就労継続支援A型の開業資金は、他の障害福祉サービスと比べて多めに必要です。
理由はシンプルです。就労継続支援A型は雇用型のサービスで、利用者との雇用契約が必須です。開業直後から利用者への賃金(最低賃金以上)を毎月支払う義務があります。サービスの報酬が入金されるのは提供月の翌々月ですから、その間の人件費・賃金・固定費をすべて手元資金で賄う必要があります。
この記事では、就労継続支援A型の開業にかかる費用の内訳と、運転資金の目安を具体的な数字で整理します。
開業前にかかる初期費用の内訳
事業所を開設するまでにかかる費用は、主に以下の項目です。
| 費用の種類 | 目安の金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 物件の敷金・保証金 | 50万〜200万円 | 賃料の数か月分。立地・規模による |
| 内装・改修工事 | 50万〜300万円 | 作業室・多目的室の確保(利用者1人あたり3㎡) |
| 作業備品・設備 | 50万〜200万円 | 業種・作業内容によって大きく異なる |
| 事務用品・PC・システム | 20万〜50万円 | 記録管理・請求システムを含む |
| 採用・研修費 | 10万〜30万円 | 開業前の人員確保にかかる費用 |
| 広告・PR費 | 10万〜30万円 | 利用者の募集チラシ・ウェブサイトなど |
| その他(法人設立・申請代行など) | 10万〜30万円 | 行政書士への依頼費用など |
初期費用の合計は、最小規模(定員20人・既存建物を活用)でも200万〜500万円程度が目安です。業種(軽作業・農業・IT等)によっては設備費がさらに大きくなります。
就労継続支援A型の設備基準
就労継続支援A型の設備基準は、「就労継続支援A型の事業の設備及び運営に関する基準」(厚生労働省令)に定められています。主な基準は以下のとおりです。
- 作業室:訓練・作業に支障のない広さが必要(利用者1人あたり3㎡以上が目安とされることが多い)
- 相談室:プライバシーの確保ができる構造(個室または仕切りで区切られた空間)
- 洗面所・便所:利用者が利用できるもの
物件選びの段階で、これらの基準を満たすかどうかを指定権者(都道府県または市区町村)に事前相談することが重要です。基準を満たさない物件は指定を受けられません。
運転資金が特に重要:利用者への賃金が毎月発生する
就労継続支援A型で見落としがちなのが、運転資金の多さです。
A型は雇用型のサービスのため、利用者への賃金が毎月の固定費として発生します。最低賃金(2025年10月以降の全国加重平均は1,055円・厚生労働省「令和7年度地域別最低賃金改定状況」)以上を支払う義務があります。
以下は定員20人・1日6時間・月22日稼働・最低賃金1,055円で試算した場合の月間賃金総額です。
| 稼働率 | 利用実人数 | 月間賃金総額の目安 |
|---|---|---|
| 100% | 20人 | 約278万円(1,055円×6時間×22日×20人) |
| 90% | 18人 | 約250万円 |
| 70% | 14人 | 約194万円 |
| 50% | 10人 | 約139万円 |
賃金に加えて、社会保険料(事業主負担)が賃金の約15〜16%かかります。稼働率90%・月間賃金250万円の場合、社会保険料の事業主負担は約37万〜40万円が目安です。
さらに、職員の人件費(職業指導員・生活支援員・サービス管理責任者)が加わります。定員20人では職員を最低2〜3名程度配置する必要があり、人件費は月200万〜300万円程度が目安です。
入金までのタイムラグ:開業後2か月間は収入ゼロ
障害福祉サービスの報酬は、サービスを提供した月の翌々月に入金されます。
たとえば4月1日に開業した場合、4月のサービス提供分が入金されるのは6月です。4月・5月は利用者への賃金・職員の人件費・家賃・光熱費などの支出が続きますが、サービス報酬の入金はありません。
下の表は、開業後の収支のイメージです(定員20人・稼働率70%・区分5適用・1年目の引き下げあり)。
| 時期 | 月間収入(報酬) | 月間支出の目安 | 状況 |
|---|---|---|---|
| 開業月(例:4月) | 0円 | 400万〜500万円 | 利用者賃金・職員人件費・家賃が出ていく |
| 翌月(5月) | 0円 | 400万〜500万円 | 同上 |
| 翌々月(6月) | 4月分の報酬が入金 | 400万〜500万円 | 初めて収入が入る |
| 3か月目以降 | 毎月入金が続く | 400万〜500万円 | 収支が安定してくる |
最初の2か月間は無収入で支出だけが続くため、少なくとも2〜3か月分の運転資金を手元に持って開業する必要があります。
必要な運転資金の目安
