通所介護を開業したいと考えている方から、「小規模多機能型居宅介護と迷っている」という声をよく聞きます。似た名前で、どちらも高齢者の日中支援を中心にしたサービスに見えます。しかし、仕組みは根本的に異なります。
この記事では、通所介護と小規模多機能型居宅介護の違いを、報酬体系・人員基準・設備基準・開業コスト・経営の安定性という5つの軸で整理します。
通所介護と小規模多機能型居宅介護、サービスの基本が違う
最初に確認しておくべきことは、この2つはサービスの種類が根本から異なるという点です。
通所介護は、「通い(デイサービス)」だけを提供する単機能のサービスです。利用者は自宅と事業所を行き来し、日中の介護と機能訓練を受けます。
小規模多機能型居宅介護は、「通い」「泊まり」「訪問」の3つを組み合わせて提供するサービスです(介護保険法第8条第19項)。1つの拠点で3つの機能をもつため、スタッフや設備の要件も、報酬の計算方法も、通所介護とは異なります。
この違いが、経営のすべてに影響します。
報酬体系の違い:「回数払い」か「月額定額」か
2つのサービスで最も大きく異なるのが、介護報酬の計算方法です。
通所介護:利用するたびに報酬が発生する
通所介護の基本報酬は、利用1回ごとに計算します。要介護度と提供時間によって単位数が決まり、月に何回利用したかで収入が変わります。
令和6年4月改定後の基本報酬(通常規模・6〜7時間)は、要介護1で577単位、要介護5で944単位です(厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」)。定員20名・稼働率80%(1日16名)・要介護平均2.5・月22日稼働の場合、基本報酬だけで月約207万円の計算になります。
稼働率が上がれば収入が増え、下がれば収入が減る。シンプルな仕組みです。
小規模多機能型居宅介護:登録者数に基づく月額定額
小規模多機能型居宅介護の報酬は、登録者数と要介護度に基づく月額定額です(告示第127号)。その月に何回通い・泊まり・訪問を利用したかに関わらず、報酬は原則同じです。
令和6年4月改定後の基本報酬(同一建物居住者以外)は、要介護1で10,320単位/月、要介護5で27,117単位/月です。登録者が29名(定員上限)で要介護平均3を想定すると、基本報酬だけで月約300〜400万円の収入になります。
月の収入が安定している反面、「たくさん使ってもらっても報酬は増えない」という性質があります。
人員基準の違い
人員基準は、実際の採用・人件費に直結する重要なポイントです。
通所介護の人員基準
通所介護(平成11年厚生省令第37号 第93条・第95条)で必要な職種は以下の5つです。
- 管理者:1名(常勤・専従原則)
- 生活相談員:提供時間に応じた人員(1名以上)
- 看護職員または准看護職員:1名以上(機能訓練指導員と兼務可)
- 機能訓練指導員:1名以上(看護職員等と兼務可)
- 介護職員:利用者3名に1名以上・常勤換算2.5名以上
定員20名・稼働率80%(1日16名)の場合、最低限の人員構成は、管理者(兼相談員)1名+看護師兼機能訓練指導員1名+介護職員3〜4名の計5〜6名程度が目安になります。
小規模多機能型居宅介護の人員基準
小規模多機能型居宅介護(平成18年厚生労働省令第34号 第63条・第64条)は、通いだけでなく泊まりと訪問もカバーするため、より多くの人員が必要です。
- 管理者:1名(常勤・専従。一定条件で兼務可)
- 介護支援専門員:1名以上(管理者が担う場合あり)
- 代表者:認知症介護の経験が必要
- 日中(通い):利用者3名に1名以上
- 夜間(泊まり):夜間・深夜の泊まりは介護従事者1名以上の常駐が必要
- 訪問:随時の訪問に対応できる体制
夜間常駐のスタッフが必要なため、人員コストは通所介護より高くなります。
また、介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格保有者が必要な点も、採用の難しさに影響します。
設備基準の違い
通所介護の設備基準(第94条)では、食堂・機能訓練室・静養室・相談室・事務室が必要です。食堂と機能訓練室は合計で利用定員×3㎡以上が基準です(同条第4項)。
小規模多機能型居宅介護(第67条)では、通いのための部屋(食堂・機能訓練室等)に加えて、宿泊用の個室または多床室が必要です。泊まりの定員は登録定員の4分の1以下、かつ9名以下という上限があります。
泊まりのスペースが必要なため、物件の選定が通所介護より難しくなります。居室の確保が難しいエリアでは、物件探しに時間がかかることがあります。
開業コストの違い
開業コストに関して、一般的な傾向を整理します。
| 項目 | 通所介護(定員20名) | 小規模多機能型(登録29名) |
|---|---|---|
| 物件費用(敷金礼金等) | 50〜100万円 | 80〜150万円(泊まりスペース分が加わる) |
