579,156円 月57,915円 / 年694,980円 月67,568円 / 年810,816円
80%(2,574,000円) 月64,350円 / 年772,200円 月77,220円 / 年926,640円 月90,090円 / 年1,081,080円

※月商3,217,500円(公庫記入例の軌道後)で計算。手数料率は一般的な目安であり、決済事業者・プランによって異なります。

比率40%・手数料率3%の年間463,320円は、月商322万円の店舗にとって無視できない固定的な費用です。比率を80%に引き上げると年間926,640円になり、アルバイトのシフトを月25〜30時間削減した分と同程度の金額になります。FL比率の議論では原価率と人件費率が注目されがちですが、キャッシュレス手数料は月商に連動して増えるため、比率が高い業態では計画に織り込む必要があります。

飲食店の開業 収支シミュレーターでは、キャッシュレス比率と手数料率を入力することで月次・年次の手数料コストを自動計算できます。比率や手数料率の仮定を変えながら、月次損益・損益分岐点への影響を確認することができます。

手数料は創業計画書の「その他経費」に含めて計上する

公庫の創業計画書「事業の見通し」では、決済手数料をどこに計上するかが迷いやすい項目です。一般的には「その他経費」(または「諸経費」)に含めて計上します。

公庫の記入例(洋風居酒屋)の「その他経費(軌道後)」は47.5万円です。この中には広告費・消耗品費・光熱費・通信費・保険料などが含まれており、キャッシュレス手数料もここに含まれます。記入例では決済手数料の内訳が明示されていませんが、自身の計画書では「その他経費」の内訳として「キャッシュレス決済手数料:月商×40%×3%=38,610円」のように根拠を記載すると、審査担当者に費用の根拠が伝わります。

損益の計算では、手数料は売上高から差し引くのではなく費用として計上します。「月商3,217,500円」は手数料引き前の金額で、手数料38,610円は「その他経費」の一部として費用に算入します。このため、創業計画書の売上と費用の両方に影響します。

なお、決済手数料は「支払手数料」として独立した科目で管理する場合もあります。その場合も「その他経費」の枠内に収めて創業計画書を作成し、内訳として明示します。

入金タイミングのズレが開業1か月目に約99万円の現金不足を生む

キャッシュレス決済の資金繰りへの最大の影響は、手数料コストではなく入金タイミングのズレです。クレジットカードやQRコード決済の売上は、発生した月の翌月(または翌々月)に入金されます。現金売上はその日または数日以内に手元に入るのとは異なり、キャッシュレス売上には数週間から1か月以上のタイムラグがあります。

公庫の記入例(開業1か月目・月商2,477,475円・立ち上がり77%)をもとに、キャッシュレス比率40%の場合の現金の動きを示します。

開業1か月目の現金収支(キャッシュレス比率40%の場合)
項目 金額 内容
1か月目の売上(計画比77%) 2,477,475円 月商3,217,500円×77%
現金売上(60%) 1,486,485円 当月に入金
キャッシュレス売上(40%) 990,990円 翌月以降に入金
当月の現金収入 1,486,485円 キャッシュレス分は含まない
当月の支出 2,434,716円 仕入・人件費・家賃等
当月の現金収支差額 ▲948,231円 現金不足

※公庫の記入例の試算をもとに計算(月商2,477,475円・支出2,434,716円)。実際の入金タイミングは決済事業者・契約によって異なります。

開業1か月目のキャッシュレス売上990,990円(約99万円)は翌月入金になるため、この金額が運転資金から補填される形になります。当月の現金収入1,486,485円では支出2,434,716円を賄えず、差額の約95万円が運転資金から出ていきます。開業前に「キャッシュレス入金遅れ分」を運転資金に上乗せしておかないと、開業直後に資金が詰まるリスクがあります。

飲食店の開業後36か月の資金繰りでは、月ごとの現金残高の推移を確認できます。開業初月に資金残高が急落する理由の一つが、このキャッシュレス売上の入金遅れです。

キャッシュレス比率が高いほど、運転資金の必要額が増える

キャッシュレス比率が高い店舗ほど、開業直後に必要な運転資金が増えます。比率が上がるほど「当月に入金されない売上」が多くなるためです。

キャッシュレス比率別の開業1か月目の現金不足(月商2,477,475円の場合)
キャッシュレス比率 当月入金(現金売上) 翌月入金(キャッシュレス) 支出2,434,716円との差
20% 1,981,980円 495,495円 ▲452,736円
40%(前提) 1,486,485円 990,990円 ▲948,231円
60% 990,990円 1,486,485円 ▲1,443,726円
80% 495,495円 1,981,980円 ▲1,939,221円

※月商2,477,475円(開業1か月目・計画比77%)・支出2,434,716円で計算。実際の入金タイミングは決済事業者・契約によって異なります。

キャッシュレス比率が80%になると、開業1か月目の現金不足は約194万円になります。この金額を運転資金から補填できなければ、仕入先や家賃の支払いに支障が出ます。公庫の記入例では設備資金970万円・運転資金290万円の合計1,260万円が必要資金の目安とされていますが、キャッシュレス比率が高い計画では運転資金をさらに上乗せして申請することが考えられます。

開業から1年目の資金の動きでは、元金返済・生活費・立ち上がりの3つの要素が重なって資金が減り続ける仕組みを確認できます。キャッシュレス入金のズレはその最初の押し下げ要因の一つです。

開業前に決済手数料率を確認し、計画書に織り込む手順

飲食店の開業前に決済手数料を計画書に織り込む手順は次のとおりです。

まず、利用する決済サービスの手数料率を確認します。クレジットカード・QRコード・電子マネーなど複数の決済手段を導入する場合は、それぞれの手数料率と想定利用比率を分けて計算します。開業時点で決済サービスが未定の場合は、保守的な仮定(手数料率3〜3.5%、キャッシュレス比率40〜60%)を使って試算します。

次に、「月商×比率×手数料率」で月次手数料を計算し、「その他経費」に加算します。創業計画書の根拠欄には「キャッシュレス決済手数料:月商×40%×3%=38,610円」のように内訳を明示します。

さらに、キャッシュレス売上の入金遅れ分(開業1か月目の月商×キャッシュレス比率)を運転資金の追加分として計画します。この金額を「開業後の運転資金」として公庫に申告することで、開業直後の資金ショートを防ぐ計画が組めます。

これらの計算は、飲食店の開業 収支シミュレーターでキャッシュレス比率・手数料率を入力することで自動的に試算できます。月次36か月の資金繰り(Pro版)では、入金タイミングのズレを織り込んだうえで開業初月からの現金残高を確認することができます。

損益分岐点の計算では、決済手数料を含めた費用全体から損益分岐点を求める手順を確認できます。決済手数料は売上に連動する変動費的な性格を持つため、損益分岐点の計算では変動費として扱います。

(この記事の数字は、日本政策金融公庫「創業計画書の記入例(2025年4月版)」を参照して作成しています。手数料率は決済事業者・プランによって異なります。当ツールは公庫が作成・提供するものではありません。作成日:2026年10月。)

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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