小規模多機能型居宅介護の設備基準は、通い・宿泊・訪問の3つのサービスを1か所で提供するために必要な空間・設備を定めています。省令(平成18年厚生労働省令第34号)が全体の骨格を定め、市区町村の条例でさらに具体的な基準が設けられます。開業前に指定権者(市区町村)への事前確認が不可欠です。
設備基準を定める法令
小規模多機能型居宅介護の設備基準は、以下の法令に定められています。
| 法令 | 内容 |
|---|---|
| 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号) | 全国共通の最低基準 |
| 市区町村の条例 | 省令を踏まえた地域ごとの基準(省令より厳しくなる場合あり) |
地域密着型サービスは市区町村が指定するため、同じ建物・設備でも市区町村によって「基準を満たす」かどうかの判断が異なる場合があります。事前協議の段階で指定権者に図面を確認してもらうことが現実的な対応です。
居間・食堂:「通い」の中心スペース
居間及び食堂は、通いサービスの中心となるスペースです。省令では「利用者が使いやすい広さを有すること」という趣旨の規定がされており、具体的な㎡数は市区町村の条例・担当部署の判断によります。
実務上のポイントは以下のとおりです。
- 居間と食堂は分けることも、一体として使うことも可(機能が確保されていればよい)
- 採光・換気が確保できる構造であること
- 通いの定員(最大18人)が一度に利用できるスペースであることが求められる
- 車椅子の利用者が動きやすいよう、通路幅・扉幅に配慮が必要
認知症の利用者が多い事業所では、落ち着いて過ごせる空間設計(こもれる個別スペースの確保・過剰な刺激を避けた内装)が運営上有効ですが、これは法令の設備基準ではなく運営上の工夫です。
宿泊室:個室が原則、床面積7.43㎡以上
宿泊サービスに使う部屋(宿泊室)については、省令に以下の基準が設けられています。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 定員 | 1人部屋が原則(2人部屋は特例) |
| 床面積 | 7.43㎡以上(収納スペースを除く) |
| プライバシー | 個室またはパーテーション等でプライバシーが確保できること |
| 宿泊定員合計 | 登録定員の3分の1以下かつ9人以下 |
「2人部屋の特例」は、利用者・家族の意向がある場合に認められることがありますが、プライバシーの確保が条件で、指定権者(市区町村)の確認が必要です。
宿泊定員の上限は「登録定員の3分の1以下かつ9人以下」です。登録定員が最大29人の場合、宿泊定員は9人が上限になります。
浴室:要介護状態の利用者が使えること
浴室は、要介護状態の利用者が安全に入浴できる構造が求められます。具体的には以下の点が確認されます。
- 手すりの設置(省令では「介助が行いやすい構造」と定めている)
- 介護者が介助できる十分な広さ
- 車椅子のまま入れる入り口幅(市区町村によって基準が異なる)
- 脱衣スペースの確保
機械浴(特殊浴槽)については省令上の義務はありませんが、要介護3〜5の利用者が多い場合は実務上必要になることがあります。
便所(トイレ):要介護者が利用できる構造
便所は、要介護状態の利用者が利用できる構造であることが求められます。
- 手すりの設置
- 車椅子が使用できる広さ(1か所以上)
- 介助者が入れるスペース
通いの定員(最大18人)に対して十分な数のトイレを確保することが必要です。具体的な数は指定権者が確認します。
事務室・相談室:職員の業務スペース
事務室は、職員が業務を行うためのスペースです。相談室は利用者・家族との相談に使うスペースで、相談内容が外部に漏れない構造(防音・個室またはパーテーション等)が求められます。
事務室と相談室は兼用することができます(省令の規定)。スペースが限られる場合は、相談の際だけパーテーションで区切る方法も認められる場合があります。
洗面設備:必要数を確保すること
洗面設備は、利用者が利用できる数を確保することが求められます。通いの定員18人に対し、実務上は複数箇所の設置が必要です。
消防設備:消防法に基づく基準
小規模多機能型居宅介護の事業所は、消防法上の「社会福祉施設等」に分類され、スプリンクラーや自動火災報知設備の設置が義務付けられます。
| 設備 | 概要 |
|---|---|
| 自動火災報知設備 | 原則として設置義務あり |
| スプリンクラー設備 | 延床面積275㎡以上の場合に設置義務あり(市区町村条例で異なる場合あり) |
| 消火器 | 設置義務あり |
| 避難口誘導灯 | 設置義務あり |
消防設備については、建物を改修・使用変更する前に管轄の消防署に確認することが必要です。「開業準備が進んでから消防に確認したら追加工事が必要だった」というケースがあるため、早期の相談が重要です。
バリアフリー:省令の要件と実務上の対応
省令では、利用者が利用しやすいバリアフリーの構造を求めています。具体的には以下の点が確認されます。
- 廊下の幅:車椅子が通れる幅(概ね80cm以上)
- 段差の解消:玄関・各室の段差(スロープ等)
- 手すりの設置(廊下・トイレ・浴室)
バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)の適用については、建物の規模・用途により異なります。新築・増改築の場合は建築基準法上の手続きとあわせて確認が必要です。
既存建物を転用する場合の注意点
空き家・空き店舗・空き事務所を転用して開業するケースが多くあります。転用の場合に特に注意が必要な点は以下のとおりです。
| 確認事項 | ポイント |
|---|---|
| 用途変更(建築基準法) | 「社会福祉施設等」への用途変更が必要かどうか(延床面積200㎡超の場合は確認申請が必要) |
| 消防設備の追加 | 既存建物に必要な消防設備が設置されていない場合、改修費用がかかる |
| バリアフリー改修 | 段差・廊下幅・トイレ幅の改修が必要な場合がある |
| 宿泊室の確保 | 個室として使える部屋(7.43㎡以上)が確保できるか |
既存建物を転用する場合は、物件を決める前に指定権者(市区町村の介護保険担当課)と事前協議を行い、基準を満たすかどうかを確認してから物件の契約・改修に進むことが重要です。
設備投資の目安(開業費用との関連)
設備基準を満たすための初期投資額は、建物の状態や地域によって大きく異なります。一般的な傾向として、以下が目安です。
設備改修の費用は物件の築年数・構造・規模によって大きく異なります。「バリアフリー対応のトイレに改修するだけで100万円以上かかった」ケースも珍しくありません。事前に複数の改修工事会社から見積もりを取ること、および補助金・助成金(地域によって異なる)の活用についても、市区町村の担当課に確認することをおすすめします。
市区町村の事前協議が最重要
設備基準は省令で骨格が定められますが、詳細は市区町村の条例・解釈に委ねられています。また、小規模多機能型居宅介護は市区町村が指定するため、「省令を読んで基準を満たしている」と判断しても、市区町村の担当者の判断が異なるケースがあります。
物件の検討段階から市区町村に相談し、図面を見てもらいながら進めることが、開業後の「指定が下りなかった」「追加改修が必要になった」という事態を防ぐ最善策です。
小規模多機能型居宅介護の開業費用・収支計画の試算は、小規模多機能型居宅介護 収支シミュレーターで確認できます。
参考・出典
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
- 指定地域密着型サービス及び指定地域密着型介護予防サービスに関する基準について(平成18年厚生労働省令第34号関係通知)
- 消防法(昭和23年法律第186号)
この記事は2026年11月時点の法令・通知に基づいています。
福祉事業の開業・運営に関するツールと記事の一覧は福祉事業の開業と運営(入口ページ)にまとめています。収支シミュレーター・経営診断・法定研修キットを無料で試せます。


コメント