| 内装・改装費 | 100〜300万円 | 200〜400万円(個室・浴室等) |
| 備品・設備 | 50〜150万円 | 100〜200万円(寝具・夜間対応設備等) |
| 送迎車両 | 100〜200万円 | 100〜200万円 |
| 運転資金(3か月分目安) | 200〜400万円 | 300〜500万円(人件費が高い分) |
| 合計目安 | 500〜1,150万円 | 780〜1,450万円 |
上記はあくまで目安であり、物件の状態・地域・規模によって大きく変わります。開業コストの詳細は、日本政策金融公庫の「創業の手引」や、各都道府県の指定申請の手引きを確認してください。
経営安定性の違い
2つのサービスの経営安定性には、それぞれ特徴があります。
通所介護:稼働率が鍵
通所介護は稼働率によって収入が直接変動します。稼働率70%を確保できれば黒字に近づき、80%以上で安定した収益が見込めます(定員・コスト構成による)。
稼働率を上げるためには、利用者の確保と継続が必要です。居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)との連携が、利用者獲得の重要な経路になります。
小規模多機能:登録数が固まれば安定
小規模多機能型居宅介護は月額定額のため、登録者数が一定以上確保できれば収入が安定します。逆に言えば、開業直後は登録者が少なく、収入が少ない期間が続きます。
登録定員は29名ですが、開業初年度に定員に近い登録者を確保するのは容易ではありません。立ち上がりに時間がかかることを見越した運転資金の確保が必要です。
また、1つの事業所で通い・泊まり・訪問を組み合わせて対応するため、利用者にとっての利便性は高い反面、スタッフへの負荷も大きくなります。
どちらが「開業しやすいか」
一概には言えませんが、比較の観点を整理します。
通所介護が向いているケース
- ケアマネジャーの資格者が事業内にいない
- 夜間スタッフの確保が難しい
- 初期コストを抑えたい
- シンプルな構造で運営を始めたい
- デイサービスに特化した介護経験がある
小規模多機能型が向いているケース
- ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格者が確保できている
- 泊まりや訪問も組み合わせて柔軟に対応したい
- 月額定額の安定した収入構造を望む
- 地域の認知症ケアに特化した事業を展開したい
- 物件として一定の広さ(宿泊スペース含む)が確保できる
両方を比較する視点として:利用者からの「選ばれやすさ」
ケアマネジャーが利用者にサービスを紹介する際、通所介護は「デイサービスに行く」という選択肢として提示しやすいです。一方、小規模多機能型は1か所と「登録」する形になり、他の訪問介護や他の通所サービスとの併用ができなくなります(同一事業所のサービスに限定される)。
これは小規模多機能型の制度上の特徴であり、ケアマネジャーが利用者に紹介する場面での判断に影響します。
制度的な違いも確認しておく
小規模多機能型居宅介護を開業する場合、介護保険法上の「特定施設」ではなく「居宅サービス」として位置づけられますが、定員の上限(登録29名・通い18名・泊まり9名)が定められています(第67条第3号・第4号)。定員19名以上の通所介護には法律上の定員上限はなく、規模を大きくする選択肢があります。なお、定員を18名以下に設定した場合は、通所介護ではなく「地域密着型通所介護」として別のサービス種別に分類され、都道府県ではなく市町村の指定が必要になります(介護保険法第8条第20項)。
また、小規模多機能型居宅介護の指定申請には、地域密着型サービスとして市町村の指定が必要です(通所介護は都道府県指定が原則。ただし定員18名以下の地域密着型通所介護は市町村指定)。
まとめ
通所介護と小規模多機能型居宅介護の主な違いをまとめます。
| 比較軸 | 通所介護 | 小規模多機能型居宅介護 |
|---|---|---|
| サービス内容 | 通いのみ | 通い+泊まり+訪問 |
| 報酬体系 | 1回ごと(回数払い) | 登録者数×月額定額 |
| 人員配置 | 比較的少ない(夜間不要) | 多い(夜間常駐必要) |
| 介護支援専門員 | 不要 | 必要 |
| 設備 | 通いのスペース | 通い+泊まりスペース |
| 開業コスト目安 | 500〜1,150万円 | 780〜1,450万円 |
| 収入の安定性 | 稼働率次第 | 登録数が固まれば安定 |
| 指定権者 | 都道府県(定員18名以下は地域密着型通所介護として市町村指定) | 市町村(地域密着型) |
どちらが向いているかは、確保できる人員・物件・資金・地域のニーズによって変わります。開業を検討する際は、都道府県または市町村の担当窓口に事前相談することをおすすめします。


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