就労定着支援の利用者数の上限。人員基準との関係から考える。

就労定着支援の利用者数の上限。人員基準との関係から考える。 福祉事業の開業と運営

就労定着支援には、法令上「利用者数の上限(定員)」が定められているわけではありません。ただし、利用者数が増えるほど就労定着支援員の業務量は増え、人員を追加しなければ支援の質を維持できなくなります。法令上の上限なし・実務上の上限あり、という構造と、収支への影響を整理します。

就労定着支援の利用者数に、法令上の上限はない

就労継続支援A型・B型や放課後等デイサービスには、事業所ごとの「利用定員」が定められており、それ以上の利用者を受け入れることができません。しかし就労定着支援には、利用定員の設定義務がありません。

障害福祉サービス等の人員・設備・運営基準を定める省令(指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準・厚生労働省令第171号)には、就労定着支援について「利用定員」を定める規定はなく、受け入れる利用者数に法令上の上限は設けられていません。

この点が、利用定員を設定してそれ以上は受け入れられない日中活動系サービス(就労継続支援・生活介護など)と大きく異なるところです。

人員基準が、実質的な上限を決める

利用者数に法令上の上限がない一方で、就労定着支援員の配置基準が実質的な上限になります。

省令第171号では、就労定着支援員について常勤換算方法で1以上の配置を義務付けています。常勤換算方法とは、職員の勤務時間の合計を、常勤職員1人の所定勤務時間(事業所が定める1週間の勤務時間数)で割った数です。

たとえば、事業所の常勤職員の所定勤務時間が週40時間の場合、次のように計算します。

常勤換算の計算例
職員の勤務状況 常勤換算の計算 常勤換算数
常勤職員1名(週40時間) 40÷40 1.0
常勤職員1名(週40時間)+非常勤1名(週20時間) (40+20)÷40 1.5
非常勤職員2名(各週20時間) (20+20)÷40 1.0

常勤換算1.0以上を満たしていれば、必ずしも常勤の正職員1名が専任でなくてもよく、複数の非常勤職員の組み合わせでも要件を充たすことができます。ただし、就労定着支援員は、サービス管理責任者や他のサービス種別の職員と兼務できないことに注意が必要です(多機能型の場合は指定権者に要確認)。

1人の就労定着支援員が対応できる利用者数の目安

法令には「就労定着支援員1人当たり何人まで」という数値基準は定められていませんが、支援内容から実務上の限界を見積もることができます。

就労定着支援では、利用者ごとに以下の対応が求められます。

  • 月1回以上の定期連絡・支援:利用者または就労先の企業への連絡・訪問
  • 就労定着支援計画の作成・更新:利用開始時と定期的な見直し
  • 支援記録の作成・保管:支援の内容・日時・対応結果の記録
  • 関係機関との調整:医療機関・ハローワーク・就労先企業との連絡調整
  • 緊急対応:利用者からの相談・トラブル対応

これらを月1回以上実施するとした場合、利用者が20名であれば月20回以上の連絡・記録が発生します。訪問支援が重なる時期には移動時間も含めて対応件数が制約されます。

実務的には、常勤換算1名の就労定着支援員が無理なく対応できる利用者数は20〜30名程度と考えられますが、法令に具体的な数値は定められておらず、支援の内容・地域の状況・事業所の体制によって異なります。詳細は指定権者(都道府県・政令市等)にご確認ください。

利用者数が増えると収入は増えるが、人件費も増加する

就労定着支援の報酬は、1人の利用者(契約者)ごとに月額単位数が算定されます。契約者数が増えれば収入は増えますが、支援の質を維持するために就労定着支援員を増員すれば人件費も増加します。

契約者数別・月間基本報酬の試算(区分7・その他地域・処遇改善加算なし)
契約者数 1名あたり月額 月間合計基本報酬(概算)
5名 10,740円 53,700円
10名 10,740円 107,400円
20名 10,740円 214,800円
30名 10,740円 322,200円

※ 区分7(1,074単位)× その他地域(1単位10.00円)での試算。処遇改善加算は含みません。

新規開業の1〜2年目は就労定着率の実績がなく、すべての利用者が最低区分(区分7)で算定されます。この時期は収入が抑えられるため、利用者数を一定以上確保することが収支の安定に直結します。

収支が黒字になる利用者数の目安

就労定着支援の損益分岐点は、固定費(人件費・家賃・通信費など)と基本報酬の関係で決まります。事業所の状況によって異なりますが、参考として以下のように考えることができます。

  • 就労定着支援員1名体制・単独型で最小コスト構成:月間固定費が人件費・家賃・通信費込みで30万円前後の場合、区分7(その他地域)での損益分岐点は概ね28〜30名の利用者(月額報酬30万円前後)が必要
  • 多機能型で就労移行支援等と兼務している場合:固定費の一部を他のサービスで負担できるため、就労定着支援単独での採算ラインは下がります
  • 1級地(東京都特別区等)の場合:単価が高いため、同じ利用者数でも収入が多く、固定費が高い都市部でも採算を確保しやすくなります

就労定着支援の3年間の収支と損益分岐点については、就労定着支援 収支シミュレーター(無料)で試算できます。Pro版では月次36か月の収支・資金繰り・感度分析も確認できます(買い切り9,800円)。

利用者数を増やすための前提条件

就労定着支援の契約者を増やすには、利用対象者が継続的に発生することが前提です。具体的には以下の3つが条件になります。

  1. 就労移行支援・就労継続支援(A型・B型)・生活介護・自立訓練のいずれかを経て一般就労した方であること
  2. 就職後6か月が経過していること(就労定着支援の利用開始要件)
  3. 市区町村が就労定着支援の受給者証を発行していること(支給決定)

就労定着支援単独で開業する場合、利用者は外部の就労移行支援事業所等からの紹介を受けることになります。就労移行支援と多機能型で運営する場合は、自事業所の利用者が就職後にそのまま就労定着支援に移行できるため、利用者の流れを内部で完結させることができます。

いずれの場合も、利用者が安定的に来るまでには2〜3年の時間がかかります。開業前から連携先の就労移行支援事業所や相談支援事業所との関係構築を進めることが、利用者数を早期に積み上げる鍵になります。

多機能型運営での人員配置の考え方

就労移行支援・就労継続支援B型などと多機能型で運営する場合、就労定着支援員は他のサービスの職員と役割が明確に区分されていることが求められます。多機能型における人員の兼務の可否・範囲については、指定権者の解釈によって差がある場合があります。開業前に指定権者に確認することをお勧めします。

参考・出典

  • 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第171号・平成18年)
  • 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)第5条第16項
  • 障害福祉サービス等報酬告示(令和6年厚生労働省告示第159号による改定版)

この記事は2026年11月時点の告示・通知に基づいています。報酬は改定されることがありますので、最新の告示を確認してください。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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