定員20人・稼働率70%で試算した場合、月間の費用は以下のとおりです。
| 費用の種類 | 月額の目安 |
|---|---|
| 利用者への賃金(14人×1,055円×6時間×22日) | 約194万円 |
| 社会保険料(事業主負担・賃金の約15%) | 約29万円 |
| 職員の人件費(2〜3名) | 約200万〜250万円 |
| 家賃・光熱費・通信費など | 約30万〜60万円 |
| その他(消耗品・外注費など) | 約20万〜40万円 |
| 合計 | 約470万〜570万円 |
入金タイムラグ(2か月間)を考えると、最低でも900万〜1,100万円程度の運転資金が必要です。これに加えて、開業後しばらくの間は稼働率が低い時期があるため、余裕を持って3か月分程度の運転資金(1,400万〜1,700万円)を準備することが望ましいです。
初期費用(200万〜500万円)と運転資金(900万〜1,700万円)を合わせると、開業に必要な総資金は1,100万〜2,200万円程度になります。
融資・補助金の活用
開業資金の確保には、以下の融資や補助金を活用する方法があります。
日本政策金融公庫の融資
日本政策金融公庫の「福祉・医療事業向け融資」は、社会福祉事業を行う法人や個人に対して融資を行っています。就労継続支援A型も対象です。融資限度額・金利・条件は申請内容によって異なりますので、最新の内容は日本政策金融公庫の公式サイトでご確認ください。
都道府県・市区町村の補助金
都道府県や市区町村によっては、障害福祉サービス事業所の開設に対して補助金を設けているケースがあります。内容・金額は自治体によって異なりますので、指定権者への事前相談の際に確認することをお勧めします。
社会福祉法人向けの優遇
社会福祉法人が経営する場合は、社会福祉・医療事業団(WAM)の融資など、法人格に応じた選択肢が増えます。NPO法人・株式会社・一般社団法人でも申請できる融資は公庫が主な選択肢です。
開業のステップと費用が発生するタイミング
開業に向けた流れと費用の発生タイミングを把握しておくと、資金計画が立てやすくなります。
| ステップ | 内容 | 費用の発生 |
|---|---|---|
| 法人設立 | 株式会社・NPO法人・一般社団法人など | 6万〜25万円(登録免許税など) |
| 物件探し・契約 | 設備基準を満たす物件の確保 | 敷金・礼金・仲介手数料など |
| 指定申請 | 都道府県または市区町村への申請 | 申請手数料(自治体によって異なる) |
| 内装工事・設備設置 | 作業室・相談室などの整備 | 工事費・設備費 |
| 職員の採用・研修 | 開業前から人員確保が必要 | 採用費・研修費・給与(開業前から) |
| 利用者の募集 | 相談支援専門員・ハローワーク等との連携 | 広告費・PR費 |
| 開業 | サービス提供開始 | 賃金・人件費・固定費が毎月発生 |
指定申請は、開業希望日の2〜3か月前には準備を始めることが一般的です。指定を受けてからでないとサービスの提供ができないため、スケジュール管理が重要です。
黒字にするための資金繰り上の注意点
就労継続支援A型で資金繰りが悪化するパターンは、主に以下の3つです。
①稼働率が想定より低い
利用者は開業直後には集まりにくく、定員に対して50〜70%程度の稼働率から始まるケースが多いです。一方で賃金・職員人件費・家賃は定員分に近いコストが発生します。稼働率が低い期間を乗り越えるための余裕資金が必要です。
②評価点区分が低くなる
開業1年目はみなし区分5(さらに0.965の引き下げ)が適用されます。2年目以降に評価点の結果が低区分(区分6・7)になると、収入が大幅に減少します。評価点を上げるためには、利用者への賃金水準・生産活動の収益性が重要です。
③賃金と報酬のバランスが崩れる
利用者への賃金を高くすれば評価点は上がりますが、固定費も増加します。賃金を上げるためには生産活動の収益(作業収入)を高める必要があります。報酬だけで賃金を賄う構造は、経営の安定性が低くなります。
収支シミュレーターで試算する
定員・稼働率・評価点区分を入力して月間収入と収支の目安を確認するには、就労継続支援A型の収支シミュレーターをご利用ください。
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出典
- 厚生労働省「令和7年度地域別最低賃金改定状況」(2025年)(最低賃金1,055円)
- 平成18年厚生労働省告示第523号 別表第13(就労継続支援A型・基本報酬)
- 厚生労働省令「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(設備基準)